↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
99/165

とある記憶 32


「これにて攻略達成!いやー、中々面白い壁画も色々見れて満足だな」

「結局、あの魔人位しかマトモな収穫はなかったねぇ」

「攻略達成すると宝物庫に辿り着くって、御伽噺じゃなかったんだ…」


金銀財宝、無数に積み上がった魔導書。壁面全体を埋め尽くす謎の絵画、巨大な魔法石の元となる宝玉、既に世界から絶滅した魔物や鉱石の素材。輝かしい報酬が山の様に積み上がった部屋で、早速壁画に近づいて満足気に頷くチト、魔導書を手に取るソフィ、そして全体を見渡して目を瞬かせるXXXは自分たちの冒険の終幕を感じていた。一般的に報酬と呼ばれてはいるが、実際のところは嘗てこの迷宮を実際に利用していた古代の民が集めた宝の数々であり、これまでの道のりは侵入者を阻むための罠や魔法生物が配置されていた訳である。結局迷宮として現在の人々から受け入れられている時点で、その所有権や意図に纏わる認識の差異を指摘する意味もないので、真意を知っているソフィでさえ口出しする様子はなかった。


表情を分かりやすく輝かせながら自分の目的に飛び込んでいく二人を横目に、XXXはこれまでの冒険の道のりを独り振り返っていた。



―――



【出会いは本当に偶然】



強力な惑わしの結界が張り巡らされた森の中を、結界以上に優秀なチト君が気にせず抜けてきてしまった事。


数百年ぶりの人語を使える相手に興奮して、思わず友好的に話しかけてしまった事。


チト君が私の事を気に入って、定期的に小屋に訪れてくれるようになった事。


それが嬉しくて、思わず小屋の中を改造して二人で住めるようにしちゃった事。


いつからか、チト君が小屋を自分が帰る場所として認識してくれるようになった事。



―――チト君だけが、私をただの人間として見てくれた事。



【私の中でのチト君が確立された】



チト君に外の世界へ誘われる度に、何故自分がこの小屋に独りで居続けたのかを思い出した事。


せめて、チト君に魔法が無限の可能性を秘めている事を知ってもらいたくて、沢山勉強した事。


チト君が知っている攻撃魔法を覆い尽くすくらい、下らない魔法を作っては見せてを繰り返した事。


突然、チト君から腐れ縁と称して、お友達のソフィ君を紹介された事。


ソフィ君は、私を形作る全てを知っていた事。


二人とも私より沢山の事を知っているのに、知らない事だらけだって気付いた事。



―――チト君が私に向けてくれる感情の正体に、気付きそうになった事。



【そうして訪れた転機】



ソフィ君に誘われて、小屋を離れる決断をした事。

―――だって、いつもソフィ君の事を私はズルいと思ってた。小屋の外にいるチト君はきっと、私には見せた事がない沢山の表情を浮かべて、いろんな人と関わって、無数の感情が込められた瞳をしているんだって思ってたから。


出発して早々に魔物に襲われている商人を助けることになって、表裏のない感謝を告げられた事。

―――そこで新しい杖の柄の部分を貰った。これまで使っていた柄の方に、何か出来ることはないかなって考えてみる事にした。”タイムリミット”は、この小さな冒険が終わるまで、かな?


補給で立ち寄った都市で、戦争の影響を受けて二カ月も足止めを食らった事。

―――沢山の街の人たちと関わって、チト君やソフィ君も人間の事を直接知る機会に恵まれた。少しだけ、好きになったって言ってくれた。感謝の言葉を貰って、本当にうれしかった。…私も、人間の事が好きだなって思った。


大森林を抜ける最中で、ソフィ君が一時的にエルフの里に帰る事になってチト君と二人の冒険になった。

―――本当はちょっとだけ、嬉しかった。チト君と二人で見る景色は、ずっと変わらず森の中なのにキラキラ輝いて見えて、眩しくて。でも、きっとチト君は相手がソフィ君だろうと、私だろうと、変わらない対応をしていたんだと思う。それが嬉しくて、寂しくて。二人きりが決まった時は色々話したいことがあった筈なのに、結局何も言えなかった。


チト君に結界魔法の指導をした事。

―――強い魔法使いであるチト君が、良い魔法使いになってくれる為の布石になったら嬉しいな。


魔族に支配されて滅亡した村を見付けた事。

―――変身したチト君が、私が言葉に表して頼まなくても自ら村の人たちを助けてようと動いてくれた。悪い魔族以上におぞましい魔力だって確かに理解していた筈なのに、ちっともチト君が怖くないって思った自分に笑っちゃった。本当に、その瞬間のチト君がカッコいいって思ったんだ。


ソフィ君と合流して、迷宮に到着するも面倒事に巻き込まれた事。

―――私にとってのSランク称号と、世間にとってのSランク称号は全然違うものだった。急に時の流れを感じて、哀しくなった。チト君には言われたけど、権利っているのは確かに不自由が伴うものだと思う。私だって、キーフの大賢者として有り続けた時間が自由だったとはとても思えない。ちゃんと、過去の自分と向き合おうと決めた。


攻略が始まるも、想定外の連続だった事。

―――ソフィ君は馬鹿みたいに罠を発動させていくし、チト君は全然気にしていないから私ばっか大変な目に合った!どれだけ変だよって伝えても、多分大事なところは一つの伝わってなかったと思う。そういう些細なところで、私と二人の違いを改めて痛感させられた。


チト君の呪いについての過去を知った事。

―――正直、成程って思う気持ちの方が強かった。だって、チト君とソフィ君は確かに似た価値観を持っているけど、根本的なところが全然違ったから。攻略が終わって、キーフに戻って戦争をどうにかできたのなら…次は、チト君の呪いを解く方法を探そうと決めた。私に、未来を生き延びる理由が出来た。


迷宮を支配していた魔族や魔人と戦った事。

―――本来の目的とかなり逸れた使い方で、私の複製体が一生懸命戦ってくれた。想定通り、魔族は倒せても魔人は手も足も出なかった。一瞬だけ、良い戦闘”データ”が取れたと思ったけど、よく考えたらこの複製体の魔法陣は既にソフィ君に禁忌指定されてしまった後。二度と使えない魔法陣だった事を後から思い出した。この魔法陣はチト君とソフィ君だけの為に作ったものだったんだけどな。ちゃんと説明すれば、ソフィ君は禁忌指定を解除してくれるのかな。


チト君が再び返信して魔人を私の複製体ごと討伐してくれた事。

―――変身後の圧倒的な魔力と威圧感が、やっぱり私には心地が良いもの様に思えてしまった。多分、人間が持つ生存本能としては終わってる気がする。でも、あの魔法に殺されるなら本望だって思ってしまった。多分、最期の魔人も私と同じことを考えていた。だって、綺麗だし、眩しいし、圧倒的に格が違うし。そんな相手に終幕を突きつけられるなら、それって寧ろ贅沢な事なんじゃないかなって。そこまで考えて、私も人間離れしちゃったなぁって思った。自覚があるだけ、まだマシなのかな?


複製体の封印を決めた事。

―――やっぱり、この複製体を破壊する事は出来なかった。複製体が存在するだけでも、そして未来の可能性に賭けるだけでも、難易度の高い魔法陣を短時間で作り上げる価値があると思ったから。私はあくまで人間、二人は寿命の概念が殆どない長寿種。そんな二人をまた二人きりにしてしまったら、私の頑張りが無駄になっちゃうでしょ?だからせめて、二人と人間を結ぶ枷になればいいと思った。例え封印を無事に解除することが出来たとして、それが正常な挙動を保っていなかったとしても。それでも、きっと私の複製体だったら大丈夫。ほら、私ってやればできる子だし?諸々の対策は万全なんだよ!うっ、確かに魔人の憑代になる対策はされてなかったけどさ…意識が乗っ取られる可能性は考慮してあったんだからね!何のために百年近く掛けてこの魔法陣を作ったと思ってるの?目標は、千年以上正常稼働するお人形作りなんだから!


封印の魔法陣を作っている最中に、ソフィ君と約束した事。

―――もし、キーフに行ったまま私が帰ってこなかったら、その時はチト君の傍に居てあげて欲しいって約束。ソフィ君にとっては一緒に行動する事が当たり前だったのかもしれないけど、チト君は一人にしちゃダメな子だと思ったんだ。傍って言うのは、ちゃんと定期的に様子を見に行って、言葉を交わして、時には”ストレス発散”がてら魔法の相手をしてあげて。そう、面倒を見てあげるって言うのが正しいのかな。ソフィ君は自由人に見えて、決して約束は破らない。きっと、守ってくれるよね。


チト君が私と約束してくれた事。

―――私がキーフで動けなくなったら、絶対に助けに来てくれるんだって。それから、家族に…なろうって言ってくれた。すごく辛かった。本来は、チト君の成長を感じて喜んで、褒めてあげるべきだったって分かってるのに。でも、私の想いが砕ける音が頭の中に響いてた。チト君にとっては大きな一歩で、私にとっては積み重ねた想いの崩壊。私は家族じゃ嫌だった、満足できなかった、でも、言えなかった。言ったらチト君が傷つくって分かってたから、これまで通りではいられないって理解できてしまったから。ソフィ君が”タイミング”良く話しかけてくれなければ、私、自分が何を言っていたのか分からない。兎に角、この想いは複製体と一緒に封印してしまおうと決めた。この迷宮の奥深くに、閉じ込めてしまおうと。



でも、だけど、やっぱり私は―――



―――



「おーいXXX?聞こえてるかー?何が欲しいのかって…そんな悩む事か?」

「私が、欲しい物…。…ううん、ごめんねチト君。探してみる!」


我に返った途端、目の前に近づいていたチトの顔にXXXは驚く事はなかった。チトの距離感は、XXXも最低限訂正しているつもりだが特にXXXに限って改善が見込まれなかったのだ。手を繋ぐ、隣を歩く、そんな些細な動作は傍から見れば恋人同士にでも見えるのだろうか。そんな事を片隅に考えたXXXは、チトの発言を思い出して笑みを作る。僅かに反応が遅れた隙に繰り返してしまった言葉を前に、特に気にした様子がないチトを見て肩を竦める。


ふーんと、興味があるのかないのか分からない返事をしたチトは直ぐに身体の向きを魔導書の山に戻し、手当たり次第に表紙を確認しては戻す作業を再開した。その隣に座り込んだXXXも、適当に目についた煌びやかな表紙の本を一冊手に取って題名を読み上げた。



「えーっと…?———勇者召喚に、ついて」



ぴたり、その表情が全て抜け落ちたXXXは呼吸すら止めて停止した。書類を持つ手だけが僅かに震え、じわじわと顔色を悪くしていく。不自然に黙り込んだXXXに気付かないチトは、相変わらず魔導書の山を崩すのに忙しそうだった。


どくどくと煩い心臓の鼓動に唇を噛みながら、落ち着かない指先で拍子を捲る。そして不意に目に留まった文言を前にして、完全にその震えすらもを止めた。書かれた言語は当初XXXが迷宮探索に小屋を出るきっかけにもなった、迷宮の背景にもある古代キーフ文字。見出しに書かれた単語を恐る恐る指先でなぞったXXXは、その意味を確かめるように喉奥を震わせた。


「召還、方法……っ」


「おーいエトちゃーん?こっちの壁に、迷宮内の罠制御中枢を担っていそうな魔法陣を見付けたよぉ?」

「え、ホントか?直ぐ行く!」


零れた一言はソフィがチトを呼ぶ声に被せられて、宙へ消えていく。瞳を輝かせて手に取っていた魔導書を放り出し、示された方へ飛び出していったチトと入れ替わる様にXXXの隣に座り込んだのはソフィだった。顔だけでソフィの方を見れば、普段と変わらない微笑を浮かべて瞳を細める様子が確認できる。穏やかに、冷静に、何事もなかったかのように、ソフィは切り出した。


「どうする?XXXちゃん。その魔法陣は未だ禁忌指定が為されていない。今なら…指定、できちゃうよぉ?」


指先に翠の炎を纏わせて笑うソフィの声が、XXXの脳内を駆けまわっていく。ただ只管に描かれた魔法陣を見詰めるXXXの瞳には、確かな感情が浮かんでいたのだ。



―――その感情の名は、恐怖。



されど、何に対する恐怖なのかは誰にも、XXXにさえ分からなかった。


☆評価やブックマークで応援して頂けると励みになります。次回も是非御一読下さい。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。