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とある記憶 30


「ここに、最後のおまじないを足して…よしっ、かんせーい!」


非常に細かい文言がこれでもかと埋め尽くす魔法陣がその言葉と共に宙へ浮かび上がる。暫くうんうんと唸っていたXXXから発せられた元気いっぱい、嬉しさと達成感の込められた声音に適当な書物から視線を上げたソフィは、その内容を上辺だけでもと解析しようとして見えてきた実態にドン引きの表情を浮かべた。


「これは…禁忌指定一直線だねぇ…」


大まかな内容は迷宮と目的である複製体の固定化を定める魔法陣だったが、要所に挟み込まれるのは悠久の時を生きてきたソフィでさえ考え付かなかった命令文が大量に組み込まれているのだ。不用意に解除を求めて手を出せば、返り討ちに合うどころか生還すら危ぶまれるのでは、と思わず顔を青くして無意識で杖を構えてしまいそうな殺傷能力を持っている。


幾ら危険な状態の複製体の封印とは言え、流石に過剰なのでは…と思わなくもないが、実際この複製体が制御なく世に放たれればその被害総数は計り知れないのだから、警戒しすぎなくらいが丁度いいのかもしれない。そう思っていなければ、ソフィは発動前であると理解していながら速攻で封印指定を行ってしまいそうだった。


「ねぇねぇ、どうかなソフィ君!」

「えぇ…いや、まぁ…よく出来ているんじゃないかなぁ…。因みにその魔法陣、発動が完了したら直ぐ禁忌指定するからボクに渡してねぇ?」

「え~?複製体作る魔法陣も禁忌指定されちゃったのに?あくまで封印が目的なのに、これもダメなの?」

「複製体は当然として、この魔法の問題は封印解除に対する反撃機能だよ…。いくら何でも、ここまで堅牢に封印を施す機会なんて今後ないでしょ?全く…ボクが常識を説く側に回る日が来るなんて、世も末だねぇ」

「ちょっと、何その言い方!私は自分に出来る最大限の封印を守る手段を魔法陣に取り込んだだけなのに~」


不満気に頬を膨らませながらもキラキラと瞳を輝かせて完成した魔法陣を見上げるXXXから視線を逸らし、未だ再生を止められている複製体を見る。強制的に止めなければ何度だって復活を遂げる、言わば不死の魔法陣。複製体自身が自ら再起動の魔法陣を付与できるのだから、傍から見れば堪ったものじゃない。元々自然界に存在する外的魔力のみを吸収して活動を行う目の前の魔法陣と戦うのは、いくらソフィが相手取るとしても中々面倒な消耗戦を強いられることになるのだろう。こんな最終兵器的な機能を搭載されては、元の純粋な戦闘能力がそこまで高くない前提は関係なくなってきているのだ。


「全く…一体どこで何を見て育てば、こんな禁忌級の魔法陣を連続して生み出せる思考が育つんだか…」

「んふふ、まぁ私は大天才、って事で!チト君にも早くこの魔法陣見てもらいたいなー、今どこにいるんだろう!そろそろ戻ってくるかな?」


機嫌良く笑ったXXXは、自らの杖を一振りしそこまで遠くには行っていない筈のチトの魔力を探し始める。暫くして発見したチトは、どうやらXXXの探知に込められた魔力に気付いたらしい。今から帰る、と言わんばかりに一瞬強まったチトの魔力に頷いたXXXは、軽くソフィと視線を交えてから探知を辞めて杖を消した。



「…うっわー…なんだこのキモイ魔法陣、正気か?殺意高すぎない?」

「な、何てこと言うのー!今の私が作った最高傑作に対してそんな言い方しないでよね!」

「いやいや、だって何この情報量…っつーか、防御?機能は…最早攻撃だろ」

「ちーがーうーもーん!これは私の複製体に手を出そうとする不届き物を追い払う為の文言なんだから!」


それから直ぐにXXX達の元へと戻ってきたチトは、満面の笑みを浮かべたXXXから自信満々に見せられた封印用の魔法陣を見せつけられた瞬間に視線を逸らした。分かるよぉ…とどこか疲れた様子で頷くソフィに向かって現場監督、何を見ていたんだと言わんばかりの視線で睨みつけたが、全力で首を振られてしまった為に肩を落とす。チトの反応が気にらないのか文句を並べるXXXを横目に、改めて魔法陣の内容を少しでもと解析し始めたチトは、一番最後に書き足されたのだろう文言らしきものに視線を止めた。


「XXX、この最後の奴はなんだ?」

「お、流石チト君良い所に気付いたね!これはねぇ…うん、この魔法陣を正規の方法で解読して、複製体を呼び戻す事に成功した私に並ぶ大天才さん限定発動する文言だよ?暗号化してあるのも、敢えてだから…気になるならチト君も解読に挑戦してみてね」

「はぁ…で、内容は?」

「すっごく簡単に言うと、封印そのものに埋め込んだ私の現時点での意識体と一時的に対話できるようになるもの、かな?」


得意気に文言の意味を解説していくXXXは、少しだけ考え込んだかと思えばとんでもない内容の説明を始めた。あまりの規模感に理解が追い付いていないチトを横目に、その内容の真意に辿り着いたソフィは分かりやすく焦った様子でXXXに詰め寄る。


「まってXXXちゃん、複製体の魔法陣は封印指定が完了してる筈じゃ…」

「そうだよ~?だから、新しく意識だけの複製を封印の魔法陣に埋め込む内容を作ったんだから!」

「えぇ……」


最早何も言うまい、そんな様子でどこか遠くの彼方に視線を向けたソフィを見て、チトもXXXが作り出した魔法陣の最後の文言がとんでもない物である事を理解したらしい。再びお前マジか、と言いたげな視線をXXXに向けたがそれに気付いていないイカレ魔法陣作成の大天才は何でもない口調で説明を続けた。


「実のところこの内容は最後の篩、みたいな意味もあってね。このタイミング…じゃなくて、対話が実施された際に意識体が相手を不可だと判断した場合は…まぁ、ね?」

「その先は聞きたくねーな…。ってか、やっぱりソフィお前監督不行き届きすぎるだろ。なんでこんな禁忌に禁忌を重ねたような魔法陣が爆誕してんだよ」

「意識だけの複製体、ねぇ…いや、確かに複製体に関する文言の殆どを禁忌指定させた筈なんだよぉ?それで、何この組み方…うわぁ、改めてこの文言の組み方だけでも禁忌指定しなきゃダメじゃん。参ったなぁ、急に動き過ぎると世界的な混乱が生じる可能性が高まるのにぃ」

「気付いてなかった奴か」


チトの疑いの視線に慌てて魔法陣の最後を改めて解読したソフィは、その内容に険しい表情を浮かべた。ぶつぶつと二人からは見えない空中に浮かぶ何かを睨みつけて、時折触れるような動作を続ける。その慌て様から本当に目の前でとんでもない魔法陣が作られた事実を理解したチトは、何か不味い事しちゃったのかな、とようやく顔色を変え始めたXXXの方へ視線を戻した。


「お前、その脳みそ自体を禁忌指定した方がいいんじゃねーの?」

「!!?!?!?」


冗談抜きの真剣な表情と声音から告げられた一言に、分かりやすく衝撃を受けたXXXはその場に崩れ落ちた。


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