↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
90/165

とある記憶 29


「…XXXちゃんは、この旅が終わったら国に帰るつもりなんだよねぇ?今のキーフの状況についてはどれくらい把握しているのかなぁ?」


XXX単独による、圧倒的速度で完成に近づく封印魔法陣の作成が始まってから数時間、一時的に自己修復機能が停止された複製体にもたれかかるように適当な書物に目を通していたソフィは、ふと問いかけた。チトは周辺を探索してくると言ってその場を離れて長い。じっと紙とペンを片手に黙り込んでいたXXXは、描きかけていた文字を乱雑に塗り潰してから顔を上げた。その瞳に写るのは、淡々とした情報を整理するだけの第三者の色だ。


「うーん…正直、対外的な事情は把握してても内部事情に関してはあくまで予想の範疇、って感じかな。現在のキーフは隣国…主にトートから一方的な侵害を受けたと主張して戦争を仕掛けている。今はまだ魔法使いが表に出る機会はない状況だけど…それも時間の問題だろうね。内部的に問題があるとすれば…革命、かな?」


ぽつぽつと重ねられたXXXの説明内容を肯定するように頷いたソフィは、最後に零れた単語に僅かに瞳を鋭くする。けれどもそれは、一切の詳細情報を入手できない身分である筈の少女が一体何故その結論に辿り着けたのかを咎めるような意思が強く込められたものだった。そんな視線に気付いたXXXは降参の姿勢を示す様に、困ったように両手を上げた。


「あくまで推測だけどね。現王族の暗殺、もしくはキーフ国内のみで成立している魔法院の仕組みが崩壊したか。保守派の塊って感じの上層部が国内から目を逸らして他国に喧嘩を売るだなんて、それこそ革命でも置きなきや天地が引っ繰り返ってもあり得ない話なんだよ。それくらい、キーフは歪んだ国民性を常に維持してきた」


どこか凪いだ瞳で内容を補足したXXXを前に、情報でキーフと言う国を知りながらその実態に一切触れたことがないソフィはそんなものか、と適当に納得する事を決める。一応は長らくキーフの守護者的立場に在り続けてきた少女の認識なのだ、そこまで大きく反れている事もないだろうと考えたのだ。そこまで分かっているのなら、と僅かに認識を入れ替えたソフィは視線の先を複製体に向けながら肩を竦めて口を開く。


「概ね、その通りの認識で合っているよぉ。キーフ国内で開国を強く望む声が高まっている。元々、それを目的とした革命軍がここ数百年裏で動き回っていたみたいだからねぇ…ついに表立って動き出した結果、現在の政権の六割近くを握ったってところかなぁ?…その顔、革命軍の実態に心当たりがあるみたいだねぇ」

「まぁ…ね。これも予想の話になっちゃうけど、恐らく私があの国に居た頃行動を共にしていた一族の末裔が意思を引き継いだ結果首謀者になった、って感じだと思う。だって、開国とか、外の世界とか…具体的にそういう概念を与えてしまったのは、他の誰でもないこの私なんだから」


淡々と告げられたその言葉とは裏腹に、後悔と懐かしみを入り混ぜた表情を浮かべたXXX。そんな姿を見ても、ソフィは特に反応を示す事はなかった。複製体から視線を逸らす事はなく、独白の様に吐き出された言葉に相槌を打つことさえしなかった。単純明快、過去はあくまで記録で合って、そこに感情と言う概念が絡むことに興味がなかったからである。多少なりとも人間を理解してくれたと本気で考えているXXXは、少しだけ困ったように瞳を細めながらもその態度を咎めることは決してなかった。


「キーフの発展文化はこの世界に置いて圧倒的に異質である。それは…私や先人が、未来で起こり得る火種の可能性を一切考慮せず、無遠慮な口出しを繰り返してしまったから。キーフは…きっと、滅ぶだろうね。戦争で、とか、そういう話じゃない。世界がその在り方を危険だと判断して、自ら滅亡の一途を辿る事になるんだと思う」


世界、の言葉に僅かに反応を示したソフィは、矢張り何か口を開く事はなく視線が動く事もなかった。そんな振る舞いを気にする事など既に諦めているXXXは、チトがこの場にいない事を好都合と捉えてこの世で最も人間から遠いところに居る存在に胸の内を零した。


「私が初めてキーフの地に足を踏み入れた時、優しく迎え入れてくれた一族は最終的に国家反逆の罪に問われて、生まれたばかりだった赤子でさえ揃って…処刑された。実際の内容は、私と強い繋がりがあったからって、それだけの理由でね。今表立って動いているのは、あの人たちの大親友で最後まで私を恨まなかった青年の一族かな」


自らの掌をじっと見つめていたXXXは、それを強く、跡が付く事も気にせず握りしめた。僅かに震えた肩が、何でもない様に語る過去を未だ引きずっている事実を浮かび上がらせる。


「始まってしまった戦争を唐突に終わらせる事は不可能だと思う。それも、あの時何も出来なかった私の力なんかじゃとても…無理だって断言できるんだ。腐りきったキーフを生まれ変わらせる、そんな決意を確かに当時のあの人たちは固めていたけれど、今でも全く同じ信念で動いているとは限らない。それでも…彼らが立ち上がるきかっけになった…ううん、なってしまった私の言葉が少しでも彼らに届くのなら、」


不意に自分を覆った陰に気付いてXXXは言葉を止めた。痛みも忘れて握りしめていた手のひらを咎めるように撫でつけたのは、これまで知らぬ存ぜぬの態度を崩さなかったソフィだ。あぁ、XXXの過去に一切の興味を示さないくせに、今この瞬間XXXが見せた自傷行為には心を痛めるというのか。どこまでもズレていて、それでいて愛おしい成長途中の大きな子供。僅かに肩の力を抜いたXXXは、その視線の通り掌の力を抜いて背中に隠した。


「…私でも、戦争を終わらせるきっかけ位になら、なれるかもしれないでしょ?」


無理やり作った笑顔に、ソフィは気付いているのだろうか。僅かに身体を揺らした拍子に揺れたペンダントは、変わらず綺麗な宝石を煌めかせてそこに鎮座している。ソフィの良く読めない反応に小さく息を吐いたXXXは一人俯いたが、僅かに震える身体だけはどうあがいても誤魔化す事が出来なかった。


「私、ね。昔チト君に嘘ついちゃったんだ。このペンダントは確かにこの世界のもので間違いないし、大切な人たちからもらった宝物だけど…写真は、偶然私が持ち込んだだけのもの。だって、この世界に私の家族が存在する訳ないからね。だって、だって……私、は、」


「■■召喚の魔法陣、禁忌指定で使用不可の魔法陣にしようか」


ずっと黙り込んだままだったソフィは、何の感情も伺えない普段通りの微笑を浮かべながらXXXの言葉を遮るように呟いた。あくまで独り言であるらしいその言葉に目を丸くしたXXXは、少しの間を開けてわざとらしく大きなため息を吐き出す。


「それはいいね、大賛成!」


数秒前まで浮かべていた重苦しい表情も、身体の震えも、全てが嘘であったかのように普段通りに戻っている。無邪気な笑みを浮かべたXXXは、無自覚だろうソフィが見せてくれた明確な気遣いと言う変化に気分を良くしてその体に飛びついた。


「うわ、ちょっと…急になぁに?XXXちゃん、重たいんですけどぉ」

「あっははは!女の子にそんな事言っちゃだめなんだよ?いいからじっとしててよね、ソフィ君!」


これまで決して自ら近付いてくる事がなかったXXXの予想だにしなかった接触を前に素直に尻餅をついたソフィは、嫌そうな声を上げて抵抗するも肩を落として暴れるのを辞めた。顔を隠す様に胸元に抱きしめられて、苦しいと不満の声を上げようとして僅かに聞こえてきた言葉に黙り込む。



「———もし私が国に帰って、そのまま戻ってこなかったら…チト君の事、よろしくね」


「君って…結構悪趣味なところあるよねぇ」


ワザとらしいため息と共に吐き捨てられた、決して否定のない言葉を前にして返事が返ってくることはなかった。


☆評価やブックマークで応援して頂けると励みになります。次回も是非御一読下さい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。