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とある記憶 27


「いやぁ…しっかり大穴開けちゃったねぇ」

「元々地面の厚みを考慮して結界の制御範囲を少しでも収めるために半円状に張っちゃったから…。でもまさか、こんな見事にやるとは思ってなかったなぁ」


ソフィが張ってくれた結界によって事なきを得たXXXは、ひとしきりチトを褒めちぎって満足したところでその視線の先を大穴へ向けた。暫く遠慮なく全力で感動を伝えるXXXと、余りにも直接的すぎる言葉の羅列に顔を真っ赤にしてついには圧倒的な魔力も変化していた容姿さえ普段の姿に引き戻してその場にしゃがみ込んで膝に顔を埋めてしまったチト。最初は大穴を観察していたソフィだったが、無事だった地面のある場所に集まっていた二人の様子にゆるりと微笑ましい視線を送りながらもやり取りが落ち着いた頃合いを見計らって声をかけた。


いつでも重力操作魔法を使えるようにと杖を握りしめながらもソフィと仲良く大穴の見えない深淵の底を覗き込んだXXXは、自身が張った結界の思わぬ欠点にどこか不満気だ。一方でようやく耳まで真っ赤だった所を照れている程度まで戻すことに成功したチトは、深いため息をつきながらも同じように大穴を見下ろす。周囲に充満する圧倒的な魔力に反して、既に今のチトが発している魔力は極普通の一般人並みまで戻されている。一部始終の目撃と、目の前に残された大穴がなければXXXは起きたはずの出来事をうっかり幻か夢か何かだったと判断してしまう程だ。それくらい、先程までの調子を引きずることなくチトはあくまで普段通りであった。


「…この下って何があるんだろ?」

「一応どこかの床と接触した音は聞こえてきたからねぇ。単純に迷宮が下降型であるとすれば最下層付近に繋がっている可能性が高いと思うよぉ」


光魔法を用いても一切底が見えない真っ暗な穴の先。突然現れた未知の移動経路を前に、どこかのエルフのせいで迷宮攻略中永遠と罠に嵌まり続けていたせいで感覚が麻痺しつつあったXXXはその提案を疑問に思う事もなく素直に口にしてしまう。


「早速下りてみよっか!」

「ふふ…そうこなくっちゃ!」

「お前、いや…黙っておくか。どうせ下に降りなきゃお前の複製体の回収も出来ないからな」


呆れた様に頭を抱えたチトは、先程までの出来事を象徴する最後の証拠である銀色の杖を消し、普段使っている金色の杖に持ち替えた。これで完全に元通り、その事実にどこか安心した様な、それでいて物足りないような表情を浮かべたXXXは、小さく首を振ってその考えを意識の外に投げ出す。一方で顔の火照りも収まったらしいチトは、早速大穴に飛び込もうとして突如正面に立ったエルフにその魔力の流れを止めた。


「…何?」

「さっきの戦闘、どうだったのぉ?」

「あー、もうちょと楽しめるかと思ったけど…あの程度か、の気持ちが強いな」

「戦闘で満足したいなら、やっぱりボクとぉ、」

「誰がお前みたいな理不尽エルフと戦うんだよ、却下」

「えぇ~?」


どうやら、チトの魔力と戦闘痕に当てられて興奮してきたらしい。普段通りの口調とは裏腹にその瞳は好奇心でいっぱいになっており、幼い子供の様な振る舞いに思わず目を丸くしたXXXと違って、そんなソフィの様子に慣れているのか鬱陶しそうに手で追い払ったチトは、ため息をついた。暫くいつも通りの茶番を続ける二人をどこか眩しそうな、それでいて物足りなさげな瞳で眺めていたXXXはどうにか時間を掛けて全ての蠢いていた感情を落ち着かせて、極めていつも通りの笑顔を顔に乗せて二人の元へ飛び込んだ。目を見開いて驚いたチトは、どうにかXXXの身体を素直に受け止める。困惑した表情を浮かべながらも決して避ける事も、押し返す事も考えていなかったことは明白だった。


「うおっ!?ちょ…あぶねーな、お前」

「んふふっ。でもでも、やっぱりチトくんはとーってもすごかったよ!」

「なっ…か、勘弁してくれって…」


再開したXXXの褒め攻撃に対してまたしても素直に顔を赤くしたチトを見て、XXXは上機嫌に笑う。まるで母親に全力で褒められた子供が照れ隠しに視線をさ迷わせるような、そんな反応と共に恐る恐るXXXの背中に回った掌の温度は決してXXXと違いなんて感じられない温かさを持っていた。


「やっぱりチト君は、世界で一番カッコいいね!」

「……あぁもう…クソ、」


今度こそ、許容量を大幅に超えてしまったらしい。引き剥がされたXXXは耳まで真っ赤に染めて腕で顔を隠すチトを前に、それ以上行動を起こす事はしなかった。実際、もしこれ以上の干渉があればチトはその場から逃げ出していたかもしれないのでその判断は正解である。二人のやり取りが一段落ついた事を確認したソフィは、照れ隠しに魔力弾を放つチトを結界によって涼しい顔で対処しながら穴の先を指さしてゆるりと笑った。


「良かったねぇ、エトちゃんもXXXちゃんも。でも、のんびりするのはこの辺りで先に進みたいなぁ。今の問題は、一時的にとは言え魔人の憑代になってしまった複製体への対処についてだよぉ。それで…XXXちゃんはどうするべきだと思う?」

「へ!?」


どこか考え込むように自分の身体を見下ろして黙り込んでいたXXXは、突然呼ばれた自分の名前に驚いて肩を跳ね上げた。投げかけられた問いの答えを探そうとして、再び口を閉ざせば不思議そうに顔を覗き込んでくるソフィが視界に入って今度は後ずさる羽目に合う。そんな様子をチトはどこか呆れた様子で眺めていた。


「XXXちゃーん?」

「わっえっと…ど、どうしよっか?」

「…まずは、実際の様子を確認しに行くところからだろ」

「そ、そうそう!話はそれからにしようっ?」


チトがまだ少しだけ赤い頬を誤魔化す様に指さした大穴の底。素直にその先へ視線を動かしたXXXは慌てて肯定するように頷いて見せた。そんな二人のやり取りに成程と頷いたソフィは、早速改めて杖を呼び出す。


どこからともなく吹き込んだ風の音が広がる深淵の先へ向かって、三人は揃って飛び込んでいった。


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