↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
78/165

51話 悪友


「…あー…申し訳ない、酷く取り乱してしまったようだ」

「いや、ウチらこそごめんね!ヴィル君がこういう話題苦手そうだなって分かっとったのに、敢えて振っちゃったし…。改めて、ごめんなさい」

「ボクも、口出ししなかった時点で同罪だよぉ。葵ちゃんの意図を何となく察して黙ってたけど、もと早い段階で止めるべきだった。だから、ごめんねぇヴィルちゃん」

「いや、本当に気にしないで欲しい。寧ろ、そこまで二人から気を遣われると違和感が凄い」


そんなやり取りからいくらか時間が経った頃、ようやく意識の切り替えに成功し普段通りの平静を取り戻したヴィルは、大きな深呼吸と共に心配そうに様子を伺ってくる二人に改めて向き合った。気遣うような視線が突き刺さり、これまで感じたことがなかった不思議な気分に背中が痒くなった気がする。自分を心から大切に思って、ソフィに至っては慣れない気遣いを本気でしてくれたのだと分かるからこそ嬉しい気持ちも確かに存在したが、それ以上に自身の醜態も含めた気まずさが勝ったヴィルは大きく手を叩く事で強制的に話題を切り替える事で、どこか重たい空気が広がっていたその場を切り抜けたのである。


「…じゃあ、改めてこの封印された複製体について話し合おうかぁ。封印が頑丈すぎるから、ちょっと強引な方法で組み込まれた魔法陣ごと全てを破壊しちゃう予定だよぉ」


チラリとヴィルの様子を確認し、本当にいつも通りである事を認識したソフィは僅かに肩から力を抜きながらもへらりと笑った。こちらはあっという間にいつも通りである。流石だなぁと苦笑を零しそうになったヴィルは、慌てて真面目な表情を作り直して結晶の方へ視線を戻した。


「正直なところ、俺程度では何がどうなっているのか欠片も理解できない。魔法陣は常に剥き出し状態だと言うのに…因みにこれは、壊そうとして壊せるものなのか?」

「魔法陣は基本的に組み込まれた回路の何か一つを破壊するか、乱すことが出来れば内容が変化する。ソフィ君はそれを狙っとるんとちゃう?」

「ご名答。ただこの手の魔法陣だと、事前に接触に関する防御の術式が組み込まれていることが多いし実際この魔法陣は立派な反撃機能付き。だから残念ながら物理的に効果力の魔法を当てて、魔法陣そのものに攻撃の余波で干渉を行う脳筋戦法くらいしか手段が見つからないんだぁ。魔法が得意とされるエルフとしては、気に入らないんだけどねぇ…」

「脳筋…ソフィ君の口から、脳筋って…」


にっこりと笑顔のまま結晶の表面に見えている魔法陣を指でなぞり、適当な一点を突いたソフィは説明が続くにつれてその表情を暗くし、最後には酷く残念そうにため息をついた。一方で葵は基本的に上品な言葉遣いをしている印象が強かったソフィが吐いた言葉に目を丸くしながらも、これまで深く意識してこなかった結晶内に浮かぶ魔法陣に視線を向けた。


眠り続ける複製体を封じる結晶を手の甲で数回叩いたソフィは、じっと見つめながらぶつぶつと計算を始めた。使用する攻撃魔法の内容を考えているようだ。威力、範囲、影響、速度、様々な観点から最適な魔法を探し当てて、一発で決めなければ本当にまずい反撃でも返ってくるのかもしれない。そんな様子を横目に見ていた葵は、少し離れたところで一部始終を見守っているヴィルにチラリと視線を向けながらも改めて結晶の表面に触れて、静かに撫でつけた。ぼんやりと中の複製体の少女を見詰めていた後、小さな深呼吸と共に振り返る。


「…なぁ、ソフィ君。この封印解くの、ウチがやってもいい?」

「え…いくら葵ちゃんでも、この手の封印を解除できる攻撃魔法を準備するのは難しいんじゃないかなぁ」

「そうじゃなくって…魔法陣の解析を、してみたくて」

「ボクやエトちゃんでも解読を諦めた、異次元の魔法陣だよ?それに…これがある限りきっとボクは、君の事を…」


葵から発せられた思いもよらぬ提案に素直に目を丸くしたソフィは、どこか悲しそうに言葉を続けようとした。それを掌を向けることで遮った葵は、しっかりとソフィと身体の向きと視線を合わせてから口を開く。


「…ソフィ君は、多分もうウチとこの複製体の元になった人を重ねることはしないと思う。だって、この迷宮攻略をする中で…ソフィ君の根本的な在り方やウチを見る目が大きく変わっとった。これまでの、何かを重ねる視線をウチはこの迷宮に入ってから、一度も感じてないし。…まぁ、お節介の方向性がまだまだ間違ってたり、勘違いしてる所がありそうだなーとも思ってるけど。兎に角、この複製体はまだ破壊しない。…ね?」


葵の言葉をゆっくりと咀嚼するソフィはぴたりと動きを止めて暫く黙り込んでいた。暫くして、苦笑をのせた深いため息と共に封印破壊の為に呼び出していた杖を消す。そうして静かに深呼吸をしてから、矢張り人間臭い曖昧な表情と共に笑った。


「ほんと、葵ちゃんの事になるとボクはダメダメだねぇ。自分の考えを纏めるどころか、自分を客観視する事すらままならないや」

「…その方が、人間臭くてええんとちゃう?……、……”ソフィ”はそんな面倒臭い人間に憧れてるんやろ?」

「……!」


葵の一言に目を見開いたソフィは、噛み締める様にその瞼を閉ざしてそれから矢張り人間臭く幸せそうに笑った。人間をまねして作り上げた完璧な表情とは違う、不器用で頼りなくも心からの喜びを示す情けない、どこまでも親しみを持てる笑みだ。


「…言って、くれるねぇ。…でもまぁ、やっぱり君はイブキちゃんとは全然違うや。ふふ、当初の目的は果たせなかったのに、びっくりするくらいすっきりしちゃったよぉ」


普段の元気いっぱいで無邪気な笑みとは違い、どこかソフィを小馬鹿にするような、それでも穏やかで楽し気な表情を浮かべたソフィを前に、吹っ切れた様に気の抜けた表情でソフィは肩を竦める。そうして暫く黙ってお互いの顔を見詰めていた二人は、いつの間にか揃って吹き出した。


ずっと黙って様子を伺っていたヴィルが、そろそろやり取りも終わっただろうと首を傾げつつ輪に入ってくる。


「これは…丸く収まった、という事でいいのか?」

「そうやね?ウチとソフィ君…じゃなくて、ソフィは今ここで初めて知り合いの壁を越えたんやから!」

「ボクはずーっと前から壁なんてなかったんだけどねぇ?」

「大事な言葉、前も後ろも引っこ抜いて言葉足らずに話しとった癖に何言っとるんほんまに」

「おっとぉ?」


普段通り明るく振る舞ったかと思えば、ぼそりとソフィの反抗に悪態で返す葵。そんなやり取りにどことなく見覚えがあったヴィルは、いつかに誰かから言われた己とルシエの対外的な関係性を思い出してぽつりと呟いた。


「……これ、悪友って奴か」


「友達ではないね」

「友人ではないかなぁ」


「「……は???」」


「…ッスーーーーーー成程?」


納得しました、そんな表情を浮かべて耳を塞ぎつつ肩の力を抜いたヴィルのすぐ傍では、最早恐怖を感じる程遠回りな罵り合いを始めた二人が騒いでいる。そんなやり取りを前に、そっと胸を撫でおろした。


この二人の関係性が正常からほど遠い所にあった事には、元々気が付いていた。主に葵の反応が、他の仲間たちに対するときと比べてどこまでも壁があったのだ。一方でソフィ側からはそんな様子が見受けられなかったことで、余程第一印象が悪かったのだろうかと小首を傾げていたが、実際はソフィが余りにも本音を隠して大賢者と言うより、先人として振る舞い過ぎていたことに原因があったのだろう。葵は基本的に、正面から対話を求められる方が好感度が上がりやすい。実際、偶然が重なっていたとはいえ初めて葵と対面した時に素に近い状態で接することが出来た自分は、だからこそ受け入れられたのだろうと勝手に思っている。今のやり取りを見る限り、葵は大人として接してくるソフィが気に入らなかったのだろうと思う。


迷宮探索が始まったころは、ソフィの余りにも気の早すぎる行動に大事の気配を感じて覚悟を決めていた。だがしかし、何がどうなったのやら大人である事を捨てて本気でぶつかる選択肢を選んだソフィは、葵の高い壁を乗り越えることに無事成功したらしい。自分の身内が更に関係性を深めた。その事実に自然と上がる口角を隠すこともなく、偶には自分も無邪気に行ってみようかと二人の間へ飛び込んでいったヴィルは、間もなく「ヴィル君(ちゃん)は黙ってて!」と息ぴったりな言葉によって撃沈する事になるのであった。


☆評価やブックマークで応援して頂けると励みになります。次回も是非御一読下さい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。