↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
75/165

49話 玩具屋


「…い、意外と普通の玩具とかでも喜びそうじゃね?」

「成程、チト、天才」

「確かに…アオイちゃんは一般常識が欠けている部分がありますからね。子供向けの玩具や、絵本なんかでも楽しんでいただけるかもしれません」


高級街を越え一般市民街を歩きながらも葵が喜ぶ記念品探しを続けていた一行は、ふと視界に入った子供達に足を止めた。魔道馬車の模型と思われるそれを片手に駆け抜けていく数人の子供達、それを見たチトが零した一言にルシエやオルコスの表情も明るくなる。軽く周囲を見渡せば、直ぐ近くに子供向け玩具屋を見付けた為、目線を合わせた三人は迷わずその先へ踏み込んだ。



「お…おぉ…!すご、これ重作業用の魔道具の模型か?あっちは百年くらい前に流行ってたガチの魔道具じゃねーか!おいおいマジかよ、最近の子供ってめっちゃ良い玩具触ってんだな…」

「ん、チト、一人行動厳禁!……行っちゃった。アオイよりも子供みたい」

「あはは…チトさんお店の中に入った瞬間からものすごく瞳が輝いていましたからね」


入店して早々、近くで親に玩具を強請る幼い子供達と変わらない無邪気な瞳を輝かせたチトは、魔道具の模型が並べられた一角に吸い込まれていった。引き留めようとしたルシエは呆れながらもため息を零す。いくら大賢者が近くにいるからと言って、一般市民街の店の中で個人行動をするには外聞が悪い身分である自覚は、少なくともルシエにはあったのだ。勿論何か問題があれば自力で切り抜けられるだろう実力の自信はある。けれども、この場には隣国の聖女様と名高いオルコスや、そもそも一般市民も多くいるのだ。そんな彼らに気を遣って魔法を使うのは骨が折れるだろうし、出来ればやりたくない。チトが居るから許されている外出だが、これでは誰が護衛なのか分かったものではない。


とは言え、入学試験を終えた翌日に出会った時も感じていたが、チトは本当に人間臭くなった気がする。これまではどこまでも周囲と壁を立てた先に居たような男だったのに、いつの間にか自由で自己主義的な雰囲気を出すようになった。それは本来であればあまり良くない変化なのかもしれないが、少なくとも今のルシエは否定する気になれず呆れて肩を竦める事しか出来なかった。それは、直ぐ隣で後ろ姿を負っていたオルコスも同じなのだろう。二人仲良く顔を見合わせて苦笑を零しながらも、各々商品を見るためにその場を解散する判断に至った。チトなら多分なんとかしてくれるだろう、という根拠のない信頼と共に。



「…へぇ、魔力で動く疑似水槽の魔道具。えっと…おぉ?本当に水中で魚が泳いでいるような影が動いてる。アオイは水属性魔法とすいぞくかん…?とにかく、水中生物が好きそうだった。これなら、喜ぶ…かな?」


ルシエが足を止めたのは、魔力を流すことで小箱の中の影が動く仕組みの魔道具が並べられた棚の前だった。他にも、魔力を流すことで蝶が羽ばたく様子や猫が駆ける様子などが見れるものもある。花が成長し散って再び成長するような可愛らしいものもあるようだ。つまるところ、葵が入学試験の魔法陣作成で作り上げた完成品の超簡易版という認識で間違っていないだろう。


「魚は詳しくないけど…この影は多分、ネオタートル」


いくつか種類があった魚関係の魔道具に魔力を流していけば、ゆっくりと水流の様な演出に乗せて小魚と共に亀型の魔物によく似た影が悠々と泳いでいく様子が映し出される。暫く眺めていれば、最後にはどこからともなく表れたもう一匹のネオタートルと共に遠くへ泳いで消えていった。


「決まった」


こくりと満足気に頷いたルシエは、まさに今発動させたばかりの魔道具を大切に両手で持って、未だ模型の展示周辺をうろつくチトを迎えに歩き出した。



「これは…うわぁ、懐かしい…」

「チト?」


未だに落ち着くことなくキラキラと輝いた瞳で周囲を物色していたチトは、不意に一つの模型を片手にとって感嘆の声を上げていた。そんな情けない大賢者の様子に小さくため息をついたルシエが近付いていけば、ばつが悪い表情を浮かべるどころかむしろその顔色を更に明るくして手招かれる。


「ルシエ、見てみろよこれ!構想段階で企画倒れになった機関車、って言う概念が取り込まれた模型だ!走行用の道筋と動力源を用意すれば自走可能なんだぜ?当時の政策目的は長距離運搬の簡略化、人員移動の活性化だ。もしこれが実用化されていたら、世界中の交通網が発達して新たな産業革命に続く火種になっていただろうな…!こんなに懐かしい物を、市井の玩具屋で見ることが出来るなんて!」

「何言ってるのか全然分からない。そんな事より、今日の目的はアオイに渡す記念品を選ぶ事。…ちょっと、聞いてる?」

「こっちは俺が500年くらい前に強制的に潰した通信機って概念の初期構想段階を思わせる玩具だな。どこから案が掘り出されたのか、もしくは新たに生み出されたものなのかは曖昧だけど、まだ今の世界じゃ”オーバーテクノロジー”な気がするな」

「おーばー…何?共通言語で喋って」


チトが次々に手を取っては丁寧に解説してくれるものの、その内容は残念ながらルシエの頭の中に五割も入ってきていなかった。頭脳明晰なルシエですら、五割なのだ。これが他の誰かであれば二割も理解出来れば十分だったかもしれない。それ程までにチトが流れる様に告げる説明の内容は、現状の世界では存在しない概念が積み重なったものだった。ルシエの詰まらなさそうな表情に気付いたのだろう、慌てた様に商品を展示棚に戻したチトはわざとらしく咳ばらいをしながら肩を竦める。


「まぁ、行き過ぎた技術ってところだな。昔から世界の調整を行う上で、現状相応しくないと判断された技術は俺とソフィで事前に潰して回ってたんだ」

「…急に人外ぶる。ルシエは、どんな反応をするのが正解なの?」

「どんな反応もしなくていいと思うぞ?別に。俺はチトで、お前はルシエ。それ以上もそれ以下もねーだろ」


若干の戸惑いを込めて発せられたルシエの問いかけは、普段と変わらない表情を浮かべたチトの一言によって強制的に相殺されてしまった。そんな事を聞きたかったわけではない筈なのに、ルシエの喉元まで出かかった疑問の全てはその先に上がってくる事無く全て飲み込まれてしまう。これまでは一切片鱗を見せてこなかったからこそ、チトは自身が特別な存在である事を隠したがっていると認識していたルシエ。けれどもこうして自ら過去について触れてくる様子を見る辺り、それは間違った考えだったのかもしれない。


少しだけ肩の力を抜いた葵は、再び嬉々として次の模型へ手を伸ばそうとするチトの手を掴んで、静かに笑った。


「今はアオイの記念品、分かった?馬鹿賢者」

「あっ、ハイ…」


それはそれは、良い笑顔であったらしい。



「それにしても、アオイに記念品か…。改めて考えてみても、やっぱこれと言ってピンとこないんだよなー。ルシエはもう決まったのか?」

「ん。魔力を流すと…こうやって水中を泳ぐ魚影が見れる面白い魔道具を見付けたから」

「マジかよ、絶対にそれが正解じゃん」

「ルシエも、見つけた時自分が天才だと思った。この案は、チトにあげない」

「えぇ~…そこを何とかなんない?」

「なんない」


改めて二人並んで店内を歩く二人だったが、ルシエが見つけた魔道具以上の記念品となり得るものは中々見つからない。普段の葵の様子を何度も頭で思い返すチトだったが、矢張り物欲が絶対的に欠落している様子しか浮かばなかった。どうしたものかと頭を抱えるチトを横目に、直ぐに探してよかったと胸を張るルシエは非常に可愛らしいのだが、それに気付くのは周囲の子供達ばかりである。


「ルシエは魔道具、オルコスはさっき絵本の展示周辺に居たな?じゃあ俺は…寧ろ魔力を使わない玩具を選ぶとするか。…つまり模型?」

「それはチトが欲しいだけ」

「確かに…」


軽口を叩きながらも、チトの思考は森の中の小屋での出来事で埋め尽くされていた。好きな食べ物、好きな季節、好きな魔法、好んでいた事。


「…あ、歌?」

「ん?」

「アイツ、歌が好きなんだよ。鼻歌ばっかりだけどな」

「……そう?」

「料理してるときとか、多分無意識なんだろうけどな」


小首を傾げるルシエを横目に、チトは魔力を使わない玩具が展示されている棚の方へと近づいていく。そこにあったのは、キーフ発の工芸品としても有名な音楽を奏でる道具、オルゴールだ。魔力を使わずとも歯車によって美しい硝子細工の様な音を響かせる繊細な道具は、キーフを吸収したトートで現在量産されており土産としても非常に好まれる物である。


「…曲は何にするの?アオイは、この世界の歌を知らない」

「いや、多分知ってる…っつーか、共通の歌が存在する臭いぞ?昔聞いた曲を、アイツの鼻歌でも聞いた事があったからな。確か…そう、虹がどう、とか」

「虹って言うと…この曲?」


ルシエが説明に書かれた曲名を眺めながら手に取ったオルゴールのゼンマイを巻けば、流れ出したのは嘗ての同居人がどこかの街の子供達に囲まれて歌っていた曲と全く同じ音楽。思わず音に集中して動きを止めたチトを不思議そうに見上げたルシエは、その瞳の奥に何かの姿が確かに映っていることに気付いた。…ヴィルが良くやる、誰かの話を聞きながら他事を考えている時と同じ瞳。そういう時の他事は大抵碌なことがない、そんな事をルシエが思い返している間に、くしゃりといつもと違う幼い笑みを浮かべたチトの声に我に返る。


「…ふはっ、これにするか。アイツ結構ガキだからな、そっち向けの曲の方が喜ぶだろ」

「……アイツ、ね」


会話のやり取りや、発言だけを聞いていればそれが葵に向けられた言葉や感情の様に思えた。けれども、今のチトの表情の中に葵に普段向けられている愛しい子供を見るような瞳はどこにも見当たらない。チトが浮かべているのは、子が親に向けるような、もっと全幅の信頼を寄せたような、言うなればヴィルが時折ルシエに向けてくるような、絶対的な信頼関係を含んだ表情だった。


その奥に居るのは、恐らく葵ではない誰かなのだろう。ソフィやチト、アオイ、オルコス、そしてヴィル。全員がルシエに立場上や自己判断による多くの隠し事をしていることはとうの昔に気付いている。


そして、それを暴く行為がご法度である事も十分に理解しているつもりなのだ。…なのだけど。



オルゴールを手に次はオルコスの方へ向かおうと歩き出したチトに気付かれない様に、小さくため息をついたルシエは言い表すのが難しい歯がゆさを強引に唾と共に飲み込んで歩き出した。


☆評価やブックマークで応援して頂けると励みになります。次回も是非御一読下さい。


事前にお伝えしていた通り、安定投稿の都合で土日の投稿は今後控えさせていただきます。また月曜日に覗いて頂けると幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。