↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
73/168

とある記憶 24


「うーん、ここをこうしてぇ…いや、もう少しカッコいい感じでぇ…いや、やり直し!もっと大きい方が使いやすいかなぁ。でも、何か足りないんだよなぁ…うぅん…はっ!これだぁ!」


戦闘を行った場所から少し歩いたところで立ち止まったソフィが言い出したのは、このまま戦いやすい場所を探すよりも作ってしまおう、である。疑問符を浮かべて顔を見合わせたXXXとチトを横目に上機嫌で杖を構えたソフィは、圧倒的な魔力にものを言わせて周囲の通路を破壊し始めたのだ。瓦礫を押し出す様に強引に作られていくのは、半円状の空間。何度か崩れては作り直されて、一般人ではまず破壊しようという気にすらなれない圧倒的な厚みと強度を誇る迷宮内の壁は、まるで粘土の様に捏ね繰り回される。そんな光景をポカンと口を開けて眺めていた二人は、いつの間にか目の前で見事迷宮の一部に馴染んだ一つの区域が完成していく様子に口角をヒクつかせて後ずさった。


「よぉし!完成しました、闘技場~!どうかなぁ二人とも、ボク一時期芸術に凝っていた時期があってねぇ、その一環で結構自信あるんだぁ。後はXXXちゃんがお得意の結界魔法で外壁を保護すればぁ、何でも出来ちゃう最強の遊び場の感性だよぉ!」


人間では、そしてチトですらこれは無理だと本気で感じた広範囲魔法を用いてソフィが作り上げたのは、岩と土を用いて作られた闘技場だった。無駄に広々と凝った調整がされた客席に始まり、中心部に向けてどこへ繋がっているのか分からない入場口まで本当に再現度が高い。まるで絵を描くような調子で一瞬で作られた空間を前に、非常に難易度が高い最終工程を任されてしまったXXXは頭を抱えながらも杖を呼び出した。


「この範囲に強度を保った結界?私では難しいと思うけど…」

「いけるよぉ、キミは杖を振るだけでもいいんだしぃ」

「それは…そうだけど。じゃあそうしよっかな。よし、いくよ!」


XXXが杖を構えて一振りすると、途端に客席を避けて闘技場で実際に戦闘が行われる一帯に結界が施された。ちらりとソフィが確認するだけでも、よくここまで密度を込められるものだと褒めたくなるような強度の高さと広範囲でも変わらない純度を誇っている。器用なものだねぇ、と素直に感想を零したソフィを前に、XXXはどこか居心地が悪そうな表情を浮かべていた。


「それにしても…エトちゃんは全然役に立たないねぇ。仕方がないかぁ、エトちゃんは繊細な魔力操作も高精度な結界も使えないからなぁ。ふふ、君程の魔法使いが役立たずだなんて、なんだかとっても不思議だねぇ…ねぇ?」

「当てつけかこのクソエルフ、俺だって本気を出せばこれくらい出来る」

「ふぅん?迷宮内部を倒壊させない様に且つ綺麗な円形状の闘技場を魔法で作る?それとも、競技場の戦闘区域だけを端から端まで一切精度の狂いがない高耐久の結界で張り巡らせることが出来るのかなぁ?それは是非とも見せてもらいたいんだけどぉ」

「おい、作戦を確認するぞ」


事実として今回の闘技場建設に何一つ関わっていないチトは、今の自分がこんな片手間で目の前の建造物を作り上げられる自信はどこにもなかった。けれども、素直にその事実を認めようものなら目の前の腐ったエルフが何を言い出すか分からない。不機嫌さを隠し切れないなりに怒りだけはどうにか堪えた様子のチトを前に苦笑を浮かべたXXXは、杖の柄の先端部分を使って地面を削る様に簡易的な闘技場の絵を描いた。


「二人ともそれくらいにしてね?って事で…取りあえずあと数十分かそこらでさっきの私が凍結させた魔人が、結晶を破壊して出てくる。それをこの闘技場で堂々と待ち伏せして、誘い込む。わざと作った結界の穴、出入り口は魔人が入ってきた瞬間に塞いで、周辺被害の影響を限りなくゼロにしたところで結界の維持権限をソフィ君へ譲渡する」


思い返せば以外にも初めて見るXXXの絵の完成度に吹き出しそうになったのを堪えたチトはそれでも顔を上げることが出来ずXXXが描き出した完成図に釘付けになっている。ソフィもソフィで、おやまぁと格好のネタを獲得した事実ににんまりと厭らしい笑みを浮かべていた。そう、XXXは絶望的に絵心がなかった。正確には絵心がないというより、その圧倒的な独創性が先行し過ぎて内容を見るより前に笑いが勝ってしまうのだ。そんなXXXが先ほど対面したばかりの魔人の簡易的な絵を描けばどうなるだろうか。つまりそういう事である。現状を簡易的にまとめる為に書かれた解説図から目を離さない二人に不思議そうに首を傾げたXXXだったが、じわじわと時間が迫ってきていることは理解していたのでそれ以上首を挟まず説明を続けた。


「最終的にこの闘技場内で私と魔人で戦闘を行う。最終的には叩き潰して、大勝利!」

「…あれぇ、一方そのころエトちゃんは?」

「えーっと…そ、ソフィ君には結界の維持をお願いしてるでしょ?だからチト君には致命傷に成りかねない傷を防ぐ役割や、結界の破壊以外の手段でこの場から離れようとした魔人を止めるって言うか…平たく言えば、見守る…みたいな?えへっ」

「つまりぃ、指をくわえて見学って事だねぇ!」


ニヤニヤと人差し指を顔の横で立てたソフィが満面の笑みを浮かべれば、一瞬で真っ青な焔がソフィの周囲を覆い尽くした。少し離れた場所に居ても感じる高温の余波に思わずXXXが後ずさる。全てを燃やし尽くさんとする炎はソフィを潰す様に徐々にその範囲を寄せていく。そんな様を恐る恐る眺めていたXXXは、その後に聞こえた声に小さく胸を撫でおろした。


「全く…その場の感情で使われた魔法は、弱いんだよぉ?」


瞬時にどこからともなく吹き込んだ風によって炎は散らされ、全くの無傷で杖すら手元にないソフィが現れた。地面が抉れるように焦げた跡が残っていなければ、幻覚魔法の一種を見せられたのだろうかと勘違いしてしまう程のあっさりした様子を前に、これ以上の抗議をするつもりはないらしいチトは舌打ちと共に顔を逸らしてしまった。その手にはいつの間にか杖が握られている。突然始まって一瞬で終わる二人の喧嘩はいつもの事、分かっていても毎度多少なりとも動揺してしまう自分自身に苦笑と共に文句を言おうとしたXXXは、魔力感知範囲内で突如動き出した反応に静かに杖を構えた。


刹那、敢えて入口となる様に結界の穴を作っていたにもかかわらず闘技場内部に張られた結界を蹴破る様に強い衝撃とガラスが割れるような音が辺りに響き渡る。


「…範囲指定、強化。柔軟性追加、反射性追加、事故補正機能追加、強化。衝撃吸収機能追加、強化。…発動、特級魔法…完全領域!!」


XXXの高速で行われた短縮詠唱と共に、改めて闘技場の内部を囲む結界が半円状に張り出される。それは、先程まで貼られていた結界の何倍にも及ぶ性能を持った、圧倒的な密度を誇る結界だった。僅かにそれに意識を取られた魔人を横目に、視線を合わせたXXXとソフィによって結界の維持権限が譲渡される。心得たと言わんばかりに杖を呼び出して権限を手にしたソフィは、途端に襲い掛かる結界維持に必要な情報と魔力操作量の多さに僅かに目を見開きながらも静かに結界の端へ移動した。


「どうかしたのか?」


先に結界の端へ移動していたチトは、そんなソフィの反応に気付いていたのだろう。危機感の一つもないまま不思議そうに傾げらえた首に思わず苦笑を浮かべたソフィはため息交じりに杖を両手で握りしめてXXXの背中を見詰めた。


「この結界、今のエトちゃんではとても制御しきれない代物だろうなぁって思って。寧ろ、ボクでも結構大変だよぉ?」

「まじか。それを”遠隔”で発動って…やっぱアイツも十分イカレてるよな」

「まぁねぇ?純粋な人間族の中じゃ一番だと思うよぉ」


「———風水弾!」


宙に浮かび結界に視線を向ける魔人を見上げたXXXは、杖を握り直して簡易詠唱を口にする。途端に背後に浮かび上がった巨大な魔法陣から、複数の風魔法と混ざり合った水弾が魔人に向けて放たれた。直ぐに魔力の流れを感知して自身の正面に腕を伸ばし、結界を張った魔人によって攻撃は防がれていくがそんな対応は予定調和。風魔法に乗ってその速度を通常の水弾の何倍にも膨れ上がらせた攻撃は、XXXによって行われる高速制御によって徐々に打点が変わっていく。少しずつ、けれども確かに結界の隙間を縫った攻撃が魔人の身体を擦っていく。僅かに瞼を細めた魔人は、部分的に結界を張りだすことで対処していた方向性を転換し、全身を守れる結界を円形に展開した。


「———残念」


けれども、それすらもがXXXの狙い通りだ。にやりと口角を持ち上げたXXXは強く杖を握り、円形の結界で身を守る魔人の四方に遠隔で魔法陣を作り出す。


「円形の結界って弱いんだよ?……氷風突刃!!」


出現した巨大な水の塊は速攻で冷やし固められ、風魔法に研磨されて鋭い氷の刃を作り出す。そのままの勢いで魔人の結界に衝突したかと思えば、追い風に乗って更に威力を上げる。小さな針の様に突き刺さった氷の刃は、仕込まれた風魔法とダメ押しの重力操作魔法によって高速回転を始めたかと思えば、一切の勢いを弱める事無く結界を削り出しついにはその先端は結界を破って内部に侵入した。その様子を傍から眺めていた二人は、素直に感嘆の声を漏らす。


「一つの魔法陣にここまでの要素を足したのか。流石、魔法陣の天才だな」

「組み合わされた魔法は簡易的な上級魔法、下手すれば下級魔法の筈なんだけどぉ…、それを圧倒的な計算と常時行われる制御によって特級魔法と同等のものへ昇格させているみたいだねぇ。ボク達みたいに高い魔力でどうこうする訳じゃない、まさに人間らしい最高位の戦い方だよぉ」


そんな呑気な二人とは裏腹に、自身の結界が人間の魔法によって破られる寸前に至っている魔人は分かりやすい動揺と共に己に近づく刃の先と涼しい顔で魔法陣を継続させるXXXの様子を交互に視線で追っている。そんな様子に鼻先で笑ったXXXは、冷静な口調のまま魔法陣に込める魔力量を上げた。


「円形の結界は防御範囲が広く、被弾率を大幅に減少させられる反面密度の低下や部分強化といった範囲指定が困難になる。つまり、最終的には大幅な強度低下と同義。その隙に一転突破を狙う攻撃を複数方向から仕掛ければ…?」


そんな言葉と同時にバリン、と大きな音を立てて魔人が張っていた結界が崩壊する。四方から向けられた結界による傷を最大限抑え込もうと身を捩りながらもXXXを睨みつける魔人を前に、XXXは満足気な笑みを浮かべながら言葉を続けた。


「…簡単に結界は崩壊する、ってね?結界魔法の先生としても、これ位の知識は朝飯前なんだから」


前哨戦を終え、改めて対峙するXXXと魔人。


ついに本格的な戦闘が始まった。



☆評価やブックマークで応援して頂けると励みになります。次回も是非御一読下さい。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。