とある記憶 23
「…いるな」
「いるねぇ」
「え、何が?…あ、ほんとだ、いる!」
迷宮攻略を続ける三人は、下層に入ってすぐに感じた気配に足を止めた。最初は首を傾げていたXXXも、意識的に魔力感知を行った結果確かに二人が言う通り何かしらの禍々しい気配を纏った魔力を感じて杖を呼び出す。これまではソフィのせいで罠に掛かる事はあっても襲ってくる防衛の魔物相手には大した強さを感じる事無く、片手間で瞬殺していた三人だったがいよいよ油断ならない状況になってきたらしい。
「俺達が聞いた話じゃいるのは上位魔族だって話だったけど…ありゃ殺した人間を複数取り込んで下位魔人に進化してやがるな。そりゃ下層まで降りてこられる冒険者ならそこそこの力にはなるんだろうけど」
「すこーし厄介なことになってきたかもねぇ。だって、この魔力を発している魔人…」
瞼を細めたソフィが杖を構えた瞬間、目視できない音速で放たれた風の刃が三人を襲った。衝撃と共に地面が抉れ、余波で辺り一帯に砂埃が舞い上がる。僅かに視界が晴れてきた時、そこには結界魔法によって攻撃を防いだ無表情のXXXとにやりと口角を上げたチト、そして普段と変わらない微笑を浮かべたソフィが涼しい顔で立っていた。わざとらしく近づいてくる足音の先へ自然と顔が向く。
「…もう、ボク達に気付いているからねぇ」
穏やかな声音とは真逆の鋭い視線を砂煙の先へ向けたソフィは、無詠唱で自分たちに向けられたものと同等の風の刃を放った。残念ながらしっかりと結界に弾かれた音が響き渡り、乱雑な強風と共に辺りの煙が吹き飛ばされる。現れたのは、どこかの冒険者の身体を丸ごと飲み込んだのだろう、人間と全く同じ姿かたちをしていながら、禍々しい魔力を放つ魔人だった。
「…ふーん」
感情を殺した瞳のまま杖を構えたXXXが、水属性の攻撃魔法を無数に放つもすべてが結界によって防がれてしまった。間髪入れない連続攻撃の手はふとした瞬間にぴたりと止まり、その意図が読めない魔人が人間を真似て首を傾けた瞬間、再び杖を向け直したXXXが瞬時に散った水魔法の余波をかき集めて魔人の身体を凍らせてしまった。
「…これ、いつまで保てると思う?一応最上位魔法で、普通なら永久凍結確定の魔法なんだけど」
「上手くいって三時間、ってところじゃね?魔法の処理速度や最初の風属性魔法の威力、制度から見ても人間を取り込む前からそれなりの手練れだった事が分かる。そこに人間の魔力と記憶を吸い上げたって考えると、分類上は下位魔人でも能力的に中位魔人に匹敵している可能性が高いしな」
「そっかぁ。思ったよりも強い殺気を感じて驚いちゃった。足止めは簡単だけど、どうやったら討伐出来るんだろう…?こういう時しか頼りにならなさそうな二人は、手を貸してくれるつもりがなさそうだし?」
魔人が完全に氷の結晶の中に閉じ込められたことを確認したXXXは杖を下ろして息を吐く。手の甲で扉を叩くようにコンコンと強度を確認しながら零された呆れ交じりの言葉を前に、愉快そうに笑ったのはチトだったかソフィだったか。XXXの問いかけには素直に答えてくれたチトでさえ、その手元に杖は握られていない。二人の意思を改めて確認したXXXは、深いため息と共に小さく首を振った。
「あはは、よく分かってるねぇ。でも、実際に今持っている力をしっかり使いこなすことが出来れば、君でも十分対処可能な魔人だとボクは判断したよぉ。それに、君だって格上の相手と戦って結果を残したいと思っているんじゃないかなぁ?」
先程僅かに浮かべていた鋭い目つきは鳴りを潜め、普段と変わらない気の抜けた笑みを浮かべたソフィの言葉にXXXはわざとらしく頬を膨らませる。少しの間そのままソフィを睨みつけていたが、意見を変える気が一切ない事を受け入れて顔をそむけた。
「…私、専門は戦闘行為じゃないんだけどなぁ」
自身の腕や身体を改める様に確認したXXXは、先程の魔人の攻撃によって崩れた地面に重なった結果小さな山を作っている瓦礫を重力操作魔法で器用に移動させる。そうして完成した道を眺めながら、不貞腐れた様子で肩を落とす。そんな幼い行動に顔を見合わせたチトとソフィは、小さく笑い声を漏らした。
「手伝いくらいはしてやるからさ、元気出せって」
「そうだよぉ、君は一人じゃないんだからねぇ」
「全く、他人事だと思って…。取りあえず場所を変えようか、この魔人と全力で戦えば勝敗より先に迷宮の崩壊が始まっちゃうだろうから」
瓦礫の片付けも適当に行いながら、既に脳内では作戦会議を始めて忙しいXXXの様子に肩を竦めた二人は、のんびりとその後ろ姿を追いかけていった。
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