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44話 エルフ流迷宮攻略術


「おぉ~…流石迷宮、めっちゃファンタジーや!良く分からん原理で燃え続ける炎、吹き込み口なんてどこにもない筈なのに変な方向から感じる風の流れ、日光が一切ないのに成長している謎の草花!まさに、って感じで一周回って面白くなってきた!」

「ふぁんたじぃ…は何を言っているのか分からないが、確かに言われて見れば異様な光景だな。蒼い炎は迷宮で定番の灯りとされているが、その原理は未だに不明だ。風や草花だって、外と明らかに異なる理論で生じている現象と言える」

「基本的には大地から魔力を吸い上げて活性化させる技術が使われている、って説が多いかなぁ?現代でも同じ迷宮を創造する事は理論上可能とされているけれど、実際問題成功した例は存在しない。…上手くいかないからこそ、迷宮は迷宮として存在しているんだよぉ?ふふ、そういうものだから、って受け入れる以外の道はないと思うなぁ」


ソフィが先に迷宮に入った二人に追いつくころには、先程までの異様な空気感は完全になくなっていた。純粋無垢な子供の様に感想を発する葵を前に僅かに微妙な顔をしたヴィルだったが、結局首を挟むことは止めたらしい。ソフィもソフィで、目的地に到達するまではそうであってくれた方がやりやすいと自己完結してしまった。迷宮探索はそれなりに順調である。要所要所に罠が発動されたらしい痕跡が残されており、先人たちお努力の軌跡が垣間見えるとヴィルは素直に感心していた。


念のため、と杖を握りしめて道を進んでいたヴィルだったが、葵の素朴な反応に気を惹かれて近くの草花に手を伸ばしていた。


「これって、正解の道が存在するん?それとも、どんな道を選んでも終点に辿り着くような仕組みとか?」

「…そっかぁ、葵ちゃんは実際の迷宮攻略に関する知識は持っていなかったねぇ。迷宮は、基本的に超巨大迷路って認識をすれば十分だよぉ。無数に存在する道のどこかに終点へ続くものがある」

「はぇ~…」


理解しているのかいないのか、気の抜けた返事をした葵の視線の先は既に目の前にある分かれ道に向けられていた。片隅では教養知識と実際の攻略知識は異なるものなのかと納得していたりするのだが、意識の殆どは既に分かれ道をどう攻略するかに注がれているせいで関心がないように見えてしまう。始めは意気揚々と説明していたにもかかわらず受けた反応に何とも言えない表情を浮かべるソフィに気付いたヴィルが、小さく笑った。それに咳払いで誤魔化す様に空気を切り替えたソフィが、小さく手を叩いて笑った。


「それは問題です。迷宮攻略する上で、一番楽に終点を目指せる方法はなんでしょうかぁ」

「はい、地図を作る事です」

「それは一般的な冒険者が教わる基礎的な回答かなぁ。ヴィルちゃんは少し頭が固いかもしれないねぇ、もっと早い方法があるよぉ、考えてごらん?」

「…ふむ、早い方法…」


ソフィの質問に早速手を上げて回答したヴィルだったが、残念ながら異世界モノで定番のマッピングは正解ではないらしい。ヴィルと同じ回答を一番に浮かべていた葵は、ソフィが出したヒントと共に次なる一手を考えて手を上げた。


「じゃあ、はい!魔力を意図的に広げて、壁にぶつかるかの反響を確認するのはどうやろ?そうすれば行き止まりに当たる前に正しい道が判断できるし!」

「うーん、その方法は非効率的かなぁ。何より、無駄な魔力消費が激しくて疲れちゃう可能性があるし」

「いや、そんな方法一瞬でも使えば普通の魔法使いは即死級だぞ」


引きつった表情で間髪入れずに突っ込んだヴィルの意図が理解できない二人は、揃って首を傾げる。その様子に面倒になったヴィルは、頭を抱えながら答えを視線で促した。


「もぉ~、ヴィルちゃんはせっかちだなぁ。でも、正解が出なさそうなのでここで発表しちゃいまぁす!さてさて、正解はぁ…」


どことなく胡散臭い満面の笑みを浮かべたソフィを前に、無意識で顔を見合わせた葵とヴィルは互いの距離を近付けた。そんな様子に満足げに頷いたソフィは、つい先ほどから異様な存在感を放っていた謎に出っ張った壁を満面の笑みと共に片手で押し込んだ。


「えっ」

「は、」


「罠に掛かっちゃう事ぉ~!」


その瞬間、すっぽりと床が抜けた。余りにも咄嗟の出来事に理解が追い付かずに反応できなかった二人は、そのまま真っ逆さまに落下していった。


「うわぁああああああっ!!?!?」

「なんでそうなるんだぁああっ!?!?」

「あっはははははははは!!!」


―――


「ちょっと…ソフィ君?説明してもらわないと困るんやけど…?」


落下した先で待ち受けていたのは、無数の針が牙を向く地獄の床だった。髪がその先に触れる寸前で慌てて我に返った葵が杖を振った事で重力魔法によって落下が止まった三人は、どうにかこうにか事なきを得たのである。爆笑しながら落下していたソフィから魔法を使う素振りは一切感じられなかったので、もしこのまま葵の魔法発動が間に合っていなければ本気で大変なことになっていたかもしれない。


針山を避けた先に道を見付けたのでそこまで移動し、ようやく地に足を付けることが出来た葵とヴィルは息も絶え絶えに崩れ落ちる。視界の先の針山には、朽ちかけた白骨化した遺体が複数引っ掛かっている。まさかとは思うが、あんなあからさまな装置を押した馬鹿がソフィ以外にも過去に居たのだろうか。それとも、絶対に押すなよ心理に負けてしまったのかもしれない。気持ちは分からなくもない葵は、それでも不用心すぎるだろうと思いながら一応は両手を合わせておいた。


相変わらず楽しそうに笑っているソフィは遊園地の絶叫アトラクションを終えた後の様に爽快感溢れる様子だったが、暫くして自身が非常に睨みつけられている事に気付いたのか深呼吸を繰り返してからわざとらしく驚いた表情で肩を竦めて見せた。


「はは、そんなに睨みつけないでよぉ。ほら、この先を見てごらん?さっきの罠に掛かった先、この道が恐らく正解への最短の近道だと思うよぉ。他にも安全な未知はあるのかもしれないけど、時間が掛かるだろうからねぇ。古代の人間が抜け道を予め用意しておくことは当たり前、でしょお?」


言い訳がましくも聞こえるソフィの発言は、一応は理に適っている。顔を見合わせた葵とヴィルは無言で頷きあってから、再び続きを促した。そんな様子に困ったように笑ったソフィは服の裾についた汚れを軽く払いながら立ち上がる。


「今は迷宮と一括りにされている場所でも、嘗ては古代の人間たちが何かしらの目的で利用していた場所。そこで侵入者対策に仕掛けられたのが罠なんだよぉ?咄嗟じゃ対応が厳しい罠だって、予め準備をしておけばどうとでもなる。逆に、知らなければ待っているのは確定された死だけなのだから、この抜け道が知られることはない。…ね、意外と簡単な話でしょお?積極的に罠に嵌まる事でお手軽時短迷宮攻略!これがボクのいつものやり方だよぉ」

「いやまぁ…その説明自体に理解は出来る、が…事前に説明が欲しかったぞ」

「ほんまにそう、ウチの魔法が間に合わんかった時のことを思えば、あの明らかな骸骨と同じ道を辿る可能性があったって事やろ?ウチは兎も角、ヴィル君無駄に傷付けてもええの?」

「本当にまずかったらちゃんと手を貸していたってばぁ。傷ついて困るのはトートのお偉いさんであるヴィルちゃんは勿論だけど、葵ちゃんだって同じくらい大切なんだからねぇ?何せあのエトちゃんの宝物なんだからぁ。それにしても、葵ちゃんが杖を呼び出す動作をしたから見守ってたけど流石の反応速度だったと思うよぉ?良く訓練されてるねぇ」

「俺がお偉いさんだって解ってるならもっと気遣ってくれ…」


気の抜けた笑みを浮かべるソフィを前に呆れ顔でため息を吐き出したヴィルは、無意識で流れていた冷や汗を拭って改めて呼び出した杖を支えにふらふらと立ち上がった。その体が自然と向かったのは、未だ座り込んで悪態を零す葵の方である。不思議そうに首を傾げた葵を前に、掌を差し出したのだ。


「…えっと?」

「なんだ、早く掴んで立ち上がるといい。いつまでも女性を床に座らせておくわけにもいかないし、先を急ぐ理由ならいくらでもあるんだからな」

「あぁ…う、うん…?」


言われるままに手を差し出せば優しく握られて、そのまま引き上げられた。流れる動作でスカートの土埃を払われ、満足げに頷いたヴィルは一歩先へ踏み出そうとして葵が動かない事に気付いて振り返る。


「どうしたんだ?」

「いや…ヴィル君って、意外と紳士的?なんやね…?」

「意外、とはなんだ。ソフィの言う通り俺はお偉いさんだからな、一通りの教育はしっかり受けている。それに、女性を気遣うのは当然だ。唯一の例外はルシエくらいだろうな、アイツは気遣えば気遣う程不機嫌になるんだ。…さて、行くぞ?この道を直線に進めばいいのか?」

「暫くは罠の気配もないし、真っすぐ進もうかぁ」


葵は、ほんの少し前までヴィルに掴まれていた手のひらを暫く黙って見詰めていた。その温度を確かめる様に拳を閉じては開いてを繰り返す。チトと手を繋ぐ時とは全く異なる、むず痒いようなくすぐったいような、そんな感触が残る掌をそっと握りしめる。何事もなく向けられたヴィルにとって当たり前のやさしさは、葵の中でくすぶっていた何かに確かにそっと触れていた。


そんな二人のやり取りを見て、ソフィがどこかほっとした様な表情を浮かべていた事には、誰も気付かなかった。


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