37話 パーティー開始
「葵、誕生日おめでとう!」
例の大会から一カ月程が経過した頃、ついに葵の緊急誕生日パーティー計画は当日を迎えた。チトに導かれて初めて旧世界城に訪れた葵は大興奮でその中を駆けだそうとして、必死の形相でヴィル達に止められている。そっちには罠があるから、この道は危険だから。結局ソフィ以外の全員で葵の好奇心を宥めてたどり着いたのは、嘗ての城内用途として上位の者が通常時に食事を摂る為に使われていたという縦長の食堂だった。安定の誕生日席に座らされた葵は、卓上に並ぶ豪華絢爛な料理たちに目を輝かせながらもチトを筆頭にそれぞれの言葉で誕生日を祝われた。
「えっと、皆ありがとー!ウチめっちゃうれしい!ほんまにありがとう!」
満面の笑みでお礼の言葉を口にした葵は、早速用意された巨大なケーキに素直に驚いた。それは見た目が、葵が良く知る現代日本で一般的なホールのショートケーキだったからだ。チョコレートのプレートでご丁寧に誕生日おめでとうと文字まで書かれたそれは、これまでの異世界生活で一度も目にしたことがない方式だ。ケーキ自体はあっても、この世界のケーキは基本的にシンプルかつ洗練されたものが多い。イメージとしては、過去に現代のパティシエが転生か転移でもして技術を広めたんじゃないかと思える程のものが主流だったのだ。
「これって?」
「アオイが住んでいた地域では祝いのケーキがこんな感じだったらしいからな。ソフィに調べて作らせた」
葵の疑問に答えたのはヴィル。少し離れた席から手を振ったのはソフィだった。続いて視界に入ったのは巨大なローストチキン。これは、現代日本でクリスマスによく見る姿かたちをしていた。サイズは当然の様にこちらの方が大きいが、その骨部分に丁寧にアルミホイルの様な銀色の用紙が巻かれているところまで再現されている。
「…これは?」
「アオイが夢って言ってた巨大な鳥の丸焼き。この紙の用途は不明。ソフィが作った」
次に答えたのはルシエだ。ソフィの方を見れば、腰に手を当てて自慢げに笑っている。その顔は、アルミホイルまで再現したんだぞと言いたげだ。勿論声には出ていないが、明らかにソフィの視線の先は骨に巻かれたアルミホイルに固定されていた。困惑しつつ卓上の料理をゆっくり見ていくと、不意に馴染みあるじゃがいも料理に視線を止めた。
「これ、ポテト?」
「以前の会話で、じゃがいもを揚げた料理が好みだとお聞きしましたから。ソフィが作りましたよ」
オルコスが穏やかに答える。ソフィに視線をやれば、どうぞと言いたげに掌を向けられたので試しに一本を指にとってみればまだ挙げたてなのか、それとも何かしらの保存の魔法が掛けられているのか指で持てるほど良い熱さを感じる。迷わず口に放り込めば、油の風味と塩味が口内に広がった。間違いなく、葵が良く知るフライドポテトである。そんな葵が最後に指をさしたのは個人的に彼女が好む大好きなシルエット。
「これってもしかして、海鮮…?」
「おう、お前魚好きなんだろ?スコンブ?は分かんなかったけど、ある程度の種類はソフィが作ったぞ」
「なぁ作ったの全部ソフィ君なんやけど!?」
思わず、と言った調子で突っ込めばその場で笑いが起こった。こんな豪華絢爛な食事達の殆どを他の誰でもないエルフであるソフィが作ったとは驚きだ。しかも、殆どが葵になじみ深い日本食ばかりともなれば確実にこのエルフが何かを知っていることは明らか。そして、それに対して周囲の誰もが首を挟まない時点で彼らも葵が何者なのかある程度理解した上で接してくれていたのだろう。参加者は結局変わらず葵を含めた6人だけだが、この空間には本来あるべき人数差に負けないくらい平和的で、何より穏やかな気持ちになれるものだった。
素直に食事を楽しみ、上機嫌に笑う葵。そんな様子に安心したように笑った5人は、早速目の前の物珍しい食事に手を付け始めた。
「ん、一発芸します。…ヴィルが」
「は、俺がか!?いや何故だ、急に言われても、」
「おぉ、ヴィルさん頑張ってください!」
「楽しみだねぇ」
「何見せてくれんの?」
「ウチめっちゃ楽しみ!」
余りにも雑過ぎるフリに大慌てで回避を試みたヴィルが、当然そんな芸の一つも持ち合わせている訳もなく盛大に崩れ落ちる様子を腹を抱えて笑ったり。
「はい!わたくし、今日の為にとある魔法を練習してきたんです。それでは、参ります!」
「ルコちゃんにおる変声魔法5連続ぅ、監修はボク、ソピアーだよぉ」
「まずはヴィルさん」
「ふむ、俺か?」
「こほん…。”あー…ふむ、そのタスクは期限が短いから明日には片付ける。よし、じゃあ次。…成程?それは俺よりルシエに聞いた方が都合が良いだろう。近々呼び出しを行う段取りをしておいてくれ”」
「仕事中の俺か!?何故だ、他にいくらでも選択肢はあっただろう!?」
余りにも特徴を掴み過ぎたオルコスにヴィルの声と口調、そして普段の無表情を最大限に険しい者に作り替えた真剣な表情に引っ繰り返って爆笑したり。
そこに飛び交っているのは非常に高度な魔法技術ばかりであり、一般人であれば卒倒してもおかしくない。けれどもそこに流れる空気は、まるで子供同士の無邪気な掛け合いと同様だった。それ以降も中身のない会話を続けたり、チトの謎の過去に倒した変な魔物集が始まったり。ソフィが出会った本気で殺意を覚えた人間物語も中々面白かった。
「…どうだ葵、楽しんでるか?お前の為の誕生日会」
不意にチトと視線が重なった時、思い出したように投げかけられた問いかけに葵は確かに満面の笑みを浮かべて頷いた。
「……うん、めっちゃ楽しい!!」
いよいよ始まる記念品渡しの時間で、何が起きるのかを誰も知らないまま。
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