↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
50/168

33話 幸先不安定


「な、チトが体調を崩して倒れただと…?あの男は体調不良になったりするのか?」

「運が悪い…会場準備に関わる依頼しようと考えていたのに」

「ソフィに呼ばれてわたくしも様子を確認しに行きましたが、聖属性魔法でどうにかできる症状ではなく極普通の疲労からくる体調不良と診断しました。あれは、チトさんがしっかり睡眠時間を確保し、栄養素が高い物を積極的に吸収し、時間をかけて自力で回復していくしかありませんね」


無事中央に戻ってきたヴィルとルシエがその足でチト達が拠点にしている屋敷を訪れると、ちょうどすれ違うように小屋からオルコスが出てきた。話を聞けば、突然の体調不良で寝込んでしまったらしい。顔を見合わせた二人は、どうしたものかと頭を抱える事しかできなかった。


「兎も角、オーフの大聖女様直々の診断結果なら仕方ない」

「まぁ!わたくしは候補で合って、正式な聖女ではありませんよ。それにしても…何かチトさんにご用事でしたか?」

「…あぁ、そうだな。会場をチトが提供してくれただろう?それは非常にありがたい申し出だったんだが…会場全体に防衛の為の魔法陣が設置されている関係でどこから手を付けていいのか分からなくなってな。仕方なく手を貸してもらいに来たところだったんだ」

「あら、旧世界城でしたよね。まさか現在の管理をチトさんが行っていたとは驚きました。ですが…その依頼内容であれば、ソフィでも十分事足りるのでは?」

「ソフィが…?」


「……え、ボクぅ?」


オルコスが視線を向けた先に釣られる様に二人が視線を向けた先では、開いた扉の向こうで丁度小屋を出ようとしていたソフィが心底面倒くさそうな表情を浮かべて立っていた。


―――


「うぅん、世界城の会場設営ねぇ…。確かに、あの場所は魔法陣だらけで君たちだけじゃどうしようもならないかぁ。エトちゃんは完全に使い物にならない以上、必然的にボクが適役になるのは納得できちゃうねぇ」


簡単な説明を聞いただけでヴィル達の願いを理解したソフィは扉の向こうで既に意識を飛ばしてしまっているチトの様子を想像しながら唸った。急ピッチで進められている計画の都合上一切時間を無駄にできない事は理解していた。とは言え面倒くさい。けれども、大切な誕生日イベントの為に現状動ける人材は自分しかいない。


「はぁ…分かった、引き受けるよ。葵ちゃんの誕生日記念パーティーの為だもんねぇ」


渋々告げた返事を聞いた三人が分かりやすく目を丸くした。まるで、そんな回答が効けるとは思っていなかったとでも言いたげな表情だ。いち早く状況を理解したオルコスが勢いよく席から立ち上がって歓声を上げた。


「やりましたね!ソフィの事ですから、”面倒だしやりたくないよぉ、エトちゃん叩き起こして連れ出せばぁ?”とでも言うかと!」

「確かにそう言おうとも考えたけどぉ…それでも酷い言い方じゃなぁい?」

「オルコスの言うとおりだな、正直素直に承諾されて驚愕している」

「駄々をこねる準備は出来ていた…」

「全く…」


仮にも人間では到底考えられない年月を生きてきたエルフに対して、なんたる怖いもの知らずな物言いだろうか。その気になれば一瞬で存在ごと世界から抹消することだって出来るだけの力を持ったソフィを前に、どこまでも対等に接してくる彼らは間違いなく葵の影響を受けているのだろう。立場や身分に知らぬフリを決め込んで、自分が親しくしたいと思った相手と親しくする。そこに妙な気遣いはなく、思ったことははっきりと相手に伝える。良くも悪くも変化を得たものだと苦笑を零したソフィは咳払いで場の空気を落ち着かせてから口を開いた。


「それだけ、ボクにとっても人間の誕生日が大きなイベントだって事。エトちゃんばかりが頑張ってるって思われるのも癪だしねぇ。今は葵ちゃんが喜びそうな魔導書の選定中だけど、並行して手伝うくらいなら問題ないよぉ」


どことなく、気恥ずかしい。確かに感じる体温の上昇から目を逸らしたソフィは目の前で喜ぶ子供たちを前に肩を落とした。葵と出会って急激な変化を得たのはきっと、彼らだけではないのだろうと自覚しながら。


「一先ずは問題解決だな。それから…チトの看病はそこで様子を眺めているアオイに任せよう」

「うえ、バレちゃった!」

「嘘、アオイはそもそも隠れる気がなかった」


小屋のすぐそばで様子を伺っていた葵にヴィルが声を掛ければ、嬉しそうに駆け寄ってきた。歴史すらもを変えてしまいかねない台風の目、全ての始点。そんな立場の少女は、何も知らずに無邪気に笑っている。


「なんか皆だけで集まるのって久々な気がする!」

「確かに…皆さんパーティの準備で忙しくしてますから」

「そんな寂しそうな顔をするな。アオイの誕生日パーティーの準備をアオイに手伝ってもらう訳にはいかないだろ?」

「仲間外れにしているわけではない。だから、すれ違う度に捨てられた子犬のように見てくるのは、禁止」

「むぅ、だって~…」


呆れ顔のヴィルに頭を撫でられ、背後からオルコスに抱きしめられ、片手をルシエと繋いだ葵はようやく満足そうな表情で笑みを浮かべた。事情は会話の通りだが、それでも葵は日常生活に寂しさを感じていたのである。ヴィルとオルコスは自然と離れていったが、ルシエだけが手を繋いだままである状況に小首を傾げながらも葵はそれ以上に現在疑問に思っている内容を問いかけてみる事にした。


「それで、看病ってなんの話なん?」

「エトちゃんが体調を崩しちゃったからねぇ、その看病を葵ちゃんに任せたいって話だよぉ」

「…え、チト君って体調不良とかなるん?ウチ結構本気で人外説推しとったんやけど」

「うーん……チトさんは非常に人間に近いナニカ、ですね。身体構造上の殆どを構成しているのは人間と全く同じ組織ですが、ある一か所…魔力中枢の根源に関わる部位において明確に人間にはない器官が存在しています。ですので、確実にわたくし達と同じ人類ではありませんが、概ね同じだ、という判断が正しいかと思われ…ます、よ…。また、またその目線です!わたくしだって色々考えているのですよ!?」


目を瞑ってつい先ほど診察したチトの体内構造を思い出しつつ説明し始めたオルコスは、ふと瞼を開いた瞬間に周囲の視線が同じ意図を込めている事に気付いて頬を膨らませる。相変わらず座学ではヴィル達に泣きつく日々を送っているにもかかわらず、ふとした発言がどこまでも核心をついている少女である。そんな彼らの意見全てを代表するように、ソフィがぽつりと呟いた。


「…いやぁ、流石はボクが気に入る性質を持っている子だなぁって思って?」

「っソフィまで!?」


茶番を始めた二人を横目にルシエが思わず口を開く。


「……つまり、オルコスの発言は間違っていない。チトは人間じゃない」


その言葉を拾って何を思ったのか、ソフィはルシエだけに向けて小さく笑みを浮かべてから、未だに拗ねるオルコスの頭を撫でつけつつ葵と体の向きを合わせた。


「まぁ、殆ど人間と同じ扱いで問題ないんだけどねぇ。って事で、そんな推定人間なエトちゃんが体調を崩しちゃったから看病はよろしくねぇ?葵ちゃん」

「えぇ…ウチ、看病とかやった事ないんやけど」


「勿論、ボクもないよぉ?」

「俺もないな」

「ルシエもない」

「わたくしも、恥ずかしながら…せ、聖属性魔法で直せない病気は専門外でして…」


ソフィは変わらずの微笑で、ヴィルは真剣に過去を思い出しつつ、ルシエは自信満々に、オルコスは申し訳なさそうに。続けて放たれた言葉たちを飲み込んだ葵は、もし彼らにチトの看病を任せた場合に起こり得る問題をゆっくりと考え最終的に肩を落とした。


「……ほなまぁ、ウチが一番適役やね」


間違いなくチトが心労で悪化する想像しか出来なかったのである。葵自身も別に己が真面目だとは思っていないし、普段はチトに心労を掛ける側の人間だ。それでも、現代日本で最低限の常識やモラルは身に着けている。一方で彼らはどうだろう。間違いなくどおぞのお偉い様の子や若干一名に関しては人間ですらない。そんな彼らと自分を天秤にかければ。間違いなく自分が看病する以外の道筋は見つけられなかったのだ。


わざとらしく深いため息をついた葵は、チトが眠る部屋の方へ視線を向けつつ必要になるだろう道具のリストアップを静かに始めた。



―――



「依頼者は最近この学園を退学になった元Bクラス3位のお嬢様…の、実家だな」

「オーフから内密に抗議が送られて、降格になった家か。現在の爵位は確か子爵まで落とされたと記憶している」


薄暗い地下に見合わない座り心地を追及された椅子に腰を掛け、足を組んだヴィルの正面には壁に繋がれた鎖で拘束された男が隣で気絶した男を庇うように静かに質疑応答に励んでいた。とは言え、ヴィルによって危害を加えられた訳ではなく学園内では常にローブをかぶっていた男はもう一人の男によって意図的に気絶させられたのである。それが、明確に男を護るための行為であることを察しているヴィルは敢えてそこに触れない。けれども気絶した男が人質として成立してい事は互いに理解していた。


「お嬢様自身やそれ以外の取り巻きだったお貴族様、その実家はオーフからの圧力に屈して大人しく手を引いたらしいがな。どうにも二段階の降格が堪えたらしい」

「爵位剥奪にならなかっただけ、相当な慈悲を与えられていたんだがな」

「俺たちはオーフのスラム街上りの傭兵だ。金の為だけに動く俺達が受けた依頼内容は、学園に潜入し技能大会の騒ぎに乗じて例の娘を誘拐、もしくは……殺害、する事だった」


僅かに眉を上げるも、それ以上の反応を見せる事無く目線だけで続きを促したヴィルは肘掛に頬杖をついて無意識で人差し指を世話しなく動かしている。揺らぐな、揺らぐな、揺らぐな。呪文のように、呪いのように、自分に言い聞かせれば僅かに溢れた魔力は再び静けさを取り戻した。


「事前情報として、娘が無詠唱魔法が使えることを聞いていた。だから、試合中に杖を取り上げて勝利を収めてから結果以外に出た瞬間を狙って即死魔法を掛ける算段だった。魔法陣作成の天才だとは知っていたが…まさか、杖なしでも余裕で戦えるとはな。重力操作魔法を杖なし無詠唱で使われた瞬間悟ったよ。あぁ、コイツは俺がどれだけ努力と策を重ねても勝てないどころか、同じ舞台にも立てない高みの魔法使いなんだとな」

「そうか。残念ながらそこで伸びている男はそう思わなかったらしいがな」

「……コイツはこれまでずっと、俺が守ってきたんだ。直接手を下してきたのも、怪我を負ったのも、何もかも俺だけだ。コイツにやらせていたのは相手の情報を鑑定魔法で暴く事、精神操作魔法で対象の戦意を削ぐこと、本当にそれだけなんだ。だから、本当の強者と対峙しても理解できなかった。…今でもな」


そうやって気絶した男を見下ろす視線は確かに温かいものがあった。犯罪者の身分で腹立たしい。無意識で頬杖をついた手の小指の爪を噛んだヴィルは、再び己に揺らがない事を科して律した。


「随分と、生ぬるいんだな」

「知ってるさ。……それで、俺達はどうなるんだ?望みが叶うなら、どんな結末になろうと二人一緒にしてもらえれば嬉しいんだが」

「その判断を下すのは、残念ながら俺じゃない」

「…そうか」


本当に、残念ながらな。そんな言葉を飲み込んだヴィルは静かに立ち上がった。これ以上この場に居合わせれば手が滑って目の前の男たちを殺してしまうかもしれないと思ったからだ。守る?それだけ?…下らない。ヴィルが身内として迎え入れた葵に少しでも殺意を向けた時点でそんな相手は死罪に相応しかった。葵はヴィル達にとっての光だ。停滞した全ての関係性を動かす為の、大切な存在である。許されるわけがないだろう。もし今の自分に力があれば、目の前で気絶する男を惨殺して放置することだって出来たのに。あぁ、腸が煮えくり返ってしまいそうな程腹立たしい。


「一つだけ、聞いて欲しい」


全ての感情を体の中に押し殺して、牢の出口に手を掛けた時再び話しかけられた。これ以上その雑音を耳に入れたくもなかったが、仕方がない。けれども振り返ってしまえばその頭を踏みつけてしまいそうだったから、立ち止まるだけに留める。


「例の娘、アオイ…だったか?アイツは異常だ」


まだ、何か言うのか。どれだけ己の忍耐力を試せば気が済むのだろうか。そう怒鳴り付けたいのに、言葉を紡ぐ男の声に嘲りの類は一切混じっておらず思わず困惑してしまう。


「俺との戦闘中、アイツが見ていたのは俺じゃなかった。いや、魔法戦の最中ずっと、アイツは対戦相手を見ていなかったんだ。……アイツが唯一見ていたのは、勝利でもなく、生き残る事でもなく…魔法だけだ。アイツはなんだ?一体、———何が見えている?」


ほんの僅かな、小骨が刺さったような違和感。けれども所詮それは、負け犬の遠吠えに過ぎなくて。だからヴィルは、何も言わずにそのまま牢屋を後にした。残りの処理を行うのは正式な国だけだ。それによって男たちが生きながらえるのか終わりを迎えるのか。自分の手を離れてしまった以上、ヴィルは己が制御できない結末から興味を引くしかなかった。


コツコツと地面を歩く靴の音だけが響き渡る地下牢で、ほんの僅かに生じてしまった不協和音を前にヴィルは不快感を隠さない表情で舌打ちを零した。


無事50話に到達出来ました。いつもお読み下さりありがとうございます。


以降土日の更新は中止し、月〜金週5投稿とさせて頂きます。今後ともよろしくお願い致します。


☆評価やブックマークで応援して頂けると励みになります。次回も是非御一読下さい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。