↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
45/168

とある記憶 15


「ようやく俺たちの旅も再開か」

「予定通り門が開通して良かったねぇ」


チトとソフィは二人、ついに解放された街の門を前にこぞって退門手続きを行う冒険者や商人たちを少し離れたところから眺めていた。迷宮攻略のために小屋を旅立ち、一つの都市に閉じ込められて早二カ月が経過した。予定通り街の封鎖は終了し、三人は旅が再開できることになったのだ。借家の返却手続きを終え、長旅に向けた物資の購入を済ませていざ旅立とうとしたその日の朝、どこから情報を聞き付けたのか彼らはこの街で過ごした二カ月間で随分と親しくなった街人達に呼び止められたのである。


「おーいチト君、ソフィくーん!皆からいっぱい物資もらったよー!」


目的は、XXXが両手いっぱいに抱えて持ってきた紙袋や籠に所狭しと入れ込まれた沢山の物資を渡すためだった。たった二カ月間日常クエストを引き受けていただけだった三人だったが、街人からの印象は非常によく、いつからか街を歩けば声を掛けられ、買い出しに出向けば必ず何かしらのオマケが貰える程に好かれる冒険者になっていたのだ。


そんな彼らが街を旅立つと聞いた為に、お礼を兼ねて沢山の食料などの物資を無料で押し付けたのである。最初は拒もうとしていた三人だったが、同じ目的を持って近づいてくる街人の多さに諦めた彼らは全ての物資を有難く頂戴する事にした。結果、朝一番から出発しようとしていた筈の彼らは気付けば夕暮れ時の空が広がっており、出発日時を翌日に変更したのである。すると俺も私も、と更に追加で物資を渡してくる者が増え、いつの間にか早朝の出発予定は昼下がりへとまた延長になった事は言うまでもない。内容を確認してから各々の魔法で収納を終えた三人は、今度こそ街を出るための列の最後尾に並んだ。


「ふふ、二人ともこの街に来る前より頼りがいのある顔になってるね?」

「…この二カ月は本当に地獄だったからな」

「そうだねぇ、だって相手は普通の人間だよぉ?どうせすぐ寿命を迎える癖に、一丁前に無理難題ばっかり押し付けてぇ…。…でもまぁ、悪くはなかったんじゃなぁい?少しは理解出来るようになった気がするしぃ」


余程最初の方に引き受けた子守クエストが堪えているのか、虚ろな目付きでぼそりと呟いたチトに続くように不機嫌そうにソフィが言葉を吐いた。けれども、その表情は発言が続くにつれて穏やかなものに変わっている。手元には、街の小さな子供から押し付けられたらしい不細工な猫の人形が大切そうに握られていた。そっとその頭を撫でつけながらソフィは小さく笑う。


「エトちゃんはこの二カ月間どうだったのさぁ」

「俺?うーん…まぁ、人間も色々悩みとか迷いがあるんだなぁ、とは。あとは、短い寿命だからこそ何回も重大な選択に迫られて大変そうだなとも思った。あんな数十年生きただけの相手に子ども扱いされた事実はちょっと気に食わねーけど…俺もまぁ、悪くないとは感じたな。…当分はこりごりだけど」


悪態をついた割に、チトが浮かべる表情もどこか楽しげだ。そんな様子を嬉しそうに見ていたXXXは、横並びに立っていたところから一歩前に出て二人の正面で振り返った。


「あははっ、そっか。だったら良かったよ!私は一応ただの人間だからね。少しくらい人間の事を知ってほしいなーって思ったからこそ、今回の提案をしたんだよ?それに…戦争が激化すれば、こんな穏やかな人間の営みも見れなくなっちゃうかもしれないし」

「XXX…」


笑顔を浮かべていたXXXは瞬時に真面目なものに表情を切り替えて、静かに杖を呼び出す。そっと握りしめて顔を上げたその瞳には、何かしらの決意が込められているように感じられた。


「チト君、ソフィ君。二人にとって人間って何?愚かで脆弱な生物?それとも、生物としてすらあまり認識されていないのかな?」


どこまでも静かに、けれども決して回答を聞くまでその場から動く事は許さないという意思を強く込められた視線に見つめられて、二人は顔を見合わせた。突然すぎる質問のように思えて、そうでもない事に気付いたのだ。葵がわざわざ人間と深く関わる必要がある日常クエストにこだわった意味。それが、この質問を投げかける為だったとすれば。


「…そうだねぇ。ボク達エルフにとって、人間は脆くて弱くて、直ぐに死んじゃうつまらない生物だよぉ。だから、エルフはどんな時でも人間のやり取りに干渉しないし、興味を持とうともしない。折角気に入った人間が出来ても、どうせすぐ死んじゃうから仕方がないんだぁ。エルフが人間を嫌っている、ってよく言われるけど、その認識は少しだけ間違っている。あれは、魔力と寿命以外何も変わらない人間と関わって辛い思いをしない為に生み出された思い込み、エルフ流の処世術なんだぁ」


目を瞑ってゆっくりと話し出すのはエルフにとっての人間という生物に向けられる価値観。圧倒的な寿命の違いは、確かに人間と関わらない選択を自然と行うに相応しい理由の一つだった。どこか寂しそうに笑ったソフィは、今度は瞼を開いてXXXと目線を合わせてから口を開いた。


「ボクが、人間に向ける感情も結局のところ他のエルフと似ているねぇ。ボクは比較的人間と関わり合いを持とうとする方ではあるけれど、やっぱり特定の人間の友人は作りたくないかなぁ。だって、置いて行かれるって解ってて仲良くする意味なんて、ないでしょお?その点で言えば、XXXちゃんは特別かもねぇ」


凪いだ表情を浮かべて告げられた言葉は、どこまでも合理的でありながらどこまでも孤独を選んだエルフの生き方そのものを表しているようだった。黙ってそれを聞いていたXXXに向けて普段と違う儚げな笑みを浮かべたソフィは、今度はお前の番だと言わんばかりに視線の先をチトへ向けた。同様にXXXからも視線を向けられて、困ったような、面倒くさげな表情を浮かべたチトはため息をついて視線を足元に固定する。


「……俺にとって人間は、実に愚かな生物だ。嘗て、魔王軍と人間が対立し争っていた時代…魔王という共通の敵を持っていた人間は、全世界で協力体制を築いていた。だからこそ、圧倒的な力の有利があった筈の魔王軍に当時の人間たちは数を持って打ち勝ったんだ」


そう言って曇天の空を見上げたチトは、僅かに眩しそうに瞳を細めた。過去を思い出すような、ソフィ同様寂し気な表情は続いた言葉と共に再び足元に戻されその色を失ってしまう。


「…でも、共通の敵が居なくなった傍から馬鹿みたいにこれまでの協力体制を捨てて人間同士で争い始めた。実に…実に、愚かだった。今だってそう、国王とか言う曖昧な血筋だけの存在が私利私欲の為に国全体を巻き込んで戦争を繰り返し、折角増えた人口を大きく減らしている。…嘗て、魔王を討伐しようと手を取り合っていた頃の人間の姿を思えば、本当に残念で仕方がないよ」


強く拳を握ったチトは、本当に怒りと呆れが入り混じった表情で思いを吐き捨てた。普段は完璧に制御されている魔力が揺れて僅かに顔を出す程に、今この瞬間のチトは揺らいでいた。普段どこまで優秀な魔法使いでも、精神的に不安定になればその能力は半減どころではないのだ。それを引き留める様に一歩前に出たのはソフィだった。困った子供を見る様に、けれども明確にからかう目的でチトに言葉をぶつける。


「君が言うと、随分重たく感じるねぇ?」

「…うっせーエルフ代表」

「おっとぉ?この辺りで大人しくしておかないと何やら余計なことまで言われてしまいそうだねぇ」

「……はぁ。まぁ、こんな所だな。とは言え、今回の街での期間を思えば人間も捨てたもんじゃねーのかな、ってちょっとは思ってるんだ。勿論、好きにはなれねーけど。XXX、お前が知りたかった答えは聞けたのか?」


小さく深呼吸をして魔力を収めたチトは、視線の先を足元からXXXへと戻した。変わらず杖を握りしめていたXXXは、再び向けられた二つの視線に小さく頷く。


「うん、ありがとう二人とも。…私、この迷宮攻略が終わったら一回国に帰ってみようと思う。二人が言う通り、人間も捨てたもんじゃない…かもしれないからね」

「…ちゃんと帰ってくるなら、好きにすればいい」

「あれあれぇ?エトちゃん、素直に心配だって伝えてあげないのぉ?」

「黙れクソエルフ!!」


自信なさげに、それでも確かな笑みと共に杖をしまったXXXから視線を逸らす様に、チトは返事を返す。先程までの表情を一転させたソフィに弄られて、耳を赤くしながら適当な魔力弾で追い払ったチトは葵に向かってお前のせいだと言わんばかりに睨みつけた。それに対して自分は関係ないと顔を逸らしたXXX、ニヤニヤ笑いながらわざとらしく目視可能な結界を張って対応するソフィ。そんな二人の姿に大きな舌打ちを零したチトが杖を構えたことにより、この二カ月間借家の中だろうが街中だろうが飽きる程繰り返された二人の喧嘩が始まった。


通りかかった街人たちから見世物のように扱われ、笑い交じりの適当な野次が飛んでくる。本来近付く事さえ危険な筈の行為の魔法使いによる喧嘩に、嫌悪の表情を浮かべる者は誰一人いなかった。


「おやぁ?エトちゃん、そんな程度の攻撃じゃボクには当たらないよぉ?」

「クソが、防戦一方決めてんじゃねーよ!」


ぎゃーぎゃー騒ぎながらも周囲にはきっちり被害が出ないよう配慮が施されたやりとりは、始めの頃からは考えられないものだった。流石に人に当たるような事はなかったが、建物や地面に無駄に攻撃魔法が接触する事は多々あったのだ。それ自体は怒ったXXXによって魔法禁止で自らの手で修繕させられた二人も学習した。そしていつからか完璧に周囲に配慮された喧嘩が行われるようになった事実に、彼ら自身は気付いているのだろうか。


「あの二人って、なんだかんだ人間の事好きだよなぁ。興味を持とうとしてる時点で、相当」


その場にしゃがみこんで膝に肘をつき、他の通行人たちと同様に感染を始めたXXXは誰にも聞こえない声量で小さくつぶやく。


「あと、めっちゃ仲良いよね!」

「「良くない!!」」

「おっと」


元気いっぱい、全く同じタイミングで言い返されると共に魔力弾を向けられたXXXは、危なげなく結界魔法で防ぎ笑いながら自ら二人の喧嘩へ飛び込んでいった。彼らが少しでも人間に寄り添ってくれれば、あるいは世界平和にぐっと近づけるかもしれない。そして、もし…自分が居なくなった時、今回の経験が何かしらの糧になってくれればいい。そんな壮大な事を考えたXXXは、らしくないなぁと自らその思いを頭の隅に追いやって水魔法で応戦する。


…今はまだ、このままで。


☆評価やブックマークで応援して頂けると励みになります。次回も是非御一読下さい。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。