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27話 魔法戦2


「選手の皆さんは対戦カードを確認の上、先ほど入口付近で配布された魔道具を必ず身に着けてください。こちらは不正感知の魔法陣が組み込まれており、着用中にどういった魔法を使用した、及びされたかを記録するものとなっています。不正が疑われた場合は至急魔道具の記録を確認し、最終判断が行われます。最終的に不正が認められた場合はその場でトーナメント敗北及び失格が言い渡されますので、くれぐれもおかしな気を回さないように。ルールは事前に配布された書面の通りとなります。何か質問があれば直ぐ私の元へ来る事」


そんな言葉に合わせて配られた用紙には対戦相手と所属するクラスが記入されたトーナメント表が書かれている。指示されたとおりに受け取ったばかりの魔道具を片手で弄びつつ内容に目を通してみれば、意外な情報を知ることが出来た。どうやら今回の技能戦で行われるのは、トーナメントの最終決戦らしい。葵が知らないところで事前に予選が行われていたらしく、今回の参加者は全員で八名とかなりの少人数だった。因みに葵はシード枠として決勝からの参加となる。選手の殆どはBクラスの生徒で構成されているが、CクラスやDクラスからも一人ずつ参加者が居た。矢張り、優勝者に与えられるらしいAクラス昇格の可能性を秘めた試験を狙う生徒が多いのだろうか。


葵の初戦は二試合目、相手はBクラスの生徒のようだ。いつも決まったメンバー意外と交流がない葵は、知らない名前だけが並ぶ対戦カードから視線を外し、今度は魔道具に視線を向けた。わずかに魔力を流すことで組み込まれた魔法陣の内容を簡単に解析する。かなり複雑な構造にはなっていたが、大まかな分析を終えた葵は思わず結果を呟いた。


「ふーん…?装着者の魔力に直接干渉して、使用される魔法陣を記録する事で後から内容を確認できる仕組みなんや。これって、所謂お貴族様のパーティー向けなんちゃう?暗殺対策的な魔法陣で」

「…流石はAクラス魔法陣作成トップの新入生、目の付け所が違うねぇ。ご名答、そいつは上流階級層向けに制作中の魔道具、その試作品だ」


手で遊びつついい加減身につけようかと考えていた葵に、誰かが話しかけてきた。思考を止めた葵はゆっくりと顔を上げる。


「…貴方は?」

「しがないBクラスの3年生さ。そして、アンタの初戦の対戦相手だ。実家が魔道具開発を行う研究施設をやっていてね、そう言った手合いには詳しいワケ。でも、俺の夢は魔法使いとして第一線で活躍する事。今回の参加は優勝を手に入れて実家の研究から離れる事を認めてもらう為の布石だな」

「そうなんだ、よろしくね」

「こちらこそ。それにしても、どうしてアンタみたいなAクラスの人間が対人戦に参加してるんだ?何の利点もないだろ?」

「それは…不慮の事故、やね。自分も参加する予定はなかったよ」

「へぇ?……いや、事情はいいや。悪いけど初戦、勝たせてもらうぞ」

「…お互い最善を尽くそうね」


中身がありそうで、全くない。明らかな警戒心を隠しもしない対戦相手の生徒を前に、葵は内心暑苦しいなぁと思いながらも適当な返事を返す。昨今の魔法使いのトレンドは情報戦らしい、とはヴィルの話だ。対話を通じて相手の能力に纏わるヒントや得手不得手を導き出すことが上手くできた者が、勝利を収めるとかなんとか…。教えてもらっていた時はあまり興味がなかった為聞き流していたが、実際にやられて納得した。相手の内側に触れるような発言を敢えて行う事で、相手の性格や力量を図ろうとしていたらしい。葵からは何も得られないと悟ったからこそ、手早く会話を切り上げて生徒は葵から離れていったのだろう。


発言には特に気を付けよう、そう決めた葵は、自分から離れて他の参加者たちに話しかけに行く先ほどの対戦相手の後ろ姿をじっと眺めていた。



―――


早速一回戦が始まった。開会式のような派手な催しなく、いきなり選手が闘技場の中央に入場した。そのまま実況として拡張魔法を用いた生徒の声が会場内に響き渡り、一瞬会場内が静まり返る。次の瞬間には大歓声と共にその場の温度が3度ほど上がったような錯覚を感じる程に闘技場内は最大の盛り上がりを見せた。無遠慮に向けられる視線、それらを乗り越えて実力を見せつつ対戦相手を倒す。成程、これを乗り越えた生徒がAクラスに匹敵するとはよく言った話だ。一回戦の勝者は、葵が参加する二回戦で勝利した場合の対戦相手となる。どれだけ他者に興味がなくとも、無様に敗北するつもりはない葵はしっかりと闘技場内に視線を向け観察することを決めた。


―――


「あ…あのっ、よろしくお願いしますっ…!」

「ふむ、よろしくお願いするよ」


気が弱そうな小柄な女子生徒は確かCクラス、対する真面目そうに眼鏡の鼻当てを指の腹で押し上げた男子生徒はBクラス。熱気に包まれる会場内で一定の距離を保って向き合う二人の手元には、既に杖が握られていた。開始の合図によって更に盛り上がる観客を前に、向かい合う二人の間には妙な沈黙が保たれていた。お互い様子を見ていたのだろう。けれどもいつまで経っても盤面が動かない事を理解した男子生徒が、先に攻撃を仕掛ける事を決めたらしい。


「こちらから動かせてもらおう」


しっかりと女子生徒に向けて杖を構え、詠唱を始める。杖の先端に集まる魔力は一定の力が保たれており、几帳面に見える容姿を裏切らない魔力操作だなぁと葵は膝に肘をついてその流れを眺めた。


「大地よ、その堅き意思を持って礫となり、解き放たれよ!」


闘技場の地面を利用し、重力魔法で制御した中位の魔法。少ない魔力消費に対して物理的に飛ばされた礫の先端は尖っており、そこそこの殺傷能力を持っていることが確認できた。


(…対人戦として魔法を使う上では、良い選択かな)


床が捲り上り、勢いに乗った複数のつぶてが女子生徒に向かって放たれる。涙目を浮かべて怯える女子生徒は、それでも真っすぐ杖を構えて詠唱を行う。


「大地よ、我が鋼の意思に従って壁となれ!」


(こっちは床を盛り上げて壁を作意出した。下位魔法とは言え相手の礫の大きさに対して厚みが十分だから、これは相殺されるな)


「岩弾射」

「岩壁!」


二つの土属性魔法がぶつかり合い、葵の予想通りに相殺された。


―――


「…あら、先ほどの攻撃魔法に対して今の魔法は聊か過剰だったのでは?」

「彼女は高い魔力を持った優秀な魔法使いだ。発動までに必要な時間も短く、発動後の威力も十分。それだけで言えばAクラスも夢じゃない筈だった。それでも彼女がCクラスに配属されている理由は…」


ふらりと現れたのは、先ほど会話した葵の対戦相手の生徒だ。他の参加者の疑問に答える為に近づいて来たらしい姿に視線を向けようとした葵は、突如闘技場内で発生したとんでもない魔力の気配に慌てて視線の先を固定した。


―――


戦闘は続き、基本的に男子生徒の攻撃に対する受けを徹底していた女子生徒が遂に動き出した。震える腕で、それでも強く杖を握り直したままその先端を相手に向ける。涙目の表情からは想定できないレベルの魔力が一瞬にして会場全体に広がった。


「わ、私だって負けません…!遍く水の聖霊よ、今ここに集客し、その雫で世界を満たせ…っ!」

「ちょ、ちょっと待ちたまえ!なんだその出鱈目な魔法はっ!!」


―――


「———ただ単純に、その魔力操作に難があり過ぎたからだ」


―――


闘技場上空に張られた結界に沿うように巨大な水の塊が現れる。それは、圧倒的な物量を持って範囲内に影を落とした。


「っ、行きます、水球の矢…っ!!いっけぇーーーっ!!」


女子生徒の一言に合わせて。水の塊から無数の矢が生み出されて結界内全体に降り注いだ。すかさず結界魔法を使用した男子生徒だったが、次第に物量に押し負け最後は水流に飲み込まれてしまった。少しして結果以外に目を回して意識を飛ばす男子生徒が転送されてくる。


「———勝者、Cクラスの期待の星、登録番号一番の選手!!」


判定が高々と宣言された瞬間、会場全体が沸き上がった。


―――


「…うわぁ、あんなのただの力業やん。ウチ、あの子とはまともに対戦出来る気がせえへんのやけど…」

「皆一緒さ、純粋な魔法使い程彼女の戦い方には危機感を覚える。正しい感想だと思うぜ」


呆れた感想を零せば、当然のように返事が投げかけられて葵は深いため息を零す。世の中には、多種多様な魔法使いが居るものだ。葵は自らの行動を持って何度も周囲にも、そして次の対戦相手である男子生徒に対しても自分が他人となれ合う気がない事を示してきたつもりだった。分かりやすく作り上げた壁を気にせず近づいてくるとは、大したものだ。


「さーて、次は俺たちの出番だな。アンタは俺に何の情報も与えちゃくれなかったが…それでも、俺はこの戦いに勝利して見せるさ」

「……まぁ、頑張ろうね」


葵の呆れかえった返事を前にしても、彼は反応を変える事無く親し気な素振りで手を振って先に闘技場内へ入っていった。



二回戦、つまり葵の試合が始まる。退治するのは、つい先ほどまで会話していた実家が魔道具らしいBクラスの男子生徒である。相変わらず無言で対峙する葵を前に、わざとらしく肩を竦めた男子生徒は杖を構える。会場内は、先ほどの女子生徒が見せた派手な魔法を前に非常に盛り上がっていた。一心に自分と目の前の相手二人だけに向けられる無数の無遠慮な視線が煩わしい。なるべく早く終わらせるべきか、と考えるもこれが魔法戦という名目ながら見世物の一面を持っている事を思い出した葵は仕方がなく暫く相手の様子を観察する事に決めた。


「いやぁ、相変わらずアンタからは何の情報も得られないなぁ…。取りあえず手始めに、得意魔法を見せてくれ。———吹き荒れ史風よ、今ここに集い、その刃を見せた前!…鋭風刀!」

「…結界発動」


放たれた風の刃をわざとらしく告げた詠唱と共に結界で防げば、煩わしそうな舌打ちをされる。無駄な魔力消費を避けるためにも部分的な結界で身を守ったわけだが、それが気に障ったのだろうか。


「…詠唱破棄か、それくらいは…予想済みだったさ!!」


次いで放たれたのは、詠唱が不要である純粋な魔力を集め解き放つ無属性魔法。これは基本詠唱が必要ながらも少ない魔力で発動できる属性魔法と違い、消費する魔力量が多い代わりに無詠唱で即発動が可能なものだ。観客席から感嘆のどよめきが聞こえてくる様子から、中々高レベルな魔法の使い方をされているらしいとあたりを付ける。けれども素直に攻撃を受けてやる義理もない葵は、危なげなく再び結界発動の言葉と共に攻撃を受け止めた。今度こそ盛大に表情を歪めて睨みつけられた辺りで、そろそろ自分も攻撃に移る事を決める。恐らく相手生徒の攻撃はいつまで経っても葵に辿り着く事はできないだろう。相手が多少肩で息をしている様子を見る辺り、魔力切れも確実に相手の方が先に怒ると判断出来た。だからこそ、改めて杖を構え直した葵はわざとらしく息を吸う。


「ふぅ…せやな、仕方がないからそろそろお話に付き合ってあげるで!キミの得意属性は多分風やね。対するウチの得意属性は水や。そして二番目に得意なのは……重力魔法」


葵の周囲の石ころが魔力に揺れて僅かに動き出す。にっこりと口角を上げた葵は、困惑する男子生徒を前に詠唱を行った。


「浮かび上がれ」


ふわりと、まるで体重など感じさせないように軽々と葵の身体は宙へ浮かび上がった。そのまま見下ろす様に杖を掲げた葵は、無邪気に笑って次の詠唱を始める。その様子に焦った表情を見せた男子生徒が結界魔法を使うための詠唱を始めるが、もう遅い。


「空間よ重なれ、その定めを覆え、的を狙い打て、全てに調和を。……発動、押し付けたまえ」


簡易の詠唱もどきを添えて振り下ろされた杖に合わせて、男子生徒の身体が地面に押し付けられた。単純な重力操作魔法を組み合わせることによって、男子生徒にかかる基本の重力を倍増させたのだ。早々に結界が突破され地面に転がされた男子生徒は、必死の形相で立ち上がろうともがく。けれども、そうしている間にも体にかかる重さは増える一方だった。どうにかして上空にいるだろう葵を視界に入れようとした男子生徒は…いつの間にか目の前で葵が涼しそうな表情を浮かべて立っていたことに気付いた。


「なぁ、降参して?」


杖の先端を男子生徒の眉間に向けて、可愛らしく小首を傾げた葵を前に成すすべなく男子生徒は棄権の言葉を吐き出すしかなかった。



「———選手の破棄宣言を確認しました。勝者、Aクラス期待の新入生、登録番号4番の選手!」


一戦目に続いた高い技術で行われた戦闘と結果に一気に盛り上がりを見せる観客席を前に、葵は無表情で魔法を解除し男子生徒に手を貸した。あまり気にしていなかったが、登録番号4番だなんて縁起が悪いな、なんて事を考えながら。試合が完全に終了したからなのか、男子生徒は先ほどまでのように話しかけてくる事はなかった。男子生徒が自力で立ち上がった事を確認した葵は再び観客席を一巡し、ふと視線があったチトに満足げに頷かれた事を確認してから闘技場内を後にし選手専用の控え席へと向かった。



―――


「……へぇ、手の内を明かすことなく完封しやがった」

「相手選手は、今大会優勝候補と言われていたBクラスの生徒でしたが…。どうやら、魔法陣の天才はその枠だけに留まらなかったようですね」

「お前の”目”から見てどうだ、アレは実際どこまでやれる?」

「…さぁ、分かりません。緻密に練り上げられた解析魔法を完全に妨害する内部結界が蜘蛛の巣のように張り巡らされています。まるで、歴戦の魔法使いのような警戒心の高さ…自分から言えるのは、相当強いだろう、それだけです」

「ふーん?面白れぇじゃねーか。アレは間違いなく決勝まで上がってくる、俺が全て暴いてやるよ」

「どうか程々になさってください。我々は目的があって、この学園の生徒の真似事をしているのですから」

「分かってるよ、ったく…。こんな任務がなければ全力で遊べたっつーのによ」


控え席の一角、他の選手たちから大きく距離を取った位置を陣取ったとある生徒が、にやりと口角を上げて嗤った。


葵、無事初戦突破の瞬間である。


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