26話 魔法戦1
「あっという間に大会当日、かぁ…。結局何も練習とかなかったけど、ほんまに大丈夫なんかな…?」
「いや、お前は余計な事をしない方が絶対強いから」
「…って、チト君は言うとるけどさぁ…。ウチ、チト君以外とまともな対人経験ないで?」
「俺と最低限戦えれば十分だし」
”紆余曲折”あった技能大会に参加する一件は、結局変更点なく葵の参加が決定された。例の女子生徒は実家の都合で自主退学したらしい。それに続くように、複数の生徒も学園を去っている。名前は掲示板に提示されていたが、生憎そこまで周囲の生徒を記憶していない葵は人数だけを数えて、そう言えば例の女子生徒の取り巻きと全く同じ人数の生徒が退学しているなぁと他人事のように考える。一体どんな事情があったんだろうね、等と深入りしそうになった葵は、慌てて自身の好奇心にブレーキをかけて口を噤んだ。隣で満足げに頷くオルコスに聞けば簡単に教えてくれそうなものだが、最低限葵が作り上げたオルコスのイメージが一瞬で崩壊しそうなのでそれは遠慮したかった。世の中、知らない方が良い事の方が結構多いものである。
話は戻して、勿論葵はいきなり対人戦に参加する事になった事実を手っ取り早くチトに相談したが、何もしなくても十分の一点張りによって渋々指示に従った結果何の準備もしないまま大会当日を迎えたのである。周囲のメンバーは多少心配そうにしていたが、チトがそう言うならと口出ししない方向で意見を固めたらしかった。
「…見つけたぞ、アオイ。ルールの確認は終わっているか?」
「ヴィル君!えーっと、最低限は、ってところかな…?結局のところ、一対一の魔法使用何でもありの対人戦で、仙桃エリアには特殊な魔法陣が施されているから範囲内での負傷及び死亡はその場を離れれば完全に元通り、って事よな?」
「敗北条件は一定以上の負傷による範囲外自動放出、もしくは降参宣言」
「ルシエちゃんも来てくれたん?」
「ん。禁止事項は本人以外による選手への魔法干渉、事前申請で承認を得ていないマジックアイテムの使用。つまり、純粋な一対一での戦闘を行っていれば何も問題はない」
葵の認識を補足するように言葉を重ねたのは、いつの間にか平然とヴィルと葵の間に挟まっていたルシエだった。まるで試合事項をそのまま読み上げたような発言に小首を傾げる葵を横目に、満足げに頷いたヴィルがルシエを褒めようと思ったのか手のひらを頭に近づけて、問答無用で弾かれていた。
「…その認識で間違っていないだろう。流石はルシエだな、ギリギリまで参加したいとごねていただけあって細かいルールに詳しい」
「アオイが参加できるなら、ルシエも参加できないとおかしい。でも、ルシエがいるとトーナメントが成立しないって言われた、不満…!」
「あぁ…なるほど?」
チトと二人で闘技場エリア内の適当な観覧席に腰かけていれば、ヴィルとルシエが現れたことで一気に騒がしくなった。不満げに頬を膨らませるルシエを宥める様に再び伸ばされた手のひらは、またしても弾かれた。その様子を眺めていた葵がヴィルを真似て手を伸ばしてみれば、自ら受け入れる様に頭を擦り付けられる。戸惑いながらチトに助けを求めるもヴィルの分かりやすくショックを受けた反応に笑い出したまま頼りにならない事を悟った葵は、仕方なくその手を左右に動かした。暫くして葵がチトから応答を得られなかった事実を不満げに思い睨みつけられている事に気付いたチトが慌てて口を開く。
「一応即死魔法や呪いの類も使用可能だからな、その辺りの警戒だけしておけばお前なら問題ないよ」
「…チトのその葵に対する絶対的な自信は一体どこから来ているんだ?」
「ヴィル、お前分かってないな~。この俺が、ゼロから直接指導して出来上がった現代最強の魔法使いが葵だぞ?」
「あのエトちゃんが自ら育て上げた魔法使いだからねぇ。正直昔の君と同じ戦い方をするって話なら、ボクだって正面から向き合いたくは…ってごめん、気配を忘れたのは癖なんだよぉ…!」
「お前学習しねーなぁ…」
突如巻き起こった小さなつむじ風に乗って現れたソフィは、やはり驚いて固まった後悔しそうな表情を浮かべたヴィルとスリーテンポ程遅れて杖を構えて舌打ちを零したルシエ、そして相変わらずのノータイムで無表情に杖を向けた葵を前に情けない謝罪の声を上げた。
チトに宥められて渋々杖を消した葵がふと周囲を見渡せば、いつの間にか闘技場内にはたくさんの人々が集まりつつあった。今回の技能大会の種目は、メインイベントでもある魔法戦、そして入学試験でも行われた最低限の指示を果たしつつ如何に魔法陣を発展させられるかを競う魔法陣作成、最後に一つの魔法でどれだけ人々の心を動かせるかというショーに近い魔法技能の三つである。魔法戦に比べて圧倒的に平和な二つの種目は発表まで観客が会場に近寄る事が少ない為、必然的に派手な対人戦が行われる競技場にその内容を一目見ようと集まった生徒や街の住人達、観光客で溢れかえっていた。
「あぁ、見つけましたよアオイちゃん!先ほどあちらで選手の召集が始まっていました。そろそろ移動を開始した方が良いかもしれませんね。わたくし、全力でアオイちゃんの応援をしますから、是非目指すなら優勝しちゃいましょうね!想定外の負傷の際は力を貸しますから、安心してやっちゃってください!」
「なんか含みがあるね…?じゃなくて、ありがとぉルコちゃん!ウチ頑張るね!」
暫くくだらない内容で駄弁っていた五人の元に現れたのはオルコスだ。少し離れたところから声を掛けられ、最後に小さく耳元でささやくように続けられた言葉に思わず葵は反応を零す。それに対してふふふと笑うだけのオルコスに何故か背筋が伸びる感覚になりながらも、葵は改めて集合したメンバーに向き合った。
「まぁ、嫌になったら転移魔法で結界から出ちゃえばいいから」
「結解には古代魔法が使われており、現代では再現不可能とされている」
「…結界壊せばいーよ」
「歴代どれだけ力量を持つ生徒が暴れまわっても、一度たりとも破られたことのない我がトートが研究の総力を挙げ現在でも改良を重ねている技術の結晶なんだがな」
「……お前らなんだよ」
「おかしいのはチト」
「珍しくルシエと意見があったな」
そんな茶番染みた会話と共に暫く見つめ合っている三人を眺めていた葵は、会話に着地点がない事に気付いて面倒になったため静かにその場を離れる。オルコスは三人の茶番の見学に夢中なようなので一人で移動を始めようとするも、いつの間にかソフィが後ろをついてきていた。けれども、いつまで経っても直らない登場方法に若干腹が立っていた葵は自ら話しかけることはしない。
「…絶対優勝してねぇ?下手にAクラスのメンバーが増えて研究チームのメンバーに追加されたら困っちゃうしぃ」
「自己都合」
「えぇ?葵ちゃんだって困るでしょぉ?ほら、面倒になったら全部壊しちゃえばいいんだし!」
「ほんっと…そういう所やで、クソエルフって言われる理由」
「ひどいなぁ…」
わざとらしく頬を膨らませて拗ねたソフィを横目に、再度会話を続ける他のメンバーの様子を視界に入れて小さく頷いた葵は、参加選手たちが集められたエリアに向かってゆっくりと歩き出した。
いざ、出陣である。
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