24話 大会参戦
「技能大会?」
学校が始まって三カ月が経ち、共通言語の壁も乗り越え完全に他の生徒と同様かそれ以上に充実した日常を送っていた葵は、学園に登校してすぐ、お気に入りの席で資料を纏めていた最中にヴィルに話しかけられた。技能大会参加に心当たりはあるか、そう聞かれて大会の内容すら一切心当たりがない葵が首を傾げて聞き返せば、やはりそうだろうなとどこか呆れた様子のヴィルはため息交じりに口を開く。
「そう、この学園特有の大会の事。それぞれの生徒が得意分野を選択してトーナメント戦に参加、勝ち上がり方式で最優秀者を決めるものだ。その中の戦闘部門…魔法戦の参加者にお前の名前が入っていた。参加の可否は地涌で、優勝者はAクラスに入る為の編入試験を受ける権利を手に入れららえる…つまり隠れた才能を発掘する趣旨が強いが、何か知っているか?」
「えぇ、ウチ!?何も知らんよ、そもそもそんな大会があるって事自体初耳なんやけど!?」
「だろうな…。俺が気付いた時点で最終承認まで回ってきていて、運営側の都合で参加取り消しが間に合わなかったんだ。すまない」
「…い、いや、それはヴィル君なんも悪くないと思うけど…えぇ…?なんでウチの名前が…?」
小さく頭を下げるヴィルの身体を慌てて起こした葵は、完全に想定外の内容に素直に困惑しながら疑問を口にする。顔を上げたヴィルは、心底面倒くさそうな呆れた表情を浮かべて教室全体を見渡した。
「大方予想はついている。何よりアオイの参加種目が魔法戦になっている辺り、確実にお前が目立たない性格を収めているところを狙っているからな」
「…あぁ、いじめってヤツ?こんな優秀な生徒が集められた学園でもあるんやね」
「どちらかと言うと、妬みに近いと思うぞ。アオイの実力は、俺達皆が認める折り紙付きではあっても、あくまで何処からともなく表れた新入生で元々名を馳せていた訳ではないからな。魔法陣作成の技術があるだけで何故、って考える馬鹿が居てもおかしくない。俺はお前が魔法実技も得意だと知っているが…」
さりげなく自分に向けて伸ばされ、けれどもさ迷っていた手のひらを見付けた葵はそれを両手で取って自身の頭の上にのせてみた。途端に動揺したように震えた手に首を振ってすり寄って見せれば、困惑と羞恥が入り混じった表情でヴィルは葵の頭をなで始めた。口調は何も変わっていないのに、その仕草がぎこちないギャップにくすりと笑ってしまった葵は、視線だけで会話の続きを促した。
「…あぁ、その…だからこそ、客観的にみて不得意だと思われた種目に参加させることで嫌がらせをしよう、と考える者が居ると考えるのは比較的自然だと考えたんだ。矢張り、Aクラスと言うのは学園を目指す全ての生徒の憧れだからな」
「ふーん?そっか。それで、ウチはどうしたらええと思う?」
「決まってる。トーナメント破壊、全部やっちゃえ」
「ルシエか。いつから聞いていたんだ?」
「わたくしも居ますよ!アオイちゃん、魔法戦でトーナメント形式という事は確定で対人戦になります。流血沙汰ならわたくしが全てなかったことに出来ますから、好き勝手暴れてしまいましょう!あぁ、ですが殺すのはいけませんよ?死者蘇生は面倒で疲れますからね…」
「な、何か間違っていないか?その励ましは…いや、今のは励ましか…??」
「えへへ、ウチが励ましやって思ったら立派な励ましやろ?」
一気に場の人数が増え、つい先ほどまで冷静で真面目な表情を浮かべていたヴィルがそれを崩し始める。ルシエが現れた時点で葵の頭を撫でつけていた手のひらの温度はなくなっており、なんとなく自分の髪を整えるように撫でた葵は何でもない表情で笑った。
「アオイは対人戦得意。ソフィの一件がその証拠」
「そうだな。普段からアオイが魔法を使っている最中は実力を抑え込んでいるように見える。集中していないというよりは、退屈そうな印象があるな」
「うーん…アオイちゃんの魔力回路は、恐らくアオイちゃん自身が意図的に狭めている場所が多いと思われます。自然な制御に見えますが、逆にその流れが一定間隔過ぎるのです。以前試験の際にルシエさんの魔法を直接見た結果の反応が自分も同じものを、と言った方向性だったところを見る辺り、それと同様かもしくはそれ以上の魔法を扱っている場面を直接も駆使した経験があると考えられますし…って、皆さんその視線は一体…?」
「いや、……ルコちゃんが真面目そうな事を言っとるなぁと、思いまして」
「なっ…ちょ、ちょっと!!なんでですか!!」
本当に何気ない発言のつもりだったのだろう。驚いたような三人の視線に見詰められて小首を傾げたオルコスの表情は相変わらずの無だったが、それでも代表して疑問に答えた葵の発言に小さく頬を膨らませた。実際葵は魔力制御のためにあえて使用する魔力を極限まで減らすことで、他の生徒に溶け込むよう努力している。これは、チトとも話し合った結果の手法である。けれどもまさか、その事実をそれなりに本気で魔法を使った葵の姿を見た事があるヴィルやルシエではなく、オルコスが導き出した事実に素直に感心したのだ。座学では早速躓いてヴィルに泣きついている姿を目撃されているオルコスの、意外な特技は観察だった。
「普段ぽんこつなのに、変なところで鋭い。普段ぽんこつなのに」
「どうして二回も言ったんですか!!」
「分かる、だがそれこそがオルコスの良いところだろう。何と言うか…癖になる?」
「わたくしの事食べ物か何かと勘違いされていませんか!?」
ふむふむ、と頷き合う三人を前に、折角良いことを言ったはずのオルコスは完全に拗ねてしまった。その様子に笑いを零しながらも葵はぼんやりと考える。
「魔法戦、かぁ…」
ヴィルが先ほど丁寧に説明してくれた内容を基に、自分自身が魔法を用いて対人戦を行うシーンを脳裏に浮かべてみる。
「…なるほどファンタジー」
久方ぶりに、そんな感想がこぼれた。
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