とある記憶 12
「いやぁ…参ったねぇ、まさか既に冒険者にまで戦争の影響が出始めていただなんて、流石に驚いたよぉ」
「トート北部で足止めか。確かに兵の駐屯施設を使用中なら町全体の封鎖もあり得る話だとは思うが…国家に所属しない冒険者まで一緒に閉じ込められるとはな」
「ふふ、困っちゃうねぇ~」
「なんでお前はそんな楽しそうなんだよ…」
ある意味突然始まった冒険は、出発当初こそ順調に思えたが着実に国家間で起きている戦争の影響を受け、早くも足を止めざるを得ない状況に陥っていた。今回も、偶然補給のために立ち寄った比較的大きな都市が戦争に参加する兵たちの一時駐屯地に指定された結果、戦略的情報封鎖を兼ねた大規模な一時通門止めが発生しているらしい。本来であれば、国家に縛られない冒険者や基本的な生活物資を運搬する商人は如何なる状況でも出入り不可になる事はない筈だったが、今回に限ってはそれすら禁止されているらしい。本格的な封鎖に八方ふさがりとなった三人は、適当に立ち寄った大衆居酒屋でぐだぐだと中身のない作戦会議を続けていた。
周囲を見渡せば、同じように閉じ込められてしまった冒険者も多いらしく耳を傾けても話題は揃って通門規制に関するものばかり。険しい表情を浮かべ頭を抱える者が多い中、XXXは円形状のテーブルに両肘で頬杖をついて楽しそうに体を揺らしていた。そんな明らかに異なる様子を浮かべて他の冒険者を視線で見渡していたXXXを不思議に思ったチトの声に、その視線が戻される。にこりと口角を上げたXXXは少しだけ困ったように、けれどもやはり楽しそうに口を開いた。
「ふふ、だってさぁ…。確かに迷宮攻略は大切だし、早くいかなきゃ誰かに攻略されちゃうかもしれない。それに戦争が身近に迫っている事実を肌に感じて不安な気持ちもある。…でもね?こうやって三人そろって頭を抱えて、結局ゆっくりしちゃう時間ってまさに冒険って感じがしていいなぁって思ったら楽しくなっちゃって」
緩んだ口角を隠さないまま今度は視線の先をテーブルに置かれた居酒屋らしいおつまみに向け、適当なものを手に取り口に放り込んだXXXを前に二人は顔を見合わせる。少なくともチトが知る限りこれまで一度も箱庭を離れた様子がなかったXXXにとって、今の世界で得られる景色はどこまでも広大で美しく、眩しいものであったのだ。チトやソフィにとってはつまらない待機時間でさえ、新鮮で面白い。楽しくて仕方がないと感じているXXXは、無邪気な子供のような笑みを頻繁に浮かべて足をバタつかせていた。
「…はぁ。んじゃまぁ、兵が違う街へ移動するまでの二カ月間はこの街で時間を潰すとしますか」
「それしかないもんねぇ。ボクは早速古本屋を探そうかなぁ、この街で掘り出し物には出会えるかなぁ…?」
揃って小さく肩を竦めた二人は、ひっそり考えていた強引に街を抜け出す作戦を頭の隅に追いやる。ここまで楽しそうにしているXXXの姿を見たのは初めてだったのだ。余計な水を差すつもりにはなれなかった。そうして告げた結論に瞳をこれでもかと輝かせたXXXは勢いよく手を挙げる。
「はいはい!私、沢山の人とお話ししてみたい!…そうだ、冒険者ギルドの日常クエストを受けようよ、きっと新しい出会いと発見が待っているに違いない!」
その発言を聞いたとたん嫌だなぁ、という感情を隠さず浮かべた二人を前にしても、XXXが意見を帰る様子はない。折角の珍しいにも程があった気遣いが盛大に裏目に出た事を悟った者たちは、再び視線だけで現状打破できる作戦を探し合ったが、それも結局目の前の無邪気な子供を前にして何をしたところで不可能だろうと結論付いてしまった。
どうせたったの二カ月間、暇な時間を過ごすのならば。
偶には大きな子供の我儘を聞いてやるのもいいかと、二人は渋々XXの提案を引き受けることになる。…それが、小さな波乱を巻き起こすとは知らずに。
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