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とある記憶 10


「ひぇ~、寒いよぉエトちゃん、やっぱり今日の出発はやめにしなぁい?もう少し…ほら、冬が明けるまでとかぁ」

「お前の先延ばしはいつも年単位なんだよ、そんなのに付き合ってられるか!!待ってる間に折角の新しい迷宮が攻略されちまったら困るだろーが!!」


小屋の出入り口付近で、大のエルフがわざとらしく愚図っていた。チトが半ギレでその体を引っ張るが、力強く扉の端を掴んだソフィは中々動かない。こんなことをしていれば、ソフィを連れ出すよりも先に小屋が壊れてしまいそうなレベルである。そんな中XXXは二人がやり取りする玄関付近くにしゃがんで、膝に肘をつきつつ面白そうに目の前の茶番を眺めていた。


「…あ、そうだぁ。今回の迷宮攻略はXXXちゃんも一緒だからねぇ?」


「「……え??」」


ソフィの一言によって葵の表情はぴたりと固まり、肘が滑った葵は前のめりに倒れそうになるのを慌てて足に力を入れてとどまった。同じくらい動揺したチトは思わず引いていたソフィの服から手を離した結果、べちゃりと勢いよく床にたたきつけられた発言の主は小さく唸った。


「いたいよぉエトちゃん…」

「いやいや、え…え??XXXも一緒ってどういう事だよ変態エルフ」

「ちょっとぉ!崇高なエルフの第一人者に向かってなんたる暴言!…まぁ、どうでもいいけどさぁ…。それでなんだっけぇ、なんでXXXちゃんが攻略に参加するかだっけ?」


ほんのり赤くなった鼻先を摩りながら起き上がったソフィは、呆然としゃがんだまま己を見上げるXXXの前に同じように座り込んで視線の高さを合わせてほほ笑む。


「いやぁ、今回チトちゃんが狙ってる新しい迷宮、キーフの古代遺跡が突如発現した物らしいんだよねぇ。ありとあらゆる攻略の鍵が全てキーフの知識や魔法らしくてさぁ?XXXちゃんはキーフ出身なんでしょぉ?適役じゃん!」

「いや適役ってお前…」


ソフィの説明を何度か脳内で繰り返したチトは、未だに固まったままのXXXの様子を伺った。これまで、何度誘っても小屋周辺から離れることに決して頷かなかった目の前の少女。いつからか外に誘う事もしなくなっていたチトだったが、ここまで大げさに動揺されてしまえば脈アリかもしれないと勘ぐってしまう。


「…あー、そう言えば例の迷宮の近くには海はないが海洋生物を集めた内陸市が定期的に開催されているらしいなー。もしかしたら、珍しい魚が見られるかもしれないぞー?」

「ちょっとエトちゃん棒読みすぎ」

「うっせ。…それに俺も、お前と一緒に迷宮攻略してみたいなー…って思ってたりする訳ですが」


気恥ずかしさを誤魔化す様にソフィをつま先で蹴飛ばしながら、葵の正面に立ったチトは未だ動かないXXXにそっと手を伸ばす。この手を掴めと、そんな思いを込めながらじっと見つめていれば不意に視線が絡み合う。そして恐る恐る近づけられた手を、逃がさないと言わんばかりに強く掴んで強引に引き寄せればあっさりとXXXには立ち上がる。


「で、どうすんの?」


にやりと笑ったチトがその視線を未だ握られたままの手のひらに向ければ、目を伏せ小さく深呼吸をしたXXXは勢いよく顔を上げた。


「私も、一緒に行く!!」

「…うん。その解答を待っていたよぉ」


その言葉に返事をしたのはチトではなくソフィだった。普段に比べていくらか穏やかに、柔らかく微笑んだソフィはそのまま杖を一振りし未だ吹雪で荒れる外に向けた。途端に森の外へ続く道だけがまるで春のように雪が消えたのだから、驚いたXXXとチトは顔を見合わせてから小さく頷き合った。


「はっはーん、このXXX大先生が一緒なら、たとえ雨の中風の中雪の中森の中だって、楽勝で乗り越えて行けちゃうんだから!任せなさい!」


楽しそうに笑ったXXXは大きく胸を張り、腰に手を当てて言い放つ。その様子を見ていたソフィは楽しそうに手を叩いて喜び、チトは呆れたため息をつきながらも頷いた。


「へへ、楽しみだね二人とも!」


早速、と言わんばかりに杖を呼び出したXXXはそれを一振りする。途端に身に付けていたシンプルな部屋着は小屋の外で魔法を使うときに纏っている姿を何度か見かけたことがある真っ白なローブへと変わる。けれども完全な無地ではなく、所々にワンポイントの刺繍が入った可愛らしいものだ。それを肩辺りまで下すと見える薄いグレーのインナーに、水色のスカートは膝上丈の短め、ブーツは膝丈の革製でまさに魔法使いらしい服装は初対面の頃から良く似合っているとチトは思っていた。首元には相変わらずペンダントが輝き、耳元を彩るのは以前チトが送ったイヤリングだ。


「ふふん、それじゃあ今すぐしゅっぱーつ!目指せ、迷宮完全攻略!!」

「俺の目的は攻略じゃなくて、中層以降にあるらしいキーフの魔導理論が表された壁画なんだけど」

「俺はもちろん、攻略報酬の魔導書目的だねぇ」

「ねぇねぇ、どんな魚がいるかな?鮫とか、イカとかいるかな!…あ、酢昆布はあるかな!?」

「何それ」

「な、酢昆布を知らないの!?世界一美味しい食べ物なのに!!」


三者三葉、それぞれの目的を持ちながらもそろって杖を呼び出す。武器の先端が重なるように杖先を合わせる行為は、数百年前の冒険者パーティーチームが自らの武器を用いて結成時に行っていた儀式のようなものだ。最近手は忘れ去られた文化だが、彼らには関係なかった。数年前だろうが、数百年前だろうが、彼らの中では変わらず過去でしかなかったからである。


「パーティーリーダーは誰にするんだ?」

「うぅんと…あ、そうだぁ!XXXちゃんは誰がいいと思う?」

「え、私?そうだなぁ…じゃあ、チト君で!」

「なんで俺なんだよ」

「だって、私とソフィがまともに人を導けるとは思わないんだもーん!」

「ちょっと聞き捨てならないんだけどぉ?」

「っはは、言えてる!確かに俺以外パーティーリーダーできそうなやつこのパーティーには居なかったわ」

「でしょー?」


顔を見合わせて笑った二人を前に、エルフはわずかに唇を尖らせて不満を示す。それすら、エルフという種族であるなら珍しい感情表現であることを二人はあまり知らないのだ。ソフィが作り上げた一本道を駆け足で少し先へ進んだXXXは、楽しそうに口角を上げたかと思えば杖を掲げた。


「それじゃあチームXXXと愉快な仲間たち、いっくぞーー!!」

「なんだそのチーム名、ってかリーダーは俺なんだけど!?」

「ふふ、賑やかな旅になりそうだねぇ」



くるりとその場を一回転して上機嫌で走り出したXXXを呆れながらも口角を上げて駆け足で追いかけるチト、その後ろを穏やかに笑ってついていくソフィ。随分と騒がしい冒険の旅がここに始まった。全ては何時かの冒険の記憶。


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