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とある記憶 8


「———ただいま」


季節は夏の終わり、木の葉が赤や黄色に色づきはじめ、少しずつ日が落ちる時間が早くなってきた頃。時折冷たい風が吹き込む小屋の外に設置されたベンチで、XXXは通りすがりの野ウサギと戯れていた。旅先から戻ってきたチトが、ようやく言いなれてきた帰還を示す言葉を口にすれば、表情を分かりやすく笑顔に変えて駆け寄ってきた。


「チト君おかえり!今回は一人で帰って来たの?」

「おう、偶然お前に見せてやりたいものを手に入れたからな。ソフィは置いて先に戻ってきた。アイツならまだホウの国の大図書館で住人やってるよ」

「んふ、余裕で想像できちゃうね」


くすくす、おかしそうに笑うXXXに釣られてチトも小さく笑う。ただいま、と返せば当たり前のようにおかえりの言葉が返ってくる小屋は、いつの間にかチトにとって確かに変えるべき大切な居場所へとその在り方を変えていた。はじめは興味本位、ただ数日泊めてもらうだけのつもりだった関係性は、とうの昔に変化していたのだ。


上機嫌なXXXに導かれて小屋の中へ入り荷物を下ろしたチトは、自分の部屋に余計なものを押し込んでリビングで待つXXXの元へ戻った。


「改めておかえりなさい。それで、わざわざ早く帰ってきてまで私に見せたいものってなに?」

「おう、これだよ。…ほら」


購入時にプレゼントだと店主に告げた結果やけに大層な装飾が施された箱をオマケで付けてもらった事を思い出しながら、チトはその小箱をXXXの正面に置いた。ぱちりと目を瞬かせたXXXが開けてもいいかと視線で確認してきたことに小さく頷いて返事をすれば、壊れ物に触れるような手つきで箱が開封される。


「これ…、綺麗……、イヤリング、かな?」


小箱から取り出されたのは、雫型の透き通るような青色の水晶が取り付けられた銀装飾のイヤリングだ。丁寧な手つきで自身のてのひらに乗せたXXXは、吸い込まれてしまいそうな程にじっとそれを見詰めている。まるで玩具を目の前にした幼い子供のような様子に小さく笑ったチトは、XXXの手を下から掬うように包んでそのまま握らせた。


「え、ちょっと、」

「これ、お前にやるよ。旅先の街でさ、なんかお前に似合いそうだなーって思って見てたつもりが気付いたら買ってたんだよ。どうせなら付けてるところ早く見たいじゃん?だから帰ってきた訳」

「チト君…」


どこか照れくさそうに笑ったチトはそのまま自分が再び手に取る意思がない事を示すように両手を背中に隠してしまった。戸惑いながらもじわじわと頬を赤く染めたXXXはしばらく言葉を探して顔色を変えていたが、結局どこか気まずそうな表情で瞼を伏せる。


「ほ、本当に私が貰っちゃっていいの?私、チト君に何も返せないのに…」

「なんだそれ、別にお返しなんかいらねーよ。ってか、お前にその気がなくても俺は勝手に色々お前からもらってるつもり。だからこれはそのお礼なの!ほら、付けてみろって。それともなんだ?…俺がやってやろうか?」

「な、いや、それは間に合ってるよ!自分でやるから!」

「よろしい。これで正式にイヤリングはお前の物な」

「あっ!…もう、無自覚め…」


諦めた様に閉じたままだった両手を開けば、再び美しいイアリングがXXXの視界に現れる。チトが手っ取り早く水魔法と光魔法を掛け合わせた即席鏡を作り出せば、おずおずと戸惑いながらも横耳を耳にかけてうつむきがちにXXXはイヤリングを身に付けた。


「ど、どう…かな?」


気恥ずかしそうに視線だけでチトの反応を伺う姿は、チトがこれまでXXXを見てきた中で一番”女の子らしい”と感じられる姿をしていた。その事実に謎の満足感を得たチトは、わざとらしく大きく頷いた。


「おう、思った通り良く似合ってる。いつもXXXが身に付けてる装飾ってペンダントだけだったから気になってたんだよな」

「それは…その、あんま着飾るのって得意じゃなくて。…でも、ありがとうチト君。すごく嬉しい!まぁ?なんでも似合っちゃうのがこのXXX様、って事で!」

「ふは、なんだよそれ」


珍しく素直なお礼を口にしたXXXは次第に恥ずかしさが限界を超えたのかわざとらしくふざけた口調でその場を強引に切り上げて離れていってしまった。そんなXXXの耳がほんのり赤く染まっていることに気付いたXXXは、思わず吹き出してしまう。それに間髪開けずに飛んできた反論の意思が込められた魔法を慌てて防げば、今度こそXXXも一緒に笑い出す。



少しだけ特別な、日常。



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