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14話 合格祝い


「祝、合格おめでとー」

「ありがとうチト君!ウチ、なんかほんまよう分らんけどちゃんと合格できたで!」



試験が終わったその日の夜、二人は適当んば大衆居酒屋へ向かい小さな祝杯を挙げていた。問題文が読めないというとんでもないトラブルに見舞われながらもどうにかつかみ取った合格証を肴に、注文したメニューが届く前で葵が試験当時考えていた攻略法や、実際に作成した魔法陣、そして実技試験で使用した魔法についての反省会を重ねていく。ちなみに、当然だがメニューが読めなかった葵によって全ての注文はチトセレクトで決定された。


「まぁ、取りあえずはこんなもんかな?水魔法と風魔法で疑似的に海を作るだなんて…お前凄い事考えたね」


一先ず届いたチト用のアルコールと、葵用のフルーツジュースで乾杯を終えて暫く、作業がひと段落下二人は騒がしい店内を眺めつつ感想戦を始める。人差し指で試験の際に実際に作った魔法の超縮小版を作り上げた葵は、内心金魚すくいでゲットした魚のようだと考えながらも空気でできた小さな魚一匹が泳ぐ水の塊を宙に浮かばせた。


「ウチ、水族館とか水槽が大好きやからな。本物の海には行ったことがないんやけど、海の生き物って大好き!」

「海って…潮風はベタつくし、風は強いし余計な魔法も必要だしで面倒なだけだぞあんな場所。…ってか、すいぞくかん、試験の時も言ってたけどそれなんだ?」

「え?あぁ、えーっと…疑似的に地上に海中の環境を作って、そこに本物の魚を泳がせる見世物…みたいな?」

「サーカス小屋みたいなもんか?」

「部分的にそう!もっと経費が掛かりそうなイメージやけど」


説明の難しさに諦めてため息を追記つつ、暇つぶしに円形だった水の塊を魔力操作によって一匹の鮫の形に変えた葵はそれを悪戯半分でチトに向けて放った。あっさりと片手で払うように消滅させられた様子に、筆記試験中に考えていた事の一つを思い出した葵は顔を上げる。


「そうや!ウチな、筆記試験の時に使われたあの魔道具に設置されとる魔法陣こっそり解析したんやで?それを再現できれば、チト君にも水族館の事ちゃんと説明できるかも!」

「お前さらっと何やってんだよ…。ま、ともかくあの四季を再現した魔法陣は俺の目から見てもとんでもない技術の集大成ではあったな。どうやったら短時間であそこまで複雑な魔法陣をくみ上げられるんだ?」

「んー、ウチ的には意地でも減点されたくなかったから詰められるだけ詰め込んじゃおう!って事くらいしか考えとらんかったし、実際にあの簡易用紙で発動できるかまでは頭になかったかも?」

「馬鹿と天才は紙一重ってやつか?確かに発動可能かどうかの計算を入れずに好きなだけ要素を詰め込んで、結果偶然発動したって事なら理解はできるかもな、納得はできないけど。…お、来た来た」

「うわぁあ…!めっちゃ旨そう!」


ようやく店員がお盆に複数の料理を載せて二人の元へ近づいてきた。次々に並べられるのはしかkり焼かれて肉汁が溢れる巨大ステーキにチーズがたっぷり乗せられた魚のグラタン。他にも簡単に摘まめる揚げ芋やナッツ類が机いっぱいに広がった。周囲には冒険者が多く、特別行儀よく食事をとっている様子はないことからか随分と気楽そうな表情を浮かべた葵は、小さくいただきますを零してから料理に飛びついた。


「相変わらずマナーはともかくうまそうに食うなぁお前」

「んふ、実際に旨いよ!」

「そりゃ良かった。……それにしてもあの魔法陣、研究のし甲斐がありそうだな」


葵の正面に座りナッツを指先で弄ぶチトの脳内はいつの間にか、葵が試験の際に作成した魔法陣の事で埋め尽くされていた。魔法で取り出した紙とペンを片手に唸るチトと、満面の笑みで片っ端から食事を詰め込んでいく葵の不思議な図があっという間に出来上がる。そうして暫く、我に返ったチトは殆ど空になった皿を見て呟く。


「…俺の分は?」

「何回も声掛けたけど反応がなかったから、ウチが全部食べちゃった!」

「まじかよ…」


頬にクリームソースを付けながら楽しそうに笑う葵を前に、ナフキンを取り出したチトはあきれ顔を作りながらもそれをふき取った。もしかしたら初めてかもしれない、葵の自己中心的で我儘な行動にほっと胸をなでおろしながら。


―――


「さーて、もうしっかり夜だけど…折角だからお前の入学祝に何かプレゼントしてやるとするか」

「えぇ、またぁ…?ウチ最近チト君に買ってもらってばっかりやで?」


食事を終えて店を出た二人は、日が沈んですっかり雰囲気を変えた夜空を見上げつつ適当な道を歩く。分かりやすい困惑の表情を浮かべる葵にまだまだだな、と内心ため息をついたチトは、その額を人差し指ではね上げた。


「ばーか、これまで何もお前に買ってこなかった方が異常だったんだ。ほら、最低限の吹くとペンダントって言うアクセサリーはある。それ以外に何かあった方がいいものってあるか?因みに魔法学園は指定の制服があるから明日はそれを買いに行くぞ」

「ほんまにもう何もないって…。むしろ、ウチ何もチト君の役に立っとらんのに、貰いすぎ、って言うか…」


指先をこすり合わせて困ったように視線を泳がせる葵の姿に、チトは今度こそ隠し切れない深いため息をつく。


「…ガキが調子に乗るんじゃねーよ。俺は大人だからな、こう見えてお前の何倍も生きてる訳。俺より長寿な奴なんて世界で一人しか知らねーし、ソイツ人間じゃなくてエルフだからな」

「えるふ…エルフ!?この世界ってエルフおるの!?まだウチが知らんファンタジーがあったなんて…不覚」

「何言ってんだコイツ」


曇った表情を瞬時に輝かせた葵を前に、チトは苦笑を零した。無邪気にエルフの実態を質問してくるその頭をぽん、と優しく叩き、驚く本人の手を引いて目的地を強制的に決定する。


「とりあえず杖装飾を見るか。一流の魔法使いは杖の細部の装飾までこだわるんだぜ?俺の杖の先端に埋め込まれている赤い魔法石、あれちょーかっこいいだろ」

「え、あれってただの装飾やったん!?」

「初心者だったら魔力伝導効率がどうのこうの、って色々あるらしいけど、俺とかお前のレベルまで魔法が使えるようになればそこから先の認識はただの飾りだな」

「えぇ……」


杖を呼び出して見せつけるように先端の宝玉部分を撫でたチトの様子に子供心を潰された葵は何とも言えない声を零す。試験の際にオルコスやヴィル、ルシエの杖を見る機会があったが、確かに三人とも三者三葉の宝石が先端に取り付けられていたのだ。これには何かしらこの世界に住む人たちにとって重大な意味があるに違いない、と思い込んでいた葵は、その正体がただの飾りだったと知らされてしまって素直にがっかりしてしまったのである。そんな葵の気持ちなど知る由もないチトは、現在地から程近い杖屋を目指して歩き出した。



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