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13話 四人集合


「アオイちゃん、大丈夫でしょうか…」

「いや、盲点だったな。筆記試験なのだから問題文があって当然だったというのに」

「前提条件が違う。学園は文字が読めない魔法使いの存在を認識していない。アオイの魔法はどう考えても規格外、逆に文字が読めないからこその規格外?ふむ…アオイ、何者」


試験を終えて早々に合流した三人は会場の出入り口付近で顔を突き合わせていた。当初の予定では試験が終わり次第帰宅の予定だったが、残る一人を待つために自然と足を止めたのである。あきらかに異常と言わざるを得ない謎だらけの少女、葵。それは、彼ら三人にとって様々な意味で衝撃ばかりを与える存在だった。異様な魔力操作技術、そして何より”三人に対して一切臆しない態度”。初めて出会う生命体を前に、興味を持たない方が難しかった。


「わたくしが知る限り、彼女に魔法を指示した先生の存在があり、その先生の指示で試験を受けに来たという情報くらいしか持ち合わせていません。不合格でも構わない、と言われているそうですか、先生とやらは今回の筆記試験を見越しての声掛けだったのでしょうか…」

「流石にどれだけ厳しい先生でも筆記試験の存在をつたえるくらいするだろう。そもそも、文字の読み書きができないという状況を作り出す事自体が異様だ」

「独特の訛りはオーフのものと似て非なるもの。どちらかと言えば…旧キーフの民の言い回しに準ずるものがある。現在のキーフの民は共通言語使い故に訛りを聞く機会も激減。でも、似てる」


三人がそれぞれ持ち合わせた知識を掛け合わせて葵の正体を探ろうと思考を回す。けれども、出会って数時間すら経過していない現状で謎の人物以上の推論を立てることはできなかった。


「確かに、口調は旧キーフ地域の方々とよく似ているかもしれませんね。以前少しだけ直接会話する機会がありましたが、身に纏う雰囲気とでも言うのでしょうか…それがアオイちゃんとよく似ていた気がします」

「キーフ、か。正直あの国は古代言語から謎が多すぎて未だに分からない事だらけだ。調べようにも文献は言語の壁に憚れて、知恵を求めてもだんまり…壁が分厚すぎる」


葵に近しいと思われる知識は世界でも有数の謎を多く秘めた旧キーフ、即ち亡国キーフについてばかりだ。過去に滅びの未知を辿ったキーフが、元々内向的だった政治を持ってその外交をも極力閉ざそうとするのはある意味当然だった。実際トートは何度も旧キーフエリアに使者を送っているが、反抗的な態度こそないものの一切相手にされることなく追い出されてしまうのが現状である。


「…わたくしの先生であれば、かの国についても詳しそうなのに…キーフの事になると、今知るべき事ではないと幼い頃から何も教えてもらえたためしがないのです。…っと、そんなことよりもアオイちゃん、遅いですね…」

「俺の意思は正しくアオイに伝わったのだろうか…」

「…ルシエ、少し間違えちゃったかも」

「あ、そうですよ!ルシエ先生の魔法陣が発動するところを見ましたが、あれでは条件が悪天候だと勘違いしかねない状況でした。ですからわたくし、慌てて作成途中だった魔法陣を作り直したのですからね!」

「それは…いや、確かにあれはルシエのミス。調子に乗って雨と雷の要素を足したのは、やりすぎだった」

「何やってるんだお前は…!」


少しだけ重たかった空気が切り替わる。ルシエの本気なのか敢えてなのか分からない発言のおかげでわずかながらも表情を明るくした三人は再び顔を見合わせてその視線の先を会場の出口へ向けた。するとタイミングよく飛び出してきた黒髪に緊張、次いで見えた表情の明るさに脱力。


「お待たせーー!!待った?」

「アオイちゃん…!ど、どうでしたか?」

「ふふーん、この表情を見ての通り!…なんかよう分からんけど合格!!」

「良かった…いや、本当に良かった。なんだか不穏な言葉はさておき、合格は合格なんだよな?」

「分からない、どういう意味?」

「んーと、合格は合格やけど加点の詳細な点数がその場では判断できないって言われたんよ!あれ、どういう意味なんやろ?」

「何をやったんだお前は…」



安堵の表情、困惑交じりの表情、興味津々の表情。三者三葉の思いを浮かべながらも、揃って葵の合格通じに胸をなでおろす。多大な疑問は残りながらも、無事葵は筆記試験の合格を手に入れ学園入学資格を満たしたのだった。



―――



暫く四人そろって、会場を出て少し歩いた位置にあるベンチの周りで雑談を続ける。試験の問題文がどうだった、やどんな発想をすれば魔法陣の結果を持って試験の内容を伝えようという判断に到るのか、なんて話をしていれば話題が弾むのは当然だった。それに、筆記試験は未だに継続中でありそれが終わるまで試験が終了した受験生たちは特にやる事がないのである。元々学園側の想定を大きく超えた短時間で魔法陣作成を終えてしまった四人なのであまり文句は言えない。


「おーいこさめ、お疲れ」

「あ…チト君!!」


建物の陰から姿を現したチトが軽く手を振りつつ葵に声をかける。すると、これまで三人に向けていた笑顔とは全く異なる、別の種類の笑顔を浮かべた葵は嬉しそうにチトの元へと駆け寄った。そんな葵の反応なのか、それともチトの姿に対してなのか、ともかく驚いた表情を浮かべた三人は戸惑いつつその後を追う。


「チト君チト君、なんかうち、ちゃんと合格できたで!!」

「おー、離れて視てたぞ」

「ってか、チト君試験は実技だけって言うてはったのに、全然筆記あったんですけど!!」

「それは本当にすまんかった。何か忘れてた気はしてたんだけど…ってか、お前文字の読み書きができなかったなら言えよ!どうやって俺が欲しいって言った本を持ってきてくれてた訳!?」

「どうやって、って…魔法陣解析のおかげでなんとか解読して?」

「あ、そう……。まぁ、共通言語学習用の本は今日のうちに買って帰るからすぐに勉強会品。最低限読めるようにはなるぞ」

「勿論!ウチ、めっちゃ頑張るで。…ね、でもでも、今日はお祝いしてくれるよね?」

「とーぜん。…どうせならまた展望レストランにするか?」

「断固拒否!!」


心底嫌そうな表情でチトに向けて頬を膨らませ、勢いよく顔を逸らせるとそのまま体の向きを変えて三人の元へ駆け寄る。そうして不満を吐き出そうとして、未だ呆然としている三人に気付いて首を傾げた。適当にオルコスの脇腹を突けば、慌てて我に返ったように抵抗を受ける。それにルシエが面白がって乗っかり、ヴィルが巻き込まれれば四人は幼い子供通しの戯れのようにくだらないやりとりで笑顔を向け合った。



そんなやり取りを少し離れた位置で眺めていたチトは、突然真横で起きたつむじ風に驚くことなく適当に振っていた手を下した。



「…やっほぉエトちゃん、こんな場所で君の姿を見られるなんて何百年ぶりかなぁ?」



淡い新緑色のさらさら風に揺れる髪を伸ばし、適当に結んだ姿はまさに美人と言うにふさわしい。金髪碧眼のオルコスが美少女でお姫さまだとすれば、現れた存在はそれを凌駕する女神とすら言える人外染みた美しさを持っていた。事実、その瞳はチトによく似た深紅をどこまでも煮詰めたような色で、耳の先は尖ったエルフ耳だ。性別不詳の異様な存在を相手に、同様一つなくチトはゆっくり体の向きを変える。


「よ、ソフィ。俺の名前を掛け値なしにそう呼ぶ相手は、今の世界じゃお前だけだよ。…っていうか、何お前、この前オーフでお気に入りを見つけたからってわざわざ昔から打診されてきた大賢者称号まで受け取って移住したって話してなかったか?」

「そうだよぉ、そうなんだけどねぇ…。その子がここ、トートに留学して魔法学校に編入するって言うからさぁ、ついてきちゃったんだぁ」

「ふーん?不変好きの魔法変人が大きく変わったもんだな」

「君の方こそ……さっきの子はどういう事?試験の内容もずっと見ていたけど、特にあの魔法陣作成…」

「分かってる」


これまで余裕と自信に満ち溢れた表情をしていたにも関わらず、その話題に触れた途端美しい表情がわずかに歪んだ。それは間違いなく、チトを咎める意図を込めたものである。だからこそ、その言葉の続きを遮るようにチトは言葉を重ねた。


「分かってるよ。アオイは…”アイツ”じゃない」

「……本当に解ってるのぉ?これから先何が起きるのか分からない、後で残されて独り嫌な思いをするのはエドちゃん自信だよ」

「別に、俺がどこかから探して拾ってきたわけじゃない。出会ったのは本当に偶然…ってか、事故だ。それに、似てるってだけで共通点ばかりではないんだ」

「なら、いいけど…。余計なお世話だとは思うけど、あの頃の君を知っているからこそ、言わせてもらうね。”後悔しない選択をするように”。……君に世界樹の加護がありますように」



言いたいことを全てチトに告げ終えたのか、エルフは再び風に乗って姿を消した。一人残されたチトは、相変わらず無邪気に三人と会話を交わす葵の姿を見詰めながら拳を握る。



「……わかってるよ、全部」


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