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とある記憶 1



ざくざくと落ち葉を踏みしめる音が響く。

木々が生い茂る森の中、辺りを見渡せば木々の上を小動物が駆けて行った。若々しい風貌をした金髪の男は、すっぽりと真っ黒なローブに赤色の刺繍が施されたものを身にまとい、表紙に植物のイラストが描かれた分厚い書物を片手に周囲に視線をやっていた。


不意に、強い風が吹き抜ける。


思わず書物から視線をそらし顔を上げた男は、その先にひっそりと隠されたように木組みの小屋が建っていることに気付いた。


「…こんな強い惑わしの魔法が掛けられた森の奥に小屋、か」


ぽつりと呟いた男は暫く考え込み、結局好奇心に負けて少しだけ小屋を観察してみることにした。周囲には余り落ち葉がなく、壁側にはまだ新しいよく乾いた巻きが積み上げられている。煙突を見上げれば少しだけ煙が上がっているようだ。つまり、誰かが小屋の中で生活しているのだろう。


どうしたものか、興味と警戒の二つに挟まれて何とも言えない表情を浮かべていた男は、その玄関が開かれる音に我に返った。


「…あれっ?こんなところにお客さん!?」


淡い銀色の髪をひとつに結い上げ胸元に垂らし、可愛らしい溌溂とした表情を浮かべた少女が明るい声で男の存在に声を上げた。男とは真逆の白を基調としたローブを身にまとった姿は、その刺繍の繊細さ加減を見るに細かな装飾品の作成を得意とする隣国キーフの物だろうか。


「なぁなぁ、そんなところで立ち竦んでないで、一緒にお話ししようよ!」


楽しそうに駆けてくる少女からは警戒の色が一切見られず、一見外部から現れた怪しい存在である筈の男の方が困惑してしまう。お互いが何者であるのか分からず、本来は睨み合う状況であるにもかかわらずこの状況は如何なものか。


「私はXXXって言うの、キーフの魔法使いだよ!…って言ってもまぁ、今は隠居中の身なんだけど」


にこりと笑って握手を求めてくる少女に気付かぬ内に絆されてしまったらしい男は、小さくため息をついてからローブを外しその下に隠されていた美貌を露わにした。元々ローブから溢れていた金髪は太陽の木漏れ日に反射してきらりと輝き、深紅の瞳は思わず手を伸ばしてしまいたくなるような煌めきを持って少女を見つめていた。思わず息を吞んだ少女は、どこか呆れた様に手を伸ばす男に気付いて思わず両手でその手のひらを包む。


「俺はチト。トートの魔法使いチェントだ。エトでもいいけど…チトの方が嬉しい」

「分かった!じゃあチト君も私の事はXXXって呼び捨てで呼んでね!」

「なんかお前めっちゃ元気だな。隠居の身って事はそんな若くないんだろ?」

「む、女の子に年齢の話なんかしちゃダメだよ!それに、一人暮らしって結構退屈なんだから!」



ころころと表情を変えて笑う少女と、それを少しだけ眩しそうに見詰めながらも微笑む男。二人の話し声はこれまで枯葉の揺れる音ばかりが響いていた秋の空に、どこまでも遠くへ響き渡っていた。


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