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とある記憶 6



「XXXちょっといいか?」



季節は巡りじりじりと虫が騒がしい夏のある日、木製のテーブルに倒れ込むように虚ろな声で暑いを繰り返していたXXXは、自分に掛けられた声にゆっくり顔を上げた。視線の先で苦笑するチトが涼し気な様子なのに不満げな表情を隠しもせず、目線だけで続きを促す。


「この前トートの街に降りた時に面倒な依頼を受けてさ、ちょっと魔導書の解読を手伝ってほしいんだけど」

「…いつもはチト君自分でやってるじゃん」

「いや、それがさぁ…」


思わず瞳を瞬いて小首を傾げたXXXの正面の席に座ったチトは魔導書の適当なページを開いて本をXXX側に近づけた。遠目で内容を確認したXXXはうわ、と表情を歪めつつ再び視線をチトの方へ戻す。


「これ、古代キーフ文字だね。隣国とは言えよく他国に流出したなぁ」

「俺もそれはちょっと思った。この言語に関してはキーフの情報規制が厳しすぎて会席用の資料も見つかんないんだよなぁ…って事で、なんとかできねーか?」

「うーん…」


ぺらぺらとページを捲りながらXXXは唸る。キーフの魔法使いだと出会いの際に名乗ったくらいなのだから、多少の知識はあるだろう。それでも古代文字ともなれば話は変わるのだろうか。そんな事を考えながら首の後ろを掻いたチトはXXXの回答を待つことしかできずに黙り込んだ。


「正直、これを解読したとして古代キーフの実態を公にする事が良い事だとは思えないんだ」

「解読自体はできるって事か?」

「まぁ…無理ではない、けど…」


どうしたものか、そんな事を考えているのだろう。時折適当な文面を解読する素振りを見せながらも人差し指で文字をなぞる様に弄ぶばかりのXXXの顔色はあまり良くない。謎多き古代キーフ、及び現在のキーフ。一つの国として成り立つ孤島とさえ言われた世界には一体どんな内情が隠されているのだろうか。


「…じゃあ、トートやその他諸外国に提示する情報に制限を掛けるって言うのはどうだ?」

「制限?」

「トートの連中も、俺を最後の頼みの綱として依頼してきてるんだ。だったら、XXX的に明かすべきではないと判断した部分はそのまま隠しておけばいい。大まかに内容が浅くても、努力はしたって言えばなんとかなるんじゃねーかと思って」

「……それ、解読した意味あるの?」

「さぁな。少しでも古代キーフの事が知れたら、上は満足なんじゃねーの?」


暫くチトの発言を脳内で処理していたらしいXXXは魔導書を閉じて再びテーブルに伏せる。そうしてぼそりと零すのだ。


「もう一声」

「お前なぁ…。…じゃあ、今度前に話してた土台から全部食用可能なお菓子の家を作成する魔法陣、本腰入れて研究してやるから」

「のった」


勢いよく起き上がったかと思えば、瞳を輝かせてぐっとサインをチトに向けたXXXは杖を呼び出し一振り。途端に大量の白紙とペンが召喚され、早速一ページ目を開いた状態で魔導書と向き合った。


「現金な奴…」

「ふふーん。あ、そうだ!折角だからチト君にもちょっとだけ教えてあげるよ、古代キーフ文字の事」

「え、いいのか?古代キーフ文字はキーフ国の叡智の結晶を守る砦なんだろ?」

「いいの。国はいつか滅ぶ、キーフの人だけが大切に抱え込んじゃったら、折角の叡智の結晶が勿体ないでしょ?こういうのは伝承してこそ、様々な意見を取り込んで発展してこそ、意味があるんだから!」


普段に比べていくらか大人びた表情を浮かべたXXXは、開かれた一ページ目の文章を指先でそっとなでる。その仕草をぼんやりと見詰めていたチトは、不思議そうに顔を覗き込むXXXの視線に不意に我に返って大人しくXXXの隣の席に座り直した。


「じゃあ、XXX先生の古代キーフ文字解読講座、始めるよー!まず世界最難関とも言われている古代キーフ文字、その最大の特徴は、文章が右から左に向けて流れている事、そして縦に一行ずつ並んでいる事だよ!共通文字やその他の解読済み言語は全て横文字出し、読む方向も左から右に向かっているでしょ?この前提法則を理解してからようやく、解読のスタート地点に立てるんだ~」

「な、なるほど…世界的に解読が進まなかった一番の理由は、文字に対する前提認識の間違いがあったからなのか」

「古代キーフ文字…って言うか、これは今使われているキーフの文字も一緒なんだけど、もう一つの最難関たる所以は単純な文字数の量が多い事かな?カージ文字、カーナ文字、ヒーナ文字の三つを組み合わせて、更に共通言語の一部が混ざり合わせられた集合体が、キーフ関連言語の正体なんだ。具体的な言語数はねぇ……」


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