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122話 祝勝会


「うわっ!?ちょ、何…!?」



チトとの関係性に一種の決着をつけた日から数日、相変わらず戦後処理に追われている五人を横目に一人実質独り暮らしを継続しつつ片付けや魔法陣の最終調整を行っていた葵は、久方ぶりにそよ風一つで突如姿を現したソフィに捕獲され転移の魔法陣を用いて強制的に連れ出されることになった。眩しい閃光に思わず瞼を閉じ、次に周囲に視線をやった結果辿り着いた場所は最近の話である筈なのに随分と昔の事のように感じる葵の誕生日会が開催された際に利用された旧魔王城の一室だった。すでに室内は丁寧な飾り付けが施されており、ヴィルを筆頭にルシエ、オルコス、チト、そしてソフィが待ち構えている。以前と全く同じ状況が広がっていた。


困惑気味に瞳を瞬く葵に近付いたのは、にやりと愉快そうに笑ったルシエとオルコスだ。少し離れたところでヴィルが若干頭を抱えながらも葵に向けて小さく頷いている。両脇を捕獲され宇宙人のように誕生日席に通された葵が全体を見渡せば、視線が一身に集まっていたことに気付いて本当に訳が分からなくなる。戦後処理で皆忙しくしていたのではなかったのか。小屋に訪れてくれる機会も大きく減って、葵は多少なりとも寂しい思いをしていたというのに。こんな面白そうな事を計画していたなら事前に相談してくれれば、他の皆より圧倒的に手が空いていた葵は全力で協力したはずだったのに。そもそも祝勝会は葵が魔王討伐前に提案したはずだったのに。


「ん…始めよう。魔王討伐記念の祝賀会…!」

「はい!最後の一人も揃ったところでいよいよ開始です!」


ソフィの楽しそうな声、チトの気の抜けた声、ヴィルの呆れた声、そして二人の少女の心底楽しそうな開始の合図をもって、無事魔王討伐を果たした六人を祝す、六人だけの祝賀会が始まった。



―――


「ヴィルさん、本当に料理が作れたのですね…美味しいです」

「なんだオルコス、俺を馬鹿にしていると捉えてもいいんだぞ?」

「わ、ち、違いますよ!ほらその、わたくしも以前一度挑戦したことがあったのですがさっぱりだったので…同じ初心者の筈なのに素晴らしい事だ、と思いまして!」

「ボクが直接指導に回ったけど、確かにヴィルちゃんは優秀だったねぇ」


ヴィルが時間を縫って習得した調理技術を盛大に振るった食事達は、盛り付け技術にはいくつか口を挟みたくもなったが確かに丁寧に作り込まれており味は良かった。几帳面なヴィルの事だ、調味料の一粒に至るまで計算し、調理時間も一切の狂いなく完璧に作り上げて見せたのだろう。分かりやすく感覚派のソフィは若干腑に落ちなさそうな表情を浮かべていたが、それでも完成した料理の一つを口に放り込み軽く咀嚼してから素直にその過程を褒めていた。



「アオイ、簡易版のお菓子の家を作る魔法陣に興味はない?」

「んー…理論上は可能な筈やね。確かに以前チト君が見せてくれた魔法は大人数で消費することが前提になっとったし、一人二人で楽しもうと思えばあの大きさは不要か。とは言え情報量が多い魔法陣やからなぁ…よし、一つずつ読み解いていこう!」

「ん…!」


目を輝かしたルシエが取り出したのは一枚の白紙。そこに早速葵が以前チトが作り出したお菓子の家の魔法陣を転写すれば、丁寧な解読が始まった。葵にとってはここに来ての新情報だったが、ルシエは意外と甘いお菓子の類を好んでいるらしい。一人でもいつでも食べられるお菓子の家を本気で作り上げようとその瞳は真剣だった。


「まずは魔法陣を発動する際の範囲について考えてみようか。例えばここ…お菓子の家を想像する過程で家そのものの定義が人が住める家を前提条件として組み込まれている。ここをどうにかしないと話は始まらなさそうやね」

「成程…この文言ってただの範囲指定だけじゃなく、前提条件の組み込みもされていたんだ。じゃあ…」


葵個人としては京都生まれで和菓子を口にする機会が多かったからか、洋菓子を基礎に作り上げられるお菓子の家にはそこまで関心がなかった。勿論見せられれば素直に気分は上がるし、夢を具現化した様な魔法は強い好奇心を刺激されたけれど、だからと言って改造までは考えた事がなかったのである。とは言え真剣に魔法陣の改良を望むルシエを前に一種の母性的な何かが働かない筈もなく、いつの間にが葵の説明にも熱が入る中で魔法陣の研究は進んでいた。



「アオイちゃん、チトさん!例の貧困街で暮らしていた子供達から、二人に向けたお手紙を預かってきたんです。要約すると…」

「いやいや、ちゃんと自分で読むから!どうしてルコちゃんってそこで端折る選択肢が出てくるん!?」

「お手を煩わせる必要もないかと思いまして…」

「こっわ!マジサイコパス!!」

「さいこ…?」


葵が大袈裟に鳥肌が立った自身の腕を摩りつつ、オルコスの手元にあった手紙を取り上げて中身に視線を下ろす。覗き込んできたチトにも見やすいように向きを調整しながら読み進めていけば、不格好ながらも丁寧に心を込めて綴られた事が分かる文字が並んでいた。


「ほーん?アイツらもう文字が書けるようになったのか。良い傾向なんじゃねーの?このまましっかりコイツらを育てて、将来的にはオーフの上層部に配置すれば改革は大幅に前進すると思うぞ」

「んふ、お勉強が始まりました。難しくて逃げだす子もいるけど、皆一生懸命取り組んでいます。本当にありがとう…か。ほんまええ子達やなぁ…」


くすりとどこか気恥ずかしそうに笑う葵と、折角の感謝の手紙をかなりズレた方向から解釈するチト。二人の関係性に何かしらの変化があった事は当然のように肩を並べる姿から明白だったが、結論は二人以外誰も知らないままだった。とは言え現状を見るだけでも悪い結論には至らなかっただろうことだけはハッキリと理解できる。何となく顔を見合わせた四人は何かを指摘する訳でもなく、小さく笑い合った。


「子供は優秀だ、新たな知識を積極的に取り込もうとするし、定着率も高い。トートも現状に満足して放置を続ければあっという間に学力で追い抜かれてしまうかもしれないな。…兄上に、もう少し学業に力を入れるよう進言するべきだろうか?」

「……ん、ヴィル。その件だけど…ルシエに、預けてくれたり…しない?」

「へ?」


状況把握が追い付かず固まるヴィルと、緊張感を隠しもせずそれでも真剣な表情で正面からヴィルと向き合ったルシエ。ヴィルの脳裏をぐるりと過るのは、これまでずっと見てきたルシエと言う少女が今までとは全く異なる大きな決断と共に今の発言をヴィルに向けた事実だ。果たして彼女の中で一体何が変わったのだろうか。何をきっかけに、その提案に至ったのだろうか。全てを知り尽くしていると思い込んできた少女の、知らない決意。否定するつもりはない、それでも理解が及ばない以上どうしていいのか分からない。混乱するヴィルは、らしくない曖昧な表情を浮かべながら一先ず頷く事しか出来なかった。



「よしお前ら注目。新しい魔法陣披露のお時間だ!これは一時的に姿を動物に変化させて…ちょ、ヴィル!?おい馬鹿人の話は最後まで、あぁ…」

「思考と立場、責任が存在しない猫に俺はなる…!!」


珍しく真剣な表情とは裏腹に滅茶苦茶な意思を表示して見せたヴィルは、チトが提示していた魔法陣を取り上げるように強引に魔力を注ぎ込んだ。途端に部屋中に広がった白煙はソフィが煩わしそうに風魔法で城の外へと送り出したらしい。ようやく鮮明になった視界の先で咳き込んでいたのは一人の第二王子だった。


「想定以上に白煙が濃かったな。狭い部屋での使用は要注意と記載しておこう。…で、肝心のヴィルは?」

「けほっ…一体なんだこの魔法陣は…俺普通に人間のままにゃんだが…はにゃ?……に”ゃっ!!?!?」


確かに基本普段と大差ない第二王子だったが、問題はその容姿に纏わる極一部分に在った。暫く呆然としていたものの要約状況を理解したルシエが迷わず吹き出す。


「っふ、んふ、んははははっ…!ヴィル、ねこちゃん、耳っ…んふ、耳と尻尾、生えてる…!!」

「あらあら…ヴィルさん、とっても可愛らしいですね」

「口調も多少変化が生じるんだねぇ、面白い未完成の魔法陣だ。ほーらヴィルちゃん、猫じゃらしだよぉ?」

「ふにゃぁああああ!!?!猫そのものに成れるわけではないのか!?」

「…あー、だから最後まで話を聞けと言ったのに…。これは試作段階、皆で如何に発展、完成へ導くかその過程を楽しもうとしてたのに…。因みにヴィルの状態になる事も事前に把握済みだったが、その結論に辿り着けるかどうかも調べさせるつもりだったのになー…ったく、ダメ王子」

「ぐぬっ…!!」

「うわ、ぐぅの音が出とる」


ヴィルの珍しい短慮の結果折角の予定が総崩れしてしまったヴィルが頭を抱える中、腹を抱えて涙さえ目尻に浮かべつつ笑い転げるルシエに心底可愛らしいと思っているらしい明らかに周囲とズレているオルコス、そしてヴィルの珍しい失敗に愉悦を感じて居るソフィ。そんな一同を少し離れたところから眺めていた葵は、魔王討伐依頼の日常が帰ってきた事実に無意識で口角を緩めていた。その中心に自ら飛び込まないのは、今の五人が葵の存在を無かった事にする可能性が万が一も無かったからである。葵は理解していたのだ。自分がこの五人に、心の底から受け入れられ、認められている事実を。



「お待たせいたしました!わたくしオルコス及びオーフが全力で食材を揃えさせて頂いた即席焼肉大会の開幕です!」

「うぉおお待ってました!ルコちゃん最高!!」

「…なんの話してんのこのガキ共は」

「うーん、どうやらルコちゃんが雑談の中で葵ちゃんから教わった葵ちゃんの世界の知識みたいなんだけどぉ…。確か、火にかけた網の上で野菜や肉を焼いて、その場で食すちょっとした催事があるらしいんだよねぇ。ルコちゃんったら、話を聞いたその日からいつか絶対この六人でやるんだって言って聞かなくて。仕方なく一部の食材をボク自ら、わざわざ狩りに行ったんだからねぇ?」


言ってしまえば焼肉パーティー、それに準ずる会が唐突に始まる。チト同様に小首を傾げるヴィルとルシエにもソフィが同じ説明をする中で、目を輝かせたオルコスと葵が早速網の準備に取り掛かっていた。訳が分からずとも始まってしまえば流れに身を任せるしかない。顔を見合わせたヴィルとルシエが二人の方へ駆け寄っていく姿を見送ったチトとソフィもまた、肩を竦めて網の用意が進む円の中心へ近づいて行った。


「お肉楽しみ!焼肉焼肉!ウチ、ブサカワマックスのお肉が大好きなんよ!」

「…ベアボアミックス、な。お前その言い間違い絶対ワザとだろ」

「はっはーん、チト君がちゃんと覚えててくれるか試してるんですー!」

「ぶさ、かわ…?えぇと、この世界には未だわたくしが知らない食肉可能な種族が存在するのでしょうか?」

「ルコちゃん、多分凄くどうでもいい話だろうから、面倒な乳繰り合いに巻き込まれたくないなら放っておいた方が良いと思うなぁ」



食べて、遊んで、笑って、笑って、笑って。


それは、傍から見れば以前開催された葵の誕生日会とよく似た構造になっていたが、当時を遥かに超える関係値を築き上げた六人にとっては全く異なる意味を持つ時間になっていた。全員が理解し共有した訳ではない未だ日陰に置かれた無数の真実、真相。一度だって表舞台に立つことがなかった想いの言葉。理解が及んだとは言い難い相互関係。問題は一つ上げれば果てがない程あると言うのに、それ以上に彼らは今の自分たちが正しく通じ合っている事を信じ切っていた。


頃合いを見計らって焼肉大会の輪からそっと外れた葵は、普段被り続けてきた仮面を少しだけ外して穏やかな笑みを浮かべたまま目の前の光景を目に焼き付け続けていた。永遠に忘れる気はないし、忘れること自体不可能だろう大切な時間。大切過ぎて、終わりが永遠に来なければいいと思えてしまう時間。永遠なんて言葉が存在しない事を身をもって理解している自分。様々な感情がせめぎ合った結果、それでも葵の表情は決して暗いものではなかった。いつの間にか隣には肉が乗った皿を持ったチトが立っている。思わず素のまま小首を傾げてその視線を見詰めれば、小さく笑ったチトは先ほどまで葵が見惚れていた景色に視線の先を固定したまま口を開いた。


「楽しんでるな」

「…うん!なんか、沢山の記念品を貰った誕生日会の時も当然嬉しかったし、楽しかったけど…正直今の方が、ずーっと楽しいんだ」

「だろうな、そういう顔してる。あの頃はまだ、互いに探り合ってる最中だった事もあったからな。それに比べれば、今の俺達は?」

「許容と相互理解、妥協、気遣いの中で関係値を構築した。それってなんか…理想のパーティーって感じしない?」


直ぐ隣で屈託のない笑みを浮かべているのだろう葵の表情が無性に見たくなったチトは、それでも今の自分にその資格はないのだろうとぼんやりと理解して視線を外す事はしなかった。つい先日交わしたやり取りの中に、結局チトが求めた結論は半分程度しか得られなかったことは理解していた。一方で、葵の望みもまた半分しか叶わなかった事も薄っすら把握していたのだ。一世一代と言っても過言ではない葵の想いを、自分は分からないというだけの理由で停滞させた。前進も後退もない状況を、自ら作り上げた。それが、葵にとってどれほど嬉しくない回答だったのかを、流石のチトだって多少は判断できていたのである。だから、今の自分には葵が本来他人に見せるつもりがなかっただろう表情を見る権利がないと、総必然的に思ったのだった。


「パーティーって…お前も、アイツらも、冒険者じゃねーだろ?」

「でも、似たようなもんだったじゃん?一蓮托生で背中を預け合って、共に死地に飛び込んだ仲やで?」

「大袈裟…とも言えねーな。でもアオイ、お前さっきの言葉若干俺とソフィの事と遠回しで馬鹿にしてただろ。バレてるからな」

「えぇ~?じゃあ、以前の二人は明確な気遣いなんて出来てはったん?特にソフィ」

「………ぐぅ」

「ぐぅの音出とるで」


下らないやり取りは、やっぱりいつも通りの二人だけのやり取りだった。紆余曲折はあっても結局この関係性に落ち着いた事実がどうにも嬉しくて、くすぐったくて。やっぱり葵は一人楽しく心の底から笑みを浮かべて、目の前の光景に集中した。ルシエによって肉を取り上げられたヴィルが不満気な表情で文句を言って、それを笑っていたオルコスも気が付けばルシエによって皿の上の肉を取り上げられていて。…って、ルシエは流石に食い意地が張り過ぎではないだろうか。


「なぁに?二人そろってボクの悪口ぃ?」

「うん!めーっちゃ悪口言ってた!主にチト君が!」

「は!?ちょ、おいアオイお前っ!!」

「ふぅん?なぁに、エトちゃん。久々に手合わせするぅ?」

「人外二人の手合わせ…おもろそう!結界なら任せて?イブキ譲りの超結界なら解読済みやから!」

「そういう話じゃねーから!!」


いつの間にか背後に立っていたソフィが口を挟めば、わざとらしくチトを売り飛ばした葵が無邪気に笑う。普段とは違う、どこまでも気の抜けた笑みに一瞬呆気を取られたソフィだったが、直ぐにチトの方へ身体の向きを変えて笑みを浮かべた。面倒事の気配に逃げ出そうとしていたチトはあっさり捕獲されて全力で抵抗している。普段は保護者面を徹底している癖に、今のチトは幼い子供のように見えた。


「いや、流石にこの場所で二人の魔法対決が始まれば大切な歴史的建造物に損害が出るから。二度とこの場所俺達で使えなくなるぞ」

「ん…でも、ちょっと見たい…」

「わたくしもルシエさん同様、興味の方が勝ってしまっています」

「冷静になれ馬鹿娘共」


様子を窺っていたヴィルが慌てて止めに出るも、追従してくれる予定だったルシエとオルコスから即刻裏切られて頭を抱えつつ崩れ落ちた。これも、割といつも通りのやり取りだ。…否、最近になってよく見るようになったやり取りの間違いかもしれない。ルシエもオルコスも、自分の好奇心を素直に口にする性格ではなかった筈だから。大きく変わった、と言うより彼女たちの本音を縛る枷から解き放たれたという解釈の方が正しいのかもしれない。そんな三人のやり取りを眺めていた葵は呼び出していた杖をしまってから軽く周囲を見渡し、花瓶が設置されていた机へ向かって卓上を片付けた。突然の奇行に首を傾げる五人の前に机を運んだかと思えば、どこか得意げな笑みと共に言い放つ。


「これで、腕相撲対決をしよう!」

「うで…ずもう?」

「うん、単純な腕力を競い合う対決やで?魔法の使用は一切禁止!」

「それって…物理限定ってことぉ?うぇ、ボク何もできないじゃないか」

「それが普通の人間視点なのっ!ほらほら、まずはウチとソフィでやってみよ?」


チトとの手合わせを控え今まさに杖を呼び出そうとしていたソフィは、戸惑い交じりでおずおずとその杖を片付けた。これまで全ての日常動作を魔法に依存してきたソフィにとって、完全な物理での対決など当然初めての経験だった。想像した事すらなかったかもしれない。服の袖を軽くまくって腕を出す葵を真似て長いローブを自身もまくってみるものの、人間の少女の腕に比べて自身のそれの如何に頼りなく細くて情けない腕だろうか。無性に不安になってきたソフィがぐるりと周囲を見渡すが、誰も彼も葵の発言の行く末を興味深そうに観察するばかりで助け舟は期待できなかった。仕方なく目の前の葵に視線で助けを求めたが、机の上に肘を置いて構えるばかりで何か言葉を掛けてくれるよ素はない。


「肘が机から浮いたらあかんからね?」

「ち、力ってどうやって込めるの?」

「やればできるって!ほら、気合とその場のノリ的なあれで!」

「えぇ…!?そんな理論も理屈もない、ってちょっと、」

「よーい…開始!」

「うわ、」


慌てて勘だけで腕に力を入れたものの、気付いた時には自身の手の甲は机にぺったりと付いて反抗のしようもなかった。謎の沈黙が広がる中唯一心底楽しそうに喜ぶ葵を見た結果、敗北を背負った結論に辿り着く。


…今、負けたのか。


ソフィが悠久の時を生きてきた中で、初めてついた黒星である。手の甲が机に付いたままの細腕を見詰めたソフィは、ぐるぐると渦巻く正体不明の感情を吐き出すかのようにその拳を握って勢いよく口を開いた。


「もう一回!!」

「……あはっ、そうこなくっちゃ!」


二人のやり取りに強い興味を持って我慢していられなくなったルシエが、楽しそうなソフィの表情に惹かれたオルコスが、ソフィの初めて見る表情に驚いたチトが、そんな四人のやり取りに無意識で笑みを浮かべたヴィルが。魔法の世界で魔法を一切使わない勝負。それは、無敗に等しい人外二人組でさえ呆気なく敗北の可能性がある非常に特異な対決だったのだ。一気に騒がしさを取り戻した城内では、腕相撲大会が決行されるのであった。


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