とある記憶 5
「チト君見てみて!私、新しい魔法を考えたの!!」
冬の間に降り積もった雪もようやく全てが解け消え、冬眠していた野生動物たちも顔を出し始めた春の訪れを感じる季節。XXXは勢いよくチトの部屋へ飛び込んできた。
机の上に何冊もの魔法書を広げて新たな魔法陣の作成を行っていたチトは、適当なところでキリを付けて顔を上げる。
「おう…って、お前どこ行ったらそんな格好になるんだよ。頭に花弁が乗ってるぞ、子供か?」
真っ白なローブに身を包んだXXXの肩や髪には何故だか薄水色の花弁がついている。呆れた様に立ち上がったチトは、その中の一枚を手に取りXXXに見せつけた。ぱちりと目を瞬かせたXXXはどこか擽ったそうに笑ったかと思えば、チトの手を引いて走り出す。
「ちょ、いきなりなんだよ!」
「いいからいいから!とにかく見てよ!」
その勢いのまま小屋を飛び出し、すぐ近くの森へ飛び込む。最初は戸惑っていたチトも、そのXXXの得意げな表情に苦笑して引かれるままだった身体に力を入れ自ら走り出した。
「まずはココを見て!」
「これは…」
「私が作った魔法陣一つ目の効果だよ!指定した範囲内の木々を移動させて、開けた草原を作り出す魔法!」
指さした魔法陣に魔力を込めれば、途端に効果が発動し周辺の木々がまるで意思を持ったかのように円状に移動した。根は土に刺さったままだ。森の一角は一転して開けた空間へと作り替えられた。
「そしたら、次に花畑を作る魔法を発動!」
次の魔法陣に魔力が通されれば、途端に緑一色だった草原が薄水色の小ぶりな花々が咲き誇る花畑へと変化する。XXXの体についていた花弁の正体はこの魔法だろうか。森を抜ける風に吹かれて揺れる花は思わず生命力を感じるきらめきを放っている。
「すごいな…」
「まだまだ、ここからが本番!…いくよっ?」
柄の部分は乳白色の塗装が施され、空色のリボンを絡めるように結んだXXXの背丈よりいくらか短いくらいの杖を手に取り、それをゆっくり振る。途端に、下から上に向かって風が吹きあがり花弁が一気に舞い上がった。
無数の青い花弁の中で楽しそうに笑いながら両手を広げ駆け回るXXXの姿は、まるで御伽噺上の精霊と勘違いしてしまいそうなほどに美しかった。呆然とその様子を見詰めるチトの姿から自身が発動させた魔法に見惚れている事実を読み取ったXXXは満足そうにうなずく。
「これはね、花弁の雨を作る魔法なんだよ」
「…相変わらず、魔法陣製作が上手いな」
「ふふん、そうでしょ?でも、この魔法にはまだ続きがあるの。……ほらっ!」
舞い上がっていた花弁はゆっくりと降り注いでくる。まさしく、花弁の雨そのものだ。周囲から切り取られた一部のように異なる空間をくるくると回りながらはしゃぐXXXの姿を、チトはただひたすら眩しいものを見る表情でずっと見詰めていた。
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