↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
117/168

78話 人質(概念)


「おい集まれガキ共!!」


種激写の荒々しい大声に怯えた様子で、どこかで様子を伺っていたらしい小さな子供達が数人集まってくる。腰が引けた様子に苛立たし気に舌打ちを零した襲撃者は、葵とチトの肩を強引に押し出して現れた子供達に堕ち梳けた。


「ちゃんと面倒見ておけよ、傷は一切付けるな。お前らお得意のゴミダメにでも隠しておけ!!」


涙目で必死に頷いた子供たちは、葵やチトの服の裾を土で汚れた手で控えめに引き始める。その様子を確認した襲撃者は、自らの手元にある葵とチトに取り付けた魔法使用不可の魔道具の効果を改めて確認した後、馬車の方へ戻っていった。顔を見合わせた二人は、一先ず子供達のやりたいようにするべく弱い力に逆らわず足を動かし、馬車から離れた街の奥へと進んで行った。



「…これが貧富の差の実態かぁ、中々顕著やね」

「だな。恐らく観光客が近付かない様に街の中でも奥地に隠される様に点在しているんだろう。これで全てが平等な聖なる国とは本当に笑い種だ。そんなんだから革命が起きるんだよばーか」

「ルコちゃんはこの実態をどこまで把握出来とるんやろうね?あのお人よしがこの現状を見てそ知らぬふりなんて出来んと思うし…大方、ソフィは気付いていながら面倒だって無視してたんやろうな。ほんま自己中クソエルフや」

「なんか最近のお前本当にソフィに厳しくなってきたよな…」


襲撃者や周囲の大人の監視の目がなくなった事を魔力感知で把握した二人は、先程までの不安でいっぱいだった麗しの少女と護衛の演技を辞めて極普通に会話を始めた。拘束魔法もしれっと解除しており、それでいながら子供たちの先導に逆らう様子なくあっさり付いてくる様子に子供達は困惑気味だ。けれども逃げる様子は一切なく大人しくしていた為か、特に口出しされることはなかった。


「チト君は貧困街って必要やと思う?」

「必要だろうな、少なくともオーフが成り立つ為には。一般市民は貧困街と言う劣悪環境を認識しているからこそ勤勉に、必死で学を得て働こうとする。結果優秀な民が増えれば、国は表向き繁栄を極める。知恵の一つない貧困街の民を比較対象にする事で国を循環させる方法は、昔からない訳ではなかったからな。…大抵、そういう国の頂点に立つ当事者に碌な奴はいねーけど」


学が足りない子供達では、会話の内容を正しく理解する事も出来ない。子供たちにとっては、自分たちが今いる場所が周囲からどう呼ばれているのか、そしてこの街の外にどんな景色が広がっているのかさえ知らない情報だったからである。この生活が当たり前だと檻の中の動物として扱われている分、この街の住人たちは存外精神的にマシなのかもしれない。そんなことをぼんやりと葵は考えていた。


「そっかぁ…ほな、深入りするのはウチらの仕事じゃないね。ルコちゃんとヴィル君に預けておこう」

「それが最善だろうな。下手に俺達が手を出して新たな革命の火種にでもなれば、今度こそオーフは崩壊しかねない」


淡々と続けられる政治的な会話。やっぱり殆どの単語すら理解できなかった子供たちは、戸惑いのまま二人を目的の場所へ連れ込んだ。それは、この貧困街の中では恐らくマシなのだろう、最低限の管理がされている様子の古びた教会だった。


子供達はそれぞれ顔を見合わせて頷き合い、二人を内部へと導いた。


―――


「こ、この場所で…大人しくしていてください…!ま、魔法が使えない魔法使い相手なら、わたしたち子供でも集まれば押さえつけられます…!」


完全に怯えた様子を必死で隠した一人の少女が、涙目で言い放った。最低限の栄養しか摂っていない細腕に頼りない身体の子供が何人集まったところで、魔法を使わずとも葵とチトは簡単に抜け出せる自信があった。そんな力量差すら把握していないのか、それとも理解していながらも脅しているつもりなのか。思わず顔を見合わせた二人は、面倒事の予感が止まらない現実に揃って深いため息を吐いた。


少し離れたところから幼児が泣き喚く声が響き渡っている。教会の構造上よく響く音は少し前から聞こえており、どうに求まる気配がないようで慌てたような他の子供達の声も聞こえてきた。暫く目を瞑って大人しくしていたチトだったが、流石に耐えかねたのかゆっくりと立ち上がった。


「う、うごかないでくださいっ!それ以上おかしな行動をすれば、」

「別に逃げやしねーよ。ガキを黙らせるだけだ」

「そんなっ、だ、ダメです、やめて!!」

「チト君言葉選びへったくそ~。子供を泣き止ませようって話やろ?」

「ふぇ…?」


どうやらこの周辺の子供達の代表らしい少女がチトの言動に顔を真っ青にしたが、直ぐに続いた葵の補足を聞いて今度は困惑の表情を浮かべた。理解が追い付かないのか動かなくなった子供に深いため息をついたチトは、後ろ首を掻きながら声が響く方へゆっくり近づいていく。そこでは矢張りまだ言葉が話せるようになったばかり程度の子供が泣き喚いており、疲弊した様子で宥めていた子供たちはチトの存在に気付いて警戒するように身体を固くした。何もするつもりはないって、そう言いかけたチトはどうせ今の自分の言葉が目の前の子供達に届かない事を理解して、ため息をつきながらも目を瞑った。


「…あー、こほん。……きらきらひかる、おそらのほしよ、」


気だるげに開かれた口から零れた詩に、葵は僅かに目を見開いた。突然歌い始めたチトを前に子供達は素直に不思議そうな表情を浮かべている。葵の方へ視線をやり小さく頷いたチトを前にため息をついた葵も立ち上がって、その隣に並んだ。


「「まばたきしては、みんなをみてる」」


二つの音が重なる。低く、けれどもどこまでも柔らかく優しいチトの声音に合わせて、葵の繊細で穏やかな声が混ざり合って教会中に響き渡る。天井を反射して教会全体へと響いた声音は緊張しきっていた子供達の肩の力を抜いて、うっとりと視線を集める位には見事なものだった。


「「きらきらひかる、おそらのほしよ」」


ゆっくりと目を瞑った二人が歌い終わるころには、泣き喚いていた幼児はニコニコと楽しそうに笑っていた。周囲にはいつの間にか多くの子供達が集まって円を作る様に二人を囲っており、純粋に歌声に耳を傾けているようだった。ふと続きがなく歌が終わったことに気付いたらしい子供達が、目を開けたチトと葵を前に蜘蛛の子を散らす様に逃げていく。そんな様子に思わず笑った二人は、すぐ傍で困惑しながらも二人の声を他の子供と同じように聞き込んでいた先程の少女の頭を一撫でしてから、大人しく指定された椅子に戻った。



―――



「アオイちゃん、チトちゃん、次、次のおうた教えて!」

「あたしもききたい!」

「ぼくもー!」


いつの間にか、酷く警戒されていた筈の二人は子供達が集まる円の中心にいた。先程の歌がきかっけだったのだろう、泣き喚いていた幼児が次をせがんだことを皮切りに、次々と集まってきた子供に望まれるまま素直に歌い続けた二人はあっという間に懐かれてしまっていた。面倒ではあっても、どのみち襲撃者が動くまではやる事がない二人は結局文句を言う事もなく大人しく子供たちの要望に応え続けていたのだ。


「…あーもー疲れた!終わり、終わり、閉店だガキ共!!」

「え~チトちゃんのケチ!いじわる!」

「うるせーな、俺は疲れたんだ!もう寝る、邪魔したら許さんぞガキ!」

「えぇ~!!」


ついに嫌になった、と言うよりはどうやら恥ずかしくなったらしいチトは、近くの長椅子に転がって目を瞑ってしまった。始めは文句を言っていた子供達も、顔を見合わせたかと思えば猫の様にチトの空いた場所を狙って小さくなり、いつの間にか昼寝大会が始まっている。最初泣き喚いていた幼児は堂々とチトの上に乗っていたが、それはまぁ良いだろう。


そんな様子をほっとしたように眺めていた葵は、ゆっくりと立ち上がって近くに居た代表の少女の手を取って教会の外を探索したいと願えば、流石は直感で生きる子供、葵が悪者ではない事を認めたらしくあっさりと許可が下りたのだった。


☆評価やブックマークで応援して頂けると励みになります。次回も是非御一読下さい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。