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とある記憶 37


「さて、そろそろ二人ともお話は終わったかな?」

「おー、中々興味深い話が出来たぞ」

「ボクも次の暇つぶしが決まったんだぁ、楽しみだねぇ」


チト達がシェルェール達との会話を終えた様子を見計らっていたXXXは、近付いてきたチトを理由にようやく子供たちの輪から抜け出す事が出来た。ソフィも直ぐに合流し、さりげなく防音の結界を張ったXXXは軽く周囲の視線をそこまで集めていない事を確認してから小さく息を吐く。


相も変わらず、子供の人生を盛大に変えておきながらあくまで興味関心の範疇を越えない様子は、まだまだ人間の感情を理解できない人外感満載であったが、全貌は知らずとも遠目のやり取りで大枠を理解していたXXXにとってはそこまで気にする問題でもない。そもそも、この程度で心を痛める精神性を持ち合わせていればとっくに彼らとの縁も切れていただろう。色々と言いたいことはありながらも深く首を挟むことはせず、どこか満足気な二人の返答はXXXの中で流されていった。


「詳しく聞くつもりはないけど、程々にね?そうだな…倫理に反しない程度に収めるんだよ」

「えぇ~…XXXちゃんは革命って倫理に反してると思う?」


面倒くさそうに、けれども決して片手間に聞き流してはならない単語を発したソフィは、ぴくりと動きを止めたXXXを横目に見ていた。ほんの僅かな沈黙を経て、肩を竦めたXXXは分かりやすく苦笑を零しつつ少し離れたところで二人で会話を続けるイロアスとシェルェールの方へ視線を向けた。


「また凄く時期を得た話題を持ち掛けてきたなぁ…。何、イロアス君にやらせようとしてるの?」

「XXXちゃんもやっぱりあの子が男の子だって気付いてたんだぁ。ふふ、そうだよぉ?今のトートより、あの子供が作るトートの方が興味があるなぁって思って。でも、そうすると革命起こさせるしかないでしょお?」


こてりと不思議そうに首を傾げられて、XXXは今度こそため息をついた。あんな成人にも遠く満たない子供を相手に、このエルフは一体どれだけ重たい決断を急激に迫ったのだろうか。革命など、成立しなければ死と隣り合わせでしかない諸刃の行為なのに。それでも結論としてイロアスが革命を宣言した以上、元々彼なりに思う所があり最後の一押しをソフィが行った事は分かる。けれども果たして、それを行うには適切な時だったのだろうか。色々と文句を言いたいことはあるが、やりとりが結論付いてしまっている以上自分が口出しする余地はないと判断したXXXは、再びわざとらしくため息をつく事でソフィの行為を見逃す事に決めた。


次いでチトの方へ視線を向ければ、心得たと言わんばかりに得意気な表情を浮かべ人差し指を立てたチトは、自らがシェルェールに施した内容を意気揚々と語り出した。


「俺は白焔と黒焔の魔法陣を授けただけだぞ?上手く使えそうな素質はあったし、何よりあの子供が自ら求め、受け取ったんだから。少なくともソフィと一緒にはしないで欲しいね」

「へぇ、白と黒…世界大戦時代の陣営ごとに振り分けられた基礎能力かぁ。また面白いものを授けたねぇ、変革の象徴としてはぴったりかもねぇ」

「どうせ拒否権なく強引に押し付けた癖に…」


呆れたため息を吐き出したXXXは再び会話を続ける二人の子供の方へと視線を向けた。真剣な表情を浮かべ、小さな手を結び合う様子は明らかに未来に確かな期待と恐怖を覚えている証拠だった。本当にチトとソフィに悪気がない事は分かる。けれども、碌な気遣いも出来ていない事も確かだった。人間の子供に興味を持ち、何かしらを施した。それだけでも二人にとっては大きすぎる変化だったのかもしれないが、その内容は生死を賭けた酷いものだ。果たして注意するべきか、多少なりとも褒めるべきか…そんな事を考えていたXXXは、不意に二人がどこまでも人外である事実を思い出して釘を刺した。


「自分の好奇心に則って好き勝手行動する事は本能的な事だからどうしようもないかもしれないけど…せめて、最後までちゃんと見届けてよ?チト君はまた後日自分で与えた魔法に関する指導を複数回行う事。ソフィ君は革命を無事成立させるための知識や武力などの協力の一切を惜しまない事。…返事は?」

「えぇ、与えただけで充分だろ?それ以上動く理由は…いや、分かったからそんな怖い顔すんなって」

「はいはぁい、革命が成立するまではちゃんと立ち回るよぉ」


きっかけを与えただけで後は観察に徹するつもりだったらしい面倒くさそうに顔をゆがめた二人を前に、わざとらしく深いため息をついたXXXは改めて地下に集う子供たちの方へ視線を動かした。場の雰囲気は確かに変化していて、何かしらの重たい決定が下されたことは本能的に察しているだろう。それでも、誰一人普段と変わらない振る舞いを続けて無邪気に笑っている辺り、もしかしたらこの子供達も純粋無垢ではないのかもしれない。今後イロアスを中心に起こされる革命行為を前に、何かしらの形で必ず影響を受けるのは現時点でイロアスの指揮下に入っている子供達だ。現時点の状況からイロアス達に丁重に扱われている以上悪い事にはならないだろうが、それでも子供達自身も革命の余波に巻き込まれることに間違いはなかったのだ。


「ほんと、いい子達だねぇ…私も見習わないとだ」

「いやお前には無理だろ、少なくとも世渡り上手には見えねーぞ」

「なんだとぉ!?私嘘つくの大得意なんだからねっ?今に見てろチト君、絶対後悔するんだから!」

「はいはい、流石XXX様は何でも出来て優秀でちゅね~」

「ちょっとぉ!!」


わんわんと騒ぎ出した二人から少しだけ距離を取ったソフィは、幼い子供同士の口喧嘩の様に続くやり取りをぼんやりと眺める。今でこそ頻繁にみられる光景だが、一昔前…XXXと出会う前までのチトを思えば、大文明が一夜にして崩壊する程度にはあり得ない大きすぎる変化を見え隠れしていて。


軽口を叩いて無邪気に笑って、ぽかぽかと叩かれれば大袈裟に痛がる振りをして目尻を緩ませる。まるで極普通の子供、ただの人間であるかのように振る舞う事が出来るチトが、ソフィはほんの少しだけ羨ましかったのだ。何処までも大人を嫌い、子供であろうと願ったまま成長してしまった哀れな者。ソフィと違って、確かに子供とされる時代を経験してきた者。


「もぉ~誰がこんな子育てたのかしら!親の顔が見てみたいわ!」

「お前じゃね?」

「違うよ!私が育てたチト君はもっと良い子だもん!!」


そんな風に、例え冗談でも家族に纏わるネタを零せる精神状態ではなかった筈だ。自分は孤独だと、そう強く願う事でしか前を見る事さえ出来なかった筈だ。どんどんと在り方を変えていくチトが、己から離れていく様で、伸ばしかけた手は空を切るだけ。



ソフィは知っている。



チトが、チェントと言う存在が一体何者なのかを。



ソフィは知っている。



チェントがこれまでどんな生を歩んできたのか、その全てを。



ソフィは知っている。



この世界の真理、その全てを。



ソフィは、知っている。



…豪雨の中、傷だらけの翼を光ない瞳のまま自ら力任せに引き千切って、嗤っていたチトの姿を。



狂ったように魔法の研究の為だけに生き、いつからか全てを諦観で呑みこみ惰性のみで存在するようになった日々を。



母親からの愛情を求めて足掻いて、どうにもならなかった現実に独りの部屋で啜り泣いていた過去を。




ソフィは全てを、知っている筈だったのだ。


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