とある記憶 33
「おい、コイツらって例のSランク称号持ちが居るパーティーじゃねーか…!?」
「生きてたのかよ!」
「迷宮に突如新たな出入り口が出現したって事は…”五年掛けて”迷宮を攻略したのか!」
報酬漁りも終えてようやくどの迷宮にも必ず設置されている帰還専用の転移魔法陣を使って脱出を果たした三人は、まるで幽霊でも見るような驚愕の表情を浮かべた冒険者たちに囲まれていた。そんな彼らが口々に呟く五年の言葉に思わず三人は顔を見合わせる。兎にも角にも騒がしい喧騒を遮る様に防音の結界を張ったソフィは、少しだけ考え込むように顔を伏せてから疲れた様に肩を竦めた。
「うーん…恐らく、例の魔人が時空を歪ませていた影響を受けたんだろうねぇ。迷宮内と外の間で大きな時間の変動が生じている。ボク達の感覚じゃ精々多めに見積もっても一週間程度の攻略期間だったけど…ちょっと不覚だなぁ」
「特に違和感は無かったからな。…ま、よく考えれば俺とソフィには時間の概念がないし、XXXもあの小屋に随分長い事住んでるっぽいから違和感を違和感とすら感じてなかったのかも」
「五年かぁ…人間換算だと結構な時間だよ。赤ちゃんが立ち上がって、一人でお買い物が出来る位の理解力を持てる位の時間」
思わず、と言った様子で呟いたXXXは不意に自分の発言に信じられないと言わんばかりの驚愕の表情を向けてくる人外二人組に吹き出した。些細なところで見せつけられる感覚の違い、XXX自身でさえ曖昧になりつつあったそれを小屋の外に出てからようやく認識するようになったのだ。迷宮の外で五年の月日が経過していたからと言って、今の自分自身の時間が大きく進んでいない事は髪や爪の長さを見れば分かる。そして、たった五年だと一瞬で思えてしまった己の意識に苦笑を零したXXXは、飛び込んでくる自分にとっては懐かしくもなんともない嫌な気配に迷わず杖を構えた。
「…はぁ、外の世界はどれくらい変わったのかな」
ワザとらしく魔力を放出したことで慌てた様に野次馬が散っていった事を確認してから、ソフィが張った防音の結界の権限を乗っ取って解除する。嬉々としていた表情を盛大に引きつらせたのは、見覚えのある姿よりほんの少し老けた気がする冒険者協会職員たちだ。真っ青になってXXXたちに道を開けるように通路の壁に飛びついた様子ににっこりとほほ笑んで、呆れ顔を浮かべるチトや興味なさげなソフィを引きつれて三人は堂々と道の真ん中を歩いていく。
キーフでいう所の、触らぬ神に祟りなし…である。
結局、更に発展していた迷宮都市を出るまで一度たりとも足を止める事無く脱出に成功した一同は、のんびりと小屋までの道を歩き始めた。基本的に時間は有り余っている三人だったが、とは言え面倒な権利に関わる探り合いに割く時間など一分一秒たりとも持ち合わせていないのである。
「ふふ、もうすぐで沢山日常依頼を受けた街につくね!」
大森林を抜け、道中で遭遇する魔物と戯れながらも三人は帰路を進む。以前、冒険当初に二カ月閉じ込められた例の街が近付くにつれてXXXの足取りは軽く、機嫌も良くなっていった。駆け足になるXXXと離れない様に慌てて歩幅を広げた二人は顔を見合わせながら肩を竦める。二人にはまだ分からない感覚だった。
「人間にとっての五年、かぁ…。あの玩具屋の偏屈婆さんは生きてんのかなー」
「ボクが本気で殺しかけた赤子の様子も気になるねぇ。もう普通に会話できるようになってるんでしょ?人間の成長って本当に早いなぁ」
各々が人間の街にとっての五年を想像し、自然と歩く速度は上がっていく。足早に抜ける大森林で大した問題が発生するはずもなく、三人は予定通りに例の街の近郊までたどり着いていた。
「この丘を越えたら見えるはずだよね!」
「うわ、ちょっと…引っ張るなよXXX!」
「ははっ、元気だねぇ」
楽しみな表情を隠しもせずに無邪気に笑ったXXXが、チトの手を引いて丘を駆けあがる。驚いて面倒くさそうな表情を見せたチトだったが、決してXXXの手を引く強さに抗う事はせず軽い足取りで走る姿を見てしまえば誰だってその本心は知ることが出来た。そんな幼い子供同然の二人の様子にゆるりと笑ったソフィも、後を追うように足早に丘を登る。そうして、聞こえてくる筈だった歓声が一切ない様子に小首を傾げて丘の先に広がる景色へと視界を広げた。
「——————へ、?」
一番最初に丘の向こうの景色を目にしたXXXは、一瞬にしてその表情を無へと変えた。すとんと落ち込んだ様子に不審に思ったチトも、どんな悪態をついてやろうかと考えながら同じ景色を目撃して思わず口を閉ざす。
「…ちょっとぉ、二人ともそろってどうし…、…あぁ、成程?」
穏やかな表情を浮かべていたソフィも、視界の先に広がる光景の意味を理解して直ぐに退屈そうな表情を浮かべてため息を吐いた。
視界の先に在った筈の、生活感溢れる美しい都市。それは、戦火に飲まれ呆気なく潰えた荒廃した都市へと様変わりしていたのだ。
呆然と景色を目に焼き付けるXXXは下唇を噛み、チトはどうしていいのか分からず言葉を失い、そしてソフィは興味さえもを失う。三人の冒険は、既に終盤へと差し掛かっていた。
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