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6話 新拠点

「うわぁあああファンタジーや…!」


チトと葵を載せた魔道馬車は夕暮れ時、何とか中央都市へ到着することができた。入門処理を終え、今朝まで滞在していた街と比べて何倍も大きく端が見えない巨大な外壁を抜ければ、そこは葵にとってまるで絵本の一ページのような世界が広がっていた。


「チト君、あっち、空に飛行機みたいなやつが飛んでる!」

「ヒコーキ?…魔道鳥機の事だな。あれは元々飛行型の魔物を調教して操縦することで人や物を運んでいた時代の名残で見た目が鳥型で…って、今のお前に説明しても無駄か。あれも魔道具の一種だよ」


ぴょんぴょんとその場を飛び跳ねて上空を飛ぶ魔道鳥機を指さす葵の手を慌てて掴みながら、チトは無事予定日内で中央都市に辿り着く事が出来た結果にほっと胸をなでおろした。案の定あちらこちらへ駆けだそうとする葵を必死で引き留め、目的の建物を目指す。一般市民が屋台を出して商売を行う大きな通り道を抜けて、明らかに雰囲気が変わり街の喧騒から離れた豪華絢爛な建物が立ち並ぶエリアへ進みその中でも一際目立つ建物の前で足を止める。


「…ここは?」

「俺の中央都市での家。管理は他の奴に任せてるんだけどな」

「え、でっか」

「俺もそう思う」


鋼鉄製の柵と均等に重ねられたレンガの壁が並ぶそこは、葵の間隔で学校の運動場程度の広さで噴水や花々が咲き誇る大庭園を前に校舎一つ分以上の大豪邸が鎮座していた。ドン引きの余り一歩後ろに下がった葵の手を強制的に引き、閉ざされた門に向かって杖を向けて魔力を流す。きい、と重量感ある音を立ててゆっくりと扉が開かれた。


「うわ、ウチほんまにイヤや…こんな分かりやすい金持ちの家でゆっくり休める気がしないんやけど」

「大丈夫だって。確かに本宅はこっちだけど、俺もさすがにここで過ごすのはイヤだからって別宅を用意したんだよ。この庭の先に…ほら」


葵の中で一体どんな記憶がフラッシュバックしているのか、分かりやすく嫌な顔を浮かべた様子を宥めながらチトは足を進める。庭園の木々をかき分けるようにひっそりと作られた道を進めば、その先には見覚えがあるフォルムの小屋がぽつんと建っていた。


「あ、そっくりな小屋だ」

「その通り。ここは魔法で定期清掃しているから普通に使えるぞ。さて葵、どっちに住みたい?」

「断然こっちでお願いします!!」


二人はレンガ作りの本宅と比べれば随分と小さな別宅へ足を踏み入れていく。時刻は丁度日も暮れた頃である。



「ところでチト君、あの家絶対チト君の趣味じゃないやろ」

「まーな、俺も押し付けられて扱いに困ってるんだよ。昔取った杵柄ってやつ?」


家の中に入り、マジックバックに収納されていた最低限の荷物を置いてベッドに腰を掛ける。間取りとしてはベッドルームが二部屋仕切られた状態で並んでいるらしい。適当に入口から近くにあった部屋のベッドに座った葵は無意識でつまっていた息を吐きだして倒れ込んだ。大豪邸を前にして無意識に気がつまっていたのだろう、深呼吸をすれば少しだけ体が軽くなったような気がした。


葵はここ数日で、これまで一切縁がなかったこの世界の人々と交流する機会が一気に増えた。出会った人々との会話から、チトがごく普通の一般人ではないことくらいは気付いていたのだ。チトから最低限と言われながら教わった魔法の一つに驚いた表情を向けられ、極めつけに明らかにチトの趣味ではない大豪邸を見せつけられれば嫌でも理解できてしまう。

恐らくチトは、かつて何かしらの偉業を残した凄い魔法使いなのではないだろうか、と。

出会ったばかりの小尾、チトは自身のことを大魔法使いだと自称していた。冗談だと当時こそ流していたが、それももしかすると事実なのかもしれない。なんとなくチトの方を見詰めていればふいに視線が絡んだ。


「…聞きたい?俺の事」


葵に並ぶようにベッドにうつぶせで倒れ込んだチトに横目で見つめられて、葵は暫く無表情のまま黙り込む。沈黙だけが部屋を支配した。そんな沈黙を切り裂くようにゆっくりと瞼を閉じた葵は、次にその瞳を開くときには疑問を込めた意思はなく、いつもと変わらない笑顔で笑った。


「今はやめとく!」


「……そ。じゃあまぁ、今日の晩御飯は屋台飯とするか!明日の昼間には編入試験の手続きを確認してくるから、お前はここで留守番な」

「やった…って、えーーっ!なんで、ウチ観光したい!」

「お前ひとりで無事に帰ってこれないからに決まってるだろ。本当は目を離したくもないけど、手続する場所だって一般人じゃ入れないところがあるからな。外で目が届かないよりはこの家で大人しく待っててもらえる方がずっとマシだ」

「ちょっと、何それー!」


きゃんきゃんと子犬のように騒ぐ葵から視線をそらし、チトは窓越しに月明かりが差し込み始めた空を眺める。まん丸に浮かんだ月は、今日が満月であることを自信満々に告げていた。



『———知ってる?満月の夜はね、隠された真実が現れる夜やってウチの生まれたところでは言われてたんよ?ウチもチト君の秘密、暴いちゃおっかなぁ~?…なーんてね、今はやめとく!』



不意によぎった過去の記憶は、すぐに騒ぐ葵に流されてチトの意識から消えていった。


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