「熊」
「熊」
高野友三は熊が嫌いだ
二十四年前兄を食われた。
それ以来高野は熊ばかりをさがしていた。
朝五時
「熊が出た」
と電話が鳴った
高野は返事もせず
煙草と銃一本を握り家を出る。
そんな毎日だった。
少し前、妙な仕事ができた。
その日は寒い朝だった。役所から会いたい人がいると連絡された。
少し戸惑いながらも役所へ車を走らせる。
そこにはやせ細った男がいた。
山奥で料理店をやっているらしい
「足りないんです」
男は甘ったるい匂いを漂わせながら言った。
男は熊肉を強く欲していた。
確かに熊の死体の処理に悩まされていたので、
断る理由も無かった。
その二日後
高野はまた熊を狩った。
早速その店へ届けることにした。
山道を熊を乗せた軽トラックで進む。
進めば進むほど山道は暗くなっていった
店に着くころには朝とは思えないほど辺りは暗くなっていた。
熊を荷台から降ろしていると、いつの間にか男が立っていた。
「熊を持ってきた」
高野は男にそう言ったが男は何もせずただ熊をじっと見ていた。
熊を店の裏の小屋に運ぶ。
男はいきなり熊をさばき始めた。
あまりにも慣れていた。
内臓の位置をすべて把握しているかのような動きだった。
紙を切るように音もなく捌かれていく熊を高野はただ見ていた。
いつの間にか解体は終わっていた。
標本のように並べられた熊肉や骨の前で男は言った
「若いですね、この熊」
高野でも気づかなかった。
確かに肉の脂の量を見るに若いのかもしれない。
高野は煙草に火をつけた。
なぜか、火がうまく点かなかった。
「そうだ、高野さんも食べていきませんか?」
高野は断ろうとしたが、悪いと思い席に着いた。
しばらくして、真っ暗な厨房から男が出てきた。
目の前の皿には、焦げ目のついた肉が乗る。
「これはどこの肉なんだ」
高野は聞く
「ちょうど手のあたりの肉ですね」
高野はただ肉をみた。
携帯が鳴った。
また熊が出たそうだ。
高野は立ち上がる。
「すまん。急用だ。」
男の皺が少し増えたように感じた。
高野は軽トラックのエンジンをかける。
男は店の前でただ立ってこちらを見送っていた。
山道を走りながら高野は自分の手を見た。
熊の手の指はあんなに細かっただろうか。
第二章「熊」(終)




