第96話 歪みの泉
ルキア村から南東――歪みの泉へと向かう街道の途中。
「あー、疲れちゃったよ……。ねえセイ、空間転移でぴゅっと行けないの?」
歩きながら、ミミが半ば愚痴るように言う。
「うむ……あれは一度行った場所には転移できるはずなんじゃがの」
セイは少し考え込むように続けた。
「どうやら転移先に、ワシを知っておる者がおらんとうまくいかんらしい。何度か試してみたが、知り合いがおらん場所には転移できんかった」
「そっか……残念」
ミミは肩を落としつつも、そのまま前を向いて歩き続ける。
そんな様子を見ていたリアナも、小さく息をついた。
「さすがに歩き続けると、汗がじっとりしてきますね……」
するとミミが、にやりと笑ってリアナを見上げた。
「リアナちゃんって、前回もそうだったけど……温泉に行きたすぎじゃない?」
「そ、そんなことありません! 全然です!」
リアナは慌てて首を振り、そのまま早口で続ける。
「ただ、この汗ばんだ身体をゆっくりお湯につけて、疲れが溶けていけば……その、とても気持ちが安らぐというか……!」
「ふふっ。じゃあ、とっても行きたいってことだね♪」
「……そうともいいます」
観念したように、リアナは小さくうなずいた。
「あっ、そうだ。前回はエリシアちゃんの背中を流してあげたけど……今回はリアナちゃんの背中、流してあげちゃおうかな?」
「えっ、いいんですか!?」
「もちろんだよ! リアナちゃんには、いつもお世話になってるからね」
「ということは、もちろんそのあと私がミミさんの背中を流してもいいってことですよね?」
「えっ、あっ、うん。もちろん……」
「ふふふっ……俄然、やる気が出てきました! 温泉!」
「いや、目的は泉の呪い解除なんじゃが……」
セイのもっともなツッコミは、盛り上がる二人の耳にはほとんど届いていなかった。
◇
歪みの泉。
森の木々を抜けた先、緩やかに開けた場所の中央に、青く澄んだ泉が広がっていた。
水面は静まり返り、不気味なほど凪いでいる。
「すごく久しぶりな気がします……」
エリシアが泉を見つめながら、ぽつりと呟く。
「まあ、実際かなり久しぶりじゃしのう」
「でも、あれから何も変わっていませんね」
そんなやり取りをしている間に、ミミが不用意に泉へ近づこうとする。
それに気づいたセイが、すぐに声をかけた。
「おい、ミミ。泉を覗き込むでないぞ」
「分かってるよ! 前みたいに……ひっかかったり……しない……よ」
言葉を濁しつつ、身体もどこか落ち着かない。
焦点の合わない瞳が、水面の揺らぎをじっと追っていた。
「ミミ、この泉……ずっとそばで見ていたいって……思うよ」
「――《状態異常回復》!」
やはり……と言わんばかりに、セイがすかさず状態異常回復を発動。
「あれ……? わたし……どうしたのかな? なんだか記憶がふわって飛んじゃってた気がする……」
ミミは戸惑い、きょろきょろと辺りを見回す。
(なんじゃ……このデジャブ。まったく同じ展開を見たことがあるぞい……)
セイは内心でそう呟き、つい小さくため息をついた。
静かな泉の水面が揺れ、森を吹き抜ける風がひんやりと頬を撫でる。
息を整え、覚悟を決めたようにエリシアが一歩前へ出た。
「準備、できました」
「よし。皆のもの、ここからは何が起こるか分からん。気を引き締めるぞ」
「「はいっ!」」
ミミとリアナが声を揃えて返事をする。
エリシアは目を閉じ、胸の前で手を合わせて祈り始めた。
白く淡い光が身体からあふれ出し、ゆっくりと彼女を包み込む。
「闇を払う聖なる光よ、穢れを祓い安らぎのもとへ。この泉に潜む呪いを浄化し、清らかな水を――」
祈りが続くにつれ、光はエリシアの身体から泉へ流れ込み、水面全体へと広がっていく。
そして光が泉を覆い尽くした瞬間、水面が激しくざわめいた。
澄み切っていた泉の底から黒い影が湧き上がり、不気味に揺らめきながら広がっていく。
「なにこれ? 泉が真っ黒だよ!」
ミミは思わず後ずさる。
リアナは剣を握り締め、警戒したまま泉を見据えた。
黒い影は水面から滲み出るように空中へ集まり、やがて人の形を成していく。
全身が闇でできたような、漆黒の人影だった。
「なんじゃ……あれが呪いの本体か?」
それでもエリシアは表情を変えず、静かに祈りを続ける。
「私を起こしたのは……お前たちか?」
地の底から響くような低い声。
セイは一歩前へ出て告げた。
「ああ。この泉に巣くう呪い――それを祓いに来た」
「面白いことを言う。お前たちが、私を祓えるとでも――」
その視線が、セイたちの背後へ向く。
祈り続けるエリシアの姿を捉えた瞬間、呪いの声が鋭く歪んだ。
「――そいつはっ!?」
次の瞬間、呪いは危険を察したかのように空高く跳び上がり、一直線にエリシアへ襲いかかった。
「ミミっ! エリシアに結界じゃ!」
「りょーかい! エリシアちゃんを守って――《防御結界》、ポンっ!」
呪いの爪が結界へ激しく叩きつけられる。
結界は攻撃を弾くものの衝撃に大きく揺れ、ひび割れそうな音を立てた。
呪いは怯むことなく、なおも攻撃を繰り返す。
「ダメ、あまり長く持たないよっ!」
ミミの叫びに応えるように、リアナが意識を集中させる。
全身から淡い光があふれ、握る剣の切っ先が白く輝いた。
「セイ! エリシアさんの祈りもそろそろよ! ここは私が抑えるから、いつでもブーストできるようお願い!」
「うむっ。頼んだ」
リアナは一気に踏み込み、閃光の斬撃を叩きつける。
白い光が弧を描き、呪いの身体を深く切り裂いた。
「邪魔をするな」
呪いは低く唸り、鋭い爪を横薙ぎに振るう。
リアナはとっさに後方へ跳んだものの、わずかに避けきれず、服が裂けて血が宙を舞った。
「リアナちゃんを癒して――《癒しの手》!」
ミミの回復魔法が光となって降り注ぎ、リアナの傷は瞬く間に塞がっていく。
「目障りだ」
呪いはミミへ手をかざし、低く呟いた。
「《惑心》」
ミミの瞳から焦点が消え、身体がふらりと揺れる。
「ミミ、しっかりしろっ!」
セイが叫ぶと同時に、リアナが呪いの背後へ回り込む。
雷をまとった剣が背中を一閃――しかし呪いは身を翻し、その斬撃をかわした。
「もういい。遊びはもう終わりだ」
呪いはそう言って両腕を広げる。
その頭上に、重く渦巻く巨大な闇が生まれ始めた。
――だが、その直前。
エリシアの祈りが結ばれる。
彼女を包んでいた光は、ゆっくりと胸の前へ収束していった。
「セイ! 今よ!」
「――《ホーリーブースト》」
その瞬間、収束した光が一気に輝きを増し、あたり一面を白い世界へと変えた。
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▼ステータス情報
【名前】セイ
【年齢】25(肉体年齢)
【職業】テンプレ詰め込み勇者
【レベル】49(+2)
【スキル】生活知識大全/魔法知識大全/世界法則書き換え/時間停止/魅了体質/無限成長/強制ハーレム誘導/おじいちゃんの優しさ(ヒロイン全員好感度+100)/威圧/加速支援/魔法適性鑑定/精霊感応/状態異常回復/索敵/ホーリーブースト/空間転移
【同行者】
・ミミ(記憶喪失の少女/推定15歳)
- 好感度:好き(空間転移したい)
- 能力傾向:回復系(第一段階覚醒済)/ヒーラー適性あり
- 状態:アストラクロスのローブを装備。結界魔法が想像以上に魔力を消費
- 補足:リアナに背中流されるのがちょっと恥ずかしいと思ってしまったのは秘密
・リアナ(元騎士団の見習い/19歳)
- 好感度:大好き(温泉の約束が嬉しい)
- 能力傾向:攻撃系(雷・風属性)/貫通・麻痺・加速タイプ
- 状態:シルクノートの胸当てを装備。横薙ぎでの傷は浅い
- 補足:今回もまた温泉が楽しみでしょうがない。それはもう隠しようがない
・エリシア(元聖女様/25歳)
- 好感度:けっこう高め(信頼がつよめ)
- 能力傾向:支援・結界・祈祷(神聖属性)
- 状態:アストラクロスのドレスを装備。祈りに全集中。精神的な疲労は考えられないほど大きい
- 補足:今回エリシアは呪いにかからなかった。呪い耐性が上がっているみたい
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