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第92話 水の精霊シュナ

 リアナは、ぼんやりとした意識のまま視線を巡らせた。

 木目の天井、何の装飾もない白い壁、窓辺から差し込むやわらかな光。


「……ところで、ここどこなの?」


 その瞬間、ミミがびしっと指を突きつける。


「あっ、リアナちゃん、話そらしたでしょ!」


「そらしてないです! 本気で分からなくて……」


「ルキア村の病院じゃ」


 セイが背筋を伸ばして答えた。


「おぬしは五日間、眠りっぱなしじゃったんじゃ」


「そんなに……」


「あのあと、巡礼者たちをベランドまで送り届けて、アルマと神父様に報告して……馬車を返しに行ったりもしてな。まあ、色々と大変じゃったんじゃぞ」


「……そっか……ごめん……」


 リアナは少し俯き、か細く呟く。


「何を言っとる」


 セイは即座に首を振った。


「そもそも、おぬしが蜜閃のやつらを止めてくれんかったら、誰一人ここへ戻って来られんかった。

 ……おぬしのおかげじゃ。ありがとう」


 リアナの頬から耳まで、一気に赤く染まる。


 そこへミミが割り込むように声を上げた。


「あーっ、またセイとリアナちゃんがいい雰囲気になろうとしてる!」


「もう、ミミさんうるさいです!」


 思わず強く言ってしまい、ミミがしゅんと肩を落とす。

 あまりにも分かりやすい落ち込みように、リアナははっとした。


「あっ、違います! ミミさんに言ったんじゃなくて……」


「……ほんとに?」


「ほんとです。ミミさんのことは、その――」


 そこへセイが、空気を読まずに口を挟む。


「いやいや、今たしかにミミさんって言っておったでは――」


 リアナは即座にキリッと睨みつける。

 それ以上、何も言わせないほどの圧だった。


「きらいになってない……?」


 服の裾をぎゅっとつかみ、すり寄ってきたミミの頭を優しく撫でる。


「……ごめんなさい。ミミさんのことは、大好きですよ」


「えへへ……わたしも大好き」


 すっかり機嫌を直したミミを見て、セイは小さく咳払いをした。


「あとはギルドへの報告がまだじゃったな。リアナが目を覚ましたら一緒に行こうと思っておったんじゃ」


 ◇


「お待ちしておりました、キラキラ☆おひさま団の皆さま!」


 ギルドの扉を開けると、いつも変わらぬ明るい声が響いた。

 カウンターの向こうでカレンが、にこやかに手を振っている。


 その視線がリアナに向き、表情がふっとやわらいだ。


「リアナさん。目を覚まされたと聞いて……よかったです、本当に」


 ほっと息をつくように言うと、カレンは手元の資料に目を落とした。


「ちょうど依頼主から、達成のご連絡が届いておりまして」


 カウンターの下から報酬の袋を取り出し、セイへと差し出す。


「こんなに良いのか?」


「はい。今回の依頼は遠方も遠方でしたから。距離手当も含めて、それなりの金額になっております」


「それはありがたい。道中、なにかと入用だったからのう……」


「水着とかね!」


 ミミの一言に、カレンが思わずくすりと笑う。


「なるほど……お楽しみもあったようですね」


「い、いや! 確かに水着も買うたが、出費のほんの一部じゃ!」


 セイは慌てて取り繕うように続けた。


「ほれ、ワシらの装備を見てくれ。出発前より、ずいぶんグレードアップしとろう?」


「いえ、責めているわけではありませんよ」


 カレンはやわらかく首を振る。


「長旅ですし、ずっと気を張り詰めてばかりでは、身がもちませんからね」


「でしょでしょ! カレンさんにも、あとで旅のお土産話してあげるね!」


「はい。楽しみにしています」


 そう答えてから、カレンは少し表情を引き締めた。


「では、改めまして。今回の件について、ギルドマスターがお話をしたいとのことです。応接室へお願いできますか?」


「うむ」


 カレンに案内され、一行はギルド奥の応接室へ向かう。


「いつ来ても重々しい部屋じゃのう……なんだか緊張するわい」


 セイがぼやきながら席につき、しばらく沈黙が流れる。


 やがて、扉が軽くノックされた。


「失礼します――おかえりなさい、皆さん。ご無事で何よりです」


 入ってきたアルトは、一人ひとりの顔を確かめるように見渡し、安堵したように微笑んだ。


 アルトも席につき、軽く近況を確認したところで本題に入る。


 セイは今回の旅での出来事や現地の様子、失踪事件の原因などを一通り説明した。


「……というわけで、失踪事件の原因は、空間ごと転移された水の祠じゃったというわけじゃ」


「なるほど。つまりセイさんたちは、転移先で水の大精霊様に守られていた賢者のカケラを手に入れた、ということですね」


「そういうわけじゃ……」


 セイは短く頷く。


「では今回は、エリシアさんがカケラの力を得たということですね」


 アルトの視線がゆっくりとエリシアへ向けられた。


「はい……私自身、このチカラには驚いています。あまりに強くて、魔力のほうが追いつかなくて……」


 それを受け、セイが改めて口を開く。


「じゃがな。賢者のカケラを三つ集めたところで、それをどうやって賢者の石にするのか、さっぱり分からんのじゃ」


「途中で大地の大精霊さまも、変なことを言ってたよね? わたしたちが、賢者の石が何でできているのかを知らないって……」


 ミミが思い出すように口を挟んだ。


 アルトは眉間にしわを寄せ、しばらく考え込む。


「伝承によれば、『賢者の石』とは、古の時代に精霊たちが鍛え上げた、あらゆる理を束ねる源――そう語られています。ただ、それが事実かどうかは分かりませんし……仮に事実だとしても、賢者のカケラから賢者の石へ至る方法は皆目見当がつきません」


「……カケラを集めるだけでは、足りんということか……?」


 セイの低い呟きに、アルトは静かに頷いた。


「はい。おそらくは、何らかの『条件』があるのではないかと」


「となると――やはり大精霊に直接聞くほかなさそうじゃのう」


 セイは三人の顔を順に見渡す。


「ミミ、リアナ、エリシア。そこに並んでくれ」


「うん」


 三人は立ち上がり、セイの前に一列に並んだ。


「よし……では、大精霊を呼び出すぞ」


 セイは三人へ両手をかざす。


「――スキル《精霊感応》」


 次の瞬間、三人の身体から淡い光がじわりと滲み出す。それはやさしく脈打ちながら立ちのぼり、頭上で溶け合うように寄り添い、やがて柔らかな粒子の塊となった。


 ほどなくして、それは三つの小さな人影を形作る。


 ミミの頭上には、大地の大精霊ミュル。

 リアナの頭上には、光の大精霊リュア。

 エリシアの頭上には、姿は幼いながらも祈る女神を思わせる慈しい姿――水の大精霊シュナ。


「こんにちは」


 シュナが優しく微笑む。


「また呼び出してくれたんだね!」


 ミュルが元気に声を上げる。


「三つのチカラを揃えられたんですね」


 リュアが凛として言う。


 ミュルとリュアがふわりとシュナの方へ寄っていく。シュナはふたりを見つめ、にこりと笑った。


 シュナの隣に並んだところで、シュナが柔らかな声で告げる。


「勇者セイ……お久しぶりですね」


「うん? おぬしと会うのは初めてのはずじゃが……」


 セイが首を傾げると、ミュルがシュナに小声で耳打ちした。


「そうでしたか。記憶を……」


 シュナは続ける。


「勇者セイ。ボクたちとあなたは、五百年前に一度会っています」


「うん? どういうことじゃ? 以前もそっちの大精霊も面識があるようなことを言っておったが……

 ワシはまだ、あっちの世界――元の世界の年齢を足しても百歳ほどじゃぞ!?」


 セイの眉がぴくりと跳ね、思わず声が大きくなる。


 ずっと静かに聞いていたアルトが身を乗り出した。


「大精霊様、どういうことでしょうか?」


 リアナが息を呑む。


「勇者セイは、五百年前、賢者の石で魔王を封印した勇者本人です」


 シュナが落ち着いた声で告げる。


「勇者セイはね、もともとこっちの世界の人じゃないんだよ。神様に選ばれて、この世界を正しく導くために呼ばれてるんだ」


 ミュルが言う。


 アルトは驚きと納得の入り混じった顔でセイを見つめた。


「うむ……そういえば、旅立つ前にそこまでは伝えておらんかったのう」


 セイはシュナに視線を戻す。


「じゃが、さっきも言ったが、ワシは元の世界での年齢を加えてもまだ百歳ほどじゃ。とても五百年前に勇者をしておったとは思えんが」


「勇者セイ。キミは選ばれて、この世界の必要な時代に呼ばれた。だから、時間なんてここでは些細なことなんです」


 リュアが静かに言った。


「うーむ……ますます頭が混乱してきたわい」


 リアナがセイの横に駆け寄り、軽く肩を揺らす。


「いいじゃない。セイはセイなんだから、昔の記憶を無理に思い出さなくても……」


「セイってば、本物の勇者さまだったんだ!」


「やはり、セイさんはすごいです」


 ミミは目を輝かせ、エリシアは納得したように頷いた。


 セイはゆっくりと状況を整理し始める。


「もしワシがその五百年前の勇者で、当時の記憶を忘れとるとしたら……今まで都合よく思い出していたと思っておったスキルは、一体……」


「覚えてたんじゃなくて、思い出してたんだね」


 ミュルが少し笑みを浮かべて言った。


「確かに、そう考えると都合がええ。いつもここぞというところで出てくるタイミングが良すぎるわけじゃ」


 一呼吸置いて、セイはさらに考え込む。


「じゃが、五百年前から現在まで、ワシは一体どこで何をしておったんじゃ?」


「あなたの世界に戻っていた……そして今、またあなたが必要な時代となった、ということです」


 シュナの言葉に、空気が少しだけ引き締まった。


「なるほど……五百年前に封印された魔族、ダルセナも、ワシに会ったことがあると言っておったな。確か、『もうお帰りになったものと……』とも言っておった」


 セイははっと顔を上げる。


「もしかして――元の世界へ戻る道も、あるということか……」


────────────────

▼ステータス情報


【名前】セイ

【年齢】25(肉体年齢)

【職業】テンプレ詰め込み勇者

【レベル】47

【スキル】生活知識大全/魔法知識大全/世界法則書き換え/時間停止/魅了体質/無限成長/強制ハーレム誘導/おじいちゃんの優しさ(ヒロイン全員好感度+100)/威圧/加速支援/魔法適性鑑定/精霊感応/状態異常回復/索敵/ホーリーブースト/空間転移


【同行者】

・ミミ(記憶喪失の少女/推定15歳)

 - 好感度:好き(本当の勇者だったと心躍らせる)

 - 能力傾向:回復系(第一段階覚醒済)/ヒーラー適性あり

 - 状態:アストラクロスのローブを装備。ここ数日は家でしっかり寝ていたから体力はばっちり

 - 補足:なんだか難しい話になってきて実は話についていけていない


・リアナ(元騎士団の見習い/19歳)

 - 好感度:大好き(セイの感謝の言葉が素直に嬉しい)

 - 能力傾向:攻撃系(雷・風属性)/貫通・麻痺・加速タイプ

 - 状態:シルクノートの胸当てを装備。意識ははっきりしてきて、身体もまあ動かせる程度に回復

 - 補足:セイが元の世界に戻ってしまうかもとの不安が張り裂けそう


・エリシア(元聖女様/25歳)

 - 好感度:けっこう高め(本当の勇者だったことに納得)

 - 能力傾向:支援・結界・祈祷(神聖属性)

 - 状態:アストラクロスのドレスを装備。ここ数日は家で休養していたから体力はばっちり

 - 補足:自分の力が必要とされることを実感し、居場所があることが嬉しい

ここまで読んでいただきありがとうございます!

「面白い」「続きが気になる」と思っていただけましたら、下の【☆☆☆☆☆】やブックマーク、ご感想にて応援いただけると、泣いて喜びます。

次の話もぜひぜひ、よろしくお願いします^^

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