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第88話 廃都エルディア

 シルヴェリオン地方大森林から転移した先――城の見える平原。


 セイたちが周囲の様子を確かめていると、草を踏み分ける音が近づいてきた。


「巡礼者の方ですか?」


 声をかけてきたのは、四十代ほどの男が二人。

 巡礼者らしい装いをしているが、その表情にはわずかな疲労がにじんでいる。


「ああ。水の精霊の祠に来たつもりだったんじゃが、気づけばここにおった」


 セイが答えると、二人は顔を見合わせた。


「やはりそうでしたか……。私はラグスと申します。こっちはフェインです。私たちも同じく祠に立ち寄ろうとしたところ、ここに飛ばされました」


 フェインが低い声で続ける。


「この転移はどうやら一方通行みたいでな。しかも、ここがどこなのかも分からないし、帰り方もまだ分かっていない」


 セイは小さく頷いた。


「なるほどのう。ワシらの他にも、飛ばされてきた者はおるのか?」


「はい」


 ラグスが頷く。


「丘の向こうに、今は捨てられた町があります。皆、そこで身を寄せ合って生活しています」


「うむ。失踪事件の原因は、この転移で間違いなさそうじゃな」


「ええ……。もう日も暮れます。皆さんも一度、そちらへ来てください」


 フェインは少しためらうように続けた。


「夜になると、魔物たちが祠に集まっているみたいだ……。何をしているかは分からないが、このままここにいるのは危険なんだよ」


 そう促され、セイたちは案内に従うことにした。


 道中、歩きながらセイが尋ねる。


「おぬしらは、あそこで何をしておったんじゃ?」


「最近は少なくなりましたが、あなたたちのように転移してきた人たちを案内するため、定期的に祠の様子を見に来ているんです」


「生活するにも人手が必要だからな。まあ、元の場所へ帰るための協力者集めってところさ」


 そうして話しているうちに丘を越え、その先に町の姿が見えてきた。


 古びた街並みと建物が並ぶ、静まり返った町。

 入口の門には、かすれた文字でこう刻まれていた。


 ――エルディア。


「ああ……町の名前みたいですね」


 ラグスが城の方を見上げる。


「昔は、あのお城を訪れる貴族や商人で、かなり賑わっていたようです」


「捨てられた町と言っておったが……古い造りのわりに、建物はずいぶんきれいじゃのう」


 周囲を見回しながら、セイが率直な疑問を口にする。


「そうなんだよ。だから俺たちも最初は町の人を探しまくった。でも、どこにも誰もいなくてさ……」


 フェインが苦笑し、ラグスが補足する。


「町の記録を調べた限りでは、二千年前に何かが起きたようなんです」


「二千年前じゃと!? これらが二千年前の建物じゃというのか?」


 セイは思わず声を上げた。


「……私どもに言われましても。

 町役場のような建物に残されていた記録から、そう推測しているだけです」


「うっ……すまんすまん。あまりにも現実離れした話じゃったからのう」


 セイは気まずそうに頭をかき、再び町並みへ視線を向けた。


「もうへとへと……」


 その空気を断ち切るように、ミミがその場にぺたんと座り込む。


「あっ、そうですよね」


 ラグスは我に返ったように言った。


「空いている家なら自由に使ってください。……もっとも、私が言うのも変な話ですが」


 そう言われ、セイたちは町の中を見渡した。

 比較的状態の良い建物を選び、今日のところはそこで休むことにする。

 荷物を置き、それぞれが一夜を過ごす準備に取りかかった。


 ◇


 その夜。


「とりあえず、原因は分かった……。じゃが、問題はどうやって解決するかじゃな」


 セイが腕を組んで唸る。


「ここがどこなのかも分からない以上、動きようがありませんしね」


 エリシアも静かにうなずいた。


「まあ、まずは先にこっちの用件を済ませてしまおう」


 セイはそう言って皆を見回す。


「そうですね。水の大精霊様……。上手くいけば、これで三つのカケラが揃うんですね」


 エリシアの声には、わずかな不安が混じっていた。


「ああ、その通りじゃ。明日の朝、もう一度祠へ向かおう」


「いつも守護してる怪物がいるから、ちゃんと気をつけないとね」


 ミミが指を立てる。


「そうですね……前回はひどい目に遭いましたし」


 リアナも苦笑しながら同意した。


 話がひと段落し、明日に備えて休もうという空気が広がる。


 ミミは片腕を上に伸ばし、もう片方の手で支えながらぐっと背中を反らした。


「じゃあ、おやすみー」


 そう言うなり、すぽんと寝袋へ潜り込む。


 その様子につられるように皆も寝袋へ入り、やがて建物の中は静寂に包まれた。


 ◇


 ふと目を覚ましたリアナは、隣にいるはずのミミの姿がないことに気づいた。


「……ミミさん?」


 気になって寝袋からもぞもぞと抜け出し、周囲を見渡す。

 建物の中を探してみるが、どこにも姿は見当たらなかった。


「外……かな?」


 小さく呟き、身なりを整えてから外へ出る。


 ミミを探してしばらく歩いたところで、リアナはようやく気づいた。

 自分が今、夜の廃墟を一人で歩いていることに。


「思わず外へ出ちゃったけど、暗くて怖すぎるよー……」


 そう口にしながらも足は止めず、周囲へ視線を巡らせる。


「ミミさーん。早く出てきて……」


 少し先。


 町の中央と思われる場所にある、噴水だったであろう石造りの跡の前。


 ミミがぼんやりと空を見上げていた。


 その姿を見つけ、リアナは胸をなで下ろしながら駆け寄る。


「ミミさん。どうしたんですか? 心配しましたよ」


「あっ、リアナちゃん。ごめんごめん。なんだかさ、ちょっと昔を思い出せそうだったから」


「そういえば、転移した直後に、この景色を見たことがあるって言ってましたね」


「うん。お城も見えるし……。あのお城って、どこのお城なんだろうね?」


「うーん。今は何とも。

 とにかく戻りましょう。夜はさすがに冷えますし」


「そうだね。ありがと、リアナちゃん」


「どういたしまして」


 歩き出そうとしたところで、ミミがくいっと距離を詰めた。


「お礼に今日はさ、ギュッてしながら寝てあげよっか?」


「えっ……い、いやいや、別にそんなことしなくていいです! ……って、近いですミミさん!」


 リアナは頬を赤くして慌てる。


「ふーん。そうだよね」


 ミミは少しだけ身を引き、にやりと笑った。


「リアナちゃんは、セイにギュッてしてもらいたいんだもんね?」


「ちょ、ちょっとミミさん! 怒りますよ!」


「わー、リアナちゃんこわーい」


 軽口を叩き合いながら、二人は寝床にしている建物へ戻った。


 横になってしばらくした頃、ミミがぽつりと呟く。


「でもさ、二千年前にみんないなくなったってことは、ここがわたしの記憶にどれだけ似てても、やっぱり違う場所なんだよね?」


「そうですよね……。ミミさん、実は二千十五歳なんじゃないですか?」


「へへへっ。リアナちゃんも冗談がうまくなったね」


「い、いえ……今のは、その……冗談……です」


 リアナは顔を赤くする。


 ミミはしばらく見つめたあと、くすっと笑った。


「リアナちゃんって、結構天然だよね?」


「ミミさんだけには言われたくありません!」


 小さな笑い声が重なり、夜はゆっくりと更けていった。


 ◇ ◇ ◇


 翌朝。


 セイはラグスとフェインに一言断りを入れ、ミミ、リアナ、エリシアを連れて祠へ向かった。


 大森林の中にあったはずの祠が、今は見渡す限りの大草原の中にある。

 改めて見ると、そこだけが周囲から切り離されたような異質さを放っていた。


「ねえ、セイ……。前回みたいなことがあるかもしれないしさ……あれ使ってみてよ」


 リアナが不安そうにセイの袖を引く。


「ああ、索敵か。……分かった。《索敵》」


 セイは意識を研ぎ澄ませた。

 しかし、どれだけ待っても警告らしき反応は現れない。


「……いや、何の反応もないな。鍵も開いておるようじゃし、とりあえず入ってみよう」


 セイが扉に手をかけると、ギシギシと軋む音を立てて開いた。


「一応、警戒は怠るなよ」


 そう告げて中へ入る。

 だが、その警戒とは裏腹に何事も起こらなかった。


「何も起きないなら、それに越したことはないけど……ちょっと肩透かしだね」


 ミミが拍子抜けしたように言う。


 室内の中央には石の台座があり、その上に細長い古びた箱が一つ置かれていた。


「……おそらく、この中にカケラがあるのでしょう」


 エリシアがそう口にした直後、ミミはためらいなく箱へ手を伸ばし、蓋を開けた。


「ちょっと、ミミさん! またそんな不用意なことを――」


 リアナの制止も間に合わず、中身が姿を現す。


「でもさ、全然大丈夫っぽいよ! ほら!」


 ミミが取り出したのは、魔法使いが使うような小さな杖だった。


「前回もそうじゃったが、おそらく選ばれた者――今回はエリシアが触れんことには、何も起こらんのじゃろう」


「そっか。じゃあ、はいっ! エリシアちゃん!」


 差し出され、エリシアは少しためらいながらも杖へ手を伸ばす。


 触れた瞬間、杖からまばゆい光が溢れ出した。


 光は室内を満たし、やがてエリシアを中心に収束していく。


「エリシアちゃん、大丈夫?」


 覗き込むミミに、エリシアは小さくうなずいた。


「少し驚きましたが……たぶん大丈夫です」


「痛いところは?」


「ありません。ただ……頭の奥で、小さく何かが響いているような感覚があって……」


「それ、大精霊様だよ。わたしも最初は同じだったもん」


 ミミの言葉に、エリシアは自分の両手を見つめる。


「……リアナさんの時みたいに、私も何か力に目覚めたのでしょうか?」


 問いかけるような声に、セイが首を傾げた。


「何か変わった感覚はないかのう。魔法が使えそうとか、身体が軽くなったとか」


「いえ。とくには……」


「そうか……。まあ、エリシアは元から魔法を扱えたしのう。

 いずれにせよ、今回は思ったよりもすんなり済んでよかったわい。ひとまず町に戻るとしよう」


 そう言って祠の外へ出た、その時だった。


 草原を渡っていた風が止まり、代わりに甘ったるい匂いが鼻を突く。

 視界の端で、淡い粉のようなものが舞った。


 次の瞬間、祠の前に、人影が立っていた。


 ――蝶を思わせる巨大な翅を背に持つ、人型の魔物。


 翅がわずかに震え、鱗粉が空気に散る。


「……誰だ、お前たちは」


────────────────────────

▼ステータス情報


【名前】セイ

【年齢】25(肉体年齢)

【職業】テンプレ詰め込み勇者

【レベル】41

【スキル】生活知識大全/魔法知識大全/世界法則書き換え/時間停止/魅了体質/無限成長/強制ハーレム誘導/おじいちゃんの優しさ(ヒロイン全員好感度+100)/威圧/加速支援/魔法適性鑑定/精霊感応/状態異常回復/索敵/ホーリーブースト


【同行者】

 ・ミミ(記憶喪失の少女/推定15歳)

 - 好感度:好き

 - 能力傾向:回復系(第一段階覚醒済)/ヒーラー適性あり

 - 状態:アストラクロスのローブを装備。今回も歩きっぱなしで疲労こんぱい

 - 補足:思い出せそうで思い出せない、あのモヤモヤ感に悩まされてる


 ・リアナ(元騎士団の見習い/19歳)

 - 好感度:好き(本当はセイにギュってしてもらいたい)

 - 能力傾向:攻撃系(雷・風属性)/貫通・麻痺・加速タイプ

 - 状態:シルクノートの胸当てを装備。ミミを探して夜の廃墟を歩き精神的に疲労

 - 補足:実はミミ以上に天然であることが判明


 ・エリシア(元聖女様/25歳)

 - 好感度:けっこう高め

 - 能力傾向:支援・結界・祈祷(神聖属性)

 - 状態:アストラクロスのドレスを装備。歩き詰めではあるけど、全然体力的には問題無し

 - 補足:宿り木になることに少し不安。でも身体の変化ないのも不安

ここまで読んでいただきありがとうございます!

「面白い」「続きが気になる」と思っていただけましたら、下の【☆☆☆☆☆】やブックマーク、ご感想にて応援いただけると、泣いて喜びます。

次の話もぜひぜひ、よろしくお願いします^^

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