第87話 見たことある景色
大森林の中にある町べランド――その教会。
事情を聞き終えた神父は、小さく息を吐き、静かに頷いた。
「……なるほど。それでしたら、神殿へ向かう道中に、水の精霊を祀る祠がございます」
その言葉に、一行の視線が集まる。
「巡礼者の方々の中でも、とりわけ水に恵まれない地方から来られた者たちは、神殿へ向かう前に必ずその祠へ立ち寄るのだと聞いております。旅の無事と、水の加護を願うための場所だそうです」
「……何たる不覚」
セイは深く息を吐き、腕を組んだ。
「それを先に聞いておれば、無駄な遠回りはせずに済んだものを。まったく、ワシもまだまだ抜けておるのう」
すぐに神父へ向き直る。
「神父よ。その祠の場所は分かるか?」
「はい。べランドと神殿の、ちょうど中ほどにあたります。神殿への道標が立っている場所があるのですが、その近くに、よく見れば獣道のような細い小道がありまして、そこを少し進むと祠があるはずです」
「そんな道、あったかのう?」
セイは首を傾げる。記憶の中をざっと探ってみたが、それらしい小道の気配はなかった。
「獣道ですので」
神父は苦笑した。
「巡礼者が多かった頃は、人々が踏みしめて自然と道になっていたそうですが……今では、おそらく草に隠れているでしょう」
「……なるほどのう。了解した」
短くそう答え、セイは立ち上がる。
「今日はもう遅い。今夜は宿を取るとしよう。明日の朝、改めてその場所を見に行く」
教会をあとにした一行は、べランドで宿を取り、ひと晩を過ごした。
◇
翌朝。
澄んだ空気の中、森は朝露を含み、しっとりと静まり返っていた。
神殿へ向かう道を進む一行の頭上では、今日も小さな影が行き交っている。
「……今日もリトルデーモンの監視は健在じゃな」
枝葉の隙間を縫って飛ぶ気配を感じ取り、セイが低く呟いた。
「まあ、これならアルマに勝手に報告してくれるから楽じゃわい」
やがて、一行は道標の立つ場所へと辿り着く。
そこから先は、今は人の通らぬ森の奥。踏み分けられた形跡はほとんどなく、伸び放題の草と絡み合う枝が行く手を塞いでいた。
「よし。行くぞ」
迷いなく言うセイに、ミミが思わず声を上げる。
「えっ、ちょっと待って! ここ道なんてないじゃん! ていうかこれ、入っていいやつ?」
「……確かに、これはちょっと、勇気がいるわね」
リアナも思わず周囲を見回した。
足元の草は膝丈まで伸び、絡み合う枝はまるで侵入者を拒むかのように密集している。
「ええい。ワシが先頭で道を作るから、おぬしらはついてくればええ。大事なもんは身体の前に庇っとけよ」
そう言うが早いか、セイは草を踏みしめ、枝を払いながら森へと踏み込んでいく。
湿った草が足元に絡みつき、細い枝が腕や肩をかすめた。
「うぅ……草がびちゃびちゃするし枝が当たるし……もうへとへとだよ……」
少し進んだところで、ミミが肩を落としてぼやいた。
朝から元気に騒いでいたわりに、消耗が顔に出るのが早い。
「ここまで来ても……祠らしいものは見当たりませんね」
リアナは周囲を見渡し、小さく首を傾げる。
「……皆さん、少し待ってください」
エリシアが静かに足を止め、一歩だけ前へ出た。視線を細め、ある一点を見つめている。
「あそこの空間――不自然です。よく観察すると、わずかに歪んでいます。草木の輪郭が、そこだけ噛み合っていない」
示された先には、確かに何かがあった。背景と馴染まない揺らぎ。
焦点を合わせようとすると、するりと逃げていく。
「なるほどのう……」
セイは目を細めた。言われてみれば分かる。だが言われなければ、おそらく素通りしていた。
「ここが、本来祠があった場所というわけじゃな」
「じゃあ、あそこに入ったら、どこかに飛ばされるってこと?」
ミミが興味深そうに身を乗り出す。疲労はどこへやら、目がきらきらしていた。
「はい。転移魔法に近いものだと思います」
エリシアが静かに答える。
「……私、転移魔法って知識としては知っていますが、見たことなくて……。正直、少し怖いです」
リアナはそう言って、胸の前で手を軽く握りしめた。
声は落ち着いているが、指先が微かに白くなっている。
「わたしもー! でも、なんか……すっごくわくわくする!」
ミミはそう言いながらも、もう半歩前に出ていた。
「では、行ってみるかの?」
セイが一歩、歪みへと足を踏み出しながら、振り返る。
「どこへ飛ばされるかは……お楽しみじゃ」
次の瞬間、視界が引き延ばされるように歪んだ。足元の感覚が消え、重さも方向も失われ、身体が空間に溶け込んでいく。
――そして。
再び目を開けたとき、セイは草原の真ん中に立っていた。
どこまでも続く緑の大地。穏やかな風が草を揺らし、遠くには水辺がきらめいている。そのさらに奥、小高い丘の上には、城のような建物の影が見えた。
少し遅れて、リアナ、エリシア、ミミが姿を現す。
背後を振り返ると――
草原の一角に、周囲から切り離されたかのように、水の精霊を祀る祠がぽつんと建っていた。
「……どこじゃ、ここは?」
セイは眉をひそめ、改めて周囲を見渡した。
「平和そうな風景だけど……静かすぎて、なんだか不安になるわ」
背後から、リアナが小さく続ける。
「うん。でも――なんだか、ここ……見たことある気がする」
ミミは首を傾げながら、草原の先へと視線を巡らせた。
一行がその風景に見入っていると――
ざくり、と草を踏みしめる足音が、静かな草原に響いた。
反射的に身構えた一行の前に、人影が現れる。旅装に身を包んだ男が二人。こちらを警戒しながらも、声をかけてきた。
「巡礼者の方ですか?」
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▼ステータス情報
【名前】セイ
【年齢】25(肉体年齢)
【職業】テンプレ詰め込み勇者
【レベル】41
【スキル】生活知識大全/魔法知識大全/世界法則書き換え/時間停止/魅了体質/無限成長/強制ハーレム誘導/おじいちゃんの優しさ(ヒロイン全員好感度+100)/威圧/加速支援/魔法適性鑑定/精霊感応/状態異常回復/索敵/ホーリーブースト
【同行者】
・ミミ(記憶喪失の少女/推定15歳)
- 好感度:好き
- 能力傾向:回復系(第一段階覚醒済)/ヒーラー適性あり
- 状態:アストラクロスのローブを装備。草や枝に散々絡まれて少し疲労
- 補足:転移されるのってどんなんだろうとワクワクしていた
・リアナ(元騎士団の見習い/19歳)
- 好感度:好き
- 能力傾向:攻撃系(雷・風属性)/貫通・麻痺・加速タイプ
- 状態:シルクノートの胸当てを装備。転移されるのが怖すぎて精神的な疲労が目立つ
- 補足:いざ転移されてみると、意外と平気だったしちょっと楽しかった
・エリシア(元聖女様/25歳)
- 好感度:けっこう高め
- 能力傾向:支援・結界・祈祷(神聖属性)
- 状態:アストラクロスのドレスを装備。体調・集中力ともに万全
- 補足:はしゃぎこそしなかったが、初めての転移にドキドキしてた
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