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第84話 エリシアの村

 シルヴェリオン地方大森林の中――アルマの神殿。


 その厳かな神殿を後にして、しばらく。

 一行は巡礼路を引き返しながら、木漏れ日の落ちる森の中を黙々と歩いていた。


 先頭を歩くミミが、ふと振り返って首を傾げる。


「いきなりで驚いちゃったけどさ……悪魔って、魔族とはまた違うの?」


 エリシアは視線を落とし、少し考えてから答えた。


「はい。魔族やエルフ、私たち人間やドワーフも……種別は違っても、根本は『人』なんです。

 ですが、悪魔は違います。彼らは人々の恐怖や畏れ——その感情そのものから生まれた存在なんです」


「へえ……」


 リアナが興味深そうに腕を組む。


「でも、神様として崇められているんですよね? だとしたら、少なくともここにいた人たちにとっては、悪い存在じゃないってことですよね?」


「分かりません。ただ……少なくとも今のところは、命の神として信じる人々を守っているように見えました」


 ミミが唇を尖らせ、うーん、と頭をひねる。


「でもさ、もしアルマ様が悪魔なんだとしたら――巡礼者がいなくなった原因も、アルマ様にあるんじゃないかな?」


 一瞬、空気が張り詰めた。


「いいえ、それは考えづらいです」


 エリシアは、はっきりと否定した。


「人々の恐怖や畏れから生まれたということは、人々の意思に自分が存在している必要があります。自分を崇める者を消すとは考えにくいでしょう」


「……なるほどな」


 セイが低く唸り、横目でエリシアを見た。


「ところで——どうしてあれが悪魔だと分かった?」


 エリシアの足が、わずかに止まる。

 視線を伏せ、言葉を選ぶように間を置いてから、口を開いた。


「過去に一度だけ会ったことがあります。別の悪魔ですが……あのまがまがしい雰囲気。まったく一緒でした」


 彼女の脳裏に、かつての光景が蘇る。


「あれは……私がまだ、四歳か五歳のころのことです」


 ◇ ◇ ◇


「エリシア、今日も教会にお祈りに行くの?」


「おはよう! お母さん。今日もお祈りして、お母さんの病気が早くよくなるようにお願いするの」


「ふふ、気持ちは嬉しいけど、無理はしないでね。あ、そうだわ。お父さんが畑から持ってきたお野菜、少し余っているの。持てる分だけでいいから、持っていってくれる?」


「分かった! じゃあ行ってくるね!」


「気を付けてね。教会のみんなで食べてねって、ちゃんと伝えるのよ」


 小さな両腕いっぱいに、瑞々しい大ぶりの野菜を抱えて、エリシアは家を飛び出した。


「おはよう、ラウル!」


「おはようエリシア。今日も朝からお祈りか。感心だな」


「えへへ。えらいでしょ」


「うんうん。神父様はもう中にいるよ」


 ラウルが扉を開ける。

 エリシアは両手の野菜を落とさないよう胸に寄せながら、ぺこりと頭を下げた。


「おはようございます、神父様!」


 礼拝堂の奥から、年配の神父がゆっくりと振り返り、目を細めた。


「おはよう、エリシア。今日も早いね」


「これ、お父さんの畑のお野菜。みんなで食べてって」


「いつもありがとうエリシア。お父さん、お母さんにもよろしく伝えておいてください」


「うん!」


 ◇


「当時、大陸西部は大きな飢饉に見舞われていました」


 並んで歩くリアナが記憶を呼び起こすように頷いた。


「聞いたことあります。確か二十年ほど前……大陸の西部一帯が食糧難に陥ったって」


「はい。あの頃の西部は、食料の大半を南部からの流通に頼っていました。それが止まった途端、急激に困窮したそうです。食料は高騰し、やがてお金を出しても買えなくなった。人々は日ごとに痩せ細り、町を捨てる者も少なくありませんでした」


 森を渡る風が、木々をざわりと揺らす。


「ただ、私の村は人里から離れていました。畑を耕し、家畜を育て、自分たちで食べる分は自分たちで賄う。だから飢饉の中でも、村人が生きていける程度の食料は確保できていたんです」


 ミミがほっと胸をなでおろし、小さく息を吐いた。


「じゃあ……エリシアちゃんの村は、助かったんだね」


「ええ。――少なくとも、その時点では」


 ◇


 始まりは、ある、ありふれた朝のことだった。


「なあ、エリシア。ここに置いておいた野菜、どこにやったか知らないか?」


 畑仕事の支度をしながら、父が首をひねった。


「知らないよ。お父さんが夜中に食べちゃったんじゃないの?」


「そんなわけないだろ。……まあいい、勘違いか。ただ、今日は教会に持っていく分がないな」


 その日を境に、村の空気が少しずつ変わり始めた。


 最初はエリシアの家だけだった。

 確かに収穫し、保管しておいたはずの作物が、不自然に減っている。


「……また、なくなっているわ」


 母が納屋を覗き込み、息を呑む。


「数を間違えたんじゃないか?」


「……いいえ。昨日、ちゃんと数えたわ。間違いない」


 そんなやり取りが、何度か繰り返された。


 やがて、他の家でも同じことが起きていると分かる。


「うちもだ」

「昨日までは、確かにあったんだぞ」


 畑や納屋から、少しずつ、しかし確実に食料が消えていった。


 そして、教会に集まる子供たちの顔から元気が失われ、空腹を訴える日も増えていった。


「……今日は、パンはないの?」


「ごめんね。今日は、少しだけ、少しだけ我慢しましょう」


 神父の顔にも、隠しきれない疲労と困惑が浮かんでいた。


 事態を重く見た村人たちは話し合い、見回りを強化することを決めた。


「身内の仕業だとは思いたくないが、放っておけない」

「夜通しで、交代で見張りを立てよう」


 そして、張り詰めた緊張の中で迎えた、ある早朝のこと。

 静まり返った作物置き場から、ガサリ、とかすかな布擦れの音が響いた。


「——今だ」


 合図とともに、見張りに立っていた村人たちが一斉に飛び出す。


「動くな!」


 捕らえられたのは、ラウルだった。


「ち、違う……これは……」


 抱えていた袋の中から、見慣れた村の作物がゴロゴロと転がり落ちた。


 ラウルは盗んだ作物を丘の向こうの町へ運び、高値で売っていた。金を貯め、いずれ村を出て裕福に暮らす——そんな未来を思い描きながら。


 ラウルは村の小屋に閉じ込められ、神父と村人たちによる話し合いが持たれた。


「すべては私の……私の監督不行き届きです」


 神父は声を震わせ、深く頭を下げた。


「彼は悪い子ではありません。ただ……」


 神父の願いもあり、処分はいったん保留された。数日間、小屋に閉じ込めたまま様子を見ることになる。


「改心してくれれば、よいのですが……」


 しかし、それで終わりではなかった。


 ラウルが作物を運んでいた先を辿り、町の人間が村の存在に気づいたのだった。


────────────────────────

▼ステータス情報


【名前】セイ

【年齢】25(肉体年齢)

【職業】テンプレ詰め込み勇者

【レベル】41

【スキル】生活知識大全/魔法知識大全/世界法則書き換え/時間停止/魅了体質/無限成長/強制ハーレム誘導/おじいちゃんの優しさ(ヒロイン全員好感度+100)/威圧/加速支援/魔法適性鑑定/精霊感応/状態異常回復/索敵/ホーリーブースト


【同行者】

・ミミ(記憶喪失の少女/推定15歳)

 - 好感度:好き

 - 能力傾向:回復系(第一段階覚醒済)/ヒーラー適性あり

 - 状態:アストラクロスのローブを装備。体力はばっちり

 - 補足:急に語り出したエリシアの過去に興味津々


・リアナ(元騎士団の見習い/19歳)

 - 好感度:好き

 - 能力傾向:攻撃系(雷・風属性)/貫通・麻痺・加速タイプ

 - 状態:シルクノートの胸当てを装備。体力はばっちり

 - 補足:やっぱり悪魔の存在がいまいち理解できていないみたい


・エリシア(元聖女様/25歳)

 - 好感度:けっこう高め

 - 能力傾向:支援・結界・祈祷(神聖属性)

 - 状態:アストラクロスのドレスを装備。体力はばっちり

 - 補足:アルマに会ったことで、過去のつらい記憶を思い起こす

ここまで読んでいただきありがとうございます!

「面白い」「続きが気になる」と思っていただけましたら、下の【☆☆☆☆☆】やブックマーク、ご感想にて応援いただけると、泣いて喜びます。

次の話もぜひぜひ、よろしくお願いします^^

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