第83話 命の神アルマ
深い緑に囲まれた森を抜けると、視界が一気に開けた。
大森林に抱かれた町――ベランド。
森の中にあるにもかかわらず、道はきれいな石畳で整えられている。正面には白い壁の大きな教会がそびえ、その周囲には巡礼者を迎える宿がいくつも並んでいた。どの建物も丁寧に手入れされており、町全体に落ち着いた品格が感じられる。
「……森の中の町とは思えんのう」
セイが率直な感想を漏らした。
「うん。もっと小さな集落だと思ってた」
ミミも目を丸くしながら周囲を見回す。
「巡礼の最終地点ですものね。アルマ様を祀る町として、それなりの格式があるのでしょう」
エリシアも想像以上だったのか、その風景にしばし見とれている。
ただ、人影は多くない。
巡礼者で賑わっていた名残はあるものの、町全体は不思議なほど静かだった。
そんな中、装備を整えたセイたちはやはり目立つらしい。町の人々の視線が自然と集まってくる。
「巡礼者の方でしょうか? それとも冒険者です?」
「ああ、ワシらは冒険者じゃ。ギルドの依頼で失踪事件の調査に来た」
男は納得したようにうなずく。
「そうでしたか。失礼いたしました。では依頼主である神父様のもとへ案内いたします。お話はそこで」
こうして一行は男に先導され、教会へと向かった。
◇
教会の中は、外の静けさをそのまま閉じ込めたような空気に包まれていた。
高い天井と白い壁。派手さはないが、巡礼者を迎える場として十分な威厳がある。
一行を迎えた神父は年配の男性だった。
穏やかな表情をしているが、その奥には長く続く気苦労の色が滲んでいる。
「お越しいただき、ありがとうございます。冒険者の方に来ていただけるとは……正直、助かりました」
神父はそう切り出し、時間をかけて状況を説明し始めた。
べランドからアルマを祀る神殿までは、巡礼路を辿れば徒歩でも半日とかからない距離。
朝に町を出れば昼過ぎには神殿へ着き、祈りを捧げたあと同じ道を戻れば、夕刻前には町へ帰ってこられる。
本来なら危険らしい危険のない道程だった。
「ですが……ここ最近、その巡礼者たちが戻ってきていないのです」
「戻ってこない、というのは……」
「一人や二人ではありません。複数名です」
神父は重々しく首を振った。
「もちろん、別の道を使った可能性も考えました。しかしその場合は、神殿の北東にあるカルナ山道を越える必要があります」
「……険しい道、ですよね?」
「ええ。護衛もつけていない巡礼者が越えられる場所ではありません」
となれば行き先は限られる。
「巡礼路の途中か、神殿周辺で何かが起きている可能性が高い、ということじゃな」
「はい。その調査をお願いしたいのです」
神父は深く頭を下げた。
「承知した」
話を終え、一行は教会を後にする。
「まずは実際に巡礼路を歩いてみるのがよさそうだね」
ミミがそう提案した。
「歩いてみれば何か分かるかもしれません」
エリシアも静かにうなずく。
だが空を見上げると、すでに陽は傾き始めていた。
「今から出るのは厳しいわね。明るいうちに戻れなくなるわ」
「うむ。無理はせんほうがよい。明日の朝に出発するとしよう」
そう決まり、一行は宿で一夜を過ごした。
◇
そして翌朝。
まだ空気の冷たい時間帯に、四人はベランドを出発した。
巡礼路を辿り、アルマの神殿へ向かった。
しばらく進むと、道は再び深い森の中へと続いていた。
道そのものは整っているはずなのに、空気がどこか違っていた。
――見られている。
はっきりとした視線ではない。
木々の隙間や枝葉の影の奥から、ひそひそと囁き合うような気配がまとわりついてくる。
「……なんか見られてる気配がする。またリトルデーモンかのう?」
「おそらくそうでしょう。使役している主のもとへ近づいているのかもしれません」
エリシアが答えた。
その気配を感じながらも、道中で目立った異変は起きなかった。
そして、ふいに森の空気が変わる。
木々の密度が薄れ、視界が一気に開けた。
その先に現れたのは、森の中とは思えない光景だった。
アルマの神殿。
ベランドの教会とは比べものにならないほど巨大で荘厳な建造物が、静かに佇んでいる。
白を基調とした石造りの外壁には苔ひとつなく、森の中にありながら異様なまでの清浄さを保っていた。
「……立派じゃな」
セイが思わず呟く。
入口の前には信徒と思しき人物が立っていた。
一行に気づくと、穏やかな笑みを浮かべる。
「巡礼の方でしょうか?」
「ああ、初めてでのう。勝手が分からんで……」
「大丈夫ですよ。こちらへどうぞ」
信徒は自然な様子で神殿の中へ案内する。
「おい。そんな簡単に通して大丈夫なのか?」
セイが尋ねると、信徒は微笑んだ。
「はい。問題ありません」
そして当然のように続ける。
「あなたたちのことは、アルマ様からすでに聞いております。通すようにとお言葉をいただいておりますので」
そうして一行は神殿へ足を踏み入れた。信徒に導かれるまま最奥へ向かう。
「神様に会うのって初めてなんです。少しドキドキします」
歩きながら、エリシアが胸元に手を添えた。
「えっ、聖女様でもそうなの?」
ミミが意外そうに目を向ける。
「聖女と言われていますけど……周りがそう呼んでいるだけで、私はずっと教会で皆さまの治癒をしていただけですから」
少し照れたようにエリシアは答えた。
やがて一行は一枚の扉の前に立つ。
信徒が静かにノックした。
「どうぞ。お入りください」
穏やかな声が返ってくる。
扉が開かれ、セイたちは部屋へ足を踏み入れた。
そこにいたのは――ひとりの少女だった。
年若い姿をしている。
背は低く、体つきも華奢だ。見た目だけならまだ幼さが残っている。
長く伸びた耳。整った顔立ち。背中まで流れる銀髪。
差し込む光を受けて、その髪は淡く輝いていた。
ミミがそっとリアナに耳打ちする。
「エルフだったね」
リアナも小さくうなずいた。
「銀髪に赤い瞳……なんだかミミさんみたいな雰囲気ですね」
少女は首を少し傾け、くすりと笑った。
「みなさん、お会いできて嬉しく思います」
少女――アルマはそう言うと、セイへ視線を向ける。
「セイ。巡礼者の失踪の件、わたしも頭を抱えていました。来ていただけて感謝いたします」
名前を呼ばれ、セイは眉をひそめた。
「待て。まだワシらは名乗っとらんはずじゃが……」
「はい。しかし私は知っています。皆さんのお名前――セイ、ミミ、リアナ。そして、エリシア……この時代の偉大な勇者一行」
並べられた名前に、場が一瞬静まり返った。
だがミミは不思議そうに首を傾げる。
「やっぱり神様だから……そういうの、分かっちゃうの? だったら、失踪の原因も、分からないんですか?」
「ふふっ。皆さん、神と呼んでくださいますが、私自身、そんなに大した能力はありません。神殿の外で起きていることすべてに、干渉できるわけではないのです」
「……そうなんだ」
ミミは少し拍子抜けしたようだった。
「だから……セイ。ミミ。リアナ。エリシア」
アルマは改めて一人ひとりの名を呼ぶ。
「お力添えを」
「うむ。最初からそのつもりじゃ。そのためにここまで来たんじゃからな」
セイがそう答えると、アルマはほっとしたように微笑んだ。
◇
話を終え、一行は神殿を後にした。
外へ出た瞬間、森の空気が一気に現実へと引き戻してくる。
「すっごくいいひとだったね!」
真っ先に声を上げたのはミミだった。
「はい。エリシアさんがエルフか魔族かって言ってたので、少し身構えてましたけど……普通にエルフでしたね」
リアナが、どこか拍子抜けしたように笑う。
「怖い感じ、全然なかったよね、ねっ?」
ミミがそう言って、エリシアを振り返る。
しかしエリシアの顔は恐怖で怯えていた。
視線は落ち着かず、やっとの思いでかすれた声を絞り出す。
「いえ、あの方はエルフでも、魔族でもありませんでした……」
「えっ? じゃあ何? 見た感じ、どう見てもエルフだったけど」
ミミの問いに、エリシアはわずかに間を置いた。
「……悪魔です」
三人の足が同時に止まる。
「悪魔アルマ。その名であれば、古い教典で見たことがあります」
エリシアは静かに続けた。
「人の命を奪い、そして与えることができる存在。神に限りなく近い力を持つと記されていました」
森のざわめきが、妙に遠く感じられる。
「……死を司る悪魔。
人によっては――死神と呼んでいる存在です」
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▼ステータス情報
【名前】セイ
【年齢】25(肉体年齢)
【職業】テンプレ詰め込み勇者
【レベル】41
【スキル】生活知識大全/魔法知識大全/世界法則書き換え/時間停止/魅了体質/無限成長/強制ハーレム誘導/おじいちゃんの優しさ(ヒロイン全員好感度+100)/威圧/加速支援/魔法適性鑑定/精霊感応/状態異常回復/索敵/ホーリーブースト
【同行者】
・ミミ(記憶喪失の少女/推定15歳)
- 好感度:好き
- 能力傾向:回復系(第一段階覚醒済)/ヒーラー適性あり
- 状態:アストラクロスのローブを装備。神殿までの道のりが久しぶりの徒歩で少しお疲れ気味
- 補足:神様ってすごい!と素直に感動している
・リアナ(元騎士団の見習い/19歳)
- 好感度:好き
- 能力傾向:攻撃系(雷・風属性)/貫通・麻痺・加速タイプ
- 状態:シルクノートの胸当てを装備。久しぶりの徒歩移動で身体リフレッシュ(適度な運動は大切)
- 補足:森の中の神殿の風景が神秘的過ぎて実は感動してた
・エリシア(元聖女様/25歳)
- 好感度:かなり高
- 能力傾向:支援・結界・祈祷(神聖属性)
- 状態:アストラクロスのドレスを装備。アルマの存在に恐怖し、怯えている
- 補足:神様に会えると思ってたドキドキからの落差に強く動揺
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