第79話 リアナの思い出
「はぁ……頭、ずきずきする……」
ベッドから身を起こしたリアナは、こめかみに指を当て、小さくうめいた。
まぶたの裏に、昨夜の騒がしさがまだ残っている。
「リアナちゃん、昨日お酒飲んじゃったもんね」
ミミが悪気のない調子で言う。
「えっ……? 最後のほう、まったく記憶がないんですが……本当に飲んでました?」
「うん。ぐびぐびって」
「……私、けっこう飲んじゃった感じですか!?」
「え、ああ……まあ……」
歯切れの悪い返事にも、リアナはなぜか照れたように笑った。
「そうですか……ふふっ……いっぱい飲んでましたか……へへ……」
どこか満足そうに肩をすくめるが、頭痛は誤魔化しきれていない様子だった。
そのとき、穏やかな足音とともにエリシアが顔をのぞかせる。
「おふたりとも、朝からずいぶん楽しそうですね。昨日はありがとうございました」
「いーのいーの。次はわたしの誕生日にお祝いしてもらうんだから!」
ミミが胸を張る。
「昨日は、ミミさんとセイさんの誕生日も決めたんでしたね」
「そうそう。ふふふっ」
ミミはご機嫌な笑みを浮かべ、くいっとリアナを見る。
「リアナちゃんも、ちゃんとよろしくね!」
「もちろんですよ!」
エリシアがやさしくまとめる。
「では、準備を済ませて下におりましょう。セイさんはもう待っていますよ」
その言葉にうなずき、ミミとリアナも身支度を整える。
ほどなく合流した一行は簡単に朝食を済ませ、長居はせずに宿を後にした。
町を出る際、門番が声をかけてくる。
「お気をつけて。ランベルクへ向かうには川を渡る必要があります。北東の街道を進んだ先に船着き場がありますので、そちらをご利用ください」
「うむ。ありがとう」
案内に礼を言い、セイは手綱を振った。
馬車は北東へ伸びる街道を進み始める。
「地図で川があるのは分かっておったが、橋があるものと思っとったな……。
確かに、この川幅では船になるか」
「でも、船って楽しそうだよね!」
ミミが弾んだ声を上げる。
「船酔いは大丈夫ですか?」
エリシアが尋ねると、ミミは少し考え込んだ。
「うーん。船に乗ったことないから分からないなあ。リアナちゃんは?」
「船酔いは平気だと思いますが……」
そう言いかけて、リアナは顔をしかめる。
「……うぇっぷ。すみません、昨日のお酒がまだ……」
「それは船酔いより厄介ですね」
エリシアが静かに苦笑した。
やがて馬車は街道の突き当たりで止まり、視界いっぱいに大河と船着き場が広がる。
川幅は想像以上で、対岸は見えない。その桟橋に停泊していた船は、四人が思い描いていたものよりもはるかに大きかった。
桟橋を見上げ、セイが感心したように声を漏らす。
「もっとこう……船頭が小さな船を行き来させて、人を運んでおるものかと思っとった」
チケット売り場にいた女性は、慣れた様子で首を振る。
「いえいえ。海も近く、普段は流れが穏やかですが、天候次第では大荒れになることもあります。このサイズでなければ、安全に渡すのは難しいんですよ」
穏やかな口調で説明すると、女性は改めて問いかけた。
「お乗りになりますか?」
「ああ。大人四人じゃ」
「それでしたら、銀貨四枚になります。あちらの馬車はどうなさいますか?」
「馬車も乗せられるのか?」
「はい。台数に限りはございますが、今回の便はまだ余裕があります」
「では頼もう。いくらになる?」
「大人四人と馬車一台で、銀貨五枚になります」
セイは頷き、銀貨を差し出す。
係の者に手綱を渡し、馬車が船倉へと運ばれていくのを見届ける。
手続きが済むと、一行は順に船へと乗り込んだ。
『出発は一時間後となります。出航後、ランベルクまではおよそ四時間の航行予定です。どうぞお気をつけてお過ごしください』
案内の声が甲板に響き、乗客たちは思い思いの場所へ散っていった。
一行もまた、係員に導かれるまま船内をひと通り確認し、ひと息つける場所を見つけた。
広さのある客室は落ち着いた造りで、揺れを抑える工夫が随所に施されている。大河を渡るための船であることが、ひと目で分かる。
「出発までは、少し時間があるようじゃな」
セイがそう言って腰を下ろすと、ミミは落ち着かない様子で辺りを見回し、やがて我慢できずに立ち上がった。
「ねえ、外見てきてもいい?」
「構わんよ。危なくないようにな」
「はーい!」
弾むような足取りで甲板へ向かうミミを、エリシアは穏やかな目で見送る。
少し間を置いて、リアナも席を立った。
「……私も、少し風に当たってきます」
そうして、それぞれが甲板に出たころ――
船は大河の流れを受けながら、ゆっくりと動き始めていた。
◇
船が出航してしばらく経ち、揺れも落ち着いてきたころ。
甲板に出ていたミミは、手すりから身を乗り出すようにして川面を眺めていた。
「すごいね……こんなに大きいのに、ほんとに進んでるよ」
その隣で、リアナは手すりに肘を置き、同じ方向へと視線を向ける。
しばらく水の流れを追ってから、ぽつりと口を開いた。
「……こうやって船に乗っていると、小さい頃のことを思い出します」
ミミがくるりと振り返る。
「え、なになに?」
リアナの声は静かで、どこか懐かしさを帯びていた。
「小さい頃は毎年、こんな温かい時期になると、家族で少し遠くまで旅行に行っていたんです。ここほど大きな川ではありませんでしたが、船で川を下って、その先で馬車に乗り換えて……というのがお決まりのコースで」
ミミは目を輝かせる。
「へぇ~! いいね、それ!」
「はい。すごく楽しかった、です」
リアナは小さく息を吸い、言葉を続けた。
「でも……ある年のことでした。私が、あまりにもはしゃぎすぎてしまって」
その瞬間、甲板の空気がわずかに引き締まる。
「船の上で足を滑らせて……川に落ちそうになったことがありました」
ミミは何も言わず、ただ静かにリアナの話を待っている。
「いえ……本当は、私が落ちるはずだったんです」
リアナの指先が、手すりを強く握った。
「でも……兄が、とっさに……。はしゃぎすぎてた私を、ずっと気にかけてたみたいで」
言葉の途中で、声がわずかに揺れる。
「私を引っ張って、船の上に投げ入れてくれて……代わりに、兄が……川へ」
リアナはそこで一度言葉を切り、視線を落とした。
「……お兄ちゃん……」
その様子に、ミミは胸の前で手を握りしめる。
「そっか……リアナちゃんのお兄さん……
自分に代わってでも、リアナちゃんを守りたかったんだね……!」
「……今思うと、そうかもしれません」
リアナは、どこか照れたように微笑んだ。
「いっつもケンカしてましたし、嫌なことばっかり言ってくる兄でしたけど……
それから……家族で旅行に行くことも、少なくなってしまいました」
「……つらかったね、リアナちゃん」
「はい。旅行は毎年、楽しみにしてましたので……」
「いや、そうじゃなくて」
ミミが、もどかしそうに言葉を挟む。
「リアナちゃんのお兄さん……」
「兄ですか?」
リアナは首をかしげる。
「うん。お兄さん、リアナちゃんの代わりに……」
「はい。びしょ濡れになって、そのあと熱を出して……一週間くらい寝込んでました」
「……え? なにそれ!?」
ミミの声が、思わず甲板に響いた。
「話の流れ的にさ!?
リアナちゃんの代わりに川に落ちて、そのまま……みたいな話かと思ったじゃん!」
「えっ……そういう感じでした?」
リアナは慌てて手を振る。
「や、やだなあ、ミミさん。
前にも兄の話、しましたよね? ちゃんと生きてますよ」
「紛らわしいよ!!」
勢いよくツッコむミミに、リアナは苦笑した。
「まあ……そのあと、ずっと『お前のせいで旅行減ったんだからな』って、事あるごとに言われましたけど」
その言葉に、いつの間にか少し後ろに立っていたエリシアが優しく声をかける。
「……でも、素敵なお兄さんですね」
リアナは少し驚いたようにエリシアに振り返る。
「守りたいと思える相手がいて、迷わず身体が動いた。
それは……簡単なことではありません」
「……そう、ですね」
視線を逸らしながらも、リアナの口元は緩んでいた。
「……そろそろ、戻りましょうか」
そう言って、リアナは手すりから離れる。
「そうですね。おなかも空いてきましたし。売店で何か買って、ゆっくりしましょう」
エリシアが穏やかにうなずくと、ミミが待ってましたとばかりに手を挙げた。
「そうだね! じつは、もうお腹ぺこぺこ!」
三人は顔を見合わせ、連れ立って甲板を後にした。
客室へ戻ると、先に戻っていたセイがこちらに気づいて声を上げる。
「おー。やっと戻ってきたか」
その手には、売店で買い込んだらしい包みがいくつも抱えられている。
「……ねえ、セイ。大量に買い込んでるけど、そのお金ってどこから出てるの?」
リアナが、包みの合間からのぞく財布に視線を向ける。
「うん? この財布じゃが?」
「……それ、みんなのお金を入れてる財布よね? 後で話があるわ」
頬を引きつらせるリアナをよそに、ミミは包みを覗き込んだ。
「わっ、おいしそう! いただきまーす!」
リアナの小言とミミの歓声が飛び交う中、いつの間にか時間は過ぎていき――
気づけば、船内放送が流れていた。
『まもなく到着します。お忘れ物のないよう、ご準備ください。良い旅を』
船内放送が流れ、やがて船は対岸の船着き場へと静かに接岸した。
揺れが完全に収まるのを待ってから、一行は荷をまとめて下船する。
ほどなくして船倉から引き上げられた馬車が桟橋へ運ばれてきた。
手綱を受け取りながら、セイが気合を入れるように声を張る。
「さあ、ベランドまでもう一息じゃ。
まずは大森林の入り口――《ランベルク》へ出発じゃ!」
「よーし! いっくよー!」
ミミが元気よく声を上げる。
一行は馬車に乗り込み、船着き場を後にした。
やがて道は川辺を離れ、木々の気配が濃くなる街道へと続いていく。
こうして彼らは、森へと続く道へ踏み出した。
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▼ステータス情報
【名前】セイ
【年齢】25(肉体年齢)
【職業】テンプレ詰め込み勇者
【レベル】41
【スキル】生活知識大全/魔法知識大全/世界法則書き換え/時間停止/魅了体質/無限成長/強制ハーレム誘導/おじいちゃんの優しさ(ヒロイン全員好感度+100)/威圧/加速支援/魔法適性鑑定/精霊感応/状態異常回復/索敵/ホーリーブースト
【同行者】
・ミミ(記憶喪失の少女/推定15歳)
- 好感度:好き
- 能力傾向:回復系(第一段階覚醒済)/ヒーラー適性あり
- 状態:アストラクロスのローブを装備。船酔いは大丈夫。体調は万全
- 補足:こんな大きなものが水に浮かんでいるなんて信じられない
・リアナ(元騎士団の見習い/19歳)
- 好感度:好き
- 能力傾向:攻撃系(雷・風属性)/貫通・麻痺・加速タイプ
- 状態:シルクノートの胸当てを装備。二日酔い。体力は戻っているが頭が痛い
- 補足:兄をほめられて内心すごくうれしかった
・エリシア(元聖女様/25歳)
- 好感度:かなり高
- 能力傾向:支援・結界・祈祷(神聖属性)
- 状態:アストラクロスのドレスを装備。船酔いしない加護により船酔いはしていない。体調は万全
- 補足:セイにみんなの財布を預けたのは自分であることは秘密
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