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第78話 エリシアの幸せな一日

「リアナちゃん、すごく眠そうな顔してるよ?」


 ミミにそう言われて、リアナは小さく苦笑した。


「はい……じつは昨日、あの後……あまり眠れなくて」


「ダメだよ、ちゃんと寝なきゃ」


「いやいや! 半分くらいはミミさんのせいですからね!? 怖い話をあんなに隠し持ってたなんて、知りませんでした!」


「へへへ。でも全部作り話だよ?」


「言うのが遅いです……!」


 ミミが悪びれもせず笑うと、リアナは肩を落とし、しょんぼりとうつむいた。


 馬車は揺れながら、セルナス海岸沿いを北へ進んでいく。潮の香りを含んだ風が吹き抜け、肌を撫でる感触が心地いい。


「ねえセイ。次の目的地ってセリオットでしょ? あとどれくらい?」


「さあのう。地図を見る限りでは、一日もあれば着けそうじゃが……」


 やがて進路は海岸線を離れ、北西へ延びる街道へと移っていった。

 午後の日差しが少しずつ傾きはじめた頃、エリシアが馬車の縁に腰かけたまま、足をぷらぷらと揺らしつつ空を見上げる。


「もうすぐですね。こういう旅って、なんだか気持ちいいです!」


「ふふ。エリシアさん、今日はずっと楽しそうですね」


 リアナに穏やかに声をかけられ、エリシアは一瞬だけ視線を泳がせた。


「えー、どうしたのエリシアちゃん?」


 ミミの問いかけに、エリシアはもじもじと指を組み、小さく息を吸う。


「実は……」


 その様子に、ミミとリアナが同時に身を乗り出した。


「「実は?」」


「……その……今日、私……誕生日なんです」


 一瞬の静寂。次の瞬間、セイとミミとリアナの声が重なった。


「ええーっ!?」


「エリシアちゃん、もっと早く言ってよ! もうこんな時間じゃん!」


「いえ……皆さんに気を使わせてしまう気がして、言い出せなくて……」


「何言ってるんですか!」


 リアナは思わず前のめりになる。


「私の誕生日だって、あんなにお祝いしてもらって……すごく、うれしかったんです、から……」


 勢いよく口にしたものの、語尾に行くほど声は小さくなり、リアナは照れたように視線を逸らした。


 セイが朗らかに笑う。


「なら決まりじゃな。セリオットに着いたら、きちんと祝おう」


「「うんっ!」」


 ミミとリアナの声が、ぴたりと重なった。


 馬車がゆるやかな丘を越えると、前方の景色が一気に開けた。そこに飛び込んできたのは、少しばかり異様な光景だった。


「なんじゃあれは……? 宿場町にしては、やけに物々しいのう」


 セリオットの外周には、人の背丈ほどもある高い塀が巡らされている。要所ごとに見張り台が立ち、正面の門には分厚そうな扉が据えられていた。


「事前の情報と違いますね……難民の影響でしょうか」


 エリシアの表情がわずかに曇る。


「おそらく、そういうことじゃろうな」


「ねえ……入れてもらえるよね?」


 ミミが不安げに門を見上げた。


「心配するな。宿代はあるし、食料も確保しとる」


「そうだといいんだけど……」


 門前に近づくと、門番が無言で手を上げた。鋭い目が、一行をゆっくりと検分する。


「――止まれ。この町に何の用だ?」


「ランベルクへ向かう途中で立ち寄っただけじゃ。少し休ませてもらうつもりでな」


「滞在先は?」


「宿場町じゃ。空いている宿を探すつもりでな」


「滞在期間は?」


「冒険者じゃでな。この町にギルドがあれば数日、なければ明朝には出る予定じゃ」


 門番は一行を一瞥すると、「少し待て」と言い残し、小さな詰所へ入っていった。


 その隙を狙ったように、ミミがそっと袖を引く。


「ねえ……今のうちに入っちゃお?」


「ば、馬鹿もん! そんな真似したら後で厄介なことになるわ!」


 しばらくして、詰所の扉が軋む音を立てて開き、門番が戻ってきた。


「お待たせしました。冒険者の照会が取れました。――ようこそ、セリオットへ」


 そう言って、分厚い門扉がゆっくりと開かれた。


「ただし、この町にはギルドがありません。それでも構わなければ、気のすむまで滞在していってください」


「うむ。そうさせてもらう」


 セイが短く応じ、一行は門をくぐった。


 町に足を踏み入れた瞬間、先ほどまで感じていた張り詰めた空気が、ふっと薄れた。

 通りには人の声があふれている。露店の呼び込み、荷馬車の軋む音、子どもたちの笑い声。見渡す限り、そこにあるのはごく普通の宿場町の光景だった。


「外はあんな感じだったのに、中は普通ですね」


 エリシアがほっとしたように息をついた。


「受け入れられなかった難民が盗賊化してるとも言っておったしのう……外からは特に厳重なんじゃろう」


 その後、一行はしばらく町の商店をめぐり、食料や消耗品など必要なものをそろえた。

 宿を探して通りを歩いていると、リアナがふと思い出したように口を開く。


「でも、ギルドはないってことだから……明日の朝には出発ってことよね?」


「でもでも! その前に、エリシアちゃんのお祝いしないとねっ!」


 ミミが勢いよく言い切ると、エリシアは少し困ったように微笑んだ。


「みなさん、ありがとうございます。そのお気持ちだけで十分――」


「ダメダメ! そういうのは、ちゃんとしないと」


 ミミがすかさず首を振る。


 そんなやり取りをしているうちに、一行は宿屋が並ぶ通りへと出た。

 比較的きれいで落ち着いた雰囲気の宿に目星をつけ、部屋をとる。

 荷物を置き、再び玄関前に集まったところで――


「ねえねえ、エリシアちゃんはどこに行きたい?」


 ミミはそう言いながら、エリシアの腕にぎゅっと抱きつく。


「えっと……私は、お酒が飲めればどこでも大丈夫です」


「でた! エリシアちゃんの生臭聖女っぷり!」


「ミミさん……さすがに、それは言い方が……」


 リアナが苦笑しながらたしなめると、セイが顎に手をやった。


「では、ミミでも入れてもらえそうな居酒屋を探すとするかの」


「なにそれ!? わたしが子どもみたいじゃん!」


 ミミはぷくっと頬を膨らませる。


「まあまあ。この中でお酒が飲めないのは、ミミさんだけですから」


「リアナちゃんだって飲めないでしょ!」


「私は……飲まないだけですから。年齢だって十九歳ですし」


「じゃあ、飲んだことあるの?」


「……いえ。飲んだことは……ありません」


「ほら! じゃあ飲めるかどうか、分かんないじゃん!」


 ミミが勝ち誇ったように言うのを、リアナはむっとした表情で見返す。

 その様子を横目に、セイが通りの先へ視線を向けた。


「あそこなんてどうじゃ? 雰囲気も悪くなさそうじゃし」


 そうして入ったのは、通りの奥にひっそりと佇む小さな酒場だった。

 派手さはないが、落ち着いた灯りと木の香りが漂っている。


 簡単な料理と飲み物を頼み、四人は丸いテーブルを囲んだ。


「……こうやって、誰かに誕生日を祝ってもらうの……久しぶりです」


 エリシアが、少し照れたように言う。


「じゃあ……!」


 ミミが一拍ためてから、勢いよく声を張り上げる。


「エリシアちゃん、お誕生日おめでとー!」

「エリシア、誕生日おめでとう」

「エリシアさん、お誕生日おめでとうございます」


「「「「かんぱーい!」」」」


 軽やかな音とともに、グラスが触れ合った。


 穏やかな空気の中、四人はそれぞれ料理と飲み物に手を伸ばす。

 セイとエリシアは酒を口にし、ミミは甘いソフトドリンクを嬉しそうに飲んでいた。一方、リアナは酒のメニューをじっと見つめ……それから、何事もなかったかのようにソフトドリンクを注文した。


 和やかなひとときの中、リアナがふと思い出したように口を開く。


「そういえば……ミミさんの誕生日って、いつなんですか?」


「うーん……分かんない! っていうか、覚えてないんだよね……」


 ミミは肩をすくめ、あっけらかんと笑う。


「まだ、記憶はあまり戻っていないんですか?」


「うん。小さかった頃の、かすかな記憶は思い出したんだけど……それも、本当の記憶かどうか分かんない」


 その言葉に、テーブルの上の空気がほんの少しだけ静まった。


「……セイさんのお誕生日は?」


 今度はエリシアが尋ねると、セイは腕を組み、しばし考え込む。


「うーむ。元の世界と暦が違うからのう。正直、よう分からん」


「そう、ですか……」


 短い沈黙。


 その空気を断ち切るように、リアナがぱんっと手を叩いた。


「だったら、こうすればいいじゃないですか」


 三人の視線が一斉に集まる。


「セイはこの世界に来た日。ミミさんは、セイと出会った日。それを誕生日にすればいいんです」


「……なるほどのう」


 セイは感心したように頷き、口元を緩めた。


「そうすると……ワシとミミは、同じ誕生日じゃな。それは、ええのう」


「えっ……なんだか……うれしい」


 ミミが、いつもより少しだけ控えめな声で呟く。その変化に気づいたリアナが、慌てて割って入った。


「ちょ、ちょっと! こんなところで、いい感じにならないでください!

 今日はエリシアさんのお祝いの場なんですから!」


 エリシアはそのやり取りを微笑ましく見つめ、やがて、そっと口を開いた。


「まだ少し先になりますけど……」


 三人が視線を向ける。


「その日になったら、セイさんとミミさんのお誕生日も……ぜひ、お祝いさせてくださいね?」


 柔らかな声に、ミミは大きく頷いた。


「うんっ! 約束だからね!」


 卓の上の皿はほとんど空になり、酒場の喧騒も次第に落ち着いていった。

 そろそろお開き、という空気が自然と漂いはじめる。


 エリシアが残った料理に気を取られ、手元からほんの少しグラスを離した、その瞬間だった。隣に座るリアナが、無意識のまま自分のものと勘違いし、グラスへと手を伸ばす。


「あ――」


 止める間もなく、


 ぐびっ。


「り、リアナさん……それ……」


「リアナちゃん、それ……お酒……」


 次の瞬間、リアナの顔が一気に真っ赤に染まった。


「えりしあしゃあーん……おたんじょうび、ほんとうに……おめでとうございまーーす……」


 そう言い残し、リアナはそのまま、机に突っ伏した。


「り、リアナちゃん……大丈夫?!」


「こやつにお酒は飲ませられんのう……」


 慌てる声と苦笑が入り混じる中、エリシアはしばらく呆然とその光景を見つめ――やがて、くすっと小さく笑った。


 こうして、少しだけ騒がしくて、けれどとても温かな、エリシアの誕生日の夜は幕を閉じた。


────────────────────────

▼ステータス情報


【名前】セイ

【年齢】25(肉体年齢)

【職業】テンプレ詰め込み勇者

【レベル】41

【スキル】生活知識大全/魔法知識大全/世界法則書き換え/時間停止/魅了体質/無限成長/強制ハーレム誘導/おじいちゃんの優しさ(ヒロイン全員好感度+100)/威圧/加速支援/魔法適性鑑定/精霊感応/状態異常回復/索敵/ホーリーブースト


【同行者】

・ミミ(記憶喪失の少女/推定15歳)

 - 好感度:好き(同じ誕生日設定に幸せを感じる)

 - 能力傾向:回復系(第一段階覚醒済)/ヒーラー適性あり

 - 状態:アストラクロスのローブを装備。エリシアのお祝いでテンション爆上がり中

 - 補足:セイの一言に、そんなに子供っぽいかな?とちょっとだけ困惑


・リアナ(元騎士団の見習い/19歳)

 - 好感度:好き(一緒にお酒が飲めるようになりたい)

 - 能力傾向:攻撃系(雷・風属性)/貫通・麻痺・加速タイプ

 - 状態:シルクノートの胸当てを装備。間違えて飲んだお酒で酔っ払ってしまう。多分明日は頭痛い……

 - 補足:お酒も飲める大人の女性を見せようと悩むも、ソフトドリンクを選択。結果それでよかった


・エリシア(元聖女様/25歳)

 - 好感度:かなり高(誕生日のお祝いが嬉しい)

 - 能力傾向:支援・結界・祈祷(神聖属性)

 - 状態:アストラクロスのドレスを装備。みんなからのお祝いで幸せいっぱい。体調もばっちり

 - 補足:何だかんだで久しぶりのお酒だったらしい

ここまで読んでいただきありがとうございます!

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次の話もぜひぜひ、よろしくお願いします^^

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