第75話 セルナス海岸
「みんな、またねー! 気をつけてねー!」
リンが全力で腕をぶんぶん振る。
ミミも振り返り、負けじと大きく手を振った。
「リンちゃん、ありがとー! 帰りに絶対寄るからねー!」
リアナとエリシアも微笑みながら軽く手を振る。
セイは胸を張ったまま、なぜか妙に威厳のある頷きを返した。
「うむ。案内、助かったぞリン。レンにもよろしく伝えておいてくれ」
「うん! わかった! また遊びにきてね!」
一行はそれぞれ馬車へ乗り込み、セイは御者台へ移る。
手綱を軽く引くと、馬車は軋む音を鳴らしながらゆっくりと動き出した。
リンの姿が少しずつ小さくなっていく。
元気いっぱいに振られる腕を背に、馬車は穏やかな朝の東街道を進んでいった。
しばらくして――
東の街道へ入り、ゆるやかな丘を越えていく。
外を眺めていたミミが、風に揺れる前髪の隙間から目を輝かせた。
「ねぇリアナちゃん。あそこ見て。花畑がすっごくきれい。あんな色、初めて見るよ」
「ほんと……って、ミミさん!? あまり身を乗り出さないでください!」
「だいじょうぶだよ。リアナちゃんが支えてくれるでしょ?」
「えっ、わ、わたしが!? ちょっ――」
直後、タイミング悪く馬車が大きく揺れた。
ミミの身体がふわりと傾く。
「きゃっ――」
「ほら……言いましたよね! 危ないって!」
リアナは慌ててミミの腰を抱き寄せる。
ミミは照れくさそうに笑いながら、リアナの肩へそっと手を添えた。
「ありがと、リアナちゃん。助かったよ」
「……ほんとに、ミミさんは見てると心配が尽きません……!」
その様子を見ていたエリシアが、ふんわりと微笑む。
「おふたりは本当に仲良しですね。見ていると、なんだか和んでしまいます」
「そ、そんな……あらためて言わないでください……! 余計に恥ずかしいです……!」
照れと抗議が入り混じった声をリアナが上げると、御者台からのんきな声が飛んできた。
「おぬしら、あまり騒ぐと本当に落ちるぞー。馬車の揺れは気まぐれだからな」
「分かってるってば!」
リアナの鋭いツッコミが飛び、セイは情けない声を漏らした。
「うぐっ……!」
その隙を逃さず、ミミがそっとリアナの耳元へ顔を寄せる。
「でもさ……セイって、いつもはそういうの興味なさそうなのに、リアナちゃんの水着だけ妙に楽しみにしてたよね……なんでだろうね?」
「っ……!」
リアナは一瞬で耳まで真っ赤になり、息を呑んだまま固まる。
ガタンッ!!
「ぬあぁっ!?」
馬車が段差に乗り上げ、御者台のセイが盛大に跳ね上がる。
「セイ!?」
「セイさん!?」
「セイ、生きてるー?」
「……う、うむ……かろうじて生きておる……」
弱々しい返答に、車内はぱっと笑い声に包まれた。
「まったく……」
呆れたように言いながらも、リアナの口元はどこか緩んでいる。
そんな賑やかな空気のまま、馬車はゆるやかに東へ進んでいった。
青空はますます澄み、風に混じる潮の香りも少しずつ強くなっていく。
「……ねぇ、みんな。いまの風……海の匂いだよね?」
窓の外を眺めていたミミが、胸を弾ませながら振り返る。
「ほんと……。潮の香りが濃くなってきましたね」
エリシアも、鼻先をかすめる風に気づいて微笑んだ。
「ってことは……もう近いってこと?」
リアナも落ち着かない様子で前方へ視線を向ける。
馬車が丘をゆっくり登っていくと――光の色が変わった。
遠くから太陽の反射が跳ね返ってくるような、眩しい輝き。
ミミは思わず息を呑む。
「……リアナちゃん。あれ……もしかして……いや、もしかしなくても……」
丘を越えた先――
青い帯が、視界いっぱいに広がった。
陽光を散らしながら揺れる、果ての見えないほど大きな海。
「う、わぁ……」
ミミは言葉を失い、リアナも思わず息を止める。
エリシアは胸元へそっと手を当て、静かに潮風を吸い込んだ。
馬車はそのまま東街道を下り、海へ向かう細い道へ入っていく。
風の匂いが変わり、潮の香りはさらに濃くなった。
「さぁ、おぬしら」
御者台からセイが軽く伸びをしながら、楽しげに振り返る。
「セルナス海岸へようこそじゃ」
◇
馬車が止まるや否や、ミミは勢いよく飛び出した。
白い砂の匂いを胸いっぱいに吸い込み、目を輝かせる。
「来た……来たよリアナちゃん! 海だよ海!!」
「ま、待ってくださいミミさん! そんなに走ったら転びますってば!」
セルナス海岸には、ちらほらと人影が見える程度。
入口には簡素な更衣室と、素朴な海の家が静かに並んでいた。
「よし! 着替えよっ、着替え!」
ミミはテンションそのまま、更衣室へ駆けていく。
「え、ええ……はや……っ」
リアナも慌ててその背中を追いかけた。
エリシアはやわらかく微笑み、海風で揺れる髪を押さえながらゆっくり更衣室へ向かう。
扉がぱたぱたと閉まり、浜辺は一気に静かになった。
風が白い砂をさらさらと撫で、波音だけが心地よく響いている。
「さて、わしは――」
セイは手をぽんと叩いた。
「海の家でジャンクなフードを買うとしよう!」
そう言って海の家へ向かい、メニュー表へぐっと顔を近づける。
その頃、更衣室の中では――
小さな個室に分かれた三人が、それぞれ着替えを進めていた。
「……うんっ……これでよし!」
ミミの明るい声が漏れる。
「うう……やっぱり恥ずかしいです……」
リアナの個室からは、小さな呻き声。
「ふふ……こういうのは何年ぶりでしょう」
エリシアは落ち着いた声のまま、髪をくるりとまとめ直した。
そして五分後――
海の家の前では、焼きそばと海鮮串を抱えたセイがのんきに座っていた。
「ふんふん……これが海の家名物“セルナス焼きそば”か。うむ、香りがたまらん……」
そんな独り言を漏らしていると、弾む声が飛び込んでくる。
「おまたせっ!!」
振り向いた先――
そこには、水着姿のミミ、リアナ、エリシアが並んで立っていた。
セイの動きがぴたりと止まる。
「ず……ずいぶん早かったのう……」
「うん! 待ちきれなかったからね。で、どう? セイ?」
ミミは両手を広げ、軽やかにくるりと一回転する。
ピンクのビキニがひらりと揺れ、陽光を受けてきらっと輝いた。
「ま、待ってくださいミミさん! いきなり回ったら……っ!」
リアナは胸元を押さえ、必死に身体を隠そうとする。
白いワンピース水着は清楚な印象なのに、思った以上に体のラインが出てしまい、顔まで真っ赤になっていた。
「ふふ……こういうのも、季節を感じられていいですね」
エリシアは落ち着いた微笑みを浮かべながら髪を耳へかける。
深い紺色の水着が、大人びた雰囲気をやわらかく引き立てていた。
「…………」
セイは焼きそばを持ったまま固まっていた。
口を半開きにしたまま、石像のように停止している。
「セイ?」
ミミが顔を覗き込む。
「……はっ。あまりの破壊力に、つい呆然としてしまった……」
セイは顔を真っ赤にし、慌てて視線を逸らした。
「み、見ぬぞ!! わしはこれ以上見ぬぞ!!!」
「いや、がっつり見てたよね!?」
ミミが腹を抱えてツッコむ。
「セ、セイ……そういう反応は逆に恥ずかしいんだけど……!」
リアナは今にもしゃがみ込みそうな勢いで顔を隠した。
「……ふふ。そろそろ海へ行きましょうか、おふたりとも」
エリシアがやわらかな声で促す。
「うんっ!」
「え、ええ……覚悟を決めます……!」
ミミとリアナは、それぞれ勢いと緊張を抱えたまま砂浜へ駆け出した。
足が砂に沈むたび、「きゃっ」「つめたっ」と楽しそうな声が弾む。
「わっ、ひゃっ……つめたーーっ!」
「ミ、ミミさんっ! そんなに走ったら……ひゃっ、冷たいですからっ!」
「ふふ……ほんとうに元気ですね、お二人とも」
寄せては返す小さな波が、足首をくすぐるように撫でていく。
ミミは波へ向かって楽しそうに跳ね、リアナは必死にバランスを取っていた。
エリシアは裾へ飛んだ水しぶきをそっと払って微笑んだ。
「うわっ、リアナちゃん波くるよ!」
「きゃっ!? む、無理ですってばーーっ!」
「……あらあら、リアナさん可愛い」
「エリシアさん! 笑ってないで助けてくださいっ!」
三人の笑い声が海風に乗って砂浜へ広がる。
その少し後ろでは、セイが焼きそばと海鮮串を手に座り込んでいた。
「……ふむ。なるほど……これが“海で騒ぐ若者たち”というやつか」
ミミがはしゃぎ、リアナが転びそうになり、エリシアが優しく支える。
その光景が、どこか眩しく見える。
「おーい! セイもおいでー!」
ミミが大きく手を振る。
「む、むりじゃ! わしは食べる係じゃからな!!」
焼きそばをずるずるすすりながら、セイは三人の姿をしばらく眺め続けた。
「……しかし、海の家の焼きそば……うまいのう……」
そんな平和な空気の中――
波間が、ふっと翳った。
「……?」
ミミが沖へ視線を向ける。
太陽の光で輝いていた浅瀬に、巨大な黒い影が揺らめいていた。
「え……なにあれ……? あそこ、急に暗くなったよ……」
ミミが思わず後ずさる。
影はさらに大きく揺れ、水面の下で巨体がゆっくり向きを変えた。
「っ……ミミさん……リアナさん……あれ……」
エリシアの声が震える。
「ちょ、ちょっと待って……あれ……大丈夫なやつ……?」
リアナが震える声でつぶやいた瞬間――
ざばっ!!
水面が大きく盛り上がり、巨大な背中が海からゆっくり浮かび上がった。
「ぎゃあああああああああああ!!!」
「ミミさん走って!!!」
「エ、エリシアさんっ、手をっ!!」
三人は悲鳴を上げながら、全力で砂浜へ駆け出した。
「ひいっ、きたきたきたきたきたっ!!」
「近づいてきます!!!」
「わ、わたし泳げませんからーーっ!!」
「リアナちゃん、足ついてるから! 泳がなくていいから!!」
水しぶきを跳ね上げながら、三人は我先にと浜へ逃げ戻る。
「む? なんじゃあの騒ぎは」
セイが焼きそばを置き、のんきに顔を上げた。
三人が砂浜を駆けながら叫ぶ。
「セイいいいい!! なんか出たあああ!!!」
「でっ、でかいのが来ます!!!」
「なにぃ!?」
セイは顔色を変え、海の家の横を駆け抜ける。
「武器! 武器はどこじゃ!!!」
そう叫びながら馬車へ全力疾走した。
「待っとれ!! わしが今、助け――」
剣を掴むや否や砂浜へ飛び出し、波打ち際で構える。
「どこじゃ!? どこから来る!? 倒すぞ!!」
その時――
「おう兄ちゃん、落ち着きな」
海の家のおっさんが、かき氷機を回しながらのんびり声をかけた。
「……は?」
セイが剣を構えたまま止まる。
「ありゃセルナス・ブルーホエールだよ。この辺じゃ害なんざねぇ。
観光名物みてぇなもんでな」
「……め、名物……?」
三人は揃ってその場でこけそうになった。
おっさんは笑いながら続ける。
「昼間は浅瀬まで来て、のんびりぷかぷか浮いてんのさ。
運が良けりゃ頭まで出して挨拶してくれるぞ」
セイも三人も、口をあんぐり開けたまま固まった。
ぷかぁ……
海面に大きな丸い頭が浮かび、つぶらな瞳でこちらをじっと見つめてくる。
「こ、これは……」
セイがそっと剣を下ろした。
「……え、めっちゃ可愛い……?」
ミミがぽつりとつぶやく。
「な、なんで最初から言ってくれないんですかぁぁ!!!」
リアナが涙目でおっさんへ抗議した。
「いやぁ、見りゃ分かると思ってなぁ」
「分かるかぁぁぁぁ!!!」
ミミとリアナのツッコミが、浜辺いっぱいに響き渡る。
海風と笑い声が、明るく砂浜へ広がっていった。
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▼ステータス情報
【名前】セイ
【年齢】25(肉体年齢)
【職業】テンプレ詰め込み勇者
【レベル】41
【スキル】生活知識大全/魔法知識大全/世界法則書き換え/時間停止/魅了体質/無限成長/強制ハーレム誘導/おじいちゃんの優しさ(ヒロイン全員好感度+100)/威圧/加速支援/魔法適性鑑定/精霊感応/状態異常回復/索敵/ホーリーブースト
【同行者】
・ミミ(記憶喪失の少女/推定15歳)
- 好感度:好き(みんなの水着姿を見て照れるセイの反応が可愛くて仕方ない)
- 能力傾向:回復系(第一段階覚醒済)/ヒーラー適性あり
- 状態:ピンクのビキニを装備。きれいな海を前にテンション最高潮
- 補足:小言を言いつつも何だかんだ助けてくれるリアナが大好き
・リアナ(元騎士団の見習い/19歳)
- 好感度:好き(恥ずかしいのに、セイの視線が気になって仕方ない)
- 能力傾向:攻撃系(雷・風属性)/貫通・麻痺・加速タイプ
- 状態:清楚なワンピースを装備。初めての海水浴に緊張ながらも楽しそう
- 補足:足の着く浅瀬では“泳げなくても大丈夫”と分かっていても、波は少し怖い
・エリシア(元聖女様/24歳)
- 好感度:けっこう高め(要所要所でドキッとする仕草をぶちこむ)
- 能力傾向:支援・結界・祈祷(神聖属性)
- 状態:深い紺色のビキニを装備。久しぶりの水着で内心ほんのり浮き立つ
- 補足:実は自分も泳げないことは誰にも言っていない秘密である
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