第74話 次の目的地
ヴァルネッタ――肉料理が評判の居酒屋。
ひとしきり飲んで食べたあと、レンはジョッキを置き、小さく息をついた。
「セイさん……昼間に拝見した、あのダンジョンの地図ですが……本当に二階層の宝箱から出てきた物なのですか?」
「ああ。ギルドでもそう言ったじゃろ」
セイの口ぶりは変わらない。
レンはどこか引っかかったような表情を見せたが、それ以上は追及しなかった。
「……そうでしたね。あの地図があれば、軍でも本格的な調査に入れます。探索は大きく進むことでしょう」
ミミがぱっと表情を明るくした。
「役に立てたなら良かったよ! でもね、わたしたちがちゃんと確認したのは二階層までだからね?」
素直な補足に、レンは柔らかく微笑む。
「はい。それでも十分な情報です。ところで……ダンジョン探索は、今後も続ける予定でしょうか?」
「もちろん――」
レンの問いかけに、セイが答えようとした、その瞬間。
「また機会があれば、ね」
リアナが鋭く割って入った。
「ぬぅ……リアナよ……」
セイはがっくりと肩を落とす。
「宿だって今日までしか取ってないんだから……」
リアナは小さく咳払いし、話題を切り替えるようにレンへ向き直った。
「ね、レンさん。ここから次の目的地セリオットへ向かうなら、北の街道を進むのが一番近いのかな?」
レンは迷いなく首を横に振る。
「それはお勧めできません。先ほどもお伝えしましたが、盗賊化した難民が増えています。
加えて、北東へ向かう街道は見通しが悪く、身を潜めやすい地形が続いています。かなり危険です」
「そうなんだ……。じゃあ、どう行くのが一番いいの?」
リアナが眉を寄せる。
「一度、東の街道から海岸へ出てください。そこから北へ向かうほうが安全です」
「海岸……ってことは、海ですよねっ?」
エリシアの声がぱっと弾んだ。
レンは優しく微笑み、頷く。
「はい。ここからなら《セルナス海岸》へ出られます。とても綺麗な場所ですよ。観光にもぴったりです」
「行きましょう! ぜひ!」
エリシアが勢いよく前のめりになる。
その隣で、リアナはどこか浮かない顔をしていた。
「うん、行こう! ってことは水着! 水着必要だよね!?」
ミミが期待に満ちた目で身を乗り出す。
「観光されるなら、水着はあったほうが良いでしょう。
ヴァルネッタにも取り扱っている店があります。明日買いに回ってから出発すればよいかと」
「やった! セイ、リアナちゃんの水着、セイが選んであげなよ」
ミミは当然のようにセイの袖を引っぱった。
「ちょ、ちょっとミミさん!? なんでそうなるの!?」
「え、だってリアナちゃん、さっきから少し元気ない顔してるからさ」
セイがじっとリアナへ視線を向ける。
「リアナよ。おぬし、ひょっとして……泳げんのではあるまいな?」
「そ、そんなことないわよ! ちゃんと泳げるわよ……ここからそこくらいなら……足が届けば、だけど……」
「それは泳いでいるとは言わないと思いますが……」
エリシアが真顔で首をかしげる。
「うん、歩いてるね、それ」
ミミの容赦ない追撃に、リアナは顔を真っ赤にして叫んだ。
「も、もういいです! 私は砂浜で眺めてますからっ!」
ぷいっと頬を膨らませるリアナを見て、レンがくすりと笑う。
「楽しそうで良いですね、セイさん」
「いやいや……度を過ぎれば疲れるだけじゃ……」
セイは肩をすくめ、苦笑まじりにため息をついた。
◇
翌朝。
レンは仕事の都合で同行できず、代わりに案内役として現れたのは――
「おはよー! みんな、こっちこっち!」
小さな手をぶんぶん振りながら駆けてきたリンだった。
「リンちゃん、今日は頼りにしてるよ!」
「うんっ。お兄ちゃんにね、『みんなをお店まで連れてってあげて』って言われたの。水着いっぱいあるお店、ちゃんと知ってるんだよ!」
「頼もしいですね」
エリシアが柔らかく微笑むと、リンは誇らしげに胸を張った。
「えへへー。リン、案内のおしごと上手なんだから」
そんな可愛らしいやり取りを交わしながら、一行は中央通りを外れた細い路地へ入っていく。
曲がりくねった石畳の道を抜けた先で、リンがぴたりと立ち止まった。
――看板には、手描きの『よろず屋フルル』の文字。
リアナは眉を寄せ、不安そうに店構えを見つめる。
「ここ……よろず屋なの? 水着なんてあるの?」
「あるよ! ふかふかのお布団も、網も、魚のぬいぐるみも……それに、水着も!」
なぜか自信満々に胸を張るリン。
「ラインナップが混沌としてるんだけど……」
リアナは半分引きつった顔で店内へ入った。
木の香りがほんのり漂う店内。
雑多な品々が並ぶ棚の奥には、確かに水着コーナーがあった。
「わぁぁ……!」
一番に駆け寄ったのは、もちろんミミだ。
「見て見て! いろんな色ある! ねえセイ、これなんてどう?」
ミミが嬉しそうに掲げたのは――
ほぼ紐だけで構成された、かなり攻めた水着だった。
「ミミさん!! それはダメです!!」
「え、可愛いと思ったんだけど?」
「これは水着じゃなくて紐です! ほぼ全部見えちゃいますよ!」
「えー? じゃあリアナちゃんが着――」
「着ません!!」
店内に響く勢いの叫び声に、リンがびくっと肩を震わせた。
「り、リアナおねえちゃん……こわい……」
「あっ、ご、ごめん! リンちゃんに怒ったわけじゃないの……!」
慌てて両手を振り、必死にフォローするリアナ。
リンはぱちぱちと瞬きをしたあと、こくこく頷いた。
「うん。リアナおねえちゃんは、やさしい……でもミミちゃんは、ちょっとえっち」
「リンちゃん!?」
ミミが思わず声を裏返らせる。
「……正しい分析だと思いますけれど」
エリシアはいつも通り落ち着いた声で頷いた。
「ねー!」
リンが嬉しそうに笑い、リアナもつられて吹き出す。
「ねー、じゃないから!!」
ミミの抗議をよそに、セイがふと水着コーナーへ視線を向けた。
「ではリアナよ……おぬしの水着は、ワシが選んでやろう」
言うが早いか、セイは棚へ手を伸ばし、水着の並ぶ一角を物色しはじめる。
「えっ……セイが選んでくれるの……?」
リアナが小さく息をのむ。だが、すかさずエリシアとミミから追撃が飛んだ。
「セイさん、それはどう考えてもセクハラですよ」
「うん……セクハラだね」
「いやいや、やましい気持ちはない! それにリアナも嫌がっておらんじゃろう。
ちょっと……ワシ好みのを選んでみようとしただけなんじゃ」
「それはちょっと……やっぱりセクハラね」
リアナは眉を寄せつつ、遠慮のない一撃を放った。
セイは肩を落とし、しょんぼりとうなだれる。
その姿に少し罪悪感を覚えたのか、リアナはそっと視線を向けた。
「……じゃあ、見るだけ見てあげるわ。選んでみてよ、セイ」
その瞬間、セイはぱっと顔を上げる。
「まあまあ、ワシに任せるがよい。これなど――」
セイが取り出したのは、露出は控えめながら、身体のラインが妙に強調される白いワンピース型の水着だった。
「うん……清楚で良さそうかも」
ミミが素直に頷く。
「こ、これのどこが清楚なの!? 胸の形、すごく出るんですけど……!」
リアナの顔は一気に真っ赤になった。
「うむ。よいではないか」
「よくないわよっ!! エロじじい!」
リアナの容赦ないツッコミが店内に響く。
「リアナちゃん、セイがおじいちゃんなのは中身だけだよ」
ミミがさらっと言う。
「分かってます。分かってて言ってるんです」
リアナは即答したが、赤い顔は隠せなかった。
すると棚の隙間から覗いていたリンが、小さな声でぽつり。
「リアナおねえちゃんも……えっち……」
「違う!! 私が選んだんじゃないんだからぁぁ!!」
リアナの悲鳴が、店内にこだました。
◇
一方その頃、エリシアは――
すでに鏡の前で、しっとりとした紺色のビキニを胸元に当てていた。
深みのある落ち着いた色合い。
くびれを自然に引き立てるデザイン。
控えめなのに、しっかり大人の雰囲気が漂っている。
「エリシアさん、その……すごく綺麗……」
リアナが思わず見惚れてつぶやいた。
「えへへ……ちょっと冒険してみました」
エリシアは照れたように微笑む。
するとミミがぷくっと頬を膨らませた。
「エリシアちゃんだけずるくない!?
大人っぽくて、色っぽくて、反則だよ!!」
リアナもこっそり頷く。
「ですよね! でも私は、ミミさんもこういうの似合うと思いますよ」
「えっ……ほんと? じゃあ、わたしも選んでみようかな……」
そんな二人を見ていたリンが、ぽつりと呟いた。
「エリシアおねえちゃん……おっぱい大きい……」
ミミの手から、水着がぽとりと落ちた。
胸元に手を当て、自分の大きさをじっと確かめる。
「ミミさん?」
リアナが心配そうに覗き込む。
「……そうだよね。エリシアちゃんは大きいから似合うんだよね……」
「い、いや……私、そんなに大きくありませんし……」
「エリシアちゃん、それは逆に嫌味だよ……」
ミミがじとっとした目を向けた。
「ミミさんも小さくないですよ。エリシアさんが大きすぎるんです」
リアナが必死にフォローを入れる。
「そんな……リアナさん……うぅ……」
エリシアは視線を落とし、肩を震わせた。
二人のため息が、ぴたりと同じタイミングで重なった。
そして最終的に――
・ミミ → ピンクの可愛い系ビキニ
・エリシア → 大人セクシー系の紺色ビキニ
・リアナ → セイが選んで恥ずかしがり倒したワンピース水着
という形で落ち着いた。
「……ふぅ、やっと決まったわね」
リアナが疲れたように息を吐く。
「楽しかったー!」
「また来たいね!」
ミミとリンは、遠足帰りの子どものようにはしゃいでいた。
「楽しみじゃな」
セイが意味ありげに笑う。
「……何が?」
リアナが半眼で睨み返した。
「水着姿じゃ」
「このエロじじい!!」
「リアナちゃん、セイがおじいちゃんなのは――」
こうして、にぎやかでちょっと騒がしいショッピングは幕を閉じた。
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▼ステータス情報
【名前】セイ
【年齢】25(肉体年齢)
【職業】テンプレ詰め込み勇者
【レベル】41
【スキル】生活知識大全/魔法知識大全/世界法則書き換え/時間停止/魅了体質/無限成長/強制ハーレム誘導/おじいちゃんの優しさ(ヒロイン全員好感度+100)/威圧/加速支援/魔法適性鑑定/精霊感応/状態異常回復/索敵/ホーリーブースト
【同行者】
・ミミ(記憶喪失の少女/推定15歳)
- 好感度:好き(水着選びにセイがいつもと違う様子に気づく)
- 能力傾向:回復系(第一段階覚醒済)/ヒーラー適性あり
- 状態:アストラクロスのローブを装備。胸の大きさでエリシアに現実を突き落とされて消沈気味
- 補足:ミミも決して小さくはない。エリシアが大きすぎるだけ
・リアナ(元騎士団の見習い/19歳)
- 好感度:好き(セイに選んでもらった水着を実は早く着てみたい)
- 能力傾向:攻撃系(雷・風属性)/貫通・麻痺・加速タイプ
- 状態:シルクノートの胸当てを装備。水着選びで、意味の分からない疲労感に包まれる
- 補足:ほぼ泳げないことが判明。ちなみに海水浴に行った経験はない
・エリシア(元聖女様/24歳)
- 好感度:かなり高(大人の魅力で攻めてみる)
- 能力傾向:支援・結界・祈祷(神聖属性)
- 状態:アストラクロスのドレスを装備。自分で選んだ水着が皆に褒められ、気分上々
- 補足:大人の魅力を炸裂させながらも、おっとりした性格ゆえに天然の嫌味も炸裂
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