第69話 ボス部屋
【ヴァルネッタ地下迷宮・第一階層】
足を踏み入れた瞬間、空気がひんやりと変わる。
壁には魔石灯が等間隔に並び、淡く青い光が床を照らしていた。
「うわぁ……広いねぇ!」
ミミがきょろきょろと辺りを見回す。
「地図を見るに、相当な広さじゃな。この階に出る魔物は――せいぜいDランク相当じゃろう」
セイが地図を広げながら言う。
「でも油断は禁物よ。調査済みっていっても、魔物は動いてるんだから」
リアナが剣の柄に手を添え、周囲を警戒する。
「第一階層はすでに調査済みと報告されています。ですから――目指すのは第二階層ですね」
エリシアの言葉に、ミミが地図を覗き込む。
「二階層へはどこから行くの?」
「ふむ……一番奥の広間に、下へ続く階段があるようじゃ」
セイが地図の端を指で示した。
「広間?」
リアナが首をかしげる。
「うむ、ボス部屋の可能性が高いのぅ! ドキドキするわい!」
「いや、第一階層は調査済みなんだから、ボスはいないでしょ」
「なぬっ……たしかに!」
セイがしょんぼりと肩を落とす。
その様子に、リアナは思わず吹き出し、ミミがくすくすと笑った。
――その穏やかな空気が、不意に変わる。
空気の温度がわずかに下がった。
次の瞬間、通路の奥からぴちゃりと湿った音が響く。
石床の上に、淡く揺らめく影。
「……なんか、光ってる?」
ミミが足を止める。
足元を覆うように透明な膜が広がり、ぬるりと盛り上がる。
半透明の塊が形を取り、内部で気泡がぷくぷくと浮かぶ。
ぴちゃ、ぴちゃ――粘ついた音が響く。
「スライムです。魔力の反応が濃い……普通の個体よりとても強いと思われます」
エリシアの声が落ちた瞬間、スライムが弾けた。
飛沫が宙を舞い、頬や首にまとわりつく。
「きゃっ、やだっ、飛ばさないで!」
リアナが身をひねって避ける。だが粘液の塊がミミへと跳ねた。
「わっ――!」
ぴちゃり。
次の瞬間、ミミの顔を透明な膜が覆う。
口元まで滑り落ち、ぴたりと張りついた。
手で払おうとしても、吸い付いて離れない。
「ごぼ……ごぼっ……!」
「ミミさん、息が――!」
リアナが駆け寄るが、手はぬめりの中をすり抜け、まるで触れられない。
「落ち着いてください、大丈夫です。――任せて」
エリシアが一歩前へ出て、両手を胸の前で組む。
目を閉じ、わずかに息を整えた。
「――穢れよ、光に融けて還りなさい」
淡い白光が広がり、ミミを包む。
スライムの内部で泡が弾け、形が崩れていく。
熱に溶かされるように粘液はミミの髪から頬、首筋、服の上を滑り落ち、やがて床の上で蒸発した。
「……はぁ、びっくりしたぁ」
ミミは肩で息をしながら、ぬぐった手のひらを見つめた。
「スライムって、もっと弱っちいんじゃなかったっけ?」
リアナがほっと息をつきながら答える。
「大丈夫ですか、ミミさん? スライムは個体差が大きいんです。
一番弱い魔物もスライムですが、一番強い魔物もスライム――そう言っているSランク冒険者もいるくらいです」
ミミはほっと笑い、エリシアを見る。
「助かったよ、エリシアちゃん。ありがとう」
「どういたしまして。でも……油断は禁物ですよ」
「分かったあ……でも服がべちゃべちゃだよ。ねぇ、エリシアちゃん。乾かす魔法とかない?」
「ミミさん、この前も言いましたよね? そのまま乾かすと体温まで奪われて、風邪ひきますよ?」
エリシアがやさしく眉を下げる。
「……デジャヴです」
リアナが肩をすくめる。
ミミが頬をふくらませ、エリシアがくすりと笑った。
湿った空気に笑い声が混じり、張り詰めていた空気がようやく緩む。
一行は再び第二階層を目指して歩き出す。
入り口からひたすら進み、突き当たりを右へ。
「ねえ、リアナちゃん、さっきのスライム全部とれてる?」
ミミが髪先をつまんでぷくっと頬をふくらませる。
「うーん。ちょっと光ってる気がします。ほら、じっとしててください」
リアナが身を寄せ、ミミの髪を指先でそっとかき分ける。
「ん……やっぱり、少し残ってます」
そう言うと、布を取り出し、丁寧に拭っていく。
「ん〜っ、なんか髪の毛触られるのって好きかも」
「も、もう……! やりづらくなるようなこと言わないでください!」
そんな二人のやり取りをよそに、セイが足を止めた。
「……む、気配じゃ」
頭上の闇から、ひらりと黒い影が舞い降りる。
羽を広げた無数のコウモリ――いや、翼のついた魔獣。
「皆のもの、気をつけろ!」
「バット・レイスね。単体は弱いけど、この数は厄介ね」
リアナが剣を構える。
「みんなを守って――結界ぽんっ!」
ミミが手を合わせた瞬間、淡い光の膜が展開され、突進してきた群れを弾き返す。
弾かれたバット・レイスたちが、ばさばさと音を立てて空中でもがいた。
「リアナ、行くぞ!」
「ええ、合わせるわ!」
「――スキル《威圧》!」
空気が震え、群れの大半がその場へ落ちていく。
それに応えるように、リアナの瞳が強く輝き、全身に光がにじみ出る。
「――《雷刃連閃》!」
雷光が走り、閃光の刃が闇を切り裂く。
次々と翼が焼き散り、残った個体も動きを止めた。
セイはスキル《加速支援》を発動し、リアナに追撃を重ねる。
剣閃と雷撃が交錯し、群れは瞬く間に霧散した。
「ふぅ……片付いたのぅ」
セイが息をつく横で、リアナは剣を軽く振り、刃に残った血と焦げ跡を払う。
「さすがセイとリアナちゃん、完璧な連携だね!」
ミミが拍手を送り、リアナは照れくさそうにセイへ視線を向けた。
「ふむ、連携は完璧じゃな」
セイが満足げに頷き、一行は再び歩き出した。
そして――二度目の突き当たりを抜けたその先に、重厚な扉が現れる。
「ここが第二階層への広間じゃな」
「とにかく、入ってみましょうか」
リアナが軽く頷く。
その大きな扉は、意外にも抵抗なく開いた。
軋む音とともに広間が姿を現す。
石造りの大空間。
その中央に、ひときわ大きな影が立っていた。
輪郭がはっきりするにつれ、セイの表情が凍りつく。
漆黒の毛並みを持つ巨大な魔物。
ねじれた二本の角が天に向かって伸び、赤く輝く双眸が不気味に光を放つ。
その筋骨たくましい体躯は、優に三メートルを超えている。
まるで伝説の魔獣ベヒモスを思わせる威圧感。
――あの祠で見た魔物。この世界で、一度自分を死に至らしめた存在。
「……レオナード」
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▼ステータス情報
【名前】セイ
【年齢】25(肉体年齢)
【職業】テンプレ詰め込み勇者
【レベル】40(+1)
【スキル】生活知識大全/魔法知識大全/世界法則書き換え/時間停止/魅了体質/無限成長/強制ハーレム誘導/おじいちゃんの優しさ(ヒロイン全員好感度+100)/威圧/加速支援/魔法適性鑑定/精霊感応/状態異常回復/索敵/ホーリーブースト
【同行者】
・ミミ(記憶喪失の少女/推定15歳)
- 好感度:好き
- 能力傾向:回復系(第一段階覚醒済)/ヒーラー適性あり
- 状態:アストラクロスのローブを装備。スライム戦で全身べちゃべちゃに……テンション低め
- 補足:何だかんだでダンジョンにワクワクしている
・リアナ(元騎士団の見習い/19歳)
- 好感度:好き
- 能力傾向:攻撃系(雷・風属性)/貫通・麻痺・加速タイプ
- 状態:シルクノートの胸当てを装備。スライム、バット・レイスの連戦にもとくに疲れなし
- 補足:セイとの連携がばっちり決まってご満悦
・エリシア(元聖女様/24歳)
- 好感度:かなり高
- 能力傾向:支援・結界・祈祷(神聖属性)
- 状態:アストラクロスのドレスを装備。リアナの活躍のおかげで疲れなし
- 補足:ミミが聞いているようで聞いていなかったことに少しだけショック
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