第67話 ヴァルネッタの街
「ねえ、お名前は何ていうの?」
ミミがしゃがみ込み、やさしく目線を合わせる。
「り、リンです」
か細い声で答えた少女。陽の光を浴びた栗色の髪が、ほんのり赤みを帯びていた。
「可愛い名前だね! そっちの君たちは?」
「ユウです」
「ぼく、トトだよ!」
「うん、みんないい名前だ。……お家はどの辺? ヴァルネッタかな?」
リンが小さくうなずく。
「先生が、いなくなっちゃったの」
「先生?」
「うん。学校の遠足で……先生とみんなで……」
リンの声は途中で震え、俯いた。
代わりにトトが顔を上げる。
「先生は街に戻ったんだ! 助けを呼びに行ったんだと思う!」
ユウも胸を張って続ける。
「リンちゃんのお兄ちゃん、すごいんだ! すぐ助けに来てくれるよ!」
「へえ、そうなんだ。頼もしいね」
ミミは嬉しそうに笑い、リンの頭をそっと撫でた。
「えへへ……」
リンも照れたように笑う。
ミミのおかげで、子どもたちの表情にようやく明るさが戻った。
――さあ、ヴァルネッタへ向かおう。
そう思った矢先。
外から慌ただしい足音と、「リンーっ!」という叫び声が響いた。
「なんじゃ!?」
セイが戸を開けると、鎧に身を包んだ若い騎士が立っていた。
「貴様ら、盗賊か!? リンはどこだ!」
「ま、待て待て! ワシらは盗賊ではない! おぬしが探しておる娘なら、ここにおるぞ!」
その背後から、リンが顔を出す。
「お兄ちゃーん!」
次の瞬間、青年の表情が一変した。
駆け寄ってきたリンを、彼は強く抱きしめる。
「……無事でよかった」
◇
「そうでしたか……先ほどは失礼しました。リンの恩人に、とんだ無礼を」
青年が深々と頭を下げる。
「気にするでない。あの状況では当然じゃ」
セイが軽く手を振る。
「そう言っていただけると助かります」
青年は安堵の息をつき、柔らかく笑った。
「改めまして、ヴァルネッタ駐屯軍のレンと申します。リンの兄です」
落ち着いた声には、人を安心させる響きがあった。
「お兄ちゃん、かっこいいでしょ! とっても強いんだよ!」
リンが誇らしげに言うと、レンは少し照れたように目を細める。
「やめてくれ、リン。……皆さん、本当にありがとうございました」
「ワシはセイじゃ。後ろの三人はミミ、リアナ、エリシア」
セイが顎で示し、三人も軽く会釈する。
「皆さんにも、心から感謝します」
「でも私たちがいなくても、レンさんが助けてたと思うけどな」
ミミが肩をすくめる。
「いえ、一刻を争う状況でした。……あなた方がいなければ、リンは――」
レンは言葉を切り、妹の頭を撫でた。
リンはその手に頬を寄せる。
短い沈黙のあと、セイが口を開く。
「ところで、おぬしはヴァルネッタの軍の者か?」
「はい。ヴァルネッタでは軍が自警団も兼ねています。……あの盗賊たちは、私が引き取っても?」
「もちろんじゃ」
セイは盗賊の頭目を睨む。
「もう悪さをするでないぞ。次は命の保証はせん」
「へへっ……すいやせん」
頭目は帽子を脱ぎ、深く頭を下げた。
「よし」
セイが頷くと、レンが一歩前へ出る。
「部下が近くで待機しています。すぐ引き渡しの準備を」
リンが名残惜しそうにセイたちを見上げる。
「……みんな、ありがとう」
「いいって! 無事でよかった!」
ミミが手を振る。
「リンちゃん、もう平気?」
「また何かあっても、ぼくたちがついてるからね!」
ユウとトトのやさしい声に、レンは思わず笑った。
「……リンは、いい仲間に恵まれたな」
「うんっ!」
場の空気がふっと和らぐ。
――そのとき、外から金属のこすれる音が響いた。
小屋の前に、鎧姿の兵士たちが現れる。ヴァルネッタ駐屯軍の部下たちだ。
「隊長! 合流しました! 逃走中の盗賊も確保済みです!」
「ご苦労。……それと、こいつが盗賊の頭だ。一緒に連れていけ」
命令を受けた兵士たちが素早く動き、男たちは縄で拘束され、護送車へ押し込まれていく。
「皆さん、もしよろしければ――このままヴァルネッタまでご一緒にどうですか? 町に着いたら、改めてお礼をさせてください」
レンが改まった口調で申し出た。
「ふむ、ちょうどワシらもそちらへ向かうところじゃ」
セイが頷くと、ミミたちも顔を見合わせて微笑む。
「決まりだね!」
ミミが弾んだ声を上げ、リンもぱっと顔を輝かせた。
「みんなで町にいこう!」
護送の準備が進む中、レンは部下に短く指示を出す。
「馬車を準備しろ。護送隊を組んで、すぐに出発する」
その言葉に、セイがひょいと手を上げた。
「いや、ワシらの馬車が少し先に置いてある。護送車は盗賊でいっぱいじゃろう? おぬしたちも、こっちに乗っていくがいい」
レンは一瞬ためらったが、すぐに頷く。
「……助かります。妹も一緒なので、ありがたく同乗させていただきます」
「うん、リンちゃん、ユウくん、トトくんもこっちおいで!」
ミミが笑顔で手を伸ばす。
「やった! またみんなと一緒だね!」
リンが嬉しそうに駆け寄り、ユウとトトも続く。リアナとエリシアが荷台から手を伸ばし、子どもたちを迎え入れた。
レンは妹たちを乗せると、自らも御者台の横に腰を下ろす。セイが手綱を握り、ひとつ息を整えた。
「よし、出すぞ」
やがて馬車が動き出す。
ひづめの音が街道を軽やかに叩き、木立を抜ける風が頬を撫でる。
森を離れるにつれて、空の青さが大きく広がっていった。
「そういえばのう、レンよ。ヴァルネッタといえば――近くにダンジョンがあると聞いたことがあるんじゃが?」
「……ええ、あります」
レンの表情がわずかに引き締まる。
「昔から存在は知られていましたが、正確な記録はほとんど残っていません。古代文明の王族の墓とも言われていますが……魔物が現れてからは“ダンジョン”と呼ばれるようになりました」
「魔物はいつからじゃ?」
セイが眉を寄せる。
「それも分かっていません。ただ……私が生まれた頃には、すでにヴァルネッタに軍が配備されていました」
レンは苦笑して肩をすくめた。
「ふむ……王族の墓となれば、お宝も眠っておるのか?」
セイの声が少し弾む。
「ええ、そういう噂は絶えません」
レンは小さく息をつく。
「それを目当てに潜る者も多いのですが……大半は戻ってきていません」
「えぇ!? そんなに危険なの?」
ミミが目を丸くする。
「はい。ダンジョンは階層構造で、少なくとも三階層までは確認されています。二階層からさらに下へ続く階段も見つかっていますが――三階層から戻った例はありません」
「……セイ、やっぱりやめたほうがいいよ。危ないよ」
ミミが不安そうに眉を寄せる。
「何を言う!」
セイが胸を張る。
「のう、レンよ! ヴァルネッタのギルドには、ダンジョン関連の依頼はあるか?」
「……まあ、ありますが」
レンは苦笑する。
「正直、お勧めはできません。危険なうえに、報酬も高くはないんです。予算の多くが軍備や防衛に回っていますので」
「報酬が少ないなら、危険を冒す理由はないわね」
リアナが小さくため息をつく。
だが、セイは首を横に振った。
「いやじゃいやじゃ、ダンジョンに行くんじゃ!!」
「……出たよ」
リアナが額に手を当てる。
隣でエリシアが口元を押さえ、くすくすと笑った。
「セイさん、本当にお好きなんですね、そういうの」
「そう! ロマンじゃ! ロマンがそこにあるんじゃ!」
拳を突き上げるセイに、レンは思わず吹き出す。
「……はは。まあ、町に着いたらギルドで詳しく聞くといいでしょう。ただし――自己責任でお願いしますよ?」
「うむ、もちろんじゃ!」
セイは満面の笑みで胸を叩いた。
「もう……しょうがないわね」
リアナが呆れたように肩をすくめる。
すかさずミミがにやりと笑う。
「リアナちゃん、セイに甘くなったね~?」
「そ、そんなことありません! べ、別に……その、ちゃんとお金を貯める時期だと思っただけで!」
リアナが真っ赤になって言い訳する。
「まあまあ、先は長いですからね。稼げるうちに稼いでおきましょう」
エリシアが穏やかにまとめる。
「エリシアちゃんまで~!」
ミミが頬をふくらませた。
そんなやりとりをしているうちに、馬車は街道を抜け、ヴァルネッタの街並みが見えてくる。
石造りの堅牢な城壁。門前には検問と見張り台。
内側には石畳の道が放射状に伸び、その先に軍の駐屯塔らしき建物がそびえていた。
街の中央には高い時計塔があり、昼下がりの鐘が軽やかに響く。
市場には屋台が並び、果物や焼き菓子、金物が所狭しと並べられている。人々の声と香りが風に乗って流れてきた。
「宿なら西側の飲み屋街にいくつかあります。よければ手配を――」
レンが申し出るが、セイは手を振る。
「いや、そこまで世話にはなれんよ」
「セイさん! 飲み屋街って言いましたね!」
エリシアがぱっと目を輝かせる。
「……おぬし、ずいぶん楽しそうじゃな」
セイが苦笑する。
「まずは宿、それからギルドじゃ。な?」
「はいっ、よろしくお願いします!」
エリシアは嬉しそうに頷く。
「だめだよ、エリシアちゃん。セイを独り占めしちゃ!」
ミミが頬をふくらませる。
「ね、リアナちゃん?」
「えっ、わ、私は別に……でも今日は私も行きたいです」
リアナが視線を逸らしながら小声で言う。
「えぇっ!? じゃあ、わたしひとりになっちゃうじゃん!」
「まあまあ、飲み屋といっても、お酒を飲まなければ子どもでも入れますから」
レンがなだめる。
「ちょっと待ってレンさん、それどういう意味?」
ミミがじとっと睨む。
「ご、ごめんなさい! そんなつもりじゃなくて!」
レンが慌てて両手を振ると、ミミはぷいっと顔をそらしながら笑った。
賑やかな笑い声を響かせながら、一行は石畳の通りを進み、宿屋へと向かった。
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▼ステータス情報
【名前】セイ
【年齢】25(肉体年齢)
【職業】テンプレ詰め込み勇者
【レベル】39
【スキル】生活知識大全/魔法知識大全/世界法則書き換え/時間停止/魅了体質/無限成長/強制ハーレム誘導/おじいちゃんの優しさ(ヒロイン全員好感度+100)/威圧/加速支援/魔法適性鑑定/精霊感応/状態異常回復/索敵/ホーリーブースト
【同行者】
・ミミ(記憶喪失の少女/推定15歳)
- 好感度:好き(天然の母性本能で好印象)
- 能力傾向:回復系(第一段階覚醒済)/ヒーラー適性あり
- 状態:アストラクロスのローブを装備。子どもたちとの交流でさらにテンション高め
- 補足:そんなに見た目子供っぽい?と少し不安になってきた
・リアナ(元騎士団の見習い/19歳)
- 好感度:好き(素直にセイについていきたいと言ってしまった)
- 能力傾向:攻撃系(雷・風属性)/貫通・麻痺・加速タイプ
- 状態:シルクノートの胸当てを装備。元気
- 補足:セイに対して“ツン2:デレ8”くらいにはなってきた気がする
・エリシア(元聖女様/24歳)
- 好感度:かなり高(セイの少年っぽいところに少しドキドキ)
- 能力傾向:支援・結界・祈祷(神聖属性)
- 状態:アストラクロスのドレスを装備。元気
- 補足:お酒の話題には敏感である
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