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第110話 フェルグリム

 アストリア地方の町エルミナ――リアナの実家。


「わぁ……っ! ここがリアナちゃんのおうち? すっごく広ーい!」


 玄関の重厚な扉をくぐった瞬間、ミミの声が高い天井に響いた。


 太い梁が組まれ、床は隅々まで磨き上げられている。

 どこを見ても、ミミにとっては新鮮なものばかりだ。


「ほんとに広い〜! なんか森の中のお城みたいだねっ」


 ミミは両手を広げ、その場でくるりと一回転する。


「田舎ですから……ただ広いだけですよ」


 そう言いながらも、リアナの表情はどこか誇らしげだ。


 まずはミミの部屋を用意するため、二人は客間へ向かう。

 そこで出迎えたのは、にこやかな笑みを浮かべる青年だった。


「お、リアナ。帰ってたのか」


「うん。今さっきね」


「で……そちらの可愛いお客様は?」


 青年は自然な仕草でミミの荷物を受け取ると、脇の台へそっと置いた。


「お世話になりますっ。ミミっていいます! リアナちゃんと仲良くさせてもらってて……!」


「ミミちゃんか。俺はライオス・フェルグリム。リアナの兄だ」


 爽やかに笑い、軽く一礼する。


「ようこそ、エルミナへ。ゆっくりしていってくれ」


「もう……なんで客間にいるのよ。お兄ちゃんはあっち行っててっ!」


 頬を赤らめながら、リアナがライオスの背中を押す。


「いいじゃないか。可愛い妹の大事な友達だろ? 挨拶くらいさせてくれよ」


 肩をすくめながらも、ライオスは素直に廊下へ出ていった。


「ふふっ、リアナちゃんのお兄さん、すっごく素敵だね」


 ミミが小声でささやく。


「友達みたいに気さくなのに、ちゃんと紳士って感じ。人気者でしょ?」


「……ええ。昔から、あんな調子で誰とでも仲良くなっていましたね」


「いいなぁ。あんなお兄さん、わたしもほしいな」


「……あまり持ち上げないでください」


 照れ隠しのように視線を逸らし、話題を変える。


「じゃあ、ミミさんの部屋を用意してきますので、少し待っててくださいね」


 部屋を出ようとした瞬間、ミミがリアナの袖をちょこんとつまむ。


「えっ、リアナちゃんの部屋じゃダメなの?」


「ダメ、ではありませんが……ずっと一緒になりますよ? 落ち着かなくないですか?」


「ううん、全然! リアナちゃんがいいなら、わたしは一緒がいいな」


 まっすぐな笑顔を向けられ、リアナは小さく息をつく。


「……では、私の部屋で。あまり広くはありませんが、いいですか?」


「うんっ!」


 二人は連れ立って階段を上がり、リアナの部屋へ向かった。


 部屋に入ると、ミミは興味深そうに辺りを見回す。


「少し片づけますので、ベッドに座っていてください」


「えっ、あ……うん。ありがとう」


 ミミがベッドに腰を下ろす。


 リアナは床に散らばった本や衣類、小物を手早く拾い上げ、クローゼットへまとめて押し込む。

 ぱん、と手を払って小さく息をついた。


「そういえばさ、リアナちゃん。なんで急に実家に帰るってなったの?」


 何気ないミミの問いに、リアナの表情がわずかに引き締まる。


「……休暇というのも事実ですが、一番の理由は父からの手紙です。実は、縁談の話が来まして」


「えっ!? 縁談!?」


 ミミが勢いよく立ち上がった。


「相手は? で、リアナちゃん、どうするつもりなの?」


「相手は東の領地の貴族の子息です。以前から打診はあったのですが、今回、正式に申し込みが来たそうで……ですが、お断りするつもりです」


「だよね! ……だって、リアナちゃんにはセイがいるもんね!」


「っ!? い、いえ、別にセイが理由というわけでは……っ」


 リアナは慌てて視線を逸らす。


「私にはまだ、やりたいことや、やらなきゃいけないことがたくさんありますから」


「……そっかぁ」


「……そもそも、ミミさんだってセイのことが好きなんですよね? 私の心配なんてしていていいんですか?」


「いいのいいの! 私はね、好きな人の話を一緒にできる相手がほしいの。リアナちゃんとセイの話ができるの、すっごく楽しいんだから!」


「なんてポジティブ思考……」


 リアナは小さく肩を落とした。


「父は今、その貴族のもとへ出向いています。明後日には帰ってくるそうなので、そのときにきちんと話すつもりです」


「じゃあ、今日と明日は完全に休暇ってわけだねっ! どうする?」


「もう決めてあるんです!」


 リアナは少し嬉しそうに笑う。


「ミミさんを、私の思い出の場所に案内しますね。とってもいいところなんですよ」



 それは、リアナの家から少し離れた場所にある、木々の間が広く開けた森だった。


 だが――


「えっ、なんで?」


 森の入口には柵が設けられ、立ち入り禁止の札が掛けられている。


「入れないみたいだね?」


「はい……。札も新しいですし、つい最近、立ち入りが禁じられたのでしょうか」


 リアナは首をかしげる。

 子どもの頃から慣れ親しんできた場所。突然閉ざされる理由が思い当たらない。


 二人はいったん家へ戻り、兄のライオスに事情を尋ねた。


「ああ。最近、あの森に魔物が住み着いたらしくてな。危険だから立ち入り禁止になったんだ」


「だったら、お兄ちゃん。なんとかしておいてよ」


「いや、俺だって暇じゃないんだ。ほかにも仕事が山ほどあってな」


「もうっ……じゃあ私が何とかする。誰に言えばいいの?」


 呆れたように眉を寄せ、ライオスはため息をついた。


「おい。住み着いているのはタイラントボアだぞ。お前にどうにかできる相手か?」


「何言ってるの? 私、もう冒険者だよ? タイラントボアくらい、ちょちょいだよ!」


「本当に大丈夫なんだな?」


 念を押すように問い、隣のミミにも視線を向ける。

 ミミは少し緊張しながらも、「うん」と小さく頷いた。


 しばしの沈黙のあと、ライオスは観念したように口を開く。


「分かった。森の管理は本来、親父の管轄だが、今は不在だ。代わりに対応しているのはエルミナの警備隊長だな」


「じゃあ、警備隊長に話せばいいんだね?」


「ああ。俺からも一言、通しておいてやる」


 ぱっと顔を輝かせ、リアナは勢いよく身を乗り出す。


「ありがと、お兄ちゃんっ!」


────────────────────────

▼ステータス情報


【名前】リアナ

【年齢】19歳

【職業】箱入り令嬢の冒険者

【レベル】54

【スキル】雷属性適性/風属性適性/雷迅一閃/貫通攻撃/麻痺付与/加速強化


【同行者】

・ミミ(記憶喪失の少女/推定16歳)

 - 好感度:かなり高

 - 能力傾向:回復系(第一段階覚醒済)/ヒーラー適性あり

 - 状態:アストラクロスのローブを装備。初めてのところだと気をもんでちょっとお疲れ気味

 - 補足:結婚したらリアナが実家に帰ってしまうのではとやきもきしている

ここまで読んでいただきありがとうございます!

「面白い」「続きが気になる」と思っていただけましたら、下の【☆☆☆☆☆】やブックマーク、ご感想にて応援いただけると、泣いて喜びます。

次の話もぜひぜひ、よろしくお願いします^^

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