第111話 問題解決
「ありがと、お兄ちゃんっ!」
元気よく礼を言うと、リアナはその足でエルミナの警備隊詰所へ向かった。
石造りの建物の扉をくぐった瞬間――
「り、リアナ嬢!?」
「リアナ嬢がお見えだぞ!」
「ライオス様からご用件は伺っております。どうぞこちらへ」
慌ただしく敬礼され、そのまま駐屯所内の簡易的な応接室へと案内される。
二人が椅子に腰かけると、奥から重い足音が近づいてきた。
現れたのは、鋭い目つきに頬の古傷、鎧に包まれた屈強な男。
エルミナ警備隊長、グレイヴ・ハルトマン。
威圧感をまとったその男は、リアナの前で深々と頭を下げた。
「これはリアナ嬢。お戻りになっていたのですね。このようなむさくるしい場所までお越しいただき、恐れ入ります」
「えっと……森の件なんだけど。タイラントボア、私がやっつけるね」
「……その件はライオス様からも伺っております。しかし、リアナ嬢にそのような危険な任務をお任せするわけには――」
「じゃあ、今すぐ何とかしてよ」
ぐ、と言葉に詰まるグレイヴ。
「そうは申されましても……他にも優先すべき案件が山積しておりまして……」
「グレイヴまでお兄ちゃんと同じこと言って」
じと、と睨まれ、屈強な隊長の額にうっすらと汗がにじむ。
「……分かりました」
観念したように息を吐く。
「隊員を数名、同行させます。その条件であれば、討伐を許可いたしましょう」
そう言って、背後の隊員たちへ鋭く視線を送る。
「お前たち――死んでもリアナ嬢を守れ」
「はいっ、よろこんでっ!」
その様子を見ながら、ミミは内心でつぶやいた。
(リアナちゃんって……ものすごいお嬢様だったんだ……。しかも、お家ではけっこうわがままなんだ……)
◇
再び森の入口。
柵の前に、リアナとミミ、そして警備隊員三名が並ぶ。
確かに、リアナの記憶にある穏やかな森とは、もう空気が違っていた。
「私が先行するわ。みんなは少し後ろから、いつでも捕縛できるように準備を」
「しかし――」
「大丈夫。危なくなったらすぐ下がるから。ミミさんは後方支援をお願いできますか?」
「うん。回復と援護、任せて」
隊員たちは一瞬だけ視線を交わし、やがて無言でうなずいた。
森の入口を塞いでいた柵が、軋みを立てて外される。
一行は慎重に、森の中へ足を踏み入れた。
◇
木々の間を進むにつれ、踏み荒らされた地面や折れた若木が目に入る。
明らかに大型の魔物が通った痕跡だった。
「……いるね」
ミミが小さくつぶやいた、その瞬間。
ブォォォオオオッ!!
地を這うような咆哮が森を震わせる。
茂みを突き破り、巨大な影が姿を現した。
黒光りする毛並み。岩のような牙。大人の馬ほどもある巨体。
――タイラントボア。
「でかっ……!」
リアナの口から思わず声が漏れる。
「リアナ嬢っ!」
隊員の一人が庇うように前へ踏み出そうとする。
「ダメ、下がって! あなたたちは持ち場に集中して」
リアナは腰の剣に手をかけ、意識を集中させる。
淡い光が身体から滲み出し、やがて全身を包み込んだ。
後方からミミの声が響く。
「リアナちゃんを守って!――《防御結界》、ぽんっ!」
空気が弾けるように広がり、薄い膜がリアナの周囲を覆う。
「ありがとう、ミミさん。行くわよ――タイラントボア!」
地面を抉りながら、巨体が一直線に迫ってくる。
リアナは冷静に横へ跳んでかわす。
直後、牙が先ほどまで自分が立っていた場所を抉った。
「速い……でも、この程度なら」
着地と同時に剣を抜く。
再び突進してくるボアを、今度は真っ向から迎え撃つ。
踏み込み、すれ違いざまに鋭い一閃を放つ。
ギィン、と硬い手応えが腕を震わせる。
「皮が硬いよ……!」
振り向きざまにボアが前脚を振るう。
リアナは剣で受け流すが、衝撃に押されて数歩後退した。
「リアナちゃん! ――《癒しの手》」
「……あ、なんか身体が軽くなった」
「え、そんな効果あったかな……でも頑張って、リアナちゃん!」
怒りの咆哮を上げ、ボアが三度目の突進に入る。
今度は正面から受けない。直前で踏み込み、懐に潜り込む。
「ここっ!」
比較的柔らかい腹部へ、渾身の一撃を叩き込む。
肉を裂く手応えとともに、ボアが甲高い悲鳴を上げた。
「今よ! 捕縛して!」
待ち構えていた三人の隊員が一斉に動く。
一人が横から飛び込み、太い縄をボアの後脚に投げかける。
もう一人が反対側から回り込み、前脚に絡めた。
「締めろ!」
三人目が地面に杭を打ち込み、一気に縄を引き絞る。
傷口から血を撒き散らしながら、ボアが暴れる。
それでも三人は縄を離さない。
三方向から引かれた縄が、次第に巨体の自由を奪っていく。
やがて後脚がもつれ、前脚が地に沈んだ。
「押さえ込め!」
三人が体重をかけ、完全にその動きを封じる。
荒い呼吸を繰り返しながら、タイラントボアはついに動きを止めた。
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▼ステータス情報
【名前】リアナ
【年齢】19歳
【職業】箱入り令嬢の冒険者
【レベル】55(+1)
【スキル】雷属性適性/風属性適性/雷迅一閃/貫通攻撃/麻痺付与/加速強化
【同行者】
・ミミ(記憶喪失の少女/推定16歳)
- 好感度:かなり高
- 能力傾向:回復系(第一段階覚醒済)/ヒーラー適性あり
- 状態:アストラクロスのローブを装備。回復薬に徹して少しだけ魔力消費
- 補足:今度からリアナちゃん呼びじゃなくて、リアナ嬢って呼ぼうと決意
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