第100話 昇格試験前に(後編)
【西の森:オオトカゲ討伐】
西の森にて、オオトカゲの目撃情報あり。
ここ数日、薪拾いや狩りに入った村人が襲われたという報告が複数寄せられている。
一行が西の森へ到着したのは昼過ぎだった。
日中にもかかわらず、鬱蒼と茂る木々が陽光を遮り、森の中は薄暗い。
「さて、オオトカゲ探しから始めるつもりじゃったが……どうやら、その手間はなさそうじゃのう」
セイの視線の先には、地面に残る大きな足跡と、何かを引きずったような痕。
その周囲には、噛み砕かれた獣の骨が無造作に散らばっていた。
「……でも、この足跡。顎の幅もそうだけど、全体的に大きすぎるわ」
リアナがしゃがみ込み、痕跡を確かめながら眉をひそめる。
――その直後だった。
茂みを押し分けて姿を現したのは、確かにトカゲに似た生き物。
だが、その体躯は報告よりも一回り以上大きく、分厚い鱗の下では魔力が脈打っている。
「……ねえ、これ……オオトカゲじゃないよね?」
ミミが小声で呟く。
「ちょっと、これ……ドレイクじゃない? ランクCの依頼では、割に合わなすぎるんだけど……」
リアナが顔をしかめてぼやく。
「セイさん、どうなさいますか?」
エリシアが静かに指示を仰ぐ。
「まあ、こんな魔獣が村の近くをうろついとるのは問題じゃろうな。ワシらでなんとかするぞ」
ドレイクはこちらに気づくと、低く唸り声を上げ、巨大な尾を振りかぶった。
「来るぞ」
「結界はるよ! みんなを守って――《防御結界》、ぽんっ!」
淡い光の膜が展開され、振り抜かれた尾を受け止める。
「ありがとう、ミミさんっ」
「――《威圧》」
セイがスキルを発動すると、周囲の空気が一気に重くなる。
ドレイクの動きは鈍ったものの、なお力強く地面を踏み鳴らした。
セイとリアナが飛び出そうとした、その時。
エリシアが二人より先に、すっと前へ出た。
「皆さん、ここは私に任せてください。この前の力、もう一度試してみたいんです」
その声に応えるように、ドレイクは標的をエリシアに変え、一直線に突進してくる。
「《ウォール》!」
轟音とともに水の壁が立ちはだかる。
勢いのまま突っ込んだドレイクは弾き返され、大きく体勢を崩した。
「――《ミスト》」
瞬く間に濃霧が広がり、一帯は白く沈む霧の森と化した。視界が薄く覆われていく。
「《ランス》」
霧の中、ドレイクの頭上で水滴が鋭く形を変え、無数の水の槍となって降り注いだ。
水槍がドレイクの身体をかすめ、突き刺さり、削り取っていく。
分厚い鱗が砕け、肉が裂けるたびに、巨体が苦悶にのたうち回った。
「グォオオオオオオッ……!!」
喉を引き裂くような断末魔の咆哮を残し、ドレイクはその場に崩れ落ちた。
「やった! すごいよ、エリシアちゃん!」
真っ先に声を上げたのはミミだった。目を輝かせて振り返る。
「この前も思ったが、エリシアのその力は……もうチートじゃな」
「チート?」
聞き慣れない言葉に、ミミが小さく首を傾げる。
「ふう……やっぱり、この力はすごいです。ただ……魔力の消費も……つ、疲れました……」
そう言い残すと、エリシアはその場にへたり込んでしまった。
「エリシアさん。しっかり」
リアナがすぐさま駆け寄り、そっと肩を貸す。
「でも、この力……魔力消費以外にも、もう一つだけ難点があるんです……」
「うん? そうなの?」
ミミが興味深そうに身を乗り出す。
「服がびしょびしょになります」
「確かにー! 霧がすごすぎて、服が濡れちゃってるよ。
リアナちゃんなんて、ちょっと透けちゃってるし……」
ミミの一言に、リアナは頬を赤くし、身体を隠すように身をすくめた。
そんなやり取りを交えつつも――
オオトカゲ討伐は、無事に完了した。
◇ ◇ ◇
【北の湖畔:水棲魔獣の調査】
西の森での討伐を終えた一行は、時刻を確認すると、そのまま次の依頼へ向かった。
『西の森から北へ進んだ湖畔にて、大型水棲生物の目撃例あり』
現時点で被害報告はない。
ただし、対象の凶暴性を確認し、危険と判断した場合はその場で討伐すること――それが今回の依頼内容だった。
西の森を抜け、北へ進むことしばらく。
湖畔へ到着した頃には、空は夕暮れ色に染まり始めていた。
湖面は鏡のように空を映し、風ひとつ吹いていない。
波紋すら立たない静寂が辺りを包んでいる。
「……生き物の気配が、薄いですね」
エリシアが不安をにじませた声で呟いた、その瞬間――
水面が大きく盛り上がり、湖全体がうねるように波打った。
姿を現したのは、異様に長い首と、鱗に覆われた巨大な胴体。
ぬらりと水を滴らせながら、その巨体が夕暮れの湖畔へ姿を現す。
「サーペント!」
リアナの声が、静まり返った湖畔に響いた。
長い首をゆるやかに揺らしながら、サーペントは一行を見下ろしている。
夕暮れの光を受け、鱗が鈍く濡れた光を放っていた。
「しかし……これは、なかなかの大きさじゃな」
セイのつぶやきに、リアナが軽く肩をすくめる。
「大きいのには驚いたけど、所詮はヘビよ。ドレイクほどの脅威じゃないし、依頼ランクCなら妥当なところね」
「わ、わたし……ヘビはちょっと苦手かも……」
ミミが小さく身を引いた。
「大丈夫です。エリシアさんとミミさんは、後ろで下がっていてください」
リアナはそう言うと一歩前に出て、剣の柄に手をかけた。
「ここは、私とセイで対応しますから」
その直後――
サーペントの尾が水面を叩きつけ、巨大な水柱が立ち上る。
水しぶきが雨のように降り注ぎ、一行の足元を濡らした。
「これは……警告、というより牽制ね」
「うむ。向こうも、引く気はなさそうじゃな」
セイは短く頷く。
「よし。調査は十分じゃ。生物の気配が薄いことから、生態系にも影響が出とると考えられる。
これ以上放置するのは危険――討伐に移る」
その言葉に反応したかのように、サーペントは殺気をまとい、まっすぐセイへと向かってきた。
「――《威圧》」
重圧が周囲を包み込み、サーペントの動きがわずかに鈍る。
「よし。こやつなら、十分スキルが効く――《時間停止》!」
……だが、サーペントは止まらない。
「あれっ?」
次の瞬間、目前まで迫ったところで、ぴたりと動きを止めた。
「そうじゃった。このスキル……タイムラグが結構あるんじゃった」
内心かなり焦りつつも、セイは気を取り直して短剣を構え直す。
「――《加速支援》」
身体がふわりと軽くなる。
一気に跳躍したセイは、サーペントの頭上高く舞い上がり、短剣に魔力を収束させる。
「悪く思うなよ」
着地と同時に、渾身の一撃を振り下ろす。
爆発のような轟音とともに、サーペントはその場に崩れ落ちた。
「やったわね。今回は私の出番がなかったけど……次はちゃんと連携、確認させてよね」
リアナが剣を鞘に収めながら言う。
「これで依頼は全部完了だね!」
ミミが嬉しそうに笑う。
「ふふっ……今日は、ぐっすり眠れそうです」
エリシアもほっとしたように微笑んだ。
こうして水棲魔獣の調査、そして討伐も無事完了。
何だかんだで、当初の目的であったレベル上げは、しっかり達成されたのだった。
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▼ステータス情報
【名前】セイ
【年齢】26(肉体年齢)
【職業】テンプレ詰め込み勇者
【レベル】51(+2)
【スキル】生活知識大全/魔法知識大全/世界法則書き換え/時間停止/魅了体質/無限成長/強制ハーレム誘導/おじいちゃんの優しさ(ヒロイン全員好感度+100)/威圧/加速支援/魔法適性鑑定/精霊感応/状態異常回復/索敵/ホーリーブースト/空間転移
【同行者】
・ミミ(記憶喪失の少女/推定16歳)
- 好感度:好き(一緒に誕生日を祝えることが嬉しい)
- 能力傾向:回復系(第一段階覚醒済)/ヒーラー適性あり
- 状態:アストラクロスのローブを装備。西の森、服がびしょびしょで少し気持ち悪い
- 補足:やっぱりお祝いされるのは嬉しいなと感動してた
・リアナ(元騎士団の見習い/19歳)
- 好感度:大好き(来年も再来年もお祝いの約束)
- 能力傾向:攻撃系(雷・風属性)/貫通・麻痺・加速タイプ
- 状態:シルクノートの胸当てを装備。西の森、服がびしょびしょで結構恥ずかしい
- 補足:セイとの連携を確認しておきたかったけど、今回ほとんど出番がなかった
・エリシア(元聖女様/25歳)
- 好感度:けっこう高め(しれっと身を寄せるしたたかさ)
- 能力傾向:支援・結界・祈祷(神聖属性)
- 状態:アストラクロスのドレスを装備。西の森、服がびしょびしょだけど、自分のせいなので気にしない
- 補足:ここ最近の口調からも、すっかり打ち解けてきている様子がうかがえる
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