ベルグ火山へ
宮殿中に鐘の音が鳴り響いていた。
普段は祝祭の時しか鳴らない鐘が、今は帝国中へ危機を知らせる警鐘となっている。
「南部ベルグ地方の住民に避難命令!」
「騎士団第一隊、出動!」
「医療班は西門へ集合!」
宮殿の中は、かつてない慌ただしさに包まれていた。
私は廊下を走りながら、その光景を見つめていた。
侍女も文官も騎士も。
誰一人立ち止まっている者はいない。
皆、自分にできることを探して動いていた。
帝国全体が、一つになって危機へ立ち向かおうとしている。
その時だった。
「ラルム。」
振り向くと、レオが立っていた。
その表情は落ち着いている。
けれど、碧い瞳の奥には隠しきれない緊張が宿っていた。
「私も行きます。」
私は迷わず言った。
レオは首を横に振る。
「駄目だ。」
「危険すぎる。」
「でも!」
「私はもう守られているだけではいたくありません。」
胸元のアマドーラの雫が、淡く光を放つ。
「この雫が、私をここまで導いてくれました。」
「だったら。」
「今度は私が、人を守る番です。」
レオは静かに私を見つめた。
しばらく沈黙が続く。
やがて、小さく息を吐いた。
「……君は変わったな。」
「はい。」
「あなたの隣に立つと決めた日から。」
レオは苦笑する。
「その言葉を聞くたび、反対できなくなる。」
私は少し笑った。
その時。
廊下の向こうから、元気な声が響く。
「陛下!」
ルカだった。
鎧姿のルカは、いつもの軽い笑みではなく、一人の騎士として凛々しい表情をしている。
「第一隊、準備完了しました!」
その後ろにはクララの姿もあった。
簡素な旅装に身を包み、救護班の腕章を付けている。
「クララさん。」
「ラルム様。」
クララは穏やかに頭を下げた。
「負傷者の救護班として同行いたします。」
ルカが少し照れくさそうに笑う。
「本当は危険だから反対したんですが。」
クララはすぐに答えた。
「ルカ様がお一人で危険な場所へ向かわれるのに、私だけ安全な場所にはいられません。」
その言葉に、ルカは何も返せなかった。
私は思わずレオを見る。
レオも小さく笑っている。
「どうやら。」
「鈍感な騎士も、少しは成長したようだ。」
ルカは苦笑した。
「陛下、その話は後にしてください。」
張りつめた空気の中で、小さな笑いが生まれる。
その笑顔が、かえってこれから向かう先の厳しさを際立たせていた。




