↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アマドーラ帝国の雫  作者: EMo


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
43/54

隣に立つために②

 翌朝。


 私はいつもより少し早く目を覚ました。


 窓を開けると、朝露に濡れた庭木が朝日に照らされ、宝石のように輝いている。


 静かな風が頬をなで、胸元のアマドーラの雫も淡く光を返した。


 不思議だった。


 雫を身につけるようになってから、風の匂い、水の流れる音、草木の息づかいが以前よりも鮮明に感じられる。


 まるで、大地そのものが語りかけてくるようだった。


    


 午後になると、レオは私を宮殿の庭園奥にある小さな湖へ連れて行った。


「ここは?」


「皇族だけが立ち入ることを許された泉だ。」


 湖面は鏡のように静かだった。


 風ひとつない水面へ空が映り込み、境界が分からなくなるほど美しい。


 私は吸い寄せられるように水辺へ近づいた。


 その瞬間だった。


 胸元のアマドーラの雫が柔らかな光を放つ。


 湖面が静かに揺れた。


「……え?」


 私は何もしていない。


 それなのに、水面が私に呼応するように小さな波紋を描いている。


「レオ……。」


「やはりそうか。」


 レオは穏やかな表情で頷いた。


「雫が、この水と共鳴している。」


 私は静かに膝をつき、水へ手を伸ばいた。


 指先が触れた瞬間、水は冷たさではなく、不思議な温もりを返してくる。


 その感覚に目を閉じる。


 すると、一滴の水がふわりと宙へ浮かび、私の手のひらの上で小さく踊った。


「……!」


 驚いて見つめていると、その水滴はやがて静かに湖へ戻っていった。


「これが……私の力。」


 レオは静かに頷く。


「以前の君なら、火の力に触れるだけで意識を失っていた。」


「だが今は違う。」


「水が君を受け止めている。」


 私は胸元の雫へ触れた。


 ドラゴンの姿が以前よりもはっきり見える。


 その瞳は優しく私を見つめていた。


    


 その日の夕刻。


 執務室へ戻る途中、突然レオが立ち止まった。


「どうしたの?」


「……少し待ってくれ。」


 その表情が苦しそうに歪む。


 私は思わずレオの腕を支えた。


「レオ!」


 その手が熱い。


 いつもよりずっと熱い。


 部屋の燭台の炎が、一斉に大きく揺れ始めた。


 窓辺の蝋燭も、暖炉の火も、まるで呼吸を合わせるように激しく燃え上がる。


「また……火の力が。」


 レオが苦しそうに呟いた。


 皇帝となり、帝国全土を守ろうとする責任が、その力にも影響を与えているのだろうか。


 私は考えるより先にレオの手を握っていた。


「レオ。」


 胸元のアマドーラの雫が眩しく輝く。


 青白い光が二人を包み込んだ。


 暴れていた炎が少しずつ落ち着いていく。


 暖炉の火は穏やかな炎へ戻り、部屋には再び静けさが戻った。


 レオは驚いたように私を見つめる。


「君は……。」


「以前のように倒れない。」


 私は静かに首を振った。


「不思議なんです。」


「怖くないんです。」


「水が……あなたの火を優しく包んでくれる気がして。」


 レオは少し安心したように笑った。


「そうか。」


「火は強すぎればすべてを焼き尽くす。」


「だが、水があれば命を育む。」


 私はその言葉を胸の奥で繰り返した。


 火と水。


 どちらか一つでは帝国は守れない。


 二つが調和して初めて、人々は安心して暮らせるのだ。


     ◇


 夜。


 一人になった私は、窓から帝都を見渡していた。


 無数の灯りが街を照らしている。


 あの一つひとつに家族がいて、笑顔がある。


 その景色を守るために、レオは今日も戦っている。


「私は……。」


 胸元の雫を握る。


「守られるだけではいたくない。」


 静かに目を閉じた。


「レオが帝国を守るなら。」


「私は、その背中を守れる人になりたい。」


 その瞬間、雫の奥でドラゴンがゆっくりと翼を広げた。


 その姿は、これまでで一番力強く、美しかった。


 私は微笑む。


 きっと、これが私の進むべき道なのだ。


 火の皇帝の隣で。


 水の力を持つ者として。


 私は、この帝国の未来を守っていこう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。