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街並み・タンク・拳銃

 東街の街並みは僕の想像していた雰囲気とは大分違っていた。列車を降り、地長の歩みを後ろから追ってついていくと、「東街にようこそ」と書かれた看板が見えた。その看板の奥には人たちが賑わうようにいた。僕はその看板を超え、一度足の歩みを止めた。

「ここが西地方ノスタルジア・東街です」

 僕は視界に広がるその景色をまるで一枚の繊細に描かれた画を全体的で見るように、眺めた。それは僕の想像とは異なっていたが、確かに故郷を思い出させるような光景に思えた。僕は非常に懐かしい気分になった。いつしか顔も合わせていない母や父の顔が、脳裏に淡く浮んできた。「なるほど」と僕は、それだけ呟いた。

 まるで瞳に差し込む光のように真っ直ぐと伸びた道があり、その道を挟むように木で作られた建物が並んでいた。屋台のようなものも出ており、そこらで人々は買い物をしていた。先端が鋭く尖った山らしきものが遠くの方向に見え、その山の先からは色とりどりのテープが広がって伸びていた。さらに見渡すとあたる所に木が生えており、実に色鮮やかな街光景だった。

「どうですか? 私が好きな街は」と地長も僕と同じように街並みを眺めながら、訊ねた。

「絶景です。この雰囲気には人を惹かせる何かを感じます。初めて目にする光景なのに、僕にはこれが初めてだとは思えないんです。まるで幼少期に戻ったようなんです。ところ構わず走り回っていた子供の頃の景色が脳裏に浮んで、それに釣られるように故郷にいる両親を思い出しました。良い意味で、僕はこの雰囲気に支配され、呑み込まれてしまいそうです」と僕は長々と語った。そしてすこし間が空き、僕は追いついた羞恥心から「すみません」と言った。

「そこまで言われると、私も嬉しいです。私も何年とここに住んでいますけれど、相変わらずの絶景です」

 僕は一度空気を大きく吸った。口を窄めてそこに東街の空気を大量に口に含み、大袈裟に僕は息を吐いた。まるで雨が上がり、覗き込んだ澄んだ空の下で長靴を履いてはしゃぐ幼女のような気分だった。汚れることを承知で水溜りの上を派手に飛ぶのだ。僕はすぐにでもこの街を歩き回りたくなった。

 僕はもし僕がこの街に住んだら、ということを妄想してみた。窓から差し込む日差しで僕は目が覚め、非常に心地よい起床をするのだ。そのあとに僕は身軽な服装のまま家を出、外の空気に浸りながらいつもの散歩コースを優雅に歩くのだ。それはとても爽やかで実に心地いい朝だ。僕は獣還師の仕事を辞めたあと、ここに住むのはどうだろう? と考えてみた。悪くないものだった。

 「それじゃあ部屋に案内させていただきます。ついて来てください」と地長は言い、歩みを再開させた。「はい」と僕も後を追う。地長の背中を僕はしばらく見据えていた。それはまるで生まれたての小鳥の群れのような優しさと、妙な貫禄を伴侶していた。

 


 地長の家は――先程の東街の時もそうだったが――自分の想像していたものとは大分異なっていた。僕が勝手に想像を膨らませていたのは、さすが地長と言わんばかりの巨大な建物で、まるで宮殿のようなものだった。おびただしい数のお手伝いさんがおり、常に清潔な輝きを放っているものばかりだと僕は自分とは程遠い世界を想像していた。

 しかし、地長の家は思ったよりも普通だった。錆びのような薄汚い色に変色した木の壁で、弾丸すらも貫通しないような頑丈さを備えた鉄の扉が印象的だった。地長は「想像と違いましたか?」と僕の気持ちを読み取ったかのように訊ねてきた。

「そ、そんなわけないじゃないですか」と僕は引き攣った笑みを浮かべて言った。

 地長は分厚い鉄板のような扉を引き、「中へどうぞ」と僕を先に招いた。僕は「お邪魔します」と呟きながら中へ踏み入り、光という概念を認めないような暗闇の中に身を晒した。そこで僕はとっくに空が夜を迎えていた、という事に気づいた。視界は真っ暗闇が広がっていた。それはまるで黒一色に塗り潰された淡い壁を長々と眺めているような感覚になった。その前に僕は今瞼を開いているのだろうか? という疑問すら浮かんだ。

 ところで僕の耳元では――この家に入った時からだが――まるで強風が風力だけを殺して、宙に流れているような音がしていた。さらに虚空の暗闇の中は、凍えるのような寒さを篭らせていたので、僕はここがどこかの地下室のようなものに思えてきた。ゴオオオウ、と重苦しい轟音は耳元にまとわり、離脱する気配は毛頭と感じられなかった。僕にはこの轟音の原因が、まるで見当がつかなかったのだ。

 その時、天井にぶら下って不規則に揺れていた電灯が僅かな熱を佩びながら点き、僕とその周りの闇を振り払うように照らした。僕は地長にも目をやらずに、轟音の正体を探った。辺りを見渡すと、見るからにそれしかあり得ない物体が、地面に置かれていた。

 鉄でロール状の巨大なタンクが、堂々と場所を占めていた。僕の体と同じほどの大きさで、似たような機械がもう一台隣に並んでいた。それと同じように反対の壁にもそのタンクがあり、合わせて計四台並んでいた。そのタンクが何かはわからないが、これが原因だということはすぐに理解できた。そのタンクの下から水がいささか洩れており、コンクリートの地面に――そこで僕は今立っている地面が、コンクリートの地だということに気づいた――まるで氷柱のように鋭い棘の形を描いて暗く染めていていた。

 鉄網の階段があり――僕には段々とこの家が工場かなにかに思えてきた――その階段を上ると、人が三人ほど寛げる面積の少々厚い板があった。その板にはなかなか使い勝手の良さそうな机が置いてあった。その机の上には西地方ノスタルジアの地図らしきものが置いてあり、それの資料本だと思う厚めの本が三冊立ち並んでいた。その板を上から支えるように小さい階段があり、その階段を上るとようやく二階に到着した。

 二階の面積は実に狭かった。一階の約半分も達していないほどの面積しかなく、まず目に入ったのは古びた台所だった。深緑色の冷蔵庫が窮屈そうに納まり、それを詰めるように必要最低限ほどの広さしかない台所があった。流し台の前は窓があった。その窓の奥には十字に仕分けられた柵があり、そこには並べられた本のように皿や食器が整頓されていた。台所とは反対の方向に目をやると、細い道の廊下があり、幾つかの部屋に繋がるドアが並んでいた。丸いドアノブが間隔を空けて虚空の空気に向き出している。

「狭い家ですみません」と地長が申し訳なさそうに言った。「地長とはいっても、お金はあまりないんですよ」

「いえ、構いません」と僕は言って、荷物を下ろした。

 僕は荷物の詰まった鞄の中を確認しながら、地長にいろいろと好奇心に引っ掛かることを地長に訊ねてみた。

「一階にあった、あのタンクはなんです?」

 地長はやっぱりそれを訊くか、という顔をした。

「あれは雨水などを溜めて、奇麗にする機械なんです」と地長は慣れた口調で説明した。どうやらここに来る客人は皆、この質問をするのだろう。「妻が買ってきたんです」

「奥さん、いらっしゃるんですか?」

「いたんですよ。妻は数年前に亡くなりました。病死でした」と地長はまるで他人の過去のように何ともないような声で言った。多分、過去にも同じことを説明してきたのだろう、と僕は思った。そう思うと僕はとても申し訳ない気分になった。「妻の買い物は少々豪快でしてね」そう言って地長は苦笑した。

「あの……すみません」と僕は謝った。これも今まで何度もされてきたのだろうな、と僕は再び後悔した。申し訳ない。

「構いませんよ。今は娘と二人で暮らしているんです。もう少ししたら帰ってくるでしょう」

「娘さんがいるんですね」

 僕は気まずくなる沈黙が始まると悟り、すぐに話題を変えようと試みた。地長も同じように窺えた。パン生地を捏ねるように僕は脳にあらゆる話題を勘案していたが、これだという逸材な案は見当たらなかった。僕は鞄の奥の方に潜っていた小型ナイフを引っ張り出し、普段から使う小さなバッグに移した。他になにかあったかな、と手探りで鞄の中を冒険していると、頑丈に強張ったような塊に指先が触れた。それを掴む。引っ張り出すと、それは拳銃だった。必要ないな。僕はそれを再び鞄に埋めた。

「昼間も言ったかもしれませんが」と僕は言った。拳銃は見られていないようで一度安堵した。「今日中に獣は現れるはずなので、ここに泊まらせて貰うのは今日一日だけだと思います」

「そうですか」と地長は何ともないような顔で言った。「仕事が終わるとすぐに列車に乗って帰るのですか?」

「いや、明日は一日東街を観光しようと思ってます。なにか、すごく気に入ったんです。この街が」と僕は言った。

「そうですか」地長は、単純に嬉しそうだった。 


 

 

 

  

この作品は世界観が今までと違うのですが、文章がこれだからかそうと思えない感じですね。まあ……いいですけれども。 あー人気ほしい

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