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世界の未来・深森・死体

〈森の図書館〉の管理人の青年は、とても愛想のいい笑みが特徴的な人だった。その顔つきには青臭さがどこか残っており、良い方の理由で不甲斐なさが滲んでいる。僕はこの好青年に今現在起きている事態を全て話した。この青年なら、何か知っている事があるかもしれないと思ったからだ。

 「そうなんですか」と青年は僕に同情をするかのような口調で言った。僕はここ最近の〈獣森〉の様子に変わった事はないか、と青年に訊ねてみた。正直希望を抱くような回答は期待していなかったのだけれど、青年は「そういえば……」とここ最近の日を思い出してそこから示唆を探すように話を続けた。

「以前は獣――ではありませんが、小動物たちがよくこの図書館にも遊びに来ていました。自分にも慣れていて、よく肩とかに乗ってきたり、遊んだりしていたんですが……最近は見ないですね。来ない方が多いかもしれない。」と青年は淡々と語った。「きっと何らかの原因で生存が減少しているんですよ」

「なるほど。何か関係したものがありそうだな。ありがとうございます」と僕はいろいろと共通点があるかどうか考えを巡らせてみた。

 毎日の獣の登場――小動物の生息の減少。なにか共通点があるはずなのだ。一般的に獣が〈人間街〉に訪れる理由の大概は、「子孫が多くなり、森の狭さを訴える」とか、「自分達の森が〈人間街〉と比べて小さいことに不満を抱く」というものだ。

 生存が減少してきている、と青年は言った。それはそうかもしれない、と僕は思った。なら森の狭さを訴える、というのはまずないだろう。大きく×マークを描くようにその可能性を消去する。ならば〈獣森〉が〈人間街〉よりも小さいことへの不満? これも違うとみた。確証はないけれど、それはないだろう。いろいろと考慮し、思考を巡回させた後に導き出した答えは「そんな安易な問題ではない」という事だった。何も解決していない。

 獣のSOS――僕はその可能性を脳の片隅から引っ張った。何か――それが何かはわからないが――問題が〈獣森〉に発生しており、それを獣還師の僕に助けを求めている? あるかもしれない、と僕は思った。今まであまり考慮には入れていなかった可能性だが、それが一番大きいのかもしれない、と僕は思った。

「食料が足りないのでは?」と青年はふと思いついたように呟いた。「安易かもしれませんが、それが一番大きそうだ」

「それは僕も考えてみたんだ。でも――」

「自分思うんですけど」と青年は急に口調を急変させて、非常にシリアスな顔つきになった。「この国はそろそろ駄目なのかもしれない、と思うんです」

「それはどういう?」と僕は興味本位から言及した。前にもこんな話を聞いた覚えがあるからだ。

「この国が平和なまま続くはずがない、という事です。確かに今のこの時代は平和かもしれませんが、少しずつこの国は変色していくのだと思います。この獣らの問題はその何らかな事態の示唆を知らせる予兆なのかもしれません。自分はそれが心配なんですよ。近いうちにこの世界の未来は、惨酷で残虐なものに変わるかもしれない……」 

「そんなことは起きない。僕にはそう信じることしかできない」と僕は言った。

 地長の娘――あの白い少女――も似たような事を言っていた。流行中なのだろうか、と僕は思った。しかしそのような似た話を聞いていると、実際にそうなるかもしれない、という不安が浮ぶのは否めない事実だった。確かにこの世界の未来は暗いのかもしれない、と僕は感傷するような気持ちになった。

「信じることしかできないんだよ、僕らは」と僕は言った。自分でも何を言っているのかわからなかった。

「信じるだけ、ですかね。本当に」と青年は意味深のような事を吐いた。しかし、やはり何を言ってるのかわからない。

 青年はひとしきり〈獣森〉の方向を眺めていた。髪をふわっと持ち上げるような軽やかな風が、草原の地を靡かせていた。僕も青年と同じ位置を見つめていた。それは何も起こる気配もなく、ただ風に弄ばれている草が揺さぶられているだけだった。

 地長は本棚にもたれながら、瞼を閉じていた。長時間歩いたからか、疲れているようだった。木が揺れ、そこから葉っぱが数枚飛び散り、宙を舞った。揺れていて忙しない木の影に身を覆われながら、地長は昼間の海底のように穏やかな眠りに浸かっていた。

 



「次は何を言い出すかと思いきや……」と地長は呆れたような声で言った。「〈獣森〉に入ろうなんていくらなんでも危険すぎます!」

「ここまで来たなら、行きましょうよ」と僕は頑なに言った。厚い壁でも僕の前に立てるみたいに。

 それから二、三分ほど言い合い、また長くなるぞと覚悟をしたのだが、地長は一度僕の頑固さを知っているからか、一度口内に淀んでいた息を吐いて「わかりました」と呆れた声で渋々承諾した。「で、す、が、すぐ帰りますよ?」という条件は伴った。

「わかりました」

「襲われてでもしたら助けてくださいよ?」と地長は額を押えながら、溜息を吐いていた。

「獣は繊細な生き物だとこの前も言いましたよね? 僕らの気配を感じたら逃げていくはずです。襲ってきたら任せてください」

 青年は地長に「大変そうですね」と他人事に首を突っ込んでさらに揶揄をするような笑みで、一言だけそう言った。地長は青年を一瞥し、「大変ですよ」と言ってもう一度溜息をした。

 僕と地長は〈獣森〉の方面に進み、その森の中へ足を踏み入れた。「気をつけて」と青年が言った。僕と地長は頭を下げ、深い霧の中にへと進んだ。もう一度後ろを振りかってみると、青年が舌打ちを零しているような表情が見えた気がした。気のせいだろう、と僕は気に留めなかった。




 深森の中は、自然がもたらす冷えを佩びていた。全体的に靄が彷徨っているように銀色の霧が宙を這っており、地面は繊細な鮮やかさをした緑色の苔が覆っていた。苔に支配されて深い緑色をした樹や、苔を被ったような岩、苔が樹を孕んだように生えた様々な植物。もはや僕らが楽に歩けるような足場はなかった。全体が苔に這われた深い森には、獣の姿は感じれなかった。

 どこかにはいるのだろうけれど、森の中はまるで植物そのものが息を殺しているみたいに静寂だったのだ。その静寂は耳鳴りのような現象すらもたらすほど深く、まるで世界が終焉したかのようだった。頭上を眺めても鋭い銀色の霧が浮遊しており、空を確認することもできない。地長は寒気を訴えるように震えた声で「不気味ですね」と黙々とした森を見渡していた。

 さりげなく夜明けを迎える空のように静かな深森は、僕と地長の足が地面を這っている木の根を踏んだ音で一瞬だけ破れた。しかし、それすらもまるでその音を外に放り投げられたかのように消失し、再び沈静となった。

 止め処なく歩みを進めていると、遠くに若干の丸みを佩びた木が倒れているのがわかった。白銀色をした霧がその輪郭を覆い、ぼやけて曖昧なシルエットとなっている。それは人の死体のようにも見えた。僕はその倒れた「木」に死体が息を吹くかのような不気味さを悟った。僕は歩みを急かした。

「こ、これは」

「なんですか、これ」

 それは木ではなかった。生気が腐って不吉な漂いをしているそれは、獣の死体だったのだ。目が開いたまま生気を失っており、月日の経過したトマトのようにくしゃくしゃとなっていた。そう、腐っていたのだ。開いたままの瞼からは裸子植物のように目玉が飛び出ており、その目玉は熟過ぎた柿のように――もはや半液体化となっていた。身を覆う毛皮は中年男性の陰毛のように縮れており、萎縮していた。腐臭を発しており、思わず僕と地長は鼻を摘む。

 獣の口元からは、抜け落ちて自らの唾液で溶けたような牙と、不吉な赤紫色をした果実のようなものが、一口齧られただけで転がっていた。  

二日続いてです。 なんとか書けた。 もうすこしで完結です! 書く事もないんでそれではばいばい!   次回作は恋愛モノだよ! はやく書きたい!

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