8.出会い4 side昼斗
2つ下の学年に天才が2人、入学してきたらしい。噂好きのクラスメイトが興奮気味に話しているのが聞こえた。天羅昼斗、10歳。周りからは天才だなんだともてはやされてはいるが、入学直後ですでに飛び級するのではないかという話が出ている噂の2人にはかなわないだろう。自分に飛び級できるほどの実力があるとは思えない。噂好きのクラスメイトの話によると、金髪のボブカットが特徴的な顔が飛びぬけていい村長の娘である女の子と黒髪でこちらもまた飛びぬけて顔がいい男の子のようだ。その2人は授業内の模擬戦でいつも争っているらしいが、これがまたレベルが相当高いようだ。何人か2人に接触しようとしたやつらもいるらしいがまとうオーラに圧倒されて話しかけることを断念したらしい。そんな2人の噂は入学直後はそれはもう話題になっていたが、次第に薄れていった。そんなある日、授業内の実践演習でその2人が問題を起こしたらしい、ということをこれまた噂好きのクラスメイト伝手に聞いた。なんでも、演習中に裏切者が出て、そいつが何らかの方法で金髪の女の子に施されていた封印を解き、封印されていた狐型の獣が大暴れして大規模な戦闘が行われたらしい。戦闘後はかなり疲弊していたらしいが、それでも封印が施されるレベルの強いやつと戦って大けがを負っていないどころか、再封印にまで成功したらしい。なんだ、そのバケモノじみた実力は。自分には関係ないと思って今まで2人に興味を持っていなかったが、ここまでくると興味がわいてくる。そんな2人が飛び級試験を見事突破し、僕たちと同じ学年の生徒として授業を受けることになると知ったのはその事件から数か月たったころのことだった。
***
「なぁ、あんた、名前は?」
今日の授業の復習をしようと思って教室でテキストを開いていたとき、斜め上から声が聞こえた。この教室にいるのは僕のほかに今声をかけてきたやつとその隣にいるやつのみ。と、なると声をかけられたのは僕だろう。顔を上げると目の前に黒髪のイケメンがいるのが目に映った。
「・・・え。」
思わず質問に答えることを忘れて目の前にいる2人をまじまじと見つめた。2人がこのクラスに編入してきて3日が経ったが、まとうオーラが圧倒的すぎてクラスメイトは誰も話しかけられず、かといって向こうから僕たちに話しかけるなんてこともなく、この3日間2人がクラスメイトと話している姿を一度も見かけたことがなかったのだからとても驚いた。ぽかんと2人を見つめる僕に何を思ったのか、
「ちょ、祥太。年上の人に向かって失礼でしょ。敬語!」
「はぁ?今は同学年なんだから、んなもん使わなくてもいいだろめんどくせぇ。」
なんて目の前の2人が言いあうものだからはっと我に返って
「え、ああ。ごめん、その、少し驚いてしまって。あ、名前。天羅昼斗と言います。」
少しパニックになりながらも答えた僕に男の子ーーー石黒君のほうがわずかに目を見開いた。
「えー。思ってたのと違う。もっとチャラい感じかと思ってた。」
「人を見た目で判断しちゃだめ。あと、敬語!!」
確かに、この見た目だ。初対面の人には必ず言われる。
「その、この髪は母さんの趣味で。決して僕の趣味ではなくて。あの、敬語は別にそんなに気にしなくていいですよ。」
ほら、とでもいうように石黒君が辻本さんに目を向ける。それにあきれたようにはぁ、とため息をついた辻本さんがこちらを向く。
「あの、敬語大丈夫です。私たちのほうが年下だし。初めまして、辻本莉緒です。莉緒って呼んでください。」
「俺は石黒祥太。祥太って呼んでくれ。」
2人も自己紹介をしてくれた。といってもこれだけ学園内で有名なのだ、名前くらい知っている。
「よろしくお願いします。えっと、わかった。敬語なしで話すね。僕のことも昼斗って呼んで。あと別に莉緒も敬語は大丈夫。」
圧倒的に実力が上だろう莉緒に敬語を使わせるだなんて恐れ多い。
「りょーかい。それで、なんで私たちが声をかけてきたか、だよね。」
そうだ。それが一番気になる。
「今日、授業で模擬戦やっただろ?そんで、昼斗の能力見てさ。すっげー面白そうな能力使ってたから。」
ああ、と納得した。確かに初めて見ると物珍しく映るかもしれない。
「僕の能力は”天候操作”。天羅家の相伝だけど、親族も僕の家族だけだからこの能力を持っている人は本当に少ないんだ。それに扱いが難しいからね。現に家族の中で戦闘関係に身を置いてるのは僕だけだし。珍しいかも。」
”天候操作”はその名の通り天候を操作できる能力だ。雨を降らせたり雪を降らせたりなどができる。だが、この能力を使うときには必ず座標を指定しなければならず、また威力の調節も同時に行わなければならない。一度に2つのことを行わなければならないため、扱いが難しいのだ。一歩間違えれば大災害を引き起こしてしまう。そんな危険な能力だ。
「”天候操作”!へー。聞いたことねぇ能力だな。莉緒、お前知ってたか?」
「いや、今初めて知ったよ。それにしても天候を操作する能力、ねぇ。私の”歌”も祥太の”情報解析”も扱いが難しいけれど、そっちも大概難しそうだね。」
特殊能力は出せる威力に比例して扱いが難しいことがほとんどだ。強い能力を持っていてもそれを制御することができず自滅してしまう人なども多いと聞く。そう考えるとやはり2人はすごい。”歌”も”情報解析”も強い能力なのにそれを使いこなして戦闘することができている。
「なあ、詳しく教えてくれよ。その能力。」
そういいながら祥太が僕が座っていた席の隣に椅子を持ってきてどかっと座ってきた。
「私も知りたい。もし嫌じゃなけれな教えてほしい。」
僕の正面に椅子を持ってきてストンと腰を下ろした莉緒にも言われる。本来、自分の能力はむやみやたらに人に話すものではない。模擬戦で手の内がばれていたらこちらが不利になってしまうし、少し前の狐事件のような裏切り行為なんかが起こったときに大変まずいことになる。でも、なぜかこの2人には話してもいいと思えた。この2人は純粋にこちらに興味を持っていて、あわよくば自分の能力の成長の糧にしようとでも思っていそうだ。模擬戦でズルをしてでもいい成績を収めたい、とか裏切ってやろうなんて全く思っていないような純粋な瞳をこちらに向けて、こっちも教えるからさ、なんて僕だけが能力の詳細を開示して不平等にならないように配慮してくれようとしている2人に僕は能力を開示したときのデメリットを咄嗟に頭に巡らせていたことがばかばかしくなって、いいよ。と笑いかけた。僕の言葉にぱあっと顔を明るくさせ、年相応な笑顔を見せてくる2人に僕は苦笑して、この2人となら僕も今よりもっと成長できる気がする、なんて期待を胸に僕は話し始めた。
***
それから2年が経過した。僕は12歳、莉緒と祥太は10歳になった。この学園は7年制で飛び級は3学年分可能だ。2年前の飛び級試験で2年分飛び級した祥太と莉緒は飛び級した分の必修課題に追われ、とてもじゃないが次の飛び級試験を受けることはできないようだった。だが、それも最近落ち着いてきて周りではまた飛び級試験を受けるのではないかという推測が飛び交っている。ただ、それもあくまで噂だ。本人たちから聞いているわけではないので本当に試験を受けるのかはわからない。そんな時、祥太から相談事があると話を持ち掛けられた。やはり、飛び級試験を受けるのだろうか。そうしたら合格したとき、祥太達は僕の1つ上の学年になり、こうして一緒に授業を受けられなくなる。それはなんだか寂しいなぁ。
***
「わり、待たせた。」
そういいながら祥太が集合時間の2分前に集合場所に滑り込んできた。
「いや、僕が早く来すぎただけ。まだ2分前だよ。」
僕がそう言うと祥太はそれもそうか、と頷きさっそく本題なんだが、と話始める。・・・やっぱり飛び級試験を受けるという話なのだろうか。
少しドキドキしながら祥太の次の言葉を待つ。
「なんか、俺最近変でさ。時々胸が苦しくなることがあるんだ。・・・病気、なんかな、これ。」
「へ?」
飛び級試験の話をされると思って身構えていた思わず間抜けな声を出してしまった。いや、試験のことじゃなくて一瞬安堵したが、胸が苦しくなるというのもそれはそれで心配だ。
「胸が?祥太、この前の身体検査でどこも引っかかってなかったよね?」
ああ、と頷く彼がいつもの快活な笑顔を消して神妙そうにうなずくからこちらも不安になる。
「それ、莉緒には言った?たしか、医療知識なかったっけあの子。」
「いや、なんでかわかんねーんだけどさ。莉緒と一緒にいるときだけなんだ。胸が苦しくなるの。」
・・・ん?
「こんなのあいつに打ち明けたら一緒に行動するの控えるとか言いそうだろ?それは、嫌なんだよ・・・。」
しおらしそうにそう言う祥太に病気とは全く別の可能性がぐんと湧き上がる。いや、それって、
「う~ん、と。あー、非常に言いにくいんだけどさ。」
「おう。」
「それ、恋じゃない?」
「は?」
こい・・・?と思考を停止させた祥太に再度確認する。
「あー。例えばさ、莉緒がうちのクラスの・・・赤羽と僕らそっちのけで笑顔で楽しそうに会話していたとする。どう思う?」
「ぜってーやだ。あんな噂好きにあいつが近づくメリットなんかねぇ。」
即答かよ。ていうか酷い言いようだな。別に噂好きってだけでそこまで悪い奴じゃないだろ、あいつ。
「赤羽がかわいそうでしょ。まあ、つまり祥太は莉緒が僕ら以外のやつと楽し気に会話してたら嫌な気分になる、と。」
「なるだろ。」
「う~ん。僕はそこまで。別に莉緒が誰と会話していようが莉緒の勝手だし。」
そこまで言うと祥太は驚いたように目を見開いた。
「まぁ、その何ていうか。祥太は、莉緒に独占欲を感じているんじゃない?」
「ど・・・。」
「うん。好きな人に対して自分以外と話さないでほしい、自分を見ていてほしいって思うやつ。典型的な恋の症状だね。」
「・・・・。」
「祥太のその胸のもやもやは莉緒が僕ら以外のほかの人のことを話題にしたときに起こったりしない?」
なんでこんな、2つ年下とはいえ、2年間も一緒にいるやつの恋事情の相談事なんか受けてるんだろう、僕。
「する、かも・・・。」
そう言ってやっと自覚したのかじわじわと顔を染める祥太に、はぁぁぁぁと深い溜息を吐く。やっと自覚したか。
「あー、もう。当分甘いのは食べたくない。」
恋愛相談なんてそんな甘いもの1回で十分だ。話終わり?僕やることあるから帰るね、と言って座っていた席から立ちあがると服の端をはしっとつかまれる。
「まて、まだ終わってねぇ。」
「まだなにかあるの?」
もう甘いのはうんざりなんだけど。心なしかげんなりとした顔をまだ赤い顔をした祥太に向ける。
「お前、飛び級試験受けねぇ?」




