7.出会い3 side祥太
左目を手でふさぎながら驚いたようにこちらにバッと振り向いた莉緒の目は赤く充血していた。
「っわりぃ!左目、大丈夫か?つか、なんか目ぇ充血してね?大丈夫かよ。」
俺が狐の左目を狙って投げたナイフは狙い通りの軌道を描き地面に突き刺さっていった。だからナイフが莉緒の左目をかすめたわけではないと思うが。ただ、莉緒が左目を手で覆ったタイミングが気になった。そして莉緒に声をかけて合流した後、気づいてしまった。---莉緒の充血した瞳と狐の目が同じ色をしていることに。偶然、何かのアレルギー反応を起こして目が充血しているだけならまだいい。でも、ナイフが狐の左目をかすめたタイミングとほぼ同時に左目を覆ったという事実が今俺が推測していることに正当性をもたせる。大丈夫、ありがと。え、目充血してる?なんて軽く答えた莉緒に俺は尋ねた。
「なあ、あの狐、お前の?」
否だと言ってほしい。それかもし莉緒のものであったとしても左目のあのタイミングはたまたまで「狐と莉緒が痛覚を共有している」なんて最悪な推測は見当違いも甚だしいと断言してほしい。そうでないと、俺はあの狐に攻撃を仕掛けることができない。俺はこいつを傷つけながら戦うことはできない。
「・・・そう、だね。こいつが何者なのか、私には、まったくわからないけれど、さっきこいつが私の心臓部分から出てきたのは事実。それに、考えたくないけど、こいつ私と痛覚を共有してるみたい。」
最悪な状況だ。俺も、莉緒も下手にこいつに攻撃できない。今みたいにひたすら攻撃を避けるしかない。くそ、攻撃を避けながら会話なんてするもんじゃねぇ。ただもし本当に痛覚を共有しているのなら1つ疑問点がある。
「こいつ、莉緒を攻撃したら、その分自分にも、痛みがかえってくるんじゃねえか?」
もし自分にも痛みがかえってきているなら自分で自分を攻撃しているようなもんだ。
「たぶん、かえってきてると思う。私に攻撃が当たると、っほらわずかに顔をしかめてる。」
なら、なぜ莉緒を攻撃する?ここには俺という痛覚を共有していない人間もいる。それなのに莉緒にも俺と同じくらい攻撃を浴びせている。そうか、もしかしたらこいつはーーー!
「こいつ、なんでかは知らねぇが、自暴自棄になって暴れてるだけ、じゃないか?さっきのお前の話、聞く感じだと、なぜだか全くわからんがこいつ、お前の体に封印されてたんじゃねぇか?」
さっき莉緒は自分の心臓部分からこいつが出てきたと言った。人の心臓部分に強大な力の封印が施されることがあるということは割と有名な話だ。有名といっても一昔前の話だが。年々能力が弱体化している今の時代にはそんな強固な封印を施せる人なんてほとんど存在しない。
「封印・・・。そっか、心臓といったら、確かに。なら、こいつをまた私の心臓に封印させればいいってこと?」
「はあ⁉馬鹿言ってんじゃねぇ!!封印なんて、んな高度なことできるわけねーだろ!!!!できたとしても、妖力不足で死ぬぞ!!!!!」
なんつーこと言い出すんだ。昔のひとならもしかしたらできたかもしれないが、なんせこの強さだ。それでも完璧に封印を成功させることは難しいだろう。それを、今、ここでやると言っている。それに封印を行うには莫大な妖力が必要になる。並の戦闘員よりも妖力の量が多いとはいえ、一歩間違えれば妖力不足で死んでしまうだろう。
「わかってる!!だから、力を貸して!!!!封印のやり方なら、おじいちゃんに教わったことがある!けど、妖力は足りないし、うまくいく可能性は低い!だから、君の”情報解析”であいつの弱点を探って!!あと私たち二人分の妖力なら、なんとかなる、と思う!!!」
なんとかなる、かよ!!!できれば絶対に足りると断言してほしかったが、実際足りるかわからないのも確か。でも今のままでいたところで状況は何も解決しない。ああ、くっっそ。腹をくくれ、石黒祥太!!俺はいつか最強になる存在だ!今、ここで怖気ずくなんて、そんなの俺のプライドが許さない!!!
「くそ、ああ、そうだよな。ここで終わるわけにゃいかねぇ!!!やってやらあ!!!!!」
”情報解析”で得た狐の情報を必死に、けれど正確に莉緒に伝えていく。間違った情報を伝えないようにいつも以上に真剣に、丁寧に。
「ありがとう。ようやく、勝ち筋が見えた。」
ざわりと空気が揺れた気がした。それほどまでに莉緒が放つオーラは圧倒的で、この場の空気が莉緒に支配されたのを感じた。差し出された手をつかむ。妖力の供給はどこか相手の体の一部に触れていないと行えない。
「~~~~~~~~~~~~~~♪」
この殺伐とした空気にはそぐわないきれいでどこか神聖さを感じる歌が響き渡る。莉緒の”歌”によって生み出された多種多様の攻撃が俺が解析して得た狐の弱点を的確に突き、あれだけ暴れまわっていた狐の四肢が拘束される。そして見たこともない情報量の帯のようなものが狐の体に巻き付いていく。俺は脳がオーバーヒートするんじゃねえかと思うようなその情報量にたまらず目を閉じた。
しばらくして莉緒の歌が終わり、そこでやっと俺は目を開いた。
「お、わった・・・?」
思わずつぶやいた俺に莉緒がうん、と首肯する。
「終わったよ。封印は成功だ。君のおかげ。ありがとう。ーーー祥太。」
そう言ってどこか疲れたようにけれどやり遂げた顔をした莉緒は笑顔で手を差し出してきた。それに一瞬躊躇して俺もぐっと握り返した。
「ああ。ーーーほんとうに、よかった。こちらこそありがとう、莉緒。」
***
あの後、疲労困憊で二人してぶっ倒れた俺たちは気づいたら病院でベッドに横になっていて、ある程度疲労が回復してから駆け付けた先生たちに矢継ぎ早に質問された。その過程であの狐の封印が解かれた原因が絵本愛莉にあることを知って少し驚いたと同時に納得した。絵本愛莉は表面上莉緒と仲良くやっているように見えたが、裏ではこそこそと莉緒の悪口を言うようなやつだった。莉緒の生まれ持った能力の強さに嫉妬していた節もあったようで、その悪口を聞く頻度がここのところ多かったようにも思える。愛莉の裏の姿を知っている奴らも関わらぬが吉とでもいうように見て見ぬふりを続けていた。それがまさかこんな大ごとになるとは。俺も見て見ぬふりをしていたうちの一人として罪悪感を感じ、後日莉緒に謝りに行ったが当の本人はまったく気にしていないとでも言うように
「え?見て見ぬふりしててごめんって?いや、まあ、気づけなかった私にも否はあるんだし。そこまで罪悪感感じなくてもいいよ?」
なんていうもんだから俺も拍子抜けしてしまった。ああ、強いなぁ。俺もこんな風に、強くなりたい。
***
狐の事件から2年ほど経過し、莉緒と俺は10歳になった。2人とも学園の飛び級制度を最大限利用して卒業までの道を着々と進んでいっている。あの事件から俺は少し変わった。何回負けても莉緒に挑み続けるのは変わらないが、あれから俺は莉緒にアドバイスを求めるようになった。自分とは違う視点で俺の考えの穴を的確に指摘されるのは新鮮で、でも不思議と不快には感じなかった。むしろぐんと成長したような気がする。そうやって互いにアドバイスを送りあう日々の中でいつの間にか周りにニコイチとして扱われるほど2人で行動するようになっていたが、最近俺らに新たな仲間が加わった。少し薄めの青に毛先を黄色に染めた派手な髪色をしているにもかかわらず、誰に対しても礼儀正しい俺らよりも2つ年上のその男の名は、天羅昼斗という。




